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◆78話◆ロマーノとツェツェーリエ

ロマーノの回顧を引き継ぐ形で、ツェツェーリエも目を細めながら当時の話を語り始める。

「うむ。ダレッカに活きの良い奴がおるというのは聞いておってな、一度会ってみたいと思っておったんじゃ。

 ただいかんせん距離があってなかなか会えなんだのじゃ。

 そうしたら、依頼の報告という事でこ奴の方からギルドに来たではないか。それですぐに連れて来てもらったんじゃ」

「がはは、懐かしいですな。

 往路の依頼報告に来ただけなのに、ギルドマスターに呼び出しを食らって、相当慌てましたぞ」

「変わってないですね、そのへんは・・・」

「わはは。タイチもか。まぁツェーリ様は楽しんでやっておるからな。変わらんだろうて。

 で、呼び出されたと思ったら“稽古をつけてやるから王都にいる間通え”と、言われてな。

 兄上の警備もあるし断ったのだが、ギルマス権限で強制指名依頼にされてしまってな」

「うわぁ・・・典型的な職権乱用ですね」

「何を言うか。儂自ら指導してやることなぞ滅多にないのじゃ。断るほうが悪いわい」

ジト目で見る太一を無視してツェツェーリエが言い切る。


「いっそ清々しいですね、ここまで来ると・・・」

「そんな訳で、その日から10日ほど稽古をつけてもらったのだ。

 対モンスターだけでなく、万一隣国と戦争が起きた時に、冒険者としてどう戦うのかも含めて、それはもうみっちりとな。

 今にして思えば、C級が見えて来てちょっと思い上がっていたのかもしれん。手合わせで手も足も出ずやられて、良い薬になったわい」

ロマーノはそう言ってまたガハハと豪快に笑った。


「それに気付いただけでも相当優秀じゃよ、お主は。

 見込みのある若者が潰れていくのは見たくは無いからの。老婆心じゃよ」

「その後は、大会議の度に護衛として王都に来ては稽古をつけてもらうのが恒例になったのだ。

 兄上が亡くなって領主になってからは、それも出来ぬようになったが、二度ほど領に招いて騎士たちに稽古をつけてもらったり、ダレッカに優秀な冒険者が出てきたら、それとなく気にしてもらったりと、引き続き関係は続いておるのだ」

「なるほど。まだ領主になられる前からのお付き合いだったんですね」

「そうなるな。見たところタイチもツェーリ様に目を付けられておるな?」

「私の場合は偶々ですし、商売をやる方がメインで戦闘のほうはあまり・・・なので稽古なども付けてもらっておりません」

「そうなのか?娘の書簡には腕の良い冒険者が助けてくれたとあったが?なぁアルベルト」

「はい。素早い動きで背後から膝裏の急所を切りつけ無効化していただいたおかげで、容易に止めを刺すことができました」


「ウチの副団長が言うのだから間違いないだろう。どうだ?ウチに来んか?強い奴は大歓迎だ。ましてやツェーリ様のお墨付きだ」

「大変ありがたいお申し出ですが・・・一緒に出て来た妹もおりますし、商売も始めたところなので、お仕えするのは難しいかと・・・」

「ふぅむ、そうか。大切な娘を助けてもらった恩もあるし、是非にと思ったのだが・・・致し方あるまい」

「申し訳ございません」

「がはは、構わん構わん。自分のやりたいことに打ち込んだ方が、良いに決まっておるからな。

 しかし恩も返さんでは、逆にワシが笑い者になってしまうからな。また日を改めて正式に招待させてくれ。もちろん妹殿も一緒に招待しよう」

「ありがとうございます。是非、お伺いさせていただきます」

「うむ。遣いの者を寄こすので、アルベルトに連絡方法を伝えておいてくれ」

「分かりました」

「うむ。さて、それではボチボチお暇するか。フィーナはワシと一緒に戻るぞ。

 アルベルトはクラウスの治療が終わったら一緒に戻ってこい。一台馬車を待機させておく」

「分かりました」

「はっ!承知しました」

「タイチよ、今回は助かった。正式な礼は、また改めて後日にさせてくれ。

 ツェーリ様もありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、またよろしくお願いいたします」

「うむ、また顔でも出すのじゃ」

「では、失礼する」

「タイチ様、失礼いたします」

それぞれ別れの挨拶をすると、ロマーノはフィオレンティーナを伴い颯爽とギルドから出ていく。

それは、フィオレンティーナが襲われて狼狽して暴走していた当初のロマーノと同一人物とは思えない、堂々とした姿だった。


「ではタイチ殿、私もクラウスの所へ戻ります。この度は本当に助かりました」

「クラウスさんも早く良くなるといいですね。あ、私は黒猫のスプーン亭という宿にいます。

 不在でしたら、店長のドミニクさんに言伝いただければ大丈夫だと思います」

「分かりました。また連絡させていただきます。それでは。ツェツェーリエ様もお手数をお掛けしました」

「うむ。調査の結果また話を聞くかもしれん。その時はまたよろしく頼むのじゃ」

「はっ!」

騎士らしいピシッとした礼をして、アルベルトも退席していった。


ドアが閉まると、太一は大きく溜め息を吐いてだらしなく椅子に座り込む。

「はぁぁ、えらい目にあったな、今回は・・・」

「ふふ、ご苦労じゃったの。しかしタイチが偶々通ったのは奇跡に近いの。一体こんな雨の日に何をしておったのじゃ?」

雨の日に、大通りでもない裏通りを一人で出歩いていたことを不思議に思ったツェツェーリエが太一に尋ねる。

「まさに、ツェツェーリエさんに会いに行く途中だったんですよね、偶然にも」

「なんじゃ、そうなのか?」

「ええ。会いに来た目的の一部は、すでに達成されたりもしてますが・・・」

「どういうことじゃ?」

「順番にお話ししますと・・・」

こうしてようやく、本来の目的である自分たちが考えるリスクについてや、この国の貴族についての話を始めることが出来たのだった。

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