◆77話◆ダレッキオ辺境伯
フィオレンティーナパパ登場
「アルベルト、急ぎますよ。皆さま、お先に失礼いたします」
「はっ」
狼藉を働いているのが、まさかの辺境伯であることが分かると、フィオレンティーナがアルベルトを伴い急いで階段を下りていく。
驚きで固まっていた太一とクロエも、我に返ると慌ててその後をついて行った。
「だからワシは関係者だと言っておるだろう!娘に会いに来て何が悪いっ!!」
「お身内の方であろうとも、お約束のある方か許可がある方以外、ここから先は入れません」
「ぐぬぬ、まだ分からぬのか。そもそもワシは貴族「お父様お止めください」「閣下、そのあたりでご自重を」」
階下を見ると、軍服のような仕立ての良い服を着た屈強な壮年男性が、職員になおも食い下がっていた。
そこにフィオレンティーナとアルベルトから制止の声がかかる。
辺境伯は声がした階上を見上げる。そこにフィオレンティーナを見つけると、立派な髭を蓄えた口元がわなわなと震え始めた。
「おおおぉぉぉ、フィオレンティーナ!無事であったか・・・」
そして震える声で無事を喜ぶ。
「無事に決まっております。そう書簡に書いたではありませんか・・・そもそも無事であるから書簡をしたためたのですよ?」
対するフィオレンティーナは、はぁ、と溜め息を吐きながら父である辺境伯を諫める。
「ギルドの皆様も申し訳ございません。父が我儘を申してご迷惑をお掛けしました。
ほら、お父様も皆様に謝罪を」
さらには、深くお辞儀をしながら迷惑をかけたギルド職員への謝罪を促す。
「ぐぬぬ、ワシはただ心配でだな・・・」
「ぐぬぬ、ではありません。心配していただいたことは嬉しく思いますが、だからと言って市井の方に迷惑をかけて良い訳ではありません。
全く・・・いつもお父様が仰っているではありませんか、貴族だろうが迷惑を掛けたら謝罪をするものだと」
「く・・・皆の者すまぬ。娘が襲われたと聞き、取り乱して迷惑を掛けた」
完全に言い負かされてぐぅの音も出ない辺境伯は、そう言って謝罪する。謝られた職員の方が困惑する始末だ。
太一は(うわぁ、ぐぬぬ、とか本当に言う人初めて見た)と関係無い所で感心していた。
流石に辺境伯とそのまま立ち話をする訳にもいかず、太一達は改めて会議室を借りて辺境伯と共にそちらに移動していた。
「・・・そこへタイチ様が通り掛かり、アルベルトと共にオークを撃退しました。
そして、怪我をしていたクラウスにご自分のポーションを使って応急処置をしていただいた上、治療のためこちらのギルドまで案内していただきました。
ここまでは先ほどの書簡に書いた通りですが、さらにその後、先ほどまでギルドマスターに直接面会し、事の顛末のご報告までしていただいたのです」
そこではあらためて、フィオレンティーナがダレッキオ辺境伯に事の次第を説明していた。
「そうか。タイチと言ったか、そなたは娘の命の恩人だ。本当にありがとう」
「いえ、たまたま運良く通り掛かっただけですから。頭をお上げください」
「そうはいかん。ダレッキオ辺境伯としてではなく、フィオレンティーナの父ロマーノとして、感謝してもしきれんくらいだ」
「しかし・・・いえ、分かりました。ありがたく感謝のお気持ちを頂戴します」
「ああ、そうしてもらえると助かる。それとな、そんなにかしこまる必要も無い。ワシも元々冒険者だ」
「え!?そうなのですか??」
「うむ。ワシは次男でな。家督は兄が継ぐ事になっておったし、ワシには領主など向いておらんかったからな。
腕っぷしには自信があったのと、領都の周りは魔物が多くてな。それで騎士ではなく冒険者になったのだ。
だが、今から20年ほど前、冒険者になって10年くらいの時かな。兄が若くして病で命を落としてな・・・
急遽ワシが後を継ぐことになったのだ。周りに助けられて何とかやってはおるが、今でも冒険者に戻りたいと思う時があるくらいだ」
そう言ってロマーノはガハハと笑う。
「ふふ、タイチよ、ロマーノはそう謙遜しておるがの、優秀じゃぞ?冒険者としても優秀じゃったが、領主としても辺境伯としても立派に務めておるよ。
領民からも愛されておるし、王家からの信任も厚い。むしろそうでなければ、敵国との国境を守る辺境伯など務まるはずもないのじゃ」
それに対してツェツェーリエが突っ込みを入れる。旧知のロマーノが来ていると聞きつけ、混ざりに来たらしい。
初めて太一達が会った時と同じように、いつの間にか会議室に登場して周りを驚かせていた。
「もちろん分かっています。優秀ではない方に10年も領主が務まる訳が無いですから・・・
ダレッキオ閣下は、どちらでツェツェーリエさんと知り合ったのですか?」
「だから固いと言っておる。ロマーノで良い。
ワシがツェーリ様と知己を得たのは、冒険者時代だな。
と言っても、冒険者になったのは王都ではなくダレッカ支部だったし、活動もダレッカの周辺が殆どだったから、その頃はお名前しか知らなんだ。
冒険者になって5年くらい経った頃、兄上の家督相続が正式に決まってな。夏の大会議に出席する兄上の護衛として、王都まで来たのだ。
ああ、ちょうど今くらいの時期だな。その時だな、ツェーリ様に初めて会ったのは」
楽しい思い出を懐かしむように、ロマーノがツェツェーリエと会った時の事を語り始めた。
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