◆73話◆雨の外出
区切りの関係で少し短め
朝から降り続いている雨の中、太一は冒険者ギルドへと出発した。
ある程度防水性のある外套に身を包んではいるが、どうしても濡れるのは避けられない。
何より上がり始めた気温と相まって、外套の中が蒸れて蒸し暑い。
(この世界は傘の文化が無いのか、やっぱり。作ったら売れるかなぁ・・・)
地球においても“雨傘”の歴史は思いの外新しい。
日傘については紀元前から存在していたものの、現在のように畳めるものは13世紀にならないと登場しない。
雨傘はさらに歴史が新しく18世紀に入ってからだ。しかも、最初は雨の日に差していたら笑われた、というエピソードがあるくらいだ。
(雨に濡れるのを嫌うのに雨でも外を出歩くのは、日本人独特の感性なのかねぇ)
等と考えながら、太一はギルドへと急ぐ。
雨傘が無いので、この世界の人々は雨が降ったらなるべく外へ出ないか、短い外出であれば割と平気で濡れて歩いている。
濡れた衣服を自宅や宿ですぐに乾かせない場合になって初めて、防水性の高い外套を羽織るような人が多いのだ。
今日のように朝から雨が降っている日は、客足も鈍るので外へ出ず店を閉めることを選択する店主も多い。
また冒険者も、濡れると移動や戦闘全てに影響が出るため休息日に充てる者が多い。
そんないつもより閑散とした街を足早に進む太一が、ショートカットのため大通りから一本脇道に入った時だった。
路地の奥の方から、金属がぶつかったような音が微かに聞こえたような気がして、太一は足を緩める。
フードを被っているため周りの音が聞きとり難い上、雨が当たる音でさらに聞こえ辛い。
この抜け道は、黒猫のスプーン亭からギルドのある大広場へ、大門前広場を経由せず行けるため、少し前に知って以来毎日のように使っているが、倉庫が立ち並ぶ一角でそもそもほとんど人は住んでおらず、ましてや金属を加工するような工房など無かったはずだ。
気になった太一は、音をよく聞こうとフードに手を掛けて逡巡する。
「・・・・・・」
多少濡れても仕方ないか、と結論付けフードを外すと音がした気がする方向へ耳をそばだてる。
ガキン・・・
今度こそ、小さいがハッキリと太一の耳に音が届いた。
「なんだ?重い物でも落としたか??」
独りごちて音のした方へ歩き出したところへ、
「きゃぁぁーーーーっ!!!」
ガシャーンというひと際大きな音と共に、女性の叫び声が木霊した。
「!!」
それを聞いた瞬間、太一は一気に駆け出した。何が起きたのかは分からないが、尋常ならざる状況であることは間違いなさそうだ。
それに、ただでさえ人気が無く奥まった場所な上、雨で極端に人通りが少ないため、自分以外にこの状況を察知できる人がいるとも思えない。
音のした方へ近づくにつれ、聞こえてくる音も次第に大きくなる。
ガキン、ガコン、と何かを叩きつけるような音と、男性の怒鳴ったような声、そして切羽詰まった女性の声が聞こえる。
「お嬢様っ!早くお逃げくださいっ!!」
「あなたはどうするのですっ!?それに先程飛ばされたクラウスを置いてはいけません!」
行きついた場所は、3つの道が交差する小さな広場のような所で、2人の男が対峙し、片方の男の後ろに女性が座り込んでいる光景が目に飛び込んできた。
広場の端には、もう一人男が倒れているのも見える。
こちらに背を向けているアメフト選手のように大柄で筋肉質な男が、手にした棍棒を金属の鎧を着たもう一人の男に叩きつける。
「ぐぅっ・・・私一人では足止めがやっとです!!どうか、お逃げをっ!」
「しかしっ!」
柄を右手で握り、剣先を左手で支えた剣の腹でどうにか棍棒を受け止めているが、男の言う通り止めるのが精一杯のようだ。
それを見た太一は、短剣を抜いて広場へ飛び込むと大声で二人に話し掛ける。
「おいっ!こんな街中でどうしたんだ、あんたら?」
急に現れた太一に驚き一瞬目を見張った鎧の男が、すぐさま気を取り直し太一に向かって叫ぶ。
「誰だか知らんがコイツはまともじゃない!逃げて人を呼んで来てくれっ!!」
「そりゃこんなとこで棒切れ振り回してたらまともな訳無い・・・」
『ゴバァァァァッ!!』
太一が皆まで言い切る前に、背を向けていた男が振り向き雄叫びを上げる。
振り返った顔は、凶悪なイノシシと人を足したようで、毛皮のようなものを着ていると思っていたのは体毛だった。
それを見た太一の表情が驚愕に染まる。
「おいおいおい、なんで街中にオークがいるんだよっ!!」
そう叫びながら、慌てて矢印を確認する。
自分に対する矢印は、警戒を表してはいるがすぐに襲い掛かってくることは無さそうだ。
「どういう状況か分からんが、手助けする!俺はE級の冒険者だ、ある程度は戦える。
と言うか、街中にこんな奴がいたらダメでしょ。。。」
それを聞いた鎧の男から返答が返ってくる。
「スマン、助かる!状況については後で説明する!
だが気をつけろ。私も普通のオーク程度には後れを取らん。コイツはちょっと異常だ」
「了解!」
鎧の男が話し終えると同時に、太一は姿勢を低くし後方から一気にオークとの間合いを詰めた。
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