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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆70話◆ケットシーの鞄 夜の部

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異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす

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「おっしゃぁっ!!今日はツイてるぜ!!!」

「おめでとうございます!賞金の大銀貨です!」

陽が落ちた冒険者ギルド前の広場は、今日も喧噪に包まれていた。

しかし1週間ほど前から、これまでに輪を掛けて盛り上がる一角が出来ている。

今もその一角から、ハンドベルの音と思われるカランカランカランという景気の良い音が鳴り響いてきていた。


「おう、ありがとよねぇちゃん」

「あ、お名前伺っても良いですか?見事成功した方のお名前を掲示させてもらってるんですよ」

「ほほぅ、いいじゃねぇか。俺はガンツってんだ。ばっちり書いといてくれよ?」

「ありがとうございます!見事グリフォンを揃えたガンツさんに、皆さま拍手をお願いします!」

何事かを成し遂げたのか、ガンツと名乗った冒険者が皆の喝采に応えていた。

ガンツを称え、大銀貨を渡しているのは文乃である。黒板のようなものにガンツと書き、屋台に掲げた。


「さて、お次の方お待たせしました。ケットシーの鞄夜の名物、ケットシーの絵合わせ!お代は銀貨一枚、ルールは簡単。

 6つの絵が描かれた“ダイス”を3つ振って、同じ絵が見事揃えば大銀貨一枚を進呈します!

 惜しくも2つしか揃わなかった方には、気持ちばかりの銅貨2枚をお付けして、お代はお返しいたします。

 気紛れなケットシーは誰に微笑むのか?それはケットシーにしか分かりません。本日134人目の挑戦者、準備は宜しいですか?」

文乃がお決まりの前向上を述べ、象牙のような素材で出来たサイコロを次の客に渡す。

サイコロには、ケットシーを始めドラゴンやグリフォンといった、物語でお馴染みの魔物が描かれていた。

目の前でガンツがグリフォンを揃えたことで、次の挑戦者のボルテージも観客のボルテージもうなぎ登りだ。

「おっしゃ、いくぜっ!!」

挑戦者が気合いと共にダイスを振る。果たして出目はケットシー、ウンディーネ、フェンリルだった。

「くそっ!ダメか・・・」

「残念!ナイスチャレンジでした。次回はケットシーの加護があらん事を」

気落ちして屋台から離れる冒険者、すぐ次の冒険者のチャレンジが始まる。

そのまま毎日の規定人数200人に達するまで、ハイテンションで絵合わせは続いていくのだった。


太一達が2つ目の商売に選んだのは、ずばりギャンブルだった。


ポーカーのように客同士が賭けをするものではなく、自身が胴元になるタイプのギャンブルだ。

ただし、禁止されていないとは言えあまり派手にやると身上を潰す者が出たりと悪影響が出るばかりか、ギルドや役人に目を付けられる可能性がある。

なので、1回の掛け金は10ディルと低く設定し、1日の利用者数にも制限を設けた温い設定のギャンブルだ。


ルールは単純で、サイコロを3つ振って同じ目が揃えば10倍返し、2つ揃いは1.2倍とおまけ程度の返却をする。

サイコロ3つが揃う確率が3%弱、2つだけ揃う確率が約42%なので、還元率はおよそ80%となる。

日本の公営ギャンブルの還元率が75%程度なので、それよりやや分の良いギャンブルと言えるだろう。

1日の上限回数は200回に設定していた。還元率80%なので、400ディルほどの利益が出る想定だ。

上限回数を少なめに設定したのは、あまり射幸心を煽るのは良くないと考えたのと、確率が偏った時に胴元が破産するのを防ぐためだ。


そしてこの単純ながら今までエリシウムになかったギャンブルは、予想通りかなりの盛り上がりを見せた。

サイコロの柄を、数字ではなくモンスターにして“絵合わせ”としたことと、気紛れなことで冒険者にも有名なケットシーの名を遊戯名にしたことで、分かりやすい遊戯としてハードルが低くなったのだ。

そこに止めを刺したのが、“成功者の名前を聞き皆の前で称え、名前を掲示する”表彰式だった。

名誉欲や自己顕示欲が高い傾向にある冒険者に、この仕組みが見事に刺さった。その結果が、連夜の大盛り上がりである。

最近ではギャラリーも増え、賭け金も安いことから冒険者以外の挑戦者も現れるようになっていた。


「文乃さん、大丈夫?疲れてない?」

「平気よ。インターンのイベントに比べたら楽なものよ」

あまりに盛り上がってしまったため、MCを務める文乃を心配して太一が声を掛けるが、問題は無さそうだ。

人事のエースとして、長年求人イベントに携わってきた文乃がMCをしていることも、人気の一端を担っているだろう。

ちなみにサイコロは、召喚者の遺産の素材の中にあった良さげな物をワイアットに見せたところ、硬く光沢のあるワイバーンの爪があったのでそれを加工してもらい、実は美術的なセンスが高い、古着屋のベティーナに絵を描いてもらった特注品だ。


一方の太一が何をしているかと言えば、ギャンブルの裏で第3の商売を静かに行っていた。

太一達が第3の商売に選んだのは、採集系素材の買取りだった。狙うのは大口ではなく小口の買取だ。


と言うのも、採集系の依頼が不人気なのは、地味である点もさる事ながら、規定数が揃わないと1ディルにもならないこともまた大きな理由だった。

討伐をメインで行うパーティーは、ついでに採集することも可能なのだが、あくまでついでなため規定数が揃わないことが多い。

取っておくのも面倒な上、採集してから2日以内という制限がある依頼も多いため、皆自然と採集からは離れていってしまうのだった。


太一はそこにビジネスチャンスを見出した。


1つでも2つでも買い取ってもらえるなら、多少金額が安くても確実にお金になるので、ついでに取ってくる冒険者が増えると睨んだのだ。

そしてその予想は見事に的中する。

最初の数日は、周知されていないためほぼ買取はゼロだったが、4日目辺りから買取客が出始めた。

絵合わせの集客力が高いので、そこで買取のことを告知出来たのも非常に大きく、7日目の今日は10人以上が持ち込んできていた。


「タイチさんこんばんは!今日も買取お願いします!!」

元気よく挨拶して来たのは、買取の常連になりつつある若い女性冒険者だった。

「お、レイアちゃんか。いつもありがとう」

「いえいえ、こちらこそ買い取ってもらえてすごく助かってます!実は毎日の夕飯代、これで賄ってるんですよ」

レイアがあははーと笑いながら、買取希望の素材を袋から取り出す。

「今日は、癒し草が3本とシルバーべリーが5つです!」

「どっちも一つ2ディルだから全部で16ディルだ。それで良いかい?」

「はい。いつも通りなので大丈夫ですよ!今日はシルバーベリーがちょっと多めに採れたのでラッキーでした」

「他の連中は採集しないのかい?」

「そうなんですよねぇ。面倒だとか、採集なんて臆病者がやることだ、とか言って・・・」

口を尖らせながらレイアが言う。


レイアの所属するパーティーは、“銀の爪シルバークロウ”と言うF級のパーティーだ。

それぞれ同じような時期にソロで冒険者になり、たまたまそのタイミングで知り合って3人で組み、現在二ヶ月ほどになるらしい。

「臆病とか言う割に、切り込むのはほとんど私なんですよ?まったく・・・まぁ、二人が採集しないから私の取り分が増えるから良いんですけどね!

 タイチさんが買い取り始めてくれて、滅茶苦茶感謝してるんです、私。

 毎回10ディルくらいにはなるので、夕飯が贅沢できるんですよね。これまでだと5ディルとかに切り詰めてたので・・・」

「まー、中々固定観念を変えるのは大変だよ。俺は気付いた人がボチボチ持ってきてくれるだけで十分だしね。

 美味いもん食うためにも、引き続きよろしく!」

「はい、任せてください!!では、また!」

来た時同様、元気に手を振ってレイアが雑踏の中に消えていった。


買取依頼に来る客は、ほとんどが固定客で、毎日~1日おきくらいの頻度で持ち込んでくることが多い。

買取額もおおよそ10~20ディル程度なのでレイアのような若手の冒険者が多いが、毎日の酒代の足しにするベテランも一定数いるのが面白い。

今はまだ太一自身が判別できる素材が少ないため単価も安いが、今後素材の幅が広がると、売り上げ規模も一気に広がると太一は睨んでいる。


買い取ったものをまとめていると、文乃の方の絵合わせも無事本日の限定数に到達しお開きとなったようだ。

素材をまとめ終えた太一が、文乃に声を掛ける。

「今日もお疲れ様。どうだった?」

「大当たりが5回だから、まぁ期待値の範囲内ね。粗利450ってとこじゃないかしら?そっちはどう?」

「今日は12組だね。じわじわと伸びて来てるよ」

「良い傾向ね。一気に増えると色々しんどくなるし、じわじわくらいで丁度良いわ」

「全くだ。さて、それじゃあ今日の夜の部もお開きってことで。あ、シルバーベリーが1単位出来たから、ついでに納めてきて良い?」

「ええ。屋台の片付けは進めておくから、行ってきていいわよ」

「ありがと。じゃあサクッと行ってくるわ」


こうしてケットシーの鞄夜の部も、朝の部と同様になかなかの盛況ぶりを見せていくのだった。


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― 新着の感想 ―
この買取屋も隙間産業っていうんですかね(笑)。
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