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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆69話◆商売開始

いよいよ商売開始です!

(30話くらいで辿り着く予定が、どうしてこうなった・・・)

「げ、ポーション忘れちまった・・・誰か予備持ってねぇか?」

「お前またかよ。予備なんか持ってる訳ないだろ。今から買いに行ってたら馬車が出ちまうから、諦めろよ」

「んなこと言っても、何かあったらどうすんだよ。責任取ってくれるのか?」

「なんで俺が責任取らなきゃなんねぇんだ?そもそもお前が忘れるのが悪ぃんだろ?」

朝の馬車乗り場で、とある冒険者パーティーが揉めていた。

この時間のこの場所では毎日のようにどこかで見られる、特に珍しくも無い日常だ。


馬車乗り場は門前の広場にあるが、門前の広場には基本店が無い。

朝夕、馬車と待ち合わせの人で広場が埋まるため空いたスペースが少なく、逆にその時間以外はほとんど人がいなくなるため、店を構える者がいないためだ。

そのため、こうしたトラブルのその後のパターンも大体3パターンで、諦めてそのまま行くか、馬車を遅らせて買いに行くか、喧嘩がエスカレートして結局遅れる最悪のパターンかのどれかだ。


しかしここ最近、その様子に変化が見られるようになっていた。

そして毎日ここから馬車を出している御者が、一番早くその変化に気付いた人間だろう。

男たちが乗る予定の馬車の御者が、男たちに声を掛ける。


「おや、お客さんポーションをお忘れですかな?それでしたら、最近このあたりでお店を始めた“ケットシーの鞄”へ行ってみては?

 お客さんのように、直前で忘れ物に気付いた方達に大好評のお店だそうですよ?」

「あん?ここいらに店なんかあったか??」

「店舗は構えず、朝だけ屋台でお店を出しているとのことです。ほら、あちらです」

御者が指差した、馬車乗り場の片隅を見てみると、確かに小さな屋台が出ており、数人のお客が買い物をしている所だった。

「間もなく出発になります。ひとまず覗いてみてはいかがですか?」


御者に促され、男が連れの男と屋台を訪ねると、黒髪の若い男女が店を切り盛りしているようだった。

「いらっしゃいませ。買い忘れの品でしょうか?ご入用の物があるか保証は出来ませんが、どうぞご覧ください」

若い男に言われて並んでいる商品を見てみると、確かにポーションが並んでいた。

「お、ポーション売ってるじゃねえか。ここで買えば馬車にも間に合うし、さっさと買っちまえよ」

「あ、ああ。120か・・・ちょっと高ぇが戻って買ってる時間もねぇし、しゃあねぇ。兄ちゃん、ポーションを1本くれや」

「はい、ありがとうございます!ちょっと高いのは、手間賃だと思ってご勘弁を・・・はい、丁度いただきます!お気をつけて!」

「おう、助かったぜ。いつからやってんだ?」

「今日で7日目ですかね。ようやく慣れて「兄ちゃん、水くれ水!わりぃが急ぎだ」はいはい、ただいま」

商品を受け取った男が若い店主と話をしていると、横合いから慌てた客が割り込んでくる。どうやら水袋に水を入れてくるのを忘れたらしい。


「2ディルになります。こちらの柄杓で詰めていってください」

「ああ、助かった。そこのアンタもすまんな、割り込んじまって」

柄杓と漏斗を受け取ると、水袋に水を詰めていく。どうやら自分で詰めるスタイルのようだ。

「いいってことよ。しかし水も売ってんだな。よく見たら食いもんも矢も置いてあるし・・・兄ちゃん何屋なんだ??」

「うーーん、何かのお店って訳ではないんですよ。強いて言えば“なんでも屋”ですかね」

「なんでも屋か。そのまんまだが確かにそうだな。ああ、だからケットシーの鞄なのか」

「あはは、お恥ずかしい話ですが・・・全然ケットシーの鞄には足りてないですけどね」


ケットシーは猫の妖精で、小さな肩掛け鞄一つだけを持って世界中を飛び回り商売をしていると言う。

その小さな鞄からは、買いに来た人が欲しいものが必ず出てくるため、痒い所に手が届くことをこの世界では“ケットシーの鞄”と呼んでいた。

「そんなことねぇよ。現に俺は助かったからな。おっと、すまねぇ馬車を待たせてるんだった。兄ちゃんありがとうよ!」

「またご利用ください!」

それからしばらくの間、ケットシーの鞄にはポツポツと客が現れては商品を買って行った。

殆どの馬車が出発し、朝のラッシュが終わると男女は店仕舞いを始めた。


「だいぶ浸透してきたわね。やっぱ御者さんに宣伝しておいたのは正解だったわね」

売れ残った数をメモしながら文乃が呟く。

「うん。忘れ物が原因で、遅れたり揉めたりがちょいちょいあるって聞いてたからさ。有難がって宣伝してくれると思ったんだよ」

屋台を移動できる形へ変形させながら太一が答える。


太一と文乃がケットシーの鞄と名付けた屋台販売を始めて7日が経っていた。

宿泊10日目に分析した結果、ピークタイムの馬車乗り場や大門付近で万屋の屋台をやるのが、低リスクである程度利益が見込めると結論付けてのことだった。


考え方はリゾート地や遊園地の自販機や野球場のビール売りに近い。

要は、需要があるのに供給のない所へ商品を持って行けば値段が多少高くても売れる、という商売の大原則に則った商売だ。

朝一で馬車に乗る冒険者は馬車の出発時間があるし、徒歩でも狩場が早い者勝ちになることも多いから早く出たい。

要は時間が惜しい状況に置かれている状況だ。それも毎朝かなりの人数がこの時間、場所に集中する。


「かなりの数の冒険者が毎日いるんだ、忘れ物したり買い忘れがある連中も毎日いるはず。

 でも忘れ物を買いに戻ってると馬車に遅れるかもしれないし、競争に出遅れるかもしれない。そもそもこれから狩りに行くってテンションに水を差したくない。

 そこに付け込んだら、多少高くても買うんじゃないかと思ってたけど、予想が当たって良かったよ」

「そうね。おおよそのパターンが分かって来て、機会損失が無くなってきたのも大きいわね」

太一達の予想は的中し、毎朝何人かは忘れ物を買いに戻る時間が無い冒険者が現れ、店を訪れていた。

最も、初日や2日目は、客の求めるものを仕入れていないケースも多く、機会損失が目立った。

それを踏まえ毎日地道にラインナップを増やしていった結果、7日目にしてようやく機会損失がほとんど無くなっていた。


「100%は流石に無理だけど、9割くらいは賄えるようになったかな。あ、あと意外に水が売れるのに驚いたなぁ」

水が入った樽を積み込み、苦笑しながら太一が零す。

「そうよね。自分で汲みに行くのが面倒だし、街にいる時は水袋から飲むことは少ないから、結構忘れるのよねぇ・・・」

今の所、ケットシーの鞄の一番人気は、なんと水だった。もちろん売り上げベースではなく数量ベースだが。

しかし太一達には、例の水の出る石があるため、利益率100%の超優良商材である。


「こんなところで水の出る石が役に立つとはね。

 っと、よし。片付け完了っと。売上確認して商品補充したらお昼かね」

「そうね。だいぶ在庫が無くなったから、そろそろ仕入れないと駄目ね。今日の午後は、軽く採集程度ね」

「んじゃ、一旦宿に戻るか」

片付けを終えた太一と文乃は、すっかり顔見知りになった馬車乗り場の警備兵に挨拶をすると、屋台を引いて宿屋へと戻っていった。


「おやっさん、悪いね。今日も屋台置かせてもらって」

「気にすんな。場所代も貰ってんだ、何も問題ねぇよ。

 しかし変わってんな兄ちゃんらは。冒険者もやりながら商売も始めるとはよ」

黒猫のスプーン亭に戻った太一と文乃は、1日30ディルで借りている馬車置き場の一角に屋台を停め、ドミニクに挨拶をしていた。

その屋台も、商業ギルドから同じく1日30ディルで借りているレンタル品である。

定期的に商売を行う場合は商業ギルドへの登録が必要となるため、そのついでにレンタルして来たのだった。

ちなみに、商業ギルドもランクが分かれており、上位ランクほど手広い商売が可能となる。

太一達が登録したのは一番下のD級だ。D級は店舗を持てず、屋台でのみ商売をすることが出来る。

なお、商業ギルドの等級は実績ではなく支払う会費で決められ、D級は月100ディルとお得だ。


「あはは。まぁ元々商売やるために村から出て来たんだし、冒険者は種銭集めのつもりだったから。

 危険な冒険者は早く辞めて商売一本で食っていきたいくらいだよ」

「がはは、やっぱ変わってんな。ファビオが聞いたら怒るぜ?あんな強いのに何言ってんだ、ってよ」

「そのへんは認識の違いってヤツで。んじゃ事務仕事片付けてきます」

軽く雑談をすると、2人で文乃の部屋へと移動する。商品在庫を置いているのが文乃の部屋なためだ。


「さて、今日の売り上げはどうだった?」

「ポーション2、安い方の薬が3、高い方が1、ブースターが2に使い捨ての魔除けが2、防水袋が2で矢が1束と携帯食が2、で水が5。しめて914ディルの売上よ」

「上々だね。記録更新かな?」

「そうね。ポーションが2出たのと、防水袋が効いたわね」

ケットシーの鞄が扱う商品の中で、一番高額なのがポーションだ。

相場が100ディルのものを120ディルで販売しているため、買うのを止める客もいるが、背に腹は代えられないと7割以上が買っていく人気商品だ。

仕入は、以前知り合ったワイアットの店で行っており、定期的に購入することで95ディルにおまけしてもらっている。

他にも薬類や、ブースターと呼ばれる一時的なドーピングポーション、野営時などに使う使い捨ての魔除けなどもワイアットの店から仕入れていた。


「ワイアットさんの店には行かないと駄目ね。あと、ついでにヴィクトルさんのとこで矢も補充しておこうかしら」

売上と在庫の確認を終えると、太一はワイアットの店に文乃はヴィクトルの店でそれぞれ仕入を行い、黒猫のスプーン亭で昼食を済ます。

そして午後からは、もはやルーチーンと化している近場での採集依頼に出掛けて行く。ちなみに仕入が無い日は、それが討伐依頼に変わることが多かった。

夕方の鐘が鳴る前にギルドでの報告まで済ませた太一達は、再び屋台を運び出して街へ繰り出していく。


これから、ケットシーの鞄夜の部が開店するのだった。

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