◆67話◆第1回経営戦略会議~前編
ついに本格的な商売&マーケティング開始!
太一の部屋に、飲み物や軽食類を持ち込んで経営戦略会議が始まった。
「まずは冒険者の実態についてかな」
「この10日で結構現実が見えて来たわね。
まずはデモグラ系だけど、平均年齢がかなり若いわね。
15歳から登録出来るみたいだけど、半分以上の人が15歳で冒険者になってるようだし、その上やっぱり死亡率が高いから、平均年齢は30は行ってないわね」
そう言いながら、PCでも箇条書きにしていく。
「予想はしてたけど、10年以内に3割くらいが死ぬって話だから、とんでもないよ。
その分間口が広いんだけど、まともな訓練とか試験とかないからね・・・」
そう言う太一の表情は、やりきれなさを隠せていない。
一方で、望んだ訳ではないものの、肉体強化の付与がされていることに太一は大いに感謝する。
強化の付与が無かったら、自分もその3割の方に入る可能性が高いだろう。
「だからだと思うけど、ソロはほとんどいないね。
冒険者になりたてでも、元からの知り合い同士でパーティーを組むのが当たり前になってる」
「正しい判断でしょうね。それも理由の一つかもしれないけど、思った以上に女性冒険者が多いのも驚いたわね。
半々とは言わないまでも、4割は女性じゃない?」
「うん。感覚的にそれくらいだと思う。既婚女性が少ない所を見ると、結婚したら辞めてる可能性が高いよね?
若い世代だともっと半々に近いんじゃないかなぁ」
「子供を育てながらの冒険者稼業は厳しそうだものね・・・」
「だよね。あと、クロエさんの言ってた通り、FとEがかなり多いね。まぁ死亡率と平均年齢考えたら当たり前だけどさ。
で、俺たちの戦闘能力だけど、明らかにEでは無いね」
「ええ。FとEの討伐依頼やった感じ楽過ぎだもの。ジャン達と比べてみても遜色ないから、Cに近いでしょうね」
「それくらいだよねぇ。この辺はステータス値の目安を裏付けしてるね。実力を予測するのにステータスは確かに役立ちそうだ」
「デモグラはこんなとこかしら?」
「そうだね。じゃ次は行動パターン、性質かな。
分かりやすい所から行くと、まぁ所謂“脳筋”系が多いなぁ。良し悪しじゃなく単なる事実として」
やや苦い顔で太一が言う。それを受けて話す文乃の表情にも苦笑が浮かんでいる。
「採集系の依頼がダブついてる理由を聞いて驚いたものね・・・
憧れとして、冒険者になる人が多い証拠よね。その割に冒険者間のトラブルは、かなり少ないのよね。
決してお行儀も良くないし、ガラも悪いにも関わらず・・・」
「うん。いわゆるテンプレ的な話が溢れてるのかと思いきや、全然だもん。
まぁギルドが監視してるし、碌でも無い事してる連中は爪弾きにされて立ち行かなくなるから、当然かもしれないけど」
「で、朝早めに出掛けて完全に暗くなる前には戻ってくる、日帰りが基本パターンね。
当然遠方へ行く場合はそうじゃないけど、金銭的にも能力的にもF、Eランクにそれは難しいし。
結果、朝と夕方~夜に通勤ラッシュが出来るのが、地球に似ててちょっと面白いわね」
「大きな違いは、決まった日が休みじゃないってことかな。
冒険者に限らないけど、定期的な休みって概念がそもそも無いから休日が少ない。
2勤1休だったら良い方で、毎日依頼受けてる人もかなり多い感じだね」
「みんな働き者よね・・・
まぁ娯楽も少ないから、休日は文字通り体を休めるだけで、後は働いてとにかく稼ぐのが当たり前な感じね」
「日が暮れてからやることが極端に減るのも大きな違いだよね。飲み屋くらいしか無いもの」
「そうね。帰って来て報告して報酬貰って宿併設の食堂で飲んで、日が変わる前には寝る、の繰り返しね」
「その辺は地球のテンプレに似てるよね」
日雇いの仕事をするとその日暮らしになりやすいのは、世界を問わず人間の心理なのかもしれないなぁ、と太一が零す。
「想定しやすいから良いんじゃない?さて、仕事の後の話になって来たから、このままお金についてもいきましょうか」
「ランク毎の平均的な稼ぎの想定と、そこから冒険者GDP?というか総所得か?を試算して市場規模にアタリをつけよう。
こっからは筆算だと辛いから、エクセルだな。ソーラー充電出来てよかった・・・」
しみじみと言いながら太一はエクセルを立ち上げ、縦軸にランク、横軸に想定人数や想定の月収欄を作っていく。
「ほいお待たせ。で、まず稼ぎだけど、F級だと1人1,500~2,000ってとこだよね?。
パーティー人数にもよるだろうけど、平均4人とすると多分それくらいに落ち着くはず」
「そうね。私達が受けてたのは主にE級の依頼だけど、普通のF級パーティがこなせるとは思えないし。
もう一段簡単な討伐依頼は人気で抽選だし、最初は常設依頼を中心にやるしかないから、それくらいか時期によってはもう少し落ちるかね。
まともに討伐依頼がこなせるようになるのは、E級が見えた頃くらいからだと思うわ」
「うん。E級になれば、ある程度安定してあのレベルの依頼はこなせるようになるかなぁ。
で、俺らがやってたレベルの討伐依頼を中心にやってるE級の稼ぎは月3,000~4,000ってとこかな。
今は特別推奨バブルだから2割増しくらいだろうけど、普段はこんなもんじゃない?」
「平均するとそんなとこかしらね。ざっくり換算で手取りで月給3~40万円だから、ある程度余裕ありそうだけど、そうじゃないのよねぇ」
「まず宿屋暮らしだからなぁ。
素泊まりでもまともなとこに泊まろうと思うと70は必要だから、それだけで2,000は飛ぶ。
自炊もほとんどしてないから3食外食で、1日20として600。酒も飲むからあっという間にほとんど無くなるわなぁ」
「うん。稼いだ分だけ使うパターンよね。収入もそこそこ多いけど、同じくらい使うから、お陰でかなり経済を回してるとも言えるけど」
「その上でどんぶり勘定だ。お小遣い帳レベルの収支ですら可視化せず、極短期の収支だけしか気にしてないもの。
だから中長期の将来設計とか収支計画なんて皆無で、貯蓄も余ったら残しておくくらいの連中がほとんどだ。
ジャン達はある程度計画的にやってる感じだけど、ありゃ例外だね。そりゃ期待のパーティーにもなるわな」
「ほんと、良くも悪くもその日暮らしよね」
「まぁ、その辺りに商売のチャンスが転がってるんだけどさ」
太一はそう言ってニヤリと口角を上げると、コップの水を一気にあおった。
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