◆64話◆明日へ向けて
そのまま宿へ戻ると、軽くドミニクに挨拶をして着替えのため部屋へと向かう。
朝、出掛けにソーラーパネルに接続しておいたモバイルバッテリーを見ると、フル充電されていた。
現在時刻が19時、繋いだのが9時30頃だったので充電時間はおよそ9時間だが、陽が沈んで1時間ほど経過しているため正味8時間だ。
また、窓は南向きのため陽が西に傾くと途端に日の入りが悪くなるため、実質5時間ほどだろうか。
ほぼ空だった10,000mAhのバッテリーが5時間でフル充電されているので、2,000mAh程度発電できていることになる。
「いやいやいや、そんなハズないでしょ・・・」
あまりの発電量の多さに、思わず太一がつっこむ。
そこそこの性能のパネルだったとは言え、地球にいる頃は平均600mAh、夏至頃のピークタイムでも700mAh程度だったのだ。
それがいきなり3倍以上に跳ね上がったのだから、驚くのも無理は無いだろう。
「まぁいいか。数字の検証はさておき、ちゃんと充電できることが分かったんだからヨシとしよう」
ひとまずバッテリーの不安から解放されたことで問題無しと判断し、さっさと着替えをすます。
着替えた後は夕食だ。朝は居なかったファビオが、夕飯時には食堂に居たので話しかける。
「お、ファビオ。昨日は結局向こうに泊まったのか?」
「いや、日が変わった頃に戻って来た。おかげで昼まで寝ちまったが・・・全く昨日は酷い目に遭ったぜ」
「そんなに飲んだのか?と言うかアンナの酒癖が悪い??」
「両方だな。アンナの奴は絡み酒でな、それが面倒なんだよ。
しかも昨日は、帰ってからすぐ仮眠取って夜に起きてから飲み始めたからな。スタートが遅かったんだよ」
「なるほどなぁ、そりゃ朝までコースにもなるか。お疲れさん」
「タイチ達の方はどうだったんだ?今日も常設依頼か?」
「んにゃ、今日は討伐依頼を受けて、ハイデン村ってとこまで日帰り旅行」
「ハイデンと言うと、時期的に麦の収穫の手伝いか?あそこのパンはなかなか美味いから、報酬は安いけど休息がてらやる奴がいて地味に人気だぜ」
「へぇ、そうなのか。でもそれじゃないな」
「ん?それ以外ってなると・・・今流行りの小物討伐か?」
「おー、正解。やっぱ増えてるんだな、小物討伐」
「まぁな。近場含めて毎日のように依頼が出て来てるし。でもハイデンだと馬車移動だし、ちょっと中途半端じゃないか?」
「カミラさんも似たようなこと言ってたな。まぁウチはまだ経験積むこと優先だからね。
それと、人気薄の小物討伐依頼は近々特別推奨依頼になるから、それ扱いでいいよってことだったからな。それで受けた」
「確かに特別推奨依頼は美味しいが・・・」
「ウチの場合2人だから、結局大物は厳しいんだわ。それを踏まえると、小物狩りは低リスクだし経験積むには良いかもって話になってね。
あと、昨日は自家用馬車だったけど、乗合の馬車を使った移動にも慣れておきたかったしね」
「なるほどな。効率気にしなけりゃ確かに良い依頼かもな。実際今みたいに小物依頼が溢れる前は、すぐ誰かが受けてたっぽいし」
「うん。半日で終わったし、丘の上から見た、収穫間際の麦畑も綺麗だったから満足してるよ」
「で、どうだったんだ?まぁお前らの事だから結構な数を狩ったんだろうけど・・・」
「えーーっと、44匹だったかな」
「はぁぁぁっ??」
太一の口から出て来た予想を遥かに超える数に、ファビオは思わず大声を出して立ち上がる。
「よんじゅうよんんんんっっ??バカじゃないのか?ジャンもバカだけど、お前らも大概だな。自重ってもんはないのか?」
「そんな事言われてもなぁ・・・固まってたから、文乃さんの弓で削ってから切り込むってのを繰り返しただけだよ」
「朝起きたから顔洗ってご飯食べた、みたいに言われてもな・・・」
「だって事実だしなぁ・・・あ、文乃さんも降りて来た。おーい、文乃さ~ん」
上階から下りて来た文乃を見つけて太一が声を掛けると、文乃もこちらにやって来て同じテーブルに着く。
「あぁ太一さん、早かったわね。ファビオも、昨日はどうだったの?」
「そんなことよりタイチから聞いたぞ。44匹コボルトを仕留めたって?」
「ええ。ゴブリンとほとんど変わらないし、固まってたから。今日の状況であれば、大したこと無いと思うけど?」
「大した事無い訳が無いだろ・・・これまた記録的数字だな」
「そうなの?あまり記録には興味は無いから、どうでも良いけど・・・
ちょっと危ない場面もあったし、あと何回か人気薄の小物討伐を受けて慣れたほうが良さそうだわ」
「あん?お前らが危ない目に遭うってのが想像つかないんだが・・・
やばいリーダー種でも出たのか?」
「油断してたのよね、きっと・・・隠れてるのに気づかなくて、不意打ちを食らったのよ」
「あー、アンブッシュか。ありゃ慣れないと食らうわな。ってかそのコボルト、多分レンジャーだぜ?偶に混じってるんだよ」
「げ、ノーマルじゃないのが混じってたか。まぁ確かに動きは違ったけど・・・リーダー種では無いのか?」
「見てないから保証は無いけど、リーダー種じゃないと思うぜ。聞いた感じ統率してなかったっぽいし。
まぁ、大怪我せずに勉強になったんだから、結果オーライだと思うぜ?」
「ええ。そう思うことにしてるわ。実際そうだしね」
文乃がやれやれとばかりに首をすくめた。
「そうそう、ちょっと不思議だったのは、今も出てたリーダー種についてね。40匹以上の群れだったのに、リーダー種が不在ってことあり得るの?」
「無くは無い、ってくらいか。拠点も無かったって話だから、細かいはぐれ系がたまたま同じところに集まったんだろうな」
「ふぅん、そういうケースもあるのね。まぁ数の割に統率されてなかったから楽で良かったけど」
「40匹ってのは、統率どうこうは関係ない数字だと思うがな・・・明日からも依頼を受けるのか?」
「ああ。何回か似たような討伐依頼を受けるつもりだ。毎日はきついから、一日おきだろうけど」
「そうか。また何かあったら声掛けてくれ。俺たちもまだしばらくは日帰り依頼中心の予定だ」
「助かるよ。そん時は遠慮なく頼らせてもらうわ」
「おう、任せとけ」
それからしばらく3人で雑談をしながら夕食を楽しみ、夜の鐘で解散して各々眠りにつくのだった。
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