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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆59話◆コボルト

文乃無双

ゼップから聞いた通り、コボルトはボロ布を纏い、手には棍棒や錆びた剣を持っていた。

中には粗末ながらも盾を持っている個体もいる。身長は人間の子供より少し大きいくらいだが、ゴブリンと比べると一回り逞しい。


(6匹ね。太一さん、どう?)

息を潜めて小声で文乃が太一に問い掛ける。

(5匹までしか見えないな。一番遠い奴は一旦除外するわ。今の所気付いた様子はないな)

(了解。高い位置を取れたのは大きいわね・・・それに風下だし)

そう言いながら矢筒を腰の後ろに付け替え、矢を射る準備を始める。

(ちょっと連射してみてもいい?感覚的に1秒で1発はいけると思うから、3本射ったら太一さんも出てもらえる?)

(了解)

そして左手に弓を、右手に矢を握ると静かに目を閉じ集中力を高める。最も近い目標まで30mほど、遠い目標まで50mほどだ。


数秒後、まず1本の矢を放つ。そして矢の行く先を確認もせず、二の矢三の矢も放っていく。

3秒足らずで放たれた矢は、小さな風切り音と共に毛の塊へと飛翔する。

3本目の矢を放ってすぐ、違和感を感じたのか1匹のコボルトが斜め上を見上げる。が、時すでに遅し。

一番手前にいたコボルトの左目に矢が突き刺さる。

それを見て太一が剣を抜いて坂を駆け下りていくと、タタンッ!!と小気味よい音をさせながら残り2本の矢もコボルトに突き刺さる。


矢は全て首から上に命中、内2匹は頭まで刺さっているためすでに絶命し、残る1匹も首に刺さったためもはや戦闘不能だ。

突然の事態に残されたコボルトは恐慌状態に陥り、ギャンギャン鳴きながら右往左往している。

そこへ、剣を構えた太一が突入し、あっという間に残った3匹を切り伏せる。

念のためすでに動かなくなっていた最初の3匹も見て回ると、文乃たちを呼んだ。


「うーん、残念。1匹外したわね。まぁ逃がさなかっただけいいかしら」

「いやいや、ヘッドショット出来なかったってだけで、一撃だし」

「・・・・・・」

淡々と状況を振り返る2人に対して、ゼップは驚愕の表情で固まったままだった。

「ゼップさん、こいつらの討伐部位って牙だったかしら?

 あと、この死体はどうしたらよいかしら?このままにしておくのも邪魔よね・・・って大丈夫??」

文乃が話しかけても、口と目を大きく開けてプルプル震えたままゼップは動かない。

太一が目の前で2、3回手を振るとようやく我に返る。


「な、な、な・・・」

「なな?」

「何なんだよ今のもががががっ・・・っ」

大声を出そうとしたゼップの口を太一が慌てて塞ぐ。せっかく殲滅させたのに、ここで大声を出されて警戒されたらたまったものではない。

「しーっ、しーーっ!!何大声出そうとしてんの?他のヤツらに気付かれたらどうすんの!?」

「す、すまん。しかし何だ今のはよ!?1瞬で6匹だぞ、6匹!!ありえねぇだろ」

「何って言われても、弓で射って剣で切った、としか・・・多分誰でも練習したらこれくらい出来ると思うわ」

「出来てたまるか!!」

「もう、何よ。今はそんな事より、この死体をどうしたらいいか教えて。まだ他の場所もあるんだし」

「ぐ、分かった。ひとまず討伐部位だけ持ってってくれ。死体は後で村の連中で片付けっからよ」

「了解。じゃあ、次の場所までよろしく」

なおも物言いたげなゼップを無理やり黙らせると、次の溜まり場まで移動を開始した。


「で、次はどんなところ?」

「次はさっきみてぇな坂じゃなくて平地だ。麦畑の端に休憩したり道具を置いておくための広場があるんだけどよ、その一つだ」

「遮蔽物が少なそうね・・・」

「ああ。まだ刈り取る前だから畑には麦が生えちゃいるが、腰くらいまでだな。それ以外は所々木が生えてるくれぇだ。

 広場の中にも、あまり背は高くねぇが木が何本か生えてる」

「コボルトは、木に登ったりしないの?」

「聞いたことねぇな。梯子でもありゃ登るかもしれねぇが・・・」

「それはありがたいわね。遮蔽物が無い上、上にもいたら厄介だったから」

「違ぇねぇ。そこにいるのは、日によって結構バラバラだが10から15ってぇとこだな」

「15は流石に多いわね・・・気付かれないよう弓で減らすけど、減らす前に気付かれそうになったら撤退しましょ」

「了解。矢印見て、色が変わったらすぐ教える」

「お願いね」


麦畑の中を村とは反対方向へ20分ほど駆け足で進んだあたりでゼップが足を止める。

「この先に何本か木が立ってんだが分かるか?」

「ええ。5本くらいかしらね」

「ああ、それだ。あの木があるところ一帯が広場になってる。広さはさっきの薪割場より、少し広ぇくらいだな」

「ここから広場の入り口までどれくらい?」

「だいたい80メルテくれぇだな。この辺りならまだ気付かれねぇ。もう少し近付くと、勘のいい奴は気付いて襲ってくる」

「なるほどね・・・」

麦畑の間に何本か細い道はあるが、まともに隠れられるような障害物は無い。

「どうする?俺が先に立ってゆっくり近づいてみるかい?で、色が変わったら止まる」

「そうね・・・一気に距離を詰めても良いけど、囲まれたら厄介だし」

「了解。んじゃあゼップさんはちょっとここで待っててくれ」

2人は腰を落として麦穂に隠れると、ゆっくりと広場へと近づいていく。数メートル進むと、麦の隙間から広場が確認出来た。

そこで一度留まり、じっくり観察してみる。


ゼップが言った通り広場は直径30メートルほどで、3メートルくらいの高さの木が5本生えており、地面は短く刈られた草と踏み固められた土でパッチワークのようになっている。

そんな広場のそこかしこに、毛の塊が10以上いるのが見えた。それを見て、太一と文乃は小声で作戦会議を開く。

(今の所気付かれてはいないと思う。矢印は無色だ)

(ありがとう。あの木の下にいる奴は上方の射線が遮られるから厄介ね。射角が付けられないから長距離では狙えないわ)

(ここからだと、ちょっと広場全体は狙えない?)

(ええ、奥の方は多分当たっても威力が足りないと思う)

(どうする?さっき一当てした感じだと、まともにやっても3匹くらいまでなら同時に相手に出来そうだけど)

(気付かれる限界まで弓で減らすから、それまでは動かないで。気付かれたら、数が少ない方から回り込んで強襲で。

 私は側面から引き続き各個撃破するから、伊藤さんは囲まれないように動きながら倒していって)

(了解した。あ、5匹減らす前にこちらの場所を特定されたら撤退で)

(分かったわ)

(よし、じゃあもう少し撃ちやすい位置まで移動しよう)


作戦会議をした場所から数mほど慎重に進んだところで、文乃から裾を引っ張られ太一は停止する。

(このあたりでいいわ。最大限射線が通る配置になるまで、少し待たせて。まだ気付いていないわよね?)

(全部を捉えきれてないから何とも言えないけど、まだ気付いてない)

(ありがと。じゃあ申し訳ないけど、私のタイミングで撃つからそれまで待ってて)

(任せた)

それから5分ほど、文乃がじっと広場を見つめている。聞こえるのは時折吹く風が麦穂を撫でるサァっという音だけだ。

そしてその瞬間はいきなり訪れる。木の下にいた1匹が少し動いた瞬間、文乃も動き、先程と同じように矢を素早く放っていく。

1秒弱の間隔で放たれた矢は目標を外すことなく仕留めていくが、7本打ったところで太一が走り出した。

「1匹気付いた!4時の方向から切り込む!!」

「分かったわ!ご安全に!!」

それを聞いて文乃もタイチとは逆の方向へ走り出した。


回り込んで走っていく太一の目が、忙しく無傷なコボルトの感情を読み取る。

残りは9匹だが、最初に気付いた1匹に加えもう1匹がこちらを捕捉したようだ。

そのうち手前に居る1匹に狙いを定め切り込んでいくと、コボルトは迫りくる太一に牙を剥き出しにして威嚇しながら、錆びた剣を振るう。

「甘い!」

太一は少しだけ速度を緩めると、上段から振り下ろされたコボルトの剣を両手で持った剣の腹に乗せ、斜め左下に滑らせる。

ギャリッ、と金属が擦れる音がし、剣をいなされたコボルトが体勢を崩した所で首筋に剣を叩き込み絶命させる。

そのまま右に回り込むように走り、次の目標へ切り込んでいった。


太一の場所までは把握していなかった個体だが、仲間が切られたことでそちらに目を向ける。

その瞬間、すでにそこから移動していた太一が側面から切り掛かる形になり、あっけなく切り捨てられる。

すると近くにいた個体が、目の前で仲間が切られたことに逆上して、手に持った手斧を無茶苦茶に振り回しながら突っ込んできた。

それを難無くステップで横に躱すと、首筋に真横から剣を突き込み、後方から向かってきていた1匹の方へ思い切り蹴り飛ばした。


まともに仲間をぶち当てられたコボルトは、飛ばされてきたコボルトと一緒に絡みながら転がる。

そこへ太一が走り込み、2匹の頭に剣を突き刺し止めを刺した。

太一が切り込んで大立ち回りをしているのを見ながら、文乃も太一に向かいそうなコボルトを2匹射貫いていた。

ものの数分で9匹残っていたコボルトが3匹に減った所で、ついにコボルトたちは逃走態勢に入る。

が、こちらに背を向けた時点で文乃の矢から逃れられる訳も無く、あっさり頭を射抜かれ、広場での戦闘は幕を下ろした。

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