◆57話◆ハイデン村
分割した分の後編。少々短め。
※1メルテ=0.5メートル
目的地が村長の家とは言うものの、二人とも村長の家など知るはずも無いので、偶々歩いていた村人にコボルト退治の件で村長に会いたいので道を教えて欲しいのだが、と尋ねる。
がっしりした体つきで、濃い緑色の髪は短く刈られており、顎ひげを生やした男だった。
尋ねられた男は太一の手を両手でガッチリ掴み、ブンブンと上下に振りながら笑顔でこう言ってきた。
「そうか!あんたらがコボルトどもをぶっ殺してくれんのか!!頼む!収穫までに何とかしねぇと大変なことになんだよ・・・」
「いやいや、もちろん全力でやらせてもらうけど、満足いく結果になる保証は無いからね??」
「受けて貰えるだけでもありがてぇってなもんよ。毎年この時期にお願いしてんだが、今年はこの時期まで一組も来てねぇんだ・・・
っとすまねぇ、村長の家だったな!丁度ウチとおんなじ方向だ、案内させてくれ」
村人はそのまま案内を買って出ると、村の奥の方へと歩いていく。
「俺はゼップ。麦を作ってる。つってもこの村に住んでるやつは、ほっとんど麦農家だけどよ。
さっきも言った通り毎年この時期にコボルト駆除をお願いしてんだが、今年は数も多いってのに受けてもらえず、みんな参ってんだ・・・」
歩き出して少し落ち着いたのか、ゼップと名乗った男が話し始めた。
「村人では駆除は難しいのか?」
「やれるこたぁやってんだがよ。俺たちの腕じゃあ、限界がある。
あと、今年はだいぶ数が多くてよ。群れてやがるから何人かケガ人も出ちまった。
かといってこっちが集団で向かうと逃げることも多いから、中々上手くいかねぇんだ・・・」
「向こうから襲ってきたりはしないの?」
「外の畑で少人数でいると襲われることがあるけど、村の中までは来ねぇな。だからまだ人の被害はケガ人くらいでほとんどねぇ。
ただ、畑に行けねぇから麦の収穫が出来ねぇのと、収穫前の麦を食われ始めてるから、このまま放っとくとやべぇんだよ」
「なるほどね・・・ちなみにどれくらい近づくと逃げてくの?」
「そうだなぁ。大体100メルテくらいってとこじゃねぇかな」
「100かぁ・・・ひとまず100メルテなら何とかなるか・・・」
「ホ、ホントか!?俺たちの弓と腕じゃあ精々50メルテくらいの距離じゃねぇとまともに当てられねぇんだ・・・」
「そうなのね。太一さん、村長に挨拶したら試し撃ちしても良いかしら?」
「もちろん。今日はその予定で来たんだし」
「ありがてぇ・・・そん時はまた俺に案内させてくれ!あいつらの溜まってる場所は大体分かってっからよ」
「あら、ありがとう。じゃあお願いするわね」
「任せといてくれ!っと言ってる間に着いたな。その目の前のお屋敷が村長の家だ。ちょいと待っててくれよ」
そう言ってゼップは、道すがらにあった家の倍以上はある家の前で立ち止まる。
村にあった家は殆どが平屋のようだったが、この家は三階建てで2mほどの塀で囲われていた。
太一達に待つように言うと、ゼップは1人門番をしている男へと走っていき話しかける。
「おーーーい、ニコラス!」
「ん?なんだゼップかよ・・・どうしたんだ?」
「いいのか?そんな言い方して?コボルト退治を受けてくれた冒険者を連れてきたってぇのによ?村長いるかい?」
「なに?それを早く言えよ!村長はいるはずだから確認してくる!おーい、あんたら!よく来てくれた!!
今村長に確認取ってくるから、こっちに来て少し待っててくれ!」
言うが早いか、ニコラスと呼ばれた男も建物に向かって駆けて行った。
「・・・なんだかなぁ。ねぇ文乃さん、何だか無茶苦茶期待されてない?俺たち・・・」
「そうね。余程困ってるんでしょうね・・・多分ある程度は狩れそうだけど、あまりハードルが上がるのは辛いわね」
「まぁ頑張るしかないか」
「ええ。これを機に、伊藤さんのスキルも鍛えられると良いわね」
2人がそんな話をしていると、バタンと屋敷の扉が開き壮年の男性が速足で出てきた。先ほど呼びに行ったニコラスも慌てて後ろからついて来る。
そしてそのままずんずんと太一達のもとへ近づいてくると、そのまま太一の両手を掴む。
「き、君たちがコボルト討伐を受けてくれたという冒険者かね!?」
「え、えぇ。レンベックから来ましたフローターズの太一と文乃です」
「そうかそうか!!ようやく受けてくれたのだな!早速状況の説明をしたいのだが良いかね??」
「は、はぁ」
太一達が依頼を受けた冒険者だと知るや否や、村長と思しき男が息継ぎもせずに捲し立て始める。
「毎年この時期に討伐依頼を出しておるのだがな今年は受けてもらえず困っていたのだよコボルトの数も例年よりかなり多いし被害も出始めておるしかも今年の奴等は妙に知恵が回るヤツがいるようでな村人による駆除もなかなか「ちょっとお父さん!!」」
2人があっけにとられていると、屋敷の入り口の方から響いた若い女性の声が、それに待ったをかけた。
「まずは自己紹介でしょ!あと、こんなところで立ったままお客様に話すなんてあり得ないわよ?ちゃんと屋敷にご案内して!!」
「はっ!?私は一体??」
「もう、しっかりしてよ・・・お2人が依頼を受けてくださったんですね?本当にありがとうございます。
私はクリスタ、そこのポンコツがなぜか村長をやってる私の父で、ハインツです。失礼なお出迎えをしてしまい大変申し訳ございません。
ほら、父さんも謝って!!」
屋敷から慌てて出て来たクリスタと名乗る女性は、村長であるハインツの頭をぐいぐいと押さえつけて謝らせるのだった。
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