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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆28話◆宿屋探し

大通りへ出た二人は、昨日の太一とは逆、左側に向かう。

「右側は、広場のすぐ手前辺りまで行ったんだけど、あまり宿屋っぽいのは見なかったんだよね」

と言う太一の記憶があったため、じゃあ逆側を探しましょうという事になったのだ。

「それにしても、中々の活気ね」

文乃は、初めて目にする異世界の街並みとそのリアルな活気に、嬉しそうに目を細める。

まだ昼には少し早い時間だが、その準備をしているのだろう店先や屋台から良い匂いが漂っている。

一方の太一は、昨日より多少余裕をもって周りを見ることが出来たため、昨日気付かなかった点をあらためて確認していた。


「あらためて歩いてる人を見てみると、冒険者っぽい人が結構歩いてるな」

「そうね。鎧着てるような人とか、武器を持ってる人が結構いるわね」

「ああ。鎧とか武器っぽいの持ってるのは分かりやすいな。

 鎧は騎士だったり兵士だったりするかもしれないけど、揃いじゃないのは冒険者だろうね。

 まぁ、魔物の肉が当たり前に市場に出回ってるくらいだ、この世界の文化とか生活に密接にかかわってて、数も多いのかもね」

「まだまだ分からないことだらけね。ギルドで色々確認できると良いんだけど・・・」

「親切な先輩冒険者とお知り合いになりたいもんだね。あくまで平和に」

「そういうフラグ立ちそうなこと言わないの」


冒険者談議に花を咲かせて20分ほど歩いていくと広場があり、さらにそこを通り過ぎると大きめの建物が何軒か固まって建っていることに気が付く。

1階が飲み屋・食事処になっている所が多く、どの建物も比較的新しい。

「見た感じ、宿屋兼業の酒場が集まってるのかね?」

「宿屋通り、ってとこかしら?旗が軒先に掛かってるのが目印だったりするのかしらね?

 これまでのお店で、旗なんてほとんど見なかったわよね?」

「言われてみるとそうかもしれないな。外から来た人も使うから、分かりやすくしてるのかもしれんな。

 ただ、料金表みたいなのが出てないから全く相場が分からんし、良し悪しも分からん。まいったね、こりゃ・・・」

「実際に入って聞くしかなさそうね」

「それしかないわな」

とりあえず目についた、入り口に“竜の息吹亭”と書かれたお店に入ってみる。


5階建てで、このエリアでも上位に入る大きさの建物だ。

お昼前と言う事もあってか、食堂スペースには客の姿は無い。

店内を見まわしていると、カウンターの奥から小太りな男が出てきて声を掛けられた。

「おや、お客様ですか?まだ食堂は準備中でして・・・」

「あー、食事じゃなくて宿を探してるんだが、ここは宿もやってるのか?」

「お泊りの方でしたか。はい、宿もやってございます。お部屋はご一緒で?」

薄い笑みを浮かべ、文乃を品定めするように見ながら男が聞いてくる。

「ベッドが二つあるなら一部屋でも構わない。空いてるか?」

「ええ、個室も2人部屋もどちらも空きがございますよ」

「いくらだ?」

「個室はお一人100ディル、2人部屋ならお二人で180ディルになります。

 お食事は別ですが、宿泊の方には割引させていただいております」

「100か・・・すまない、もう少し他も回ってから決めさせてくれ。邪魔したな」

「・・・さようでございますか」

ひとまず最低限の情報を確認すると、すぐに店を後にする。

「高いのか安いのか、判断に迷うわね」

「ああ。そこそこのランクの宿だと思うから、特別高い訳じゃないとは思うけど、1軒じゃどうにもならんな」

「そうね。規模の大小も交えて、もう少し確認してみましょう」


その後、5軒目の宿屋から出てきた二人の表情は冴えなかった。

小さめ~中規模の宿だと80ディル前後、大きめの宿が100ディル前後で、高級宿は200ディル以上であることは分かったものの、

値段以外のサービスレベルや部屋の広さが分からないのだ。

「まさか部屋を見せてもらえないとは思わなかったな・・・」

「ほんとね。セキュリティ的に仕方がないのかもしれないけど・・・」

「うーーん、エミリアあたりに聞いてみるしか無いかなぁ」

「まぁ地元の人なら私達よりは詳しいわよね。後は先にギルドに行ってギルドで聞いてみる?」

「そのどっちかしかないかぁ。そろそろ昼時だから、すぐに話を聞きに行くわけにもいかないし。

 とりあえず腹ごしらえしながら決めようか」

どこか食堂へ入ろうと辺りを見回していると、ふいに腰のあたりから小さな声が聞こえた。


「あ、あの・・・」

「んん??」

「あ、あの、や、宿を探してるんですかっ??」

声の方へ目をやると、顔を真っ赤にして小さく震えている少女が見上げていた。

「あら、こんにちは。どうしたの、おじょうちゃん?」

気付いた文乃が腰を落とし、少女と目線を合わせて優しく問い返す。

「いや、あの、宿を探してるんじゃないかって思って・・・」

「へぇ。どうして私たちが宿を探してるって思ったの?」

「え、えと、さっきから見てたんです。何軒も宿屋に入ってすぐ出てくるのを・・・

 でも、あまり顔が嬉しそうじゃなかったから、お部屋が空いていなかったのかな、って・・・」

「まぁ、よく見てたわね。小さいのに偉いわ。それで、どうして声をかけたのかしら?」

褒められて一瞬嬉しそうな顔をしたものの、すぐに浮かない顔をして俯いてしまう。

「ウチも宿をやっているんです・・・でも最近この辺りに新しい宿がどんどん出来ちゃって。

 そこから離れてるウチの宿にお客さんが来なくなっちゃって・・・

 お父ちゃんは大丈夫って言ってるけど、私もお手伝いしたくて・・・それで・・・」

「お父さんのお手伝いをしたかったのね。ますますエライわね。でも、こんなとこまで一人で来て大丈夫なのかしら?」

「・・・お父ちゃんにも、危ないから一人で行くなって。でも、でも・・・」

「どうしてもお手伝いしたかったのね。・・・ねぇ、おじょうちゃんのお店は、ご飯も食べられるの?」

「うん!お父ちゃんの料理は美味しいんだよっ!」

ようやく笑顔になった少女を見て、文乃も顔がほころぶ。

「私たち、ちょうどお昼ご飯食べるところを探してたの。お父さんのお店まで案内してくれない?

 伊藤さん、いいわよね?」

「もちろん。自慢のお父ちゃんの料理、楽しみだ」

そう答えると、太一は優しく少女の頭を撫でる。

少女は、嬉しそうに目を細めると文乃の手を引っ張り歩き出した。

「こっち、こっちだよ!!」


少女に手を引かれるまま、来た道を戻っていく。

そのまま広場を通り過ぎた辺りで、1本の脇道へ入ってすぐのところで足を止めた。

「ここだよ!」

笑顔で指差す少女の先には、小ぶりだがしっかりした石造りで三階建ての建物があり、

軒下の看板には“黒猫のスプーン亭”という店名と、スプーンを咥えた黒猫が描かれていた。


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