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◆25話◆お土産

「はぁ、どんな服を着せられるのやら・・・」

「ふふふ。あんな楽しそうなベティーナは久しぶりだよ。ありがとね、タイチ」

「だから何もしてないんだけどなぁ」

「いいのいいの。あの子が嬉しかったんだからそれで良いんだよ。お礼はありがたく受け取ってあげておくれ」

不安の色を隠しきれない太一がそんな会話をしていると、奥から大量の服を抱えてベティーナが戻って来た。


「ひとまずこれくらいあれば最低限はOKかしらね?」

「いやいやいや、多過ぎ。何人で着るの、これ?」

「さっきも言ったでしょ。女の子にはオシャレをする義務があるのよ。これくらいは持ってないとダメよ」

「オシャレは別にいいけどさ、しばらくは物理的に無理なんだわ。

 仕事も、当面住む場所もこれから決めるんだから、物理的に身軽でいる必要がある。

 落ち着いたら本人連れてくるから、必要最低限以上はそれからにしてくれ」

「タイチ、あなた仕事してなかったの!?ちょっとエミリア、大丈夫?」

「まぁ、一昨日レンベックに来たばかりって話だからね、色々これからなのは仕方ないね。

 そういやまだ聞いてなかったけど、タイチはどんな仕事をするつもりなんだい?」

「これ、と決めたものがある訳じゃないかな。最終的には自分で商売をする予定だけど、何を売るかは色々調べてから決めるつもり。

 当面はやれることを色々やって、お金はもちろん経験と人脈を作ることになると思う。

 村にいた頃は狩りもやってたし、加護も調べたいから冒険者ギルドにも登録しないとな」

「なるほど。全く考え無しって訳じゃ無いんだね。

 冒険者ギルドへの登録もいい事だね。身分証にもなるし、自分の能力も分かるし」

「ただまぁ、この街で商売をするルールも何も知らないからなぁ。

 元々数日は、とにかく情報を集める予定だったんだよ。

 エミリアの店でも、腹ごしらえついでに軽く話を聞くだけのつもりだったのが、何故か気付いたらこうなってた」

「おや、それは悪いことをしたね・・・なんかほっとけなくてね」


眉尻を下げながら申し訳なさそうに言うエミリアに、太一は手を顔の前で軽く振りながら笑顔で答える。

「いや、むしろ逆に感謝してるよ。

 結果的に他で色々聞かなくても良くなったってのもあるけど、何より何の基盤も無い状況から、頼りになる知り合いが出来たんだ。

 こんなありがたい話は無い。さっき会ったばっかだけど、2人、ラルフさんも入れて3人か。3人は信頼できる人だと思ってる。

 この街に来て最初に出来た知り合いがエミリア達だったのは、何よりの幸運だったよ」

そう言い切る太一に、エミリアとベティーナは互いに顔を見合わせ苦笑して肩をすくめる。


「やれやれ、アンタは天然なのかね。嬉しいことを言ってくれるよ、まったく」

「ホントね。アタシは救ってもらった恩もあるけど、それが無かったとしても仲良くしたくなってたと思うわ」

「はっはっは。美人2人に言われると悪い気はしないな。

 っと、いいかげん戻らないと妹に怒られるから、そろそろお暇させてもらうよ。

 ベティ、そういう訳だから今日の所は妹の2セットと俺のを1セットだけもらってく。

 また近いうちに本人連れてくるから、楽しみにしててくれ」

「分かったわ、仕方が無いわね。その代わり、必ず妹ちゃんを連れてきなさいよ」

「ああ、数日で落ち着くと思うから、必ず連れてくる。

 エミリアもありがとう。帰りに寄ってくから、土産の串焼きを包んでくれ」

「了解よ。ラルフが火の番をしてくれてるはずだから、すぐ渡せると思うわ」

「助かる。それじゃあベティ、またな。服、ホントに助かった」

「また来なさい。それまでに良いのをまた見繕っておいてあげる。エミリアも気をつけて帰ってね」

「ええ。またね、ベティーナ」

店の前で別れの挨拶を交わすと、太一とエミリアは陽が傾き始めたまぼろし小路を引き返し、エミリアの店へと足を向けた。


エミリアの店まで戻ってくると、店番をしていたラルフが気付き、ニヤニヤしながら声を掛けてきた。

「おう、お帰り。タイチ、ベティーナとは仲良くなれたか?」

タイチの替わりに、呆れた顔でエミリアが答える。

「仲良くなったなんてもんじゃないよ。タダで服を渡しただけじゃなくて、例の件まで初対面のタイチに全部話しちまうんだから。

 少なくとも、わたしが見てきた中では初めてだね」

「ホントかよ・・・何となくタイチはベティーナに気に入られそうな気はしてたけどよ、そこまでかぁ。

 まぁ問題無かったんなら良かったじゃねぇか」

「おかげさまで。色々想定外の事もあったけど、結果オーライかな。ラルフさんも長い時間店番ありがとう」

「いいってことよ」


太一とラルフが軽い会話をする横で、エミリアが手際よく土産の串焼きを焼いていく。

「ほらタイチ、お土産包んどいたよ。ウサギとオーク2本ずつだ。今日はもう店も閉めるし小銀貨1枚でいいよ。

 別にタダでも良いけど、それだとアンタ受け取らなさそうだし」

「良く分かってるな、エミリア。はい、小銀貨」

「毎度。さ、冷めないうちに持って帰って妹ちゃんに食べさせておやり」

「ああ。また近いうちに顔出すよ。ラルフさんも、次は一杯飲ませてもらうから!」

「おう、いつでも来な!」

「じゃあ、また!」

「気を付けて帰りなよ!」

別れの挨拶を交わし、雑踏へと消えていく太一の背中をエミリアとラルフが眺めていた。

「なんか、面白れぇ兄ちゃんだったな」

「ホント面白い子だよ。この街で仕事したいって言ってたから、これからが楽しみさ」

しみじみと、だが楽しそうに語る二人の声が、オレンジに染まり始めた街角に吸い込まれていった。

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― 新着の感想 ―
ようやくというか、少しずつタイトルに近づいてきました。
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