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◆19話◆魔法の鍵

地下室へと戻った太一は、鍵と思われる物を見せつつ共有をしていた。

「あー、鐘の音はこっちまでは聞こえなかったんだ?思ったより防音性能高いのかね・・・」

「私が上にいた時も聞こえなかったから、地球時間の時報よりは間隔が長そうね。

 時間の尺度が違うのか、もしくは正午とかの決められたタイミングにだけ鳴るパターンか・・・

 あ、規則性がある訳じゃなくイレギュラーで鳴っただけの可能性もあるか」

「うん。そっちはしばらく確認しないと答えは出ないかな。

 で、こっちが鍵。玄関にあった南京錠も持って来たよ」

「あら、わざわざ持って来たの?」

意外そうな顔でそう答える文乃に、太一は不満顔だ。

「えーー、せっかくだし文乃さんも見たいかなぁ、と思ったんだけど・・・要らなかった?」

「あらそう。それは嬉しいわね。さっさと上で試してくると思ったから」

「ここでただ待ってるのも暇でしょ?せめてものイベントってことで。

 えっと、普通にここに鍵を差せばいいのかね?」


見えている鍵穴に鍵を差すと、すんなりと鍵が入っていく。

そして時計回りに鍵を回してみると、“カチリ”という小気味良い音とともに鍵が回った。

続けて埋め込まれた緑の宝石が淡く光ったかと思うと、南京錠に幾筋かの光が走り、ガチャリと南京錠が開いた。

「あっさり開いたわね・・・物理+魔法、って感じなのかしら??」

「そんな感じだねぇ。これ閉じるときはそのまま閉じちゃえば良いのかな?」

そう言いながら鍵穴からカギを抜き、今度は南京錠のツルの部分を穴へと押し込んでみると、

開いた時と同じように幾筋かの光が走り、かちゃりと小さな音を立ててロックされた。

「うん、閉じる時はこれで良いみたい。いやぁ、これで外から施錠できるから、いよいよ屋外探索だ。

 どうもこのあたり、あまり人気が無いから、すんなり外には出られそうかなぁ」

「そうね。まだ日が高いっぽいし、少し前に鳴った鐘の音が例えばお昼のものだったりするなら、この辺りは住宅街で皆働いている時間だから、人気が少ないのも頷けるわね。

 間取り的には少人数の家族向けって感じだから、子供とかが走ってたり、奥様方が立ち話してても良さそうではあるんだけど・・・」

「道もそこそこ広めで綺麗だったし、隣と繋がってるとは言え一戸建てだからね。割高な高級住宅街なのかも。

 まー、人目に付きたくない人間にとっちゃ、金があるならスラムとかに紛れるより楽だわな」

「なるほどね・・・そうなるとある程度治安も良いかもしれないわね」

「外カギが魔法の鍵ってのも、案外ここが特別なエリアだからかもしれんね」


「何にせよ、陽が高くて人が少ないうちに出来るだけ周りの情報を集めたいわね」

「ああ。ホントは二人で行きたいところだけど、女物の現地服が無いからなぁ・・・

 最優先で、女性が着てても不自然じゃない服を調達してくる」

「そうしてもらえると助かるけど、ひとりで女物の服とか買って大丈夫?」

「さぁ、大丈夫なんじゃないの?と言うか、服屋がどんな感じなのかも分からないし、出たとこ勝負になるのは仕方ないさ」

「それもそうだけど・・・あ、じゃあボロが出ないようにカバーストーリーを用意したらどう?」

「カバーストーリー?ああ、設定の事か。確かにあった方が便利か」

「私たちはこの町の事はおろかこの世界の事もほとんど詳しく無いから、知らなくても不思議じゃない設定が必要ね」

「ありがちなパターンだと、いわゆる田舎から出てきた兄妹ってパターンかね」

「そうね。一旗揚げる、もしくは働き口を探すために出て来てるってのはあり得そうよね。

 物語を読んだ感じだと、いわゆる冒険者的な人たちもいたみたいだけど、今でもいるのかしらね?」

「魔法のアイテムがあったり、何か鱗やら爪やらが材料としてあったから、いる可能性は高いね。

 ただ、俺たちが冒険者になるっていうのが自然かどうか分からないからねぇ。身体能力的には行けそうではあるけど」

「そうね。その辺は情報を集めてからまた組み立てましょうか」

そうこうしながら、ひとまず練り上げたカバーストーリーは以下のようなものだ。


・東のほうにある田舎の村から、3週間くらいかけて出てきた

・農家の次男と長女だが、長男が家を継ぐためそれを手伝うのではなく街で一旗揚げることを決意

・村長の息子と仲が良かったため、算術などの教育を一緒に受けている

・村では狩猟もしていたため、体力にもそこそこ自信がある

・働き口を見つけて街に慣れ、慣れたら何かしらの商売をしようと考えている

・数日は宿を取り、街を色々見て回る予定


「我ながら安直ではあるけど、まぁチープであるが故ありそうな話か」

「この世界で、村から出てくるって事のハードルが良く分からないのだけがネックね。

 それさえおかしく無ければ、まぁ矛盾は無いわね」

「あ、そうだ。一番肝心な事忘れてたわ。名前、どうする??」

「そうね・・・物語に出てきた人たちの名前は国によって語感はバラバラだったから、そのままの名前でひとまず行きましょうか。苗字は一般的かどうか分からないから、無しで」

「オッケー。タイチにアヤノなら、まぁ無くは無いでしょ。村の名前はどうする?」

「物語にも出てきた英雄はドイツ語圏の名前だったわよね。作った街も」

「うん。レンベックの街、だっけ?」

「そうそう。だったらドイツ語っぽい語感だったら違和感が無いと思うのよ。

 パッと思い浮かんだドイツの村だと、有名なワインからツェルもしくはツェラー、でどう?」

「ツェラー・・・?あー、あの黒猫ワインの村か」

「そうそう。有名なドイツの村で真っ先に思い浮かんだのが、ツェラー・シュバルツカッツだったから。村の名前だとツェル村って感じね」

「シンプルで良いんじゃない?俺も猫は好きだし。よし、今から俺はツェル村のタイチってことで」

「うん、それっぽいわね。街を見てると情報が一気に増えるだろうから、リアルタイムで設定は肉付けしていってね。

 例えばブドウが売ってたりワインが売ってたりするなら、ツェル村ではブドウを作ってた、とかね」

「了解。知ってる所に似せたほうが、話はしやすいか。山梨の村あたりのイメージで肉付けするわ」

「お願いね。忘れないように、お金も持って行ってね」

「掏られたりはしないと思うけど、念のため少な目かつ分散させてくわ。トラブルに巻き込まれて目立つのも嫌だしね・・・」

「そうね。足りなければ戻って来ても良いし。スマホの扱いだけは気を付けてね。間違いなくこの世界には無い物だろうから」


大まかな注意点をすり合わせると、ワードローブにあった服へ太一が着替え、文乃によるファッションチェックを受ける。

「サイズ的には大丈夫そうね。と言うか、そもそもサイジングされた既製服なんて概念は無いのかもしれないわ。

 フリーサイズ、と言えば聞こえは良いけど、大きめに作ってあるから後はよろしくって感じね」

「生活に余裕が無いと、中々ファッションは発展しないんだろうね。

 おかげで多少バランス悪くても目立つことも無いから、かえってラッキーだったよ」

チュニックにズボン、タスキのようなベストを着込んだ上からローブを羽織る。

念のため、髪の色が分からないように頭には布を巻いていくことにした。

ローブのフードを被れば話は早いのだが、“隠したいものがある人”に見られ、逆効果になる可能性を考慮し、他の人の様子を見て判断する事とした。

「さて、じゃあ様子を見てくるよ。どんな人がいるか、どんな街なのか、どんな暮らしをしているのかを中心に確認しながら、服は何とか調達したいと思う。暗くなる前には戻るようにするよ。

 まだしばらく地下室へは入れるようにしておきたいから、申し訳ないけど鍵は外から掛けてくわ」

「それは仕方が無いわね。こっちにあった本とかもあるし、それを調べて暇つぶししてるわ」

「じゃあ、行ってくる」

「ええ、いってらっしゃい」

こうして太一は、この世界に来て初めての屋外へと足を踏み出していった。


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