◆167話◆第一回戦略会議2
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異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす
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皇国への物資販売に続いて議題に上がったのは、王国の物資調達と皇国内の情報収集についてだった。
まず王国における物資の調達についてだが、太一の案を拡張する形で実施することになった。
冬季が厳しくなるのは王都含めた中央から西部にかけてと予測されるため、それ以外の地域から食料等を買い付ける、と言うものだ。
これならば、先の話とも整合性が取れているので都合が良い。
皇国内の情報収集については、引き続き商人からの情報を仕入れることと、何名か冒険者を送り込むことになった。
下手に動くと内外に勘付かれるため、無難な動きに留めた形だ。
そして議題は、皇国の冒険者の動きについてへと移っていく。
「ツェーリよ、昨日の今日ではあるが、皇国の冒険者ギルドについて何か分かったことはあるか?」
「直近の情報は流石に無理じゃが、一ヶ月くらい前までの状況を取り急ぎまとめたから、共有しようかの」
ルディガーの問いにツェツェーリエが共有を始める。
冒険者ギルドは、国を跨いだ巨大な組織で、その本部がレンベックにある。
元々レンベックの初代国王が立ち上げた組織だ。
その理念は国の枠や決まりに捉われない冒険者の自由の確立と相互扶助、そして規律の順守だ。
冒険者はその性質上、戦闘能力の高い者が多い。また、お世辞にも品行方正とは言えない者が多く居るのが実情だ。
ともすれば単なる“ならず者”の集団となってしまう冒険者を管理、援助し、時には監視、処罰することでどうにか世間に認めさせているのが冒険者ギルドだ。
しかし、世界中にその支部が設立された今となっては、中々全ての支部が同じレベルで理念を共有し運営できているとは言い難い。
年に一度、全支部長を集めた大会議が行われているが、それ以外は魔物の大量発生などが起きない限り報告の義務は無い。
グランドマスターであるツェツェーリエであっても、全てを把握している訳では無いのだ。
が、初代国王が優秀だったのは、それすら見越して秘密裏に仕組みを導入していた点だ。
冒険者ギルドの依頼は、全て所定のフォーマットで記載され、依頼番号が割り振られる。
ギルド側の台帳にも掲示板に張り出される用紙にも同じ内容が記載され、依頼の受託や完了/失敗はギルドカードと連携して記録される。
ようは依頼と冒険者のデータベースが完備されているようなものだ。
どのギルドで、いつ、どんな依頼が受理され、誰が、いつそれを受けて、結果どうなったか、が全て保存されるのだ。
ギルドポイントや依頼の状況はギルドカードに記録するため、ギルドカードを使わないという選択肢も無い。
そしてその情報は、本部にある魔法具で確認する事が可能なのだ。
とは言え、さすがにリアルタイムで本部の魔法具には連携できないようで、バッチ処理のような感じで定期的に連携されている。
これはツェツェーリエをはじめとした数名しか知らない冒険者ギルドの超極秘機密で、支部長レベルには当然知らされていない。
この場にいる者で、この機密を知っているのはツェツェーリエとヨナーシェス、そして国王ルディガーのみなので、当然情報の入手経路は伏せた上で説明が行われた。
「なるほど・・・
こちら方面の街道警備、護衛依頼が常に出ているのと、国境付近の魔物討伐依頼も常設レベルですね。
ああ、この森やら山岳地帯の調査も、我が国側ですな」
依頼内容のまとめを確認したディディエがそう分析する。
「そうだな。極めつけはダレッカをはじめとした主要都市への定期的な護衛依頼だな。
王都へは直下の部隊が潜り込んでるのだろうが、他の街までは手が回らなかったのだろう。
タイチが睨んだ通り、ロクでもない依頼のオンパレードだ」
ディディエの言葉を引き継いで吐き捨てるように言ったのは、第一王子のセシリオだ。
第一騎士団は国の有事に対して先陣を切る役目だけに、その隊長であるセシリオには看過できないだろう。
「さて、問題はこれを受けてどうするか、だ。
依頼を受けた者を罰する訳には行かんのだろ?」
「それは無理な話じゃな。
冒険者は、ランク以外で依頼を受けることを制限されないからの。
それを曲げてしまうと、それはもう冒険者では無い。
仮に戦争が起きた場合、どちらの国の傭兵となるかも冒険者の自由じゃからの」
ルディガーの問いにツェツェーリエが答える。
「発言よろしいでしょうか?」
「タイチか。かまわん、話せ」
そこへ太一が発言の許可を希望し、王から即許可がおりる。
「ありがとうございます。
この状況を、逆手に取ってみてはいかがでしょうか?」
「ほぅ、逆手に、か・・・どうすると言うのだ?」
「ツェツェーリエさん、冒険者ギルドへの依頼ですが、どの国のギルドにも出すことが出来るんですよね?」
「ああ、もちろんじゃ。
依頼を出したいギルドへ直接行く必要はあるが、行って必要な依頼料さえ払えれば、基本誰でも依頼は出せる」
「ありがとうございます。
であれば、このような策はいかがでしょうか・・・・・・」
そして太一は、自分の考える対応策を皆へ語る。
「くっくっく、面白いでは無いか。儂は良いと思うぞ」
「全く、お前はよくもまぁこんな嫌らしい手を思いつくもんじゃのぅ。
味方で良かったわい」
太一の策を聞いてルディガーはニヤリと笑い、ツェツェーリエは苦笑する。
「それでは、皇国の冒険者ギルドに向けた対策はこちらでよろしいですね?」
最終確認を取るユリウスに、全員が首肯した。
「では、次の議題に移ります・・・」
その後も、強化種対策用の魔法具の前線への輸送や、野営地の設営準備、戦端が開かれた場合に予想される戦場の位置などが協議され、一回目の対策会議は終了した。
会議が終了し、退場時間を分散させるため再び控室に戻って来た太一の元へ、別室へ来るようにとの使いの者がやって来た。
案内されて向かった先で待っていると、程なくしてユリウス、レイバックが、少し間を置きヨルゲンが入ってくる。
そして最後に、国王ルディガーが入室した。
「会議が終わった後にすまんな。こっちの話はさらに人を絞る必要がある故、許せ」
開口一番そう言うルディガーに、太一が返答を返す。
「いえ、全く問題ございません。
して、この人選と先ほどの会議の内容を鑑みるに、内通者のお話でしょうか・・・?」
先の会議では複数の議題が語られたのだが、どういう訳か内通者の話はかなり重要な懸案のはずなのに議題に上がらなかったのだ。
「くっくっく、やはり気付きおったか。流石よの」
太一の問いにニヤリと口角を上げるルディガー。しかしその目は笑っていない。
「タイチ殿の言う通りです。
兼ねてより内偵を進めていた皇国の内通者が判明しました。
内容が内容故に、ごく少数の方のみでお話しさせていただきます」
ルディガーの話を受け、ユリウスが続きを語り始めた。




