◆166話◆第一回戦略会議1
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異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす
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王城に集められた戦略チームのメンバーは、表向きそれぞれが別の用件で王城を訪ねていることになっている。
待合も当然別々で、時間差で王族専用の会議室へと通されていた。
広さはあるが、装飾は極シンプルな物しかない会議室には、10名ほどのメンバーが集まっていた。
宰相のユリウス、冒険者ギルドからはツェツェーリエとヨナーシェス、近衛騎士団長のレイバック、ロマーノの代理を務めるピアジオは見知った顔だが、残る半分ほどは初めましてだ。
間違いなく偉い人しかいない場に太一が緊張していると、国王の入場を告げる声が聞こえ全員が起立する。
「皆ご苦労。座ってくれ」
1人の男を引き連れて入って来た国王ルディガーは、上座へ腰かけると皆へも着席を進める。
全員が座ったのを見届けると再度ルディガーが口を開く。
「初めて顔を合わせる者もいるな。最初に簡単に自己紹介と行くか。
まずはセシリオ、其方からだ」
自己紹介があって良かったと太一が内心喜んでいると、国王が引き連れて来た男が早速自己紹介を始める。
「は。
セシリオ・レンベルバッハ。この国の第一王子だ。第一騎士団の団長を務めている。皆よろしく頼む」
自己紹介は爵位の順に行われていく。
タイチが初めて顔を合わせたのは、以下のメンバーだった。
ボルサール・トルチネフ公爵家当主。レンベックの大将軍で軍務のトップである人物だ。
ヨルゲン・ドレッセル侯爵家当主。西方地方の統括をしており、西方派閥のトップだ。ロマーノの直の上司に当たる。
ディディエ・アルムガルト伯爵家当主。外務大臣を務める法衣貴族である。
ウルザ・ヒューリー宮廷爵。女性でありながら商業ギルド長を務める才媛で、太一と同じく平民出ながら宮廷爵を叙爵されている。
そしてそのウルザの次、太一の自己紹介が一番最後に行われた。
「タイチ・イトーです。先日宮廷爵を頂戴し、王国貴族の末席に加えていただきました。
魔法工法研究所最高顧問を務めさせていただいております。お見知りおきの程、よろしくお願いいたします」
「くっくっく、タイチよ、柄にもなく緊張しておるでは無いか?」
太一が自己紹介を終えると、ルディガーから突っ込みが入る。
「は。申し訳ございません陛下。
陛下を筆頭にお歴々の皆様の前とあって、平民出の私は緊張し切りでございます」
突然の突っ込みにどうにか太一が返答を返すと、ルディガーは満足そうに頷き再び口を開く。
「皆も名前は知っておろう。タイチは先の災害よりダレッカを救った傑物だ。
授与式での活躍についても記憶に新しかろう。
まぁ最近では看板馬車の元締め、と言った方が分かりやすいか?」
ニヤリと笑ったルディガーが、タイチを見やる。
「は、過分なご評価、誠に恐縮でございます」
他の人間が何か言う前に、王自らが太一を名指しでからかう事で、浅からぬ仲である事をアピールする王なりの手助けに、太一は内心で深く感謝する。
「そんなタイチより、昨日ユリウスへ報告があった。
急ぎこちらでも可能な限りの裏取りを行った結果、事実であると認められた。
国家の一大事と判断したが、いたずらに広める訳にはいかぬ内容故、急遽対策組織を作らせてもらった」
ルディガーはそこで一旦言葉を区切り、一同を順に見渡す。
「ではユリウス、詳細を頼む」
「は。それではこれまでの経緯及び今後必要と思われる対策について、説明いたします」
自己紹介も終わり、いよいよ対策会議が始まった。
「ワシは、タイチの言う通りこの一連の動きは戦争の準備と見て良いと思う。
ウルザ、商業ギルドの長としてどう見る?」
ユリウスから一通りの説明が終わると、ルディガーがまずウルザへと水を向ける。
濃い緑色で艶のある髪と、ほとんど皺の無い白い肌は、50を過ぎているようには到底見えず、現代日本であれば“美魔女”と呼ばれているに違いない。
「陛下の仰る通り、戦争の準備をしていると見るのが妥当かと思います。
私もこれまで何度か戦争とその前後での商売を経験しておりますが、確かに食料の買い入れや武具調達のための金属高騰など、今回と同じような事態が起きています。
残念ながら、私は今言われるまで気付けませんでしたが・・・。イトー宮廷爵の慧眼には感服しました」
商業のプロであるウルザの目から見ても、太一の見立ては納得いくもののようだ。
「ふむ。ボルサールはどうだ?」
ルディガーは、さらに軍務のトップであるボルサールにも促す。
ロマーノに勝るとも劣らない体躯は、ボルサールが司令官であると同時に、一流の戦士であることを物語っている。
「そうですな。儂は商売人では無いので動きそのものについて無責任なことは言えませんが、どれも戦争には不可欠な物なのは間違いありません。
近いうちに仕掛けてきたとしても驚かんだろうな」
顔の半分を覆う髭を動かしながら、ボルサールが答えた。
「他の者はどうだ?
異論がなければ、皇国が戦争準備をしているという前提で話を進める」
ボルサールの回答を聞いたルディガーがそう言って全員を見やる。
「よし、反対意見は無いようだな。
では早速、対策について話し合うとしよう」
「まずは皇国の物資買い付けについての対策についてです。
こちらについて意見のある方はいらっしゃいますか?」
ユリウスが水を向けると、早速1人手を上げた。外務大臣を務めるディディエだ。
「基本的には放置がよろしいかと存じます。
おそらく向こうは、物資の買い付けから戦争準備を我が国に悟られてるとは気付いておりません。
下手に止めたりして勘付かれるよりは、このまま気付いていないと思わせておいた方が都合が良いのではないでしょうか?」
「私も同意見です。
あまり順調に買われすぎても皇国の準備が進んでしまうので、一度の取引量に上限を付けるのが良いかと存じます」
ディディエの意見を受けてウルザからも意見が出た。
「ふむ。2人は基本放置で良い、ということか。タイチはどう思う?」
ルディガーは太一にも話を振る。
「は。私もお二人と同意見です。加えて、何をどの程度注文しているのかを記録して提出を求めてはいかがでしょうか?
それによって、どの程度の期間を想定しているのかや挙兵の規模などが想像できるかもしれません」
「なるほど。流石はイトー宮廷爵、確かにそれで分かることは色々ありそうですな」
太一の意見をディディエが褒める。
事前に戦争の動きをキャッチ出来たことは、外務大臣を務める彼にとっては非常にありがたかった。
そのためか、ディディエは太一に対して非常に好意的だ。
「良かろう。取引量の制限についてはどうする?本当の事を話す訳にも行かぬぞ?」
「恐れながら、そちらについては、我が領での災害を理由としてはいかがでしょうか?」
ルディガーの質問に答えたのは、領地にいるロマーノの当主代行として出席しているピアジオだった。
先の襲撃事件の折に国王を守ったことが評価され、王の覚えが良くなったばかりか小隊長へと出世を果たしていた。
「ああ、なるほどの。街は大丈夫だったが農地に影響が出たとでも言っておけば、輸出を制限する理由としては十分だの。
陛下、ピアジオの案、悪くないと思いますぞ」
ピアジオの案を肯定したのは、西方派閥の主であるヨルゲンだった。
そこへさらに太一が被せていく。
「加えて、その時の災害を予測した魔法具の話を使いましょう。
魔法具の予測で、今年の冬は厳しくなることが予測されるため、食料や燃料となる薪や木材の販売に制限を掛ける、と。
幸か不幸か、先の災害を予測した実績がありますので、信じてもらえる可能性が高いかと」
「分かりました。それでは数量制限は設けるものの販売は継続、代わりに注文内容の報告を義務付ける、とします。
陛下、問題ございませんか?」
「ああ、それで問題無い」
「かしこまりました。では、次の議題に移ります。
続いては、我が国の物資調達についてです」
こうして次の議題へと会議は進んでいった。




