◆164話◆皇国の動き
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現状王国では、別段皇国との取引を禁止している訳では無い。
とは言え敵国でもあるので、取引をしている商会の数は少ない。
また、その数少ない商会も表立って取引をして目立つことを嫌い、どこの商会か分からないようにカモフラージュしてやり取りしているため、実態は杳として知れない。
そんな中、銀の麦穂商会が皇国と取引があるのを知ったのは偶然だった。
ダレッカの騎士の一人が、看板馬車の看板を外した馬車が皇国方面へ向かうのを、たまたま見かけたのだ。
その騎士が太一のことを良く知っており、看板馬車が太一の事業であることも知っていたため、念のためということでロマーノに報告が上がり、そこから太一の方へ話が下りてきたのがつい先日。
それを聞いて太一は、最新の皇国事情を探ろうと、早速銀の麦穂商会へと足を運んだのだった。
「最初に断っておきますが、取引について咎めるつもりは全くありませんので、ご安心ください。
あくまでロマーノ様の寄子として、隣国の情報が知りたいというだけです。
ですので、出来れば隠さずにお話しいただきたいのです。
最近何かときな臭い噂が立ってる皇国ですし、せっかく災害から守った所に何かあったのではたまったものではありませんので・・・」
太一は、そう言ってじっとララを見つめた。
「・・・・・・。
かめへんよ。うちかて国を欺いてまで金儲けしようとは思うてへんよ」
「ありがとうございます。
ではまず、最近皇国で値上がりしたり仕入れを増やした商品を教えてください」
「ん?なんや普通の商売人みたいなこと聞きよるな。まぁええけど・・・
ネビュラ、ここ最近の報告書あったやろ?ちょお持って来てくれへんか?」
「かしこまりました」
ララに頼まれたネビュラが書類を取りに行きすぐ戻ってくる。
「そうそう、それやそれ。おおきに」
ネビュラから受け取った書類を捲りながら、中に素早く目を通す。
「ここ三月くらいの動きでええか?」
「はい、問題ありません」
「ふむ・・・
まずは麦やな。麦畑が多いとこやから、普段はほとんど買うてへんのやけど、先月から注文が増えてるなぁ。
金属類も増えとるな。こっちはもっと前からやな。大体4か月前くらいか?
後は・・・ああ、今月に入って馬も人気やな。ウチはあまり仕入れてへんから、商機を逃してもうたけども・・・。
ってどないしたん?そないな険しい顔して?」
ララの説明を聞くに連れ、太一の表情がどんどんと険しさを増していった。
「ああ、すみません。
それだけ値上がりしているものがあるのを知らずに、私も随分商機を逃していたのだなぁ、と思うと悔しくて」
「タイっちゃんは看板馬車でよーさん儲けてるやないの・・・
ウチのシマに食い込むんは堪忍して欲しいわ」
「おっと、これは失礼。銀の麦穂商会さんの商売を邪魔するつもりはありませんので、ご安心ください。
ああ、向こうの冒険者の動きはどうですか?依頼が増えていたり、羽振りが良くなったりしていませんかね?」
「冒険者か・・・
ああ、そうや!護衛が雇えず依頼料がめちゃ高こうなってる言うて、向こうのおっさんが嘆いとったな。
ウチとこは護衛も自前やから関係あれへんけど、向こうの国内を移動する時の護衛を募集しても、中々集まらんいう話や。
冒険者自体は普通に街に居ったから、他の依頼でも受けてんちゃうかなぁ?」
「なるほど、冒険者が雇い難くなっているのは、移動する商人にとっては手痛いでしょうね・・・」
神妙な表情で太一が相槌を打つ。
「あとは・・・ああ、これは今月入ってからやけど、国境付近の魔物の数が多なっとる気がするわ。
なぁ、ネビュラ?」
「そうですね。明確な数字は出ていませんが、商隊から襲われる回数が増えているという報告も上がっています」
話を振られたネビュラも、ララの感触を肯定する。
「そうですか、魔物の数が・・・。
それは看板馬車としても困りますねぇ・・・」
「この先も続くようやと、ウチとこも困るわ・・・
っと、ここ最近の変化いうと、こんなとこやな」
「ああ、私からも一つ。
これは最近の話では無いので関係ないかもしれませんが・・・。
今年に入った辺りから、魔石の依頼が増えていますね。
王国では冒険者ギルドを通さないと魔石の売買は出来ないので、ウチの商会からは卸していません。
皇国はそんな決まりが無いのか、多くの商会から手に入らないか相談を受けています」
「・・・・・・、魔石まで・・・
いやはや、ありがとうございます。助かりました」
「さよか?こんな話で役に立ったんやったらええんやけど・・・」
「はい、とても参考になりました。
では、看板馬車を増やす件、よろしくお願いしますね」
「ああ、細かい調整はネビュラとしてもろてええか?」
「はい。すでに枠は決まっているようなものなので、明日にでもお持ちします」
「よろしくお願いいたします」
「では、私はこれで・・・。
急に押しかけてすみませんでした。おかげで良い取引が出来ました」
「こちらこそや。末永く贔屓にしたってや」
「もちろんです。それでは失礼いたします」
商談を終え、ララと握手をした太一が応接室の扉を開ける。
と、ドアから半分ほど出た所で足を止めてくるりと振り返った。
「ああ、一つアドバイスを・・・
来月からしばらく、皇国に近づくのは止めた方が良いと思いますよ。
これまでの状況と今伺った話も踏まえると、大変な騒ぎに巻き込まれる可能性が高いです。
現状では詳しく言えないので申し訳ありませんが・・・
今、皇国に居る人だけでも、早めにダレッカへ引き揚げさせるのをお勧めします。
では、失礼」
そう言い残して、太一は銀の麦穂商会を後にした。
自身の商館に戻った太一は、応接室に文乃とフィオレンティーナを呼び、今し方聞いてきた皇国の話をする。
「・・・。分かりやすいことになってるわね。
ここ数ヶ月以内、ってとこかしら?」
文乃が溜め息を吐きながらそう零す。
「あ、やっぱり文乃さんもそう思う?どう考えても黒だよねぇ、これは・・・」
「ええ、真っ黒ね」
太一もヤレヤレと言った表情だ。
「え?どういうことですか?何が黒いんでしょうか??」
ただ一人理解が追い付いていないフィオレンティーナが、2人を見て首を傾げる。
「戦略物資って概念が無いのかしら?」
「うーーん、どうだろうね・・・
目聡い商人だったら、経験というかセオリーとして知ってそうだと思ったんだけど、銀の麦穂商会を見るとそうでもないんだよね」
「銀の麦穂って結構大きい商会でしょ?そこが気付かないってことは、そういう考え方が無いのかもね」
「やっぱりそうかぁ・・・
フィオ、さっき言った皇国で需要が増えたり値上がりしてる商品は、戦略物資と呼ばれるものの最たるものなんだ」
「せんりゃくぶっし、ですか?」
「そう。端的に言えば、“戦争するのに必要になるもの”かな」
「なるほど、戦争するのに・・・ってええええっっっ!!!?????」
「まぁ驚くわなぁ、そりゃあ。
でもほぼ間違いなく、近々皇国は戦争を起こすよ」
厳しい表情で、そう太一は断言した。




