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◆163話◆銀の麦穂商会

馬車内ミニ看板を売り出して6日。用意した枠は完売し、問い合わせも落ち着きを見せ始めていた。

多少余裕が出来た太一は、ここ数日馬車を提供してくれている商会に顔を出している。

今日も、馬車を10台ほど提供してくれている、主に西方に販路を持つ商会へ来ていた。

商業区にある大きな商会で、“銀の麦穂商会”という看板が掲げられていた。


「お?タイっちゃんやないの。久しぶりやねぇ」

太一が商会の扉をあけて中へ入ると、従業員に指示を出していた女性が気付いて声を掛けて来た。

「ララさんこんにちは。ようやく店が落ち着いてきたんで、顔出しに来ましたよ」

「なんや忙しそうやったもんなぁ。繁盛してて羨ましいわぁ」

「あはは、おかげさまで」

銀の麦穂商会の4代目会長であるララは、京言葉のような独特の訛りで話す猫の獣人だ。

冒険者ギルドのニナもそうだが、猫の獣人の訛りは、太一や文乃の耳には関西弁に自動翻訳されるらしい。


「で、今日はどうしはったん?今んとこウチの馬車に載せとる看板は順調や思うけど?」

「ええ、今の看板馬車については何も問題ありません。

 ダレッカまでの非常に安定した定期便なので、看板を出す側も喜んでくれてます。

 ただ、逆に人気過ぎてキャンセル待ちが増えて来てまして・・・

 ちょっと増便のご相談を兼ねて、世間話でもさせてもらいに来ました。

 アポ無しなんで、忙しければまた後日でも大丈夫ですよ」

「へぇ、そないなことになっててんなぁ。

 ええよ、今日は特に急ぎの用事もあらへんし、お茶に付き合うてや」

「すいません、ありがとうございます」

「かめへんかめへん。

 マリちゃ~ん、タイっちゃんを応接室に案内したってや~。

 うちもすぐ行くよって、お茶の準備も頼むわぁ~」

「かしこまりました。

 タイチ様、こちらになります」

マリと呼ばれた女性に案内されて、太一は奥の応接室へと通される。

「ただいまお茶をお持ちしますので、しばらくお待ちください」

そう言って一度マリが退室すると、程なくして扉がノックされた。

「はい、どうぞ」

「すまんなぁ、待たせてしもて」

太一が返事をすると、ララが一人の男性を伴って入って来た。

「タイっちゃんは初めましてやな。

 紹介するわ、うちの右腕のネビュラや」

「初めましてイトー宮廷爵様。

 銀の麦穂商会で輸送と倉庫番を担当しているネビュラと申します」

「これはご丁寧に。ケットシーの鞄会長のタイチ・イトーです。

 どうかタイチとお呼びください」

ララが紹介したのは、銀の麦穂商会の流通責任者でありララの腹心であるネビュラという男だった。

年齢は30代前半くらいだろうか。良く焼けた肌に短くした金髪と、丁寧に長さを揃えた髭が良く似合っている。

「馬車の管理に関しては、ほとんどネビュラに任せっきりやからなぁ。

 せっかくの機会やし同席させてもらお思ってなぁ。かめへんやろか?」

「ええ、もちろん問題ありませんよ。ネビュラさん、よろしくお願いしますね」

「恐れ入ります、タイチ様」

「ほな早速話を聞こか。

 なんや増便したいっちゅう話やったか?」

「そうなんです・・・」


「現在、銀の穂商会には10台の馬車に看板を出してもらっています。

 それも全て、王都からダレッカへと向かう定期便です。

 経由する街にもよりますが、12日でほぼ確実に王都からダレッカ、ダレッカから王都へと往復で運行しています。

 この、ほぼ確実に12日で運行している、という点が非常に重要なんです」

「ほう?なんでそれが重要なんや?特に早い訳でもあらへんやろ?」

「安定性と、時間、いやタイミングが読めるから、ですか?」

今いちピンと来ていないララに対して、ネビュラの方は心当たりがあるようだ。

「ネビュラさんのおっしゃる通りです。

 まず、長距離の運行であるにも拘わらず、ほぼ確実に到着しています。

 長距離の場合、途中で引き返したり足止めされたり、最悪襲われて馬車ごと無くなることもあるんですが、それが無い。

 そもそも長距離の看板馬車は、その辺りのリスクも説明した上で近距離より割引した金額で枠を売っているんです。

 しかし、銀の麦穂商会さんの馬車は、近距離と変わらない到達率なので、結果かなり割安になっています。

 そして2点目。

 ただ到着するだけでなく、到着に掛かる時間もほぼ12日で一定、たまに数日ズレる程度です。

 看板馬車の契約は6日単位なので、この12日間隔でほぼ確実に運行されているというのは、看板を出す側としては計画が立てやすいんです。

 遅れることが良くあるので、長距離馬車の場合は最初にその分を見越して多めにお金をいただいて、遅れたら返金するんですが、銀の麦穂商会さんはこれまで返金ゼロですからね。

 そんな事もあって、一度銀の麦穂さんに看板を出した広告主は、ほぼ確実に次も銀の麦穂さんを指名してきます。

 しかも、ほとんどの広告主が継続の契約をします。

 おかげで、枠がほとんど空かずに、キャンセル待ちの数だけが増えているんですよ・・・」

「なるほど・・・それはありがたい話ですね。

 しかし、我々が周りの状態に合わせる訳にも行きませんし・・・」

「はい。そんなことをしても本末転倒ですからね。

 なので、今の10台からもう少し台数を増やしていただけないか、と思いまして・・・

 代わりに、長距離馬車については安定性と正確性を元にランク分けをして、値段に差をつけるつもりです。

 あ、もちろん銀の麦穂商会さんは最高ランクですよ。

 そして値上げ分の利益は、全てお支払いします」

「ん?せっかく値上げする言うとんのに、まんま支払ったら意味無うなりますやん・・・?」

「我々が何か努力した結果じゃないですからね。

 私の商売は人様の馬車で成り立っているので、還元するのは当然の話ですよ。

 ああ、決して善意だけでは無いですよ?

 そうしておけば、引き続き我々と契約していただける、という打算含みですので・・・」

「いやいやいや、普通それ言うたらあかんヤツやで・・・?

 まぁウチに不利益があるどころか、儲かる話やから、問題はあらへんけども・・・

 ネビュラ、あと何台やったら看板馬車にしてもええか分かるか?」

「そうですね・・・全て看板馬車にしてしまうと、路線変更や追加が出来なくなりますから・・・

 5台くらいが限界でしょう。無理すれば10台くらいまで行けるとは思いますが」

「余裕無くなるんは嫌やなぁ・・・

 タイっちゃん、5台の追加でよろしいか?」

「もちろん問題ありません。今の1.5倍ですからね、非常に助かります」

「ほなキリもええし、10の月から15台にさしてもらうわ」

「ありがとうございます。

 そう言っていただけると思って、契約書も持って来ています・・・」

太一は懐から封筒を取り出すと、スッとララへと滑らせた。


「準備のええお人やなぁ、ホンマ。

 うわ、掲載料3割以上あげるんやな。。。えげつないわぁ・・・。

 内容的にも問題あらへんな。ネビュラ、念のためもう一度確認頼むわ」

「拝見します・・・・・・・・・。

 はい、特に問題ございません」

「さよか。ほなここに・・・ほいっ、サインしたで」

「ありがとうございます」

「礼はええわ。ウチは何も損せぇへんのやしな。

 で、や。ホントに聞きたいんは何や?こっちの話はついでやろ?」

「・・・・・・。どういうことでしょうか?」

「とぼけんでもええわ。

 台数追加するだけの話やったら、わざわざタイっちゃんが来るまでもあれへん。

 しかも事前の約束もあれへんからな。なんぞ世間話を装わんと聞けへんことがあるんやないか思うてな」

ララがじっと太一の目を正面から見据えて問いかける。

「ふぅ、参りました。流石ですね・・・こうもあっさりバレるとは」

太一は小さく万歳して苦笑する。


「お聞きしたいのは、レンベックのお隣についてです」

太一の言葉に、ララとネビュラがピクリと反応する。

「なんやて?」

「たしか、銀の麦穂商会さんは、この国でも数少ない皇国と取引をしている商会でしたよね?

 ここのしばらく、何か変わったことは無かったか、と思いまして・・・」

今度は太一が、真っすぐにララの目を見て問い掛ける。

「タイっちゃん、その話どこで聞いたんや?」

ララも目を逸らさずに太一へ聞き返す。

「お忘れですか?私がダレッキオ辺境伯家の庇護下にいることを?」

「・・・・・・せやったな。タイっちゃんはダレッカを救った英雄やったわ。

 で、何が聞きたいんや?」

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何処かに箒を逆さにして立ててないか? 「そんないけず聞いてきはるんやなぁ…ちょっと誰か!…なぁタイっちゃん、私小腹が空いたから一緒にぶぶ漬け食べへんか?」
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