◆157話◆対強化種魔法具の試作品
「今回の魔法具だが、考え方自体は非常に単純だ。
周りにある闇の魔力をとにかく減らせば良いだけだからね」
このコンセプトについては、開発前に聞いていたものだった。
それをどう実現するかが、知恵の出しどころ、腕の見せ所である。
「もっとも単純なやり方は、ひたすら闇属性の魔法を発動させ続ける事だ。
しかし、闇の魔法は些か効果が刺激的なものが多くてね・・・
粘着弾の時のダークスフィアなんかが、一番大人しい魔法なんだが、それで発動させ続けるとまわりが真っ暗になる。
これでは味方の視界も遮ってしまうからいただけない。
探せば実害の無い魔法もあるかもしれないが、時間がかかってしまうからね・・・」
一般的に魔法は、消費魔力が大きい程、規模か威力が上がっていく。
今回のように、継続して空間の魔力を消費し続けると、否応なく規模や威力が上がってしまうのだ。
「さて、どうしたものかと考えていたところ、ノア殿の出してくれた絶妙な発想が、解決の糸口になったのだ」
「へぇ、どんな発想だったんですか?」
尋ねる太一。ワイアットがノアに向かって軽く頷くと、ノアが解説を始めた。
「魔力を使うのではなく、変換したらどうか、と言うのが私の案でした。
魔法具は魔石を使って動かすのが当たり前なんですが、その魔法に対応する魔石が必要になります。
何種類もの魔石を用意しなければならないですし、種類によっては高価なものもあって、なかなか大変なんです・・・。
それを解決できないかと、以前魔力を別の魔力に変換する事が出来ないか試したことがありました。
変換自体は出来ることが分かったんですが、魔法具として使うには致命的な弱点があったんです」
「致命的な弱点?」
「はい。
魔力の属性を変換する際に、その魔力自体を消費しないと変換されないんです」
「魔力を消費して変換する・・・?
あー、なるほど。変換すると元の魔力量より減っちゃうのか」
「その通りです」
「なるほど、変換しても魔力が減っちゃったら意味が無いか。
そりゃ確かに致命的だ」
「ええ。少しでも変換効率の良いやり方が無いか試してみましたが、満足いく結果は得られず。。。
魔力の変換については諦めたんです。
それを思い出しまして・・・
今回は、変換効率は関係なく実害なく消費できれば良いだけなので、使えるんじゃないかと思ったんです」
「そこからは早かったよ。
まぁ、魔法具師の2人にとっては、より大量の魔力を消費する方法を考えると言うのは、苦痛だったかもしれないがね」
ノアの言葉を引継ぎ、ワイアットが苦笑する。
「いえ、苦痛では無かったですよ。むしろ新鮮で楽しかったです」
「そうねぇ。普段とは真逆の事を考えるから、かなり新鮮だったわぁ。
魔法具の勉強を始めた時のようで、楽しかったわねぇ」
しかし、当のノアとイルマは楽しそうだった。
制約を取っ払って好きな事をやったり、普段困っていることの真逆を思い切りやれるのは、確かに楽しいかもしれない。
「まぁ、そんな訳で出来たのがこの試作品だ。
発動させると、周りの闇の魔力をひたすら吸い込んで、それ以外の複数の魔力にひたすら変換し続ける」
「複数の魔力ですか??」
「ああ。変換するのには、変換先となる魔石を使うんだがね。
同一属性の魔石を複数使うと、どうも空間から吸い込む魔力の量が減るようでね。
変換される魔力の量は変わらないようだから、本来は効率が良くなっているんだが、今回それは逆効果だ。
だから今回は、闇以外全ての属性に同時変換する事にした。
おかげで期待通り燃費の悪い変換装置が出来上がったよ」
はっはっはと笑いながらワイアットが説明をする。
「実験では、これ1台で上位の魔法師が使う握りこぶし大の魔石の魔力を、半刻の更に半分かからずに空にした。
例のゴーレムもどきで試してみないと分からないが、複数台稼働させれば室内ならかなり効果があるはずだ。
また、これを小型化して相手に直接打ち込むタイプのものも試作してある」
そう言ってワイアットが取り出したのは、500mlのペットボトルを縦に3本ほど積んだ程度の大きさの杭のようなものだった。
「サイズ的にこれ以上小さく出来なくてね・・・
粘着弾の発射筒を改造した魔法具で打ち込むことを想定している。
今の所、飛距離は20m程度だが有効射程距離は5m程度と思われる。
これも相手の外皮の硬さ次第ではあるが・・・。ある程度物理的な打撃も与えつつ、継戦能力を奪うのが目的だ。
有効射程については、今後もさらに改善予定だ」
確かにこのサイズの杭を打ち出す事が出来れば、単純な武器としても使えるだろう。
一般の兵士が使う事を想定するなら、10m程の有効射程は欲しい所なので、威力向上に期待したいところだ。
「で、もう一つがこれだ」
そう言ってワイアットが取り出したのは、直径3cm、長さ2mほどのポールの先端に、ボックスティッシュくらいの大きさの箱が付いたものだった。
箱の反対側は鋭く尖らせてある。
「これは、最低3本組み合わせて使う、簡易結界タイプの魔法具だ。
これを立てた内側にある闇の魔力を外側へ排出する。
ひとつめのモノと比べて時間当たりの消費量は少ないのだが、本数を増やせばより広範囲をカバーできるのが利点だ。
主に屋外の、戦場となりそうな場所にあらかじめ仕掛けておくことを想定したものだ」
「凄いですね、この短期間で3種類も・・・」
「なに、3人で何日も顔を突き合わせて研究しているのだ。試作するまでは楽なものだよ。
ここから実用化、商用化するのが大変なのだ」
当たり前のようにそう言うワイアットに、共同研究者の2人も頷いている。
実用化、商用化するのが難しいのは間違いなく事実ではあるが、その前の試作が簡単かと言うとそんな訳はない。
むしろ試作すら出来ずに頓挫する事の方が多いのだ。
それを3人が3人とも「試作までは楽」と言ってのけるのだから、流石この国トップの職人たちだ。
「じゃあ、午後からはヨナーシェスさんにお願いして、実証実験だな」
「うむ。ある程度は効果があると思うが、試してみないと分からない事も多いからな。実に楽しみだ」
これだけのものを試作しておきながら、驕ることなく欠点を見出すこの姿勢こそが、天才の天才たる所以だろうなと考える太一であった。




