◆156話◆対強化種対策
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「そもそも魔法というのは、自身の持つ魔力を呼び水にして、空気中の魔素にある魔力も使って現実に事象を起こす技術だ。
あまり知られてはいないが、大規模な魔法は街中なんかの魔素が薄い所だと中々発動しない。
魔石というのは、それを補うために使われるもので、自身の魔力だけでなく、魔素に含まれる魔力の代わりにもなっているのだ。
仮に、ゴーレムもどきが闇の魔力で動いているのなら、体内や周りから闇の魔力を減らしてやれば、燃料が切れることになる」
「そりゃ道理だが、問題はどうやって減らすかって話だな」
「その通りだ。しかし割と単純なやり方で可能ではあるのだ」
「単純なやり方?」
「ああ。魔素に含まれてる魔力も、魔石の中の魔力は誰のものだと思う?」
「誰のって・・・いや、まてよ。そういうことか!?」
「気付いたようだな。
そう、誰のものでも無い。早い者勝ち、使ったもの勝ちなんだ。
厳密には、より近く、より早い所へ流れていく。
じゃあ、同じ属性の魔法を同じ場所で使ったらどうなるか?」
「・・・魔力の取り合いになる?」
「正解だ。普段魔法は街中では使われないし、魔素にある魔力が枯渇するような効率の悪い魔法も使われることは無い。
むしろ魔法師であっても、研究者以外はそんな魔法があること自体知らないだろう。
だから気にするようなことは普段は無いのだ。
しかし、“あえて魔力効率の極端に悪い魔法”を使ったらどうなるか?」
「確かにそれが出来るなら、ゴーレムもどきの闇の魔力も奪えるかもしれない・・・」
「その通り。しかも闇魔法は、ほとんどこの国では使われていない。
幸か不幸か、難易度の割に地味なのと、ネクロマンシーなんかの負のイメージが強くて人気が無いんだ。
だから、どれだけ魔力を奪っても、我々はあまり困らない」
「なるほど・・・
ただ使い手がいないということは、魔力効率の悪い魔法自体が使えないんじゃいのか?」
「うむ。そこでイルマの出番、という訳だ。
彼女は使えないのではなく“使わない”だけなのだ。さっきの道具に使われていたダークスフィアも闇属性の魔法だ。
もっとも、彼女だけが使えても、彼女の居る所でしか効果が無い。
しかし彼女は魔法具師だ。それも超一流の。
普段は効率の良い魔力の消費方法に心血を注いでいる。その逆に振り切った闇の魔道具を作ることもまた可能なのだ」
「ふふふ、そうですねぇ。
どれだけ魔力を使っても良いなら、こんな楽な話はありませんよぉ?
今回は体内にある魔石が狙いなので、ちょーっと道具の形や発動させる魔法をどうするか工夫がいりますがぁ・・・
まぁ何とかして見せるわぁ」
事も無げにそう答えるイルマは、満面の笑みを浮かべていた。
まるで新しい娯楽小説を手に取った時のような、楽しみで堪らないといった表情だ。
「そうか、極端に魔力効率の悪い魔道具を作り、ゴーレムもどきの近くで発動させ続ければ・・・
最初は魔素からの魔力が使われるけど、その後はゴーレムもどきの魔石から魔力を奪えるかもしれない」
「そういうことだ。
相手に打ち込むような形の魔法具が一番良いが、打ち込むのも簡単ではないからな。
ある程度の範囲型と併せて開発を進めるつもりだ」
「分かった。その方向で頼む。実験用に強化種が必要なら言ってくれ。
またツェツェーリエさんとヨナーシェスさんを焚きつけて調達してくる」
「それは助かるね。流石にぶっつけ本番という訳には行かないからな。
2匹ほど都合を付けてもらえないかな?」
「了解だ。早速明日にでも話してみるよ。
他にも入り用なものがあったら言ってくれ。
ただ、王城内に内通者が居る可能性が高くなってるから、他言は無用で頼む。
依頼関係も俺を通してくれ」
「・・・それは穏やかじゃないな。分かった、必ずタイチを通すことにしよう」
「では、よろしく頼む」
「ああ、任せたまえ。ふふふ、全く次から次へ面白そうな話が転がり込んできて最高だよ」
こうして、ワイアットとイルマによる、対強化種用の魔法具開発が始まった。
翌朝、ツェツェーリエとヨナーシェスに事情を説明すると、二つ返事で了承された。
再度ヨナーシェスのフィールドワークの護衛依頼を、隠れ蓑として払い出してくれるとのことだ。
なぜか「暇潰しじゃ」と言ってツェツェーリエも付いて来たのだが。
早速その日の午後から、捕獲に乗り出した一同だったが、思わぬ苦戦を強いられる。
小物が大量発生した場所はまだあるし、強化種から逃げて来たと思われる痕跡は見つけられた。
しかし、複数個所の大発生が元を辿ると同じ所であることも多かった上、事件からの時間経過により浅めの場所にいた強化種が魔力切れで死亡しているケースが増えていたのだ。
そのため、これまでよりも奥地へと足を踏み入れなければならず、長時間の捜索を強いられる羽目になった。
ツェツェーリエとヨナーシェスという、最強の助っ人コンビが居なければ、より苦戦していただろう。
太一達は、3日掛けて何とかゴブリンとオークの強化種を1体ずつ確保することに成功した。
オークの強化種を生け捕りに出来たことは不幸中の幸いだろう。
ワイアットの工房に持って行く訳にも行かないので、こちらもギルドにあるヨナーシェスの研究所に預かってもらい、共同研究することとなった。
ゴブリンとオークを生け捕って来てさらに3日後、試作品が出来たとワイアットから連絡が入った。
依頼してから10日と経っていない。
魔法具の試作速度としては異常な速さだ。
早速工房を訪ねてみると、ワイアットとイルマに加えて、思わぬ人物の出迎えを受けた。
「お久しぶりですね、タイチ様、アヤノ様」
「ノアさん!どうしてここに!?」
そう、出迎えてくれたのは、王国のもう一人の若き天才魔法具師、ノア・ロイスナーだった。
「五日ほど前かな?たまたま王都に来ていると聞いてね、声を掛けてみたのだ」
「そうなんです。ユーリ原点の件で、シモンさんを訪ねて数日滞在する予定だったんですよ。
そこへイルマ様とワイアット様が訪ねて来て下さって・・・。
びっくりしましたよ!?神の手の異名を持っておられるワイアット様に、私達魔法具師からしたら神様みたいなイルマ様ですから!!
タイチ様と楽しいことを始めたから遊びに来ないか、とお誘いいただいたので、二つ返事でお願いした次第です」
それは驚くだろう。
野球少年の前に、現役バリバリのプロ野球ナンバーワン選手が遊びに来ないかと誘いに来たようなものだ。
「はっはっは、そういうことだね。
なに、タイチの知り合いだと聞いていたし、彼女はその腕もさることながら考え方が柔軟なところが素晴らしいと思っていたのだ。
イルマも一度話をしてみたいと言うから、ちょっとタイチの名前をダシに使わせてもらったよ」
「ああ、それは別にいいけど・・・
ノアさん、大丈夫なんですか?お店の方は」
「ええ。オリジンシリーズの試作期間なので、時間的には全く問題無いです。
むしろ、イルマさんと一緒にお仕事できるとあって、商会からも勉強のためにも是非行って来いと言われたくらいですよ」
心配する太一に、ノアが苦笑して答えた。
「彼女が加わったことで、さらにアイデアも試作速度も上がった、という訳だ。
いやはや、やはり彼女の発想力は素晴らしいね。お陰でかなり効果が期待できる試作品が出来たよ」
「そうですねぇ。私とワイアットだけでは、こうは行かなかったでしょうねぇ」
「あ、ありがとうございますっ!!そう言っていただけるだけで、ご一緒した甲斐がありましたっ!!」
憧れの人物からベタ褒めされて、ワタワタするノア。
「じゃあ早速、実験と行こうか」
そう言うとワイアットは、縦横50cm、高さ100cmほどの金属製の箱を指差した。