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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆152話◆生け捕り作戦

太一達の生け捕り作戦実施日の朝、太一らフローターズとジャン率いるステラカナルは、念のため別の依頼を受け別行動し現地集合することにしていた。

情報の漏洩元が王城関係だった場合、情報の食い違いを察知、対応されるのを避けるための目晦ましだ。

商館を建ててすぐに用立てした馬車に乗り、警戒しながら西方へと向かった太一だったが、特に襲撃されること無く現地へと辿り着いた。

ヨナーシェスもこちらに同乗している。太一達の受けたダミーの依頼が、ヨナーシェスの調査の護衛だからだ。

30分ほど待っていると、ジャン達ステラカナルの面々も無事現地へと辿り着く。


「そっちも無事だったか。

 まぁ、まだギルドが白なのか知っていながら手を出していないだけなのかは分からんが・・・」

「そうだね。様子見しているだけもしれないしね」

合流後挨拶を交わし、そんな話をしながら森へと入る準備を進めていく。

今日は西側の森へと来ているが、以前クリムゾンベアと遭遇した所より手前にある森だ。

あのクリムゾンベアが強化種だった場合、犠牲が出る可能性がある。

何より強化種の生け捕りが目的なので、生け捕りどころか討伐も難しい魔物が出る所へ行く必要など無いのだ。


「この辺りは、ゴブリンとコボルトの混成が大量発生したんだっけ?」

「ああ、そういう話だったな。討伐依頼が出たのは、小物騒動の中でも割と後の方だって話だ」

「ええ。仮に強化種の力の源が魔力だったとした場合、なるべく経過日数が短い方が、生き残ってる可能性が高いですからね」

小物が逃げてきた痕跡を探しながら、森を散策していく一行。

程なくして、不自然に枝が折れ、下草や低木が踏み固められたような形跡を発見する。

今日はアンナとワルターと言う優秀なスカウト2名体制で捜索しているため、非常に効率が良い。

「お二人とも、流石に優秀ですね」

とサブマスターであるヨナーシェスからもお墨付きが出るほどだ。

さらに、そのヨナーシェスの加護による荷物の軽量化措置も取られているため、異常な速さで捜索が進められていく。


「ダレッカの時はこっそり馬車に掛けられてたって話だから知らなかったけど、直接荷物に掛けられるととんでもねぇな、これは・・・

 この加護なしで動きたくなくなるぜ・・・」

初めて自身の荷物にヨナーシェスの加護を受けたファビオが、心底感心しながら感想を口にする。

他のメンバーも似たような表情で強く頷いていた。

それを見たヨナーシェスから、少々怖いエピソードが語られる。

「はっはっは、確かに便利で効果が分かりやすいですね。私も加護に気付いたときは、常に使っていましたよ。

 最初は良かったんですがね、しばらく続けていたある日、何でもない段差で転びましてね・・・

 その拍子に骨が折れてしまったんですよ。

 ずっと軽い状態で生活していたせいで、筋肉と骨が弱ってたんでしょうね・・・。

 ほら、病気やケガで長い間寝たままだったり腕を動かせないと、上手く身体が動かなくなるでしょ?あれと一緒ですよ。

 それ以来、出来るだけ加護は使わないようにしているんです。はっはっは」

そんな教訓交じりの話を聞きながら、獣道のようになっている魔物の逃走跡を遡っていく。


休憩を挟みながら3時間ほど遡行したところで、先頭を行くワルターから停止のハンドサインが送られてきた。

ヨナーシェスの加護のおかげで3時間程度の時間だが、通常であれば半日ほど分け入った場所になる。

ワルターからは立て続けにハンドサインが届く・・・敵影あり、数4。

後方の警戒に当たっていたアンナが、するすると前方へ移動し、ワルターが凝視している方向を確認し戻ってきた。

「ゴブリンの上位種と思われる個体が2、通常種が2。動きはこの前のコボルトよりはあるけど、普通のゴブリンと比べると鈍いねー。

 あと、小さな小屋が壊されずに建ってた。中に人が居るかは不明」

小声で状況を報告するアンナ。

生け捕りにするには数が多いのがネックだが、小屋が残っていることで新たな手掛かりを得られる可能性もある。

「まぁ見逃すって選択肢は無いから、突っ込むことにはなるが・・・。

 上位種、この場合上位種かつ強化種だろうけど、こいつらを生け捕りにしようとして戦うと危険だから、さっさと片付けようと思うが問題ないか?」

状況を見て太一が方針を決め、一同へ確認を取る。

「そうだね。生け捕るなら通常種の方だろうね。どうする?2匹とも生け捕る?」

「理想はそうですが、最低1匹確保できれば問題ありませんので、強さに応じて決める、というのは?」

生け捕り作戦の顧問であるヨナーシェスの見解を受け、方針が決定する。

「了解です。早々に上位種を倒して、その後通常種を1ないし2確保で行きます。

 先制攻撃は文乃さんの弓とナタリアの魔法。その後俺とジャンとファビオで上位種へ突っ込む。

 通常種の方は、アンナとワルターさんで牽制しつつ、モルガンさんとレイアで抑えててくれ。可能なら生け捕りにしても構わん。

 ヨナーシェスさんはどう動きますか?」

フローターズのメンバーはもちろん、ステラカナルのメンバーの実力や戦い方はおおよそ把握している太一だが、ヨナーシェスが戦っているところは見たことが無い。

加護を活用したトリッキーな戦い方だと噂に聞いたことはあるが、それ以上は不明だ。

「そうですね・・・。では、私が1匹上位種を引き受けましょう。

 タイチさん達と同じタイミングで突っ込みますが、恐らく私の方が接敵が早いと思うので、残った方を頼みますね」

少しだけ考えてそう答えるヨナーシェス。変な気負いも全く無く、いつも通りだ。

「分かりました。

 お互い戦い方を知らないので、変に連携するより良いかもしれないですね」

方針を決めた一同は、警戒を続けるワルターの元へと静かに歩み寄り、方針を伝える。

まだ距離があり、向こうも気付いていないため、そのまま慎重に距離を詰めていく。


30mほど進むと、東の林の時と同じく大きな木がほとんど生えていない広場のような所が目に入る。

直径20mほどのそこには、アンナからの情報通り小さな小屋が立っており、その辺りを4匹のゴブリンがウロウロしていた。

「これくらいの距離が限界だな。これ以上近づくと多分バレる」

そうワルターが結論付ける。

「分かった。文乃さんは射線が出来るだけ通る場所へ移動、ナタリア、ワルターさん、アンナも同行してくれ。

 他のメンバーはここで待機。先制攻撃のタイミングは任せるから、攻撃前に一度だけ合図をくれ」

「「「「「「「「了解」」」」」」」

短く作戦を伝えると、文乃たちが慎重に狙撃ポイントを探して移動する。

程なくポイントを見つけると、文乃が弓を取り出し、ナタリアが杖を構えるのが見えた。

そして、アンナから攻撃開始カウントダウンのハンドサインが届く。

ナタリアが小さく呪文を唱え集中していくと、アンナのカウントダウンも始まった。

5、4、3、2、1・・・。

まず動いたのは文乃だった。上位種に向かって2本ずつ計4本の矢が、僅かなタイムラグだけで飛んでいく。

その音でようやく異変に気付いたゴブリンが足を止め周りを見ようとした時には、すでに矢は上位種の顔に命中していた。

『ゴビャアッッ!!』

目や頬にまともに矢を受けて叫び声を上げる上位種。そこへナタリアの魔法が追い打ちを掛ける。

「ストーンアロー!」

障害物の多い森の中なので、火事になる炎でも減衰しやすい風でも無い、土属性で石の矢をぶつけるストーンアローの魔法だ。

高速で打ち出された2本の矢が、それぞれ上位種へと突っ込んでいく。

『ギギャギャッッッ!!!!』

1本は右肩に、もう1本は別の個体の左足に命中し突き刺さった。


遠距離班が攻撃したのと同時に、近距離班も全力で突撃を開始した。

有言実行、ヨナーシェスがとんでもない速度で真っすぐに上位種へと突っ込んでいく。

「速っ?!!」

同時に駆け出していたファビオが思わず叫ぶ。

ナタリアの魔法が着弾した数秒後、すでにヨナーシェスは遠い方に居た上位種へと接敵していた。

そのまま速度を緩めることなく、手にしたメイスを上位種の頭に向けて振りぬく。

重量のあるメイスとは思えない速度で振り抜かれたそれを、辛うじて手にした斧で防ごうとする上位種。

バカン、と言うややくぐもった金属音と共に、斧もろとも上位種の頭部が吹き飛ばされた。

吹き飛ばした張本人は、「後は任せましたよ」と言い放って、奥へと距離を取る。

「強ぇぇ・・・」

一瞬かつ一撃で決めたヨナーシェスに感嘆の声を漏らすファビオ。

ヨナーシェスの戦い方は極シンプルだ。

攻撃が当たる瞬間までは、自身と武器を軽量化することで速度を上げ、その後に重量を増やし威力を上げる。

こうすることで、速度と威力の両立を図っている。

非常に強力だが、タイミングを間違えると自身も傷つく非常にリスキーな戦い方とも言える。

武器を振っている途中に介入されると、軽い状態のままなので容易に弾き飛ばされるし、重量を上げ過ぎると身体が耐え切れずに肩が抜けたり骨が折れる。

練習と実践を積み重ねた上に成り立つ戦い方だ。伊達に冒険者の街でサブマスターを務めている訳では無い。


その後の戦いも一方的なものとなる。

ヨナーシェスに遅れる事数秒後に接敵したジャンとファビオにより、手負いの上位種は為すすべなく倒された。

一方の通常種も、安定した立ち回りのモルガンと最近実力を上げて来ているレイアが、ワルターとアンナの援護を受け危なげなく捌いて時間を稼ぐ。

そこへ上位種を倒したメンバーも合流して2匹とも生け捕る事に成功していた。


「ヨナーシェスさん、とんでもないですね。

 おかげで、私の出る幕が無くて助かりましたよ」

「はっはっは。たまには動かないと体が鈍りますからね。

 タイチさんの戦う所が見られなかったのが残念ですが、まぁ仕方が無いですね」

「さてと、後はこいつらをどうやって持って帰るかだなぁ」

太一とヨナーシェスは雑談しながら簀巻きにされてモゴモゴ言いながら転がっているゴブリンを見ながら思案する。

「ふむ。折角複数の情報をバラまいて目晦ましもしましたのに、帰還した時に大騒ぎになっては意味がなくなりますからね・・・

 ステラカナルの皆さんは先に出て、ギルド長に報告をお願いします。

 西側の例の場所に、樽を二つ準備して欲しいと合わせてお伝えください」

「分かりました」

「フローターズの皆さんは、私と一緒にゆっくり出ましょうか。

 ツェーリが樽を準備してくれるので、その中へ詰め込んで街へ入りましょう」

作戦を決めると、早速ステラカナルから動き始める。

はっきり言って杜撰な作戦なのだが、実行するのがギルドマスターとサブマスターなのでほとんど問題無くなる。

「やれやれ、偉い人が無茶すると大変だわ。止める人が居ないんだもの・・・」

先に去っていくステラカナルを見送りながら、そっと太一が呟いた。

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