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◆15話◆脱出!

新規連載も始めました!(本作の更新も続けます!)

↓よろしければ、こちらもお読みください↓


異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす

https://ncode.syosetu.com/n3803ik/

狭い通路のような部屋に光が溢れたかと思うと、二人分の人影が光の中心に映る。

光の柱は数秒すると治まり、部屋の奥に一組の男女といくつかの荷物が現れた。

「うん、荷物も全部来てるな」

男の方、太一が周りを確認してほっとした顔を浮かべる。

「ほんとに通路っぽいわね」

女の方、文乃が周りをきょろきょろ見ながら呟く。

固い土を掘って作ったのか、壁も床も天井も目の細かいザラザラとした土で出来ており、床は固く踏みしめられている。

天井には灯りのようなものが2つほど埋まっており、お互いの顔が認識できる程度には明るさがあった。

「とりあえずここには、この魔法陣とその先にある階段くらいしか無いから、階段を調べてみるか」

「そうね。あ、魔石の方はどう?」

「うーん、また少し色が薄くなった気もするけど、まだ使える、と思う」

「使えそうなら最悪何かあってもここから逃げられるわね。保険があると安心するわ」

「ま、出来れば戻りたくはないけどね」


転送に使われた魔石の様子を確かめながら歩いていくと、すぐに階段にたどり着く。

階段は急で、壁や床と同じ材質で出来ており、10段ほど上った先の天井部分に取っ手のある跳ね上げ扉のようなものが見えた。

「屋根裏部屋の扉みたいだなぁ」

「取っ手があるからこれは人力かしらね。引くとすぐ階段にぶつかっちゃうから押すのかしら?」

文乃の言葉に太一は頷くと、まずはそっと扉に耳を付けて音を確認してみる。

真剣な顔で聞いているのが、階段と扉の間が狭いため、とても窮屈で奇妙なポーズになってしまっている。

「ぷっ・・・」

「・・・・・・」

それを見て思わず笑いを漏らしてしまった文乃に、太一がジト目を向ける。

慌てて文乃は、声を出さず口だけで“ごめん”と謝り手を合わせた。


しばらく聞き耳を立てていたが、特に物音はしなかったため、太一は取っ手を掴んでそっと扉を押し上げた。

ほとんど抵抗も無く扉は開いたため、隙間から様子を窺う。

木で出来た床に扉が付いているようで、部屋は薄暗いが何があるかは確認できそうだ。

人気が無い事を確認すると、もう少し扉を押し上げて周りを確認する。

どうやらテーブルか何かの下に出たようで、角材のようなものが4本周りに見える。

ぐるりと見まわすと、竈のようなものと流し台と思われるものと戸棚、そして真上にあるテーブルと椅子が2脚あることが確認出来た。

台所のような雰囲気で広さは四畳半程度だろうか。床には埃もほとんど無く、割と清潔だ。

そして部屋の隅には、別の部屋へ続いているであろう入り口が1つと、流し台の正面に窓らしきものがあった。


「台所、かなぁ。なんで机の下なんかに作ったんだか・・・」

「ちょ、ちょっと!私にも見せて!」

1人で確認している太一を押しのけるように、文乃がぎゅうぎゅうと頭をねじ込んでくる。

「ちょ、文乃さん!危ない、危ないって!!」

「え?何!?いいじゃない、早く私も見たいの!」

なおもぐいぐいと顔をねじ込んでいき、ついに文乃も顔を出す。

「いやいやいや、近い、近いって!!」

「うるさいわね!いいじゃない別に」

「なんだかなぁ・・・」

「あ、あれ窓じゃない?木の雨戸みたいなのが閉まってるけど・・・

 あっ、隙間から光が漏れてる・・・陽の光じゃないかな、あれ!やっとお日様が見られる!

 ねぇ、見て伊藤さん!あれきっと太陽よ、太陽!!」

喜び振り返った文乃の目の前2cmの所に、渋い顔をした太一の顔があった。

「っ!!」

「・・・・・・」

しばし無言で見つめ合う二人。

「・・・ごめんなさい」

静かにすーーっと顔を下に降ろしながら小さく謝る文乃の顔は、耳まで真っ赤だった。


「ひとまず安全そうではあるけど、もう少し確認するからもうちょっとだけ待っててね」

「・・・はい」

まだ顔に赤みが残る文乃が、顔を背けて小さく答えるのを見て、太一は頬を緩めつつも扉から上半身を乗り出した。

正面と左右を確認するが、特に目新しいものは見つからないので、扉の陰になっていて見えなかった後ろ側を確認しようと振り向いたところで、太一の動きが止まった。

「・・・えっ?」

静かに見守っていた文乃だったが、しばらくして太一の動きがおかしいことに気付いた。

驚愕の表情を浮かべて下を向いたまま静止しているのだ。

「伊藤さん?ちゃんと待ってるわよ??」

「あーー、うん」

「何よ?変な顔して」

「変な顔?じゃあ文乃さんからは俺の顔は見えてるんだ」

「当たり前でしょ?何よ呆けた顔しちゃって」

「なるほどなぁ。そっちからは見えるんだ」

「だから何言ってるの?」

「いやね、今俺のほうからは文乃さんは見えないんだわ」

「はぁ?どういう事?」

「そのまんま。いや、正確に言うと床が見えてる」

「そりゃ見えるでしょうよ、そこまで乗り出してるんだから」

「いやね、その乗り出してる穴がね、無いの」

「穴が無い?どこ行ったのよ?と言うか、あなたが今現在進行形で乗り出してる穴は何?」

「俺もそのつもりだったんだけどね。なんか床から俺の体が直接生えてるんだわ、これが。はっはっは。異世界すごいなぁ」

「はぁぁ??ちょっと大丈夫?疲れてる??」

まいったまいったと言いながら太一が階段から下りてくる。


「文乃さんもやってみて、面白いから。これは自分で見ないと分からんわ」

「どういう事?」

疑問符を浮かべつつ、言われた通り扉から上半身を乗り出して振り返る。

そして絶句して動きが止まった。

「えっ、なんで??」

「はっはっはー。どう?面白いでしょ?」

「面白いって言うか・・・はぁ、確かに床から生えてるわね。。。」

戸惑う文乃が見ているのは、まさに太一の言った通りの景色だった。

穴が開いているはずの場所も周りと同じく床になっており、まるで床を貫くように自分の上半身が出ている。

すでに全開している扉も、何故か外からは見ることが出来なくなっていた。

「これって・・・カモフラージュ?」

「多分ね。隠し扉なんだろうね。机の下にさらに念入りなこって」

「念入りなのもそうだけど、どうなってるのこれ?」

「さぁ・・・まぁ、魔法的な何かなんじゃないの?なんせ魔法使いの家なんだし」

「ここまで精巧なダミーを作れるなんて・・・魔法って何でもありね」

「それは今更だよ。転送なんて物理法則を無視したものでここに来てる訳だし。ネコ型ロボットの秘密道具レベルだ」

「確かに、異世界に召喚されてる時点でありえないものね・・・」

「そういう事。じゃあちょっと家探ししてくるけど、念のため確認したい事があるから、文乃さん下まで下りてくれる?」

「確認?いいけど、何をするの?」

「いやね、これ完全に出た後に戻れるのかなって」

文乃が階段の下まで下りたことを確認すると、太一はゆっくりと完全に穴から外へ出た。


穴があるべき場所をよく見てみるが、やはり周りの床との違いは全く分からない。

そして足でコツコツと軽く踏んでみる。いや、踏めてしまった事に小さく頷く。

「やっぱり・・・完全に穴から出ると普通には戻れないみたいだな。

 文乃さん、ゆっくり顔だけ出せるかい?」

数秒後、床から文乃の顔が突き抜けてきた。

「おおぉ、これは中々に衝撃映像だなぁ・・・あ、そこでストップね」

太一は苦笑いを浮かべながら、ゆっくりと床に手を伸ばす。

すると今度は抵抗なく床に手が吸い込まれていった。

「なるほどね。文乃さん、申し訳ないけど手、握ってくれる?」

「手?別に良いけど」

自分の手が握られたことを確認すると、再度文乃に声をかける。

「ありがとう。こちらからは下が全く見えないから、エスコートお願い」

「エスコートね。では旦那様、こちらへどうぞ?」

文乃に手を引かれながら、ゆっくりと床下へ戻っていった。


「ふぅ。ありがとう」

「どうだった?」

「うん。やっぱり外へ出ると戻れない。セキュリティ上の設定なんだろうけど、徹底してるわ。

 じーさんは1人っぽかったから入る方法は当然あるんだろうけど、俺達には分からない。

 ただ、中から干渉してる状態だと入れるから、元に戻らない覚悟を決めるまでは外へ出るのは1人って事になるわな」

「そう。中々すんなりとは行かないわね・・・

 まぁ、よっぽどのことが無い限りここへは誰も入って来れないって事でもあるから、悪い事でもないのかしら」

「だね。慌てて2人して外に出なくて良かったよ。

 幸か不幸か、この地下室ならある程度の安全性が確保できることが分かったから、当面の拠点としては大丈夫かな」

「そうね。じゃあ交代で探索していくとして、先にもうちょっとここを片づけておかない?

 物を魔法陣の中に置きっ放しってのもちょっと落ち着かないし・・・」

「それもそうだね。うっかり入って一人の時に転送しちゃったら大変だわな。

 またあの水瓶を運ぶことは考えたくないけど・・・」

「最悪アレはそのままにしましょ。私もあんな思いは、もうしたくないわ」


2人で肩をすくめてから、魔法陣の中にある荷物をさっさと運び出しては片方の壁際に寄せていく。

そして最後の大物が残る。

「うーーーん、ひとまずずらせないか試してみるか」

「気を付けてね。倒したら大変だわ」

「ああ、無理はしないよ、っと、あれ???」

「え?」

太一が腰を落とし水瓶を押すと、ずずっと音をたててあっさり10cmほど動いたのだった。


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