表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/173

◆149話◆林の奥

魔物の亡骸が多数見られる川原と比較して、土手の上には死骸らしい物は見当たらなかった。

代わりに、林となっている土手の際が5m程ぽっかり口を開けたようになっている。

そこから林の奥を見やると、同じくらいの幅で道のようになって奥へと続いていた。

「流石に太い木は倒されていないけど、細めの木なんかは軒並み薙ぎ倒されてるわね・・・」

「相当慌てて逃げた、ということだろうね」

感想を述べる文乃にジャンが同意する。

「おあつらえ向きに道が出来てるし、奥へ行くしかねぇな」

気乗りしないといった表情で言うファビオに、全員が小さく頷き進路を林の奥へと向けた。


魔物の逃走劇で出来上がった道は、ほぼ直線で奥へと続いていた。

時折脇道のような細い道と合流していて、その奥は一段細くなるという塩梅だ。

また、道の真ん中辺りに太い木があると、そこにぶつかって死亡したであろう魔物の痕跡が散見された。

「林の中の魔物が全部一斉に逃げた感じね・・・

 バラバラに逃げていないのは、群集心理的なものなのかしら??」

「もしくは恐怖の対象が、林を取り囲むように居たのか・・・?」

「・・・後者は考えたくねぇなぁ」

引き続き状況予測を続ける文乃とジャンに、ファビオが溜め息交じりに零す。

「しっかし、ここまで来ても魔物の気配が無ぇな」

「だねー。鳥とかは少しいるけど、警戒してるのか全く鳴かずにじっとしてる」

ファビオとアンナが言う通り、林に入っても異常な状態は続いていた。

人の手で完全に管理された人工林以外で、魔物がいないというのは基本あり得ないのだ。


魔物が全く出ないことで、逆に警戒を強めながら林を進むこと2時間ほど。

アンナの耳が何者かの声を捉えた。

「この奥に何かいる・・・。1匹じゃ無いね」

一気に一同の緊張感が高まる。

「ちょっと見てくる」

そう言い残してアンナが偵察へと向かう。


10分ほどして戻ってきたアンナの表情には、困惑の色が浮かんでいた。

「5分くらい行くと少し広場みたいになってて、そこにやっぱり魔物が2匹いたよ。

 見た目はコボルトっぽいんだけど、かなり大きいから上位種か亜種なのかな。

 ただ、2匹とも唸りながらウロウロしてるだけで、何か様子が変だった・・・。

 死体っぽいのもいくつか転がってたし。

 後、木の板みたいなのが山になってた。ぱっと見、壊れた小屋みたいな感じ」

アンナの報告を聞いて、文乃が考えながら確認をする。

「動いている魔物は2匹だけだったのね?」

「うん。見える範囲では2匹だけだったよ」

「弓は使えそうだった?」

「低い木が多くて上が抜けてないから曲射は厳しいと思う。

 視線が通ってるから直射ならいけるけど、気付かれない距離だと最低100メルテくらい離れた方がいいかな」

「直射で100メルテはギリギリね・・・

 まぁ、どちらにせよ見過ごすっていう選択肢は無いから、バレる前提で行きましょうか」

「了解。バレるギリギリまで静かに近づいて、バレたらアヤノとアンナが弓で先制攻撃。

 僕とファビオで突っ込むから、その後は援護をお願い。

 ナタリアは念のため土か風の魔法を準備して待機しておいて。

 敵は2匹とは限らないし、僕たちが抜かれる可能性もあるから、その時は頼むよ」

「分かったわ」「りょーかい」「おうよ」「わかった」

ジャンがシンプルな作戦を伝えると、皆口々に同意する。

「生け捕りにしたいとこだけど、連れて帰るのがしんどそうだから諦めよう。

 その代わり、死体は持ち帰りたい。なるべく急所を狙って、傷を減らす。

 ま、命の方が大切だから、努力目標ってことで。

 質問が無ければ早速行動開始だ」

全員が静かに頷くのを見て、ジャンも頷く。

「オッケー。じゃあ行こうか。アンナとアヤノ、先頭は頼んだよ」

「まかせてー」

一同は、腰を落として静かに進軍を始めた。


アンナの言った通り、5分ほど進むと視界の先に少し明るい場所が見えてきた。

この辺りまで来ると『グアゥゥゥ』という、コボルトの唸り声のようなものが文乃の耳にも聞こえてくる。

2匹のコボルトは広場のようになったそこをうろついてはいるものの、特に周りを警戒しているような素振りは無い。ただ歩いている、という感じだ。

しかし大きい。文乃と太一が討伐したコボルトと比べると、1.5倍くらいはありそうだ。

彼我の距離が100メルテを切り、80メルテ程となった時、コボルトの動きが変わった。

歩くのを止め、しきりに耳と鼻を動かしている。

どうやら、何者かが接近してきていることに気付き、警戒しているようだ。


文乃が後ろを振り返ると、ジャンが小さく頷いた。

文乃も頷き返すと、弓に矢を番える。横ではアンナも弓に矢を番えていた。

中腰のままさらに歩みを進めると、ついにこちらの存在を捕捉したのか、コボルトが雄叫びを上げる。

その瞬間、文乃とアンナが弓を放った。同時にジャンとファビオが駆け出す。

角度が付けられないため頭部を狙うのが難しく、矢は足を狙って飛んで行った。

2射していた文乃の矢は奥のコボルトの左太ももに、アンナの矢も手前のコボルトの左太ももに見事突き刺さる。

『ギャオォォォォッ!!』

いきなりの痛みに2匹とも怒りの咆哮を上げる。

「私達も少し前に移動するわ!」

もう少し射線を確保するため、文乃とアンナも前進する。

数秒後、ジャンとファビオがコボルトと接敵した。


「シッ!!」

盾を構えたまま、ジャンが手前のコボルトへ剣を突き込む。

『ギャオァァッ!』

コボルトも、向かってくる剣に対して、手に持った錆びた斧を振るった。

ガギンッ!!

両者の武器が交錯し、ジャンの剣が軽く弾かれる。

直ぐに剣を引き戻すジャン。

間髪入れずコボルトがジャンに向かって斧を横薙ぎに振るってくる。

『ギャギャッ!!』

ゴッ、と鈍い音をさせながらジャンは冷静にそれを盾で受け止めると、盾の陰から斧を持った手を目掛けて突きに行った。

『ギャワンッッ!!』

盾で抑えられた上、死角から放たれた一撃を避けられず、コボルトの右手を剣が切り裂く。

「浅いかっ!毛が固い!!」

傷は付けたものの、通常のコボルトよりかなり固い体毛に阻まれ、浅い傷を負わせた程度だ。

「おらぁぁっ!」

それでも斬られたことで少し怯んだコボルトの左側から、隙を窺っていたファビオが追い打ちを掛ける。

ファビオが上段から振り下した剣は、狙い違わずコボルトの左手首を捉え、鈍い音と共に斬り落とした。

『ギャォォォォォォォォォッ!!!!!』

手首を斬り落とされたコボルトが絶叫する。

「よっしゃ!」

それを見て追撃を仕掛けようとするファビオに、コボルトが切られた方の腕を横薙ぎに振るう。

「ちっ!!」

斬られたとは思えないスピードで振るわれる腕を、躱すことを諦め左手の小さな盾で受け流しに行くファビオ。

ごつん、と鈍い音がして軽くファビオが吹き飛ばされる。

「ぐおっ!?」

驚きの声を上げたファビオは、1mほど飛ばされはしたものの無事着地し事なきを得る。

「痛ぇなぁ、この馬鹿力が・・・」

完全に受け流せなかったためか、左手に少し痺れが残っていた。

「普通じゃねぇな、こいつ等。オーク並の力してやがる」

「ああ、ちょっと気合い入れないと駄目だね」


離れて様子を見守っていた文乃は、斬り落とされたコボルトの左腕を見て表情を険しくした。

「どうしたの?」

それに気付いたアンナが声を掛ける。

「さっき切った手首、血が出ていないでしょ?代わりに黒い靄のようなものが見えない??」

「っ!!!ほんとだ、全く血が出てない・・・」

驚き目を見開くアンナ。

「国王様を襲ったオーガ、あいつらもそうだったのよ。

 いや、正確には途中からそうなった、と言った方が良いわね」

「途中から?」

「ええ。首の後ろから黒い靄が出たと思ったら、急にパワーアップしたのよ。

 それまでは切ったらちゃんと血が出てたのに、血が出なくなった・・・」

「じゃあ、アイツらもそれと同じってこと?」

「多分ね・・・

 ジャン、ファビオ!!気を付けて!!!そいつらただの亜種よりさらに手強いわよっ!!」

小さな広場に、文乃の声が鋭く響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] メルテではなくメートル(m)になってるところがありました。ミスじゃないかも知れませんが、一応。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ