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◆148話◆川沿いの爪痕

下草の密度がやや薄く、枝の茂りが少ない水路沿いを遡っていくと、そのまま引き込み元の川まで辿り着いた。

「ゼップさん、この辺りって動物は少ないの?」

「ん~~、こんな奥までは滅多に来ねぇから正確な所は分からんが、少ねぇってことは無いと思う」

道中魔物と遭遇することは無く、野生の動物の気配も殆ど無い。

不審に思った文乃がゼップに確認をするが、やはり普通ではないようだ。


「あ~、良かった。この辺はこの前の嵐でもあまり増水しなかったみたい・・・まだ痕跡が残ってるね」

川原に降りて確認をしていたアンナが、ホッとした表情で呟く。

嵐のコースからずれていたこの辺りは、あまり影響が無かったようだ。

「コボルトって、こういう石の多い所も移動するの?」

「んー、水を飲みに降りてくるくらいで、歩き難いから普通は歩かないかなー。ちょっと行けば土手があるし。

 でも多分こっちの川原の方を移動して来たんだと思う。

 ほら、所々に毛が絡まってる」

アンナが大きめの岩に付着した毛を摘まんで見せた。

「でもなー・・・」

毛を摘まみながらアンナが思案する。

「仮に川原を移動したとしても、こんなに毛が付くことは無いはずなんだよねー。

 だって岩とかに擦れてるってことでしょ?数か所ならまだしも、見た感じずっと続いてるよね、これ?」

そう言いながらアンナが上流方向を指差す。

確かにそちらにある岩にも、所々に毛が絡みついているのが見えた。

数は少なくなるが、下流方面にもあるようだ。

「そんなことに構ってられない状況で焦って移動してた、ってことか」

腕組みをしながらジャンが呟く。

「うん。もしくは一度に沢山のコボルトが移動したかだね」

「ひとまず上流方面に向かってみましょうか。

 ただ、何が居るか分からないから、ここからは慎重に行きましょう」

文乃の言葉に全員が小さく頷き、川沿いを上流方面へと遡行開始した。


「おいっ!あれっ!!!」

30分ほど遡行していると、ファビオから鋭い声が上がった。

武器を構えて川の中央あたりにある大岩に鋭く視線を送っている。

「どうした・・・っっ!??あれは、コボルトか!?」

ファビオの声にジャンも川の中央付近を見て何かを見つけた。

「もう死んでる。多分流れて来て引っ掛かった」

ナタリアの言う通り、死後大分経ったコボルトの死体が岩に引っ掛かっているようだ。

「何か嫌な予感がするぜ・・・」

眉に皺を寄せながらファビオが呟く。

他の面々も同じような心境らしく、全員の顔に緊張の色が浮かぶ。

そこからさらに、数体のコボルトの死体を川岸や川の中に発見しつつ、2時間ほど遡行していくと、凄惨な光景が広がっていた。


「これは・・・」

「ひでぇもんだぜ」

数十体分はあると思われるコボルトの死体が川原を埋め尽くし、それにスライムが群がっていた。

この世界のスライムは、いわゆる分解者だ。

魔物が死ぬと、どこからともなく現れて、その死体を分解していく。

小さな昆虫や微生物などもいるのだろうが、魔物の分解はスライムによるところが大きい。


「どうやらこの辺が起点みたいだねー」

軽く上流方面の様子を見に行ったアンナが戻ってきた。

上流側には死体も見当たらなかったようだ。

「多分あそこの上から一斉に降りてきて、倒れたり踏まれたりして死んだんだろうねー」

アンナが土手の方に目を向けてそう言う。

5メートルほどの高さの土手は、崖のように切り立っている。

集団で走ってきた場合、先頭集団が落ちてその上からさらに後続集団が落ちることになるので、最初に落ちた者は酷い目に遭うだろう。

スライムによる分解は速度が速いため、ほとんど匂いがしないのが不幸中の幸いか。


「西の森と似たような状況だったのかもしれないわね・・・」

その状況を思い浮かべて、文乃がボソリと呟く。

「西の森っつうと、例のクリムゾンベアか??」

その呟きにファビオが反応する。

「ええ。あの時も、逃げる魔物は一切他のモノに目もくれないで逃げてたの。

 たとえ集団で行動していても、何かに追われでもしていない限り、こんな分かりやすい所に落ちたりはしないでしょ?

 とんでもないのから一斉に逃げ出して、ここから落ちて。

 そこで死ななかったのが川沿いに一気に下って来て、ハイデン村の方へ流れていった・・・

 多分さらに下流の方へ逃げた集団もいたんでしょうね」

「そこまで必死に逃げるとか・・・どんだけヤバい奴がいるんだって話だぜ」

文乃からの回答に、ファビオが首をすくめる。

「あーー、よく見たら上位種も混ざってるし、フォレストボアとかもいるね・・・

 たまたま先頭の方走ってて死んじゃったから、村の方には来なかったのかも」

スライムを除けながら検分していたアンナがそう零す。


「いずれにせよ、ここから登って奥へ踏み込んでみるしかなさそうね・・・

 もう居なくなってるなら良いし、まだ居るんなら放っておく訳には行かないし」

「はぁー、しゃあねぇな。いっちょ気合い入れますか」

「うん。ここまで来たなら調べておかないとね」

「だねー」

「これも任務。せめて相手の正体だけでも確認すべき」

文乃の言葉に、ステラカナルの面々も頷き気合いを入れる。

「ゼップさん、ごめんね。

 ゼップさんは村に戻った方が良いと思うけど、ここから一人で返す訳にも行かないし。

 もうしばらく付き合ってくれる?」

「はっはっは、もうここまで来ちまったらどこまで行っても一緒だぜ。よろしく頼むわ!」

ゼップは開き直って笑っている。

「じゃあ、行きましょうか・・・」

一行は、登れそうな斜面を見つけて土手を上ると、そこに広がる林の中へと足を踏み入れた。

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「毒皿」
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