◆137話◆風雲急
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「ななな、なんだーーー??」
突然の出来事に驚く屋台の店主。
「お、おい、アンタ大丈夫かっ??」
飛んできたのが人だと気付いて、慌てて衛兵へ駆け寄る。
「ぐ、はや・・・く、にげ・・・お、く・・・」
朦朧とする意識の中、衛兵はどうにか言葉を絞りだそうとするが言葉にならない。
「おい、しっかりしろっ!どうしたっ!?」
明らかに尋常ではない衛兵の様子に、何事かと問い掛ける店主だが、衛兵の意識はそこで途切れた。
『グァァァァァォォォッ!!!』
そして路地から再び響く咆哮。騒がしさに集まってきた付近の屋台の店主たちは、路地から出て来たソレを見た。
そこにいるはずの無いものを見た店主たちは、皆一度硬直する。そして・・・
「・・・・う、うわぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「ひぃぃぃぃーーーーっ!!」
「まも、ま、ま、まものだーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!」
腰を抜かす者、踵を返して逃げ出す者・・・たちまち阿鼻叫喚の恐慌状態に陥る。
騒ぎを聞きつけてさらに多くの群衆が押し寄せる。
その中には、表彰される仲間を遠くから祝福していた冒険者もいた。
「なっ!?何でオークが??」
「おいっ、ヤバいぞ!!!」
そして、腰を抜かした店主の一人にオークが近づいていく。
「ちっ。行くぞっ、おまえら!どうなってるの分かんねぇが、あのおっさんが危ねぇっ!」
リーダと思しき軽戦士の男が剣を抜いて仲間へ叫ぶ。
「つっても俺らにオークなんて・・・くそっ!分かったよ!!」
それを聞いた盾を持った戦士の男が、毒づきながらも続く。
「おい、アンタら!誰でもいいから、急いで騎士を連れて来てくれっ!!強えぇ冒険者でもいいっ!
俺たちでは残念ながらアイツには勝てねぇ。時間稼いでる間に頼む!!!」
スカウトらしき男が、懐から短剣を取り出しながら群衆に叫び掛けた。
「おらぁっ!来やがれ豚野郎っ!!!」
こうして街の3箇所で、ほぼ同時に似たような戦端が開かれたのだった。
テラスの上で、その異変に最初に気付いたのはワルターだった。
「ん?なんだ?トラブルか?」
群衆の最後列の何箇所かで、突然人の動きが大きくなったことに気が付く。
「どうした?」
「あ、ああ、リーダー。いや、あの列の後ろの方の動きがなんかおかしい気がして・・・
いや、気がしてじゃねぇ、明らかにおかしいぜ、ありゃ。
1,2・・・3箇所か?明らかに人が散ってってる!!」
太一の問いに答えながらも状況は刻一刻と変化していく。
「なんだ!?戦闘が始まったみてぇだが・・・くそ、よく見えねぇな」
「どうしたんじゃ?タイチ」
俄かに緊張感を増した2人の会話に、ツェツェーリエが尋ねる。
「ツェツェーリエさん。ウチのスカウトが、群衆の動きがおかしいことに気が付いたんですが、どうもそこで戦闘が始まってるみたいで・・・」
「なんじゃと!?ワルターとか言ったな、どこじゃ!?」
太一の返答に目つきが鋭くなったツェツェーリエがワルターに詰め寄る。
「え、あ?っと正面一番後ろと左右の一番後ろの辺、です」
慌ててワルターが指差しながら答えた先を睨みつけるツェツェーリエ。
「うーむ?確かに様子がおかしい気もするが、ワシの目では見えんな・・・」
するとワルターが指差した場所の1つ、左奥側で光球が打ちあがった。色は青。
「っ!!!!」
その色の意味を、テラスの上にいる人物たちはよく知っている。
不測かつ緊急の事態の発生・・・
先の作戦の際、遠距離での情報伝達手段として暫定的に運用された光球による連絡だが、あの後騎士団に正式採用されていた。
通常任務への適用なので、少々伝達内情を変えているところはあるが、青玉が一番危うい状況だというのは変わっていない。
表彰者はほぼ作戦現場に行っていた者たちなので、青玉が上がった時点で臨戦態勢に入る。
テラス上の近衛騎士たちも一斉に王を守る動きを始める。
そして間髪入れずに赤の光球が上がった。
「まさかっ!?」
赤玉が示す内容は・・・魔物と交戦せり。我ら劣勢・・・だ。
「タイチ、アヤノ、それからワルター。お主らは王の傍へ。他のメンツは急ぎ装備を整えたら正門へ集合じゃ!」
「俺もかよっ!?」
「アンタは飛び切り目が良い。全体を見渡して状況を伝えるのに打ってつけじゃ!」
「ツェーリ様っ!タイチ!」
ツェツェーリエから鋭く指示が飛ぶ中、ロマーノが駆け寄ってくる。
「ロマーノ、お前は正門まで行って冒険者どもを統率するんじゃ。
嫌な予感がする・・・多分あれは、お前の娘が遭遇したのと同じヤツな気がするわい」
「なんとっ!!分かりました!
ピアジオっ!レイバックに伝令。例の魔物が最低3体現れた可能性が高い。
城の警護に半数残して、残り半数は住民の警護に当たってほしいとな!
あと、急ぎその3人に合う武器を見繕ってきてくれ!」
「はっ!父上は?」
「ワシは冒険者と共に打って出る!くっくっく、フィオの借りをこうも早く返せるチャンスが来るとはな」
「!!ご武運を!!」
言うなりロマーノは礼装用のマントを脱ぎ棄て駆けていく。
ピアジオも騎士団長へ報告すべく走り出す。
「ツェツェーリエ様は?」
「ワシは一番遠いあの右側へちょいと行ってくる。ひと当てしてくるわい。ここは任せたぞ?」
「・・・・・・。分かりました。ここは町中なんで、手加減してくださいよ!?」
「お前はワシをなんじゃと思っとるんじゃ?!まったく・・・じゃあの!」
一言文句を言って、ツェツェーリエはその加護の力で右舷の戦場へと飛んで行った。
「陛下っ!大事はありませんか!?」
太一が文乃と共に、近衛騎士に囲まれた国王の元へと駆け寄る。
ザッ、と近衛が一斉に警戒するが、王がそれを制した。
「よい。ツェツェーリエ殿がこの3人をワシの元へ送ったということは、それは必要だということだ」
「「「「はっ!!」」」」
王の言葉に一団警戒を緩める近衛騎士たち。
深々と礼をしてから、太一と文乃も王を取り囲むように警戒に当たる。
「何者か分からんが・・・嫌らしいタイミングで仕掛けてくるものよ」
王が苦い顔で呟く。
「と、言われますと?」
「なに、このタイミングでワシが引っ込んでみろ?事が収まった後で、臆病者の誹りを受けることになる。
上手いこと引くに引けぬ状況を作りおったわ」
「・・・確かに。
ということは、あっちは陽動である可能性があるっ!??」
王の言葉が意味するところに太一が気が付く。
それを聞いた王はニヤリと笑う。
「くっくっく、やはり叙爵して正解だっただろ?ユリウス。タイチは軍略にも長けておる」
「仰る通りで・・・」
王の傍に控える宰相のユリウスが苦笑する。
「さて、タイチの言う通りだ。気を抜くなよ?どこから来るか分からんぞ」
続けられる王の言葉で、近衛たちに再び緊張感が走る。
「文乃さん、カウンターは?」
小さな声で太一が文乃に耳打ちをする。
「ええ、さっきから最高レベルで発動中よ」
「分かった。上手く陛下を守る形で発動するといいんだけど・・・」
「こればかりは運ね。私に対する害意にしか反応しないから、距離次第ね。
伊藤さんの方は?矢印に反応は無い?」
「今のところは。ただこっちも、俺に対してのものだからね。相手の狙いが俺じゃないと反応しない」
太一と文乃のスキルはどちらも強力だが、他人を警護するという状況においては決して使い勝手が良いものでは無かった。
いずれも本人に対する事象に反応するため、自身の事も認識してもらう必要があるのだ。
「ワルターさんの目だけが頼りだ。頼んだぜ?」
「マジかよ・・・俺の目で陛下を守るって、ことだろ???」
太一から声を掛けられ、プレッシャーでワルターの顔が引きつる。
そんな会話をしていると、ピアジオと2名の兵士が武器や防具を抱えて走って来た。
「タイチ殿!!こちらを!!!」
太一にはロングソードを、文乃にはロングボウを、そしてワルターには短剣とショートボウが渡される。
他にも小型の盾や胸当てや脛当等、急所を守る最低限の防具も一緒だ。
「ピアジオ殿、助かります!」
礼を言いながら手早くそれらを身に付けていく。
「いえ。皆さまが陛下の警護に一緒についていただけるのは非常に心強いです!」
その時だった。
「リーダーっ!危ねえっ!!!」
周囲を警戒していたワルターから、警告が飛ぶ。
バキン、という音と共に近衛の一人が持つ盾に矢が当たり跳ね返った。
「どっちだ!?」
「正面だ!正面から飛んで来やがった!!」
ワルターの声に正面に目をやると、100メートルほど離れた4階建ての建物の上に、弓を構えている人影を見つけた。




