◆135話◆まさかの褒賞
評価、ブックマークありがとうございます!
とても励みになります!
国王のお言葉に続けて、ロマーノからも感謝の言葉が述べられた。
救国の英雄として名は通っているのだが、普段は王都から離れた所に居るため、ロマーノはあまり表舞台には出てこない。
今回も、街の復興作業等もあるため書状を読み上げる形にする想定だったのだが、本人たっての希望で弾丸ツアーの参加を決めたらしい。
普段見ることが出来ない英雄の登場に、国王に勝るとも劣らない歓声が送られた。
そして式典は、褒賞の授与式へと移る。
他人が表彰されるのを見て何が楽しいのか、と思う向きもあるが、娯楽が少ないこの世界では人気のイベントだ。
ちょっとした芸能人やスポーツ選手を見に来ているような感覚なのだろう。
ましてや今回は、これまた普段人前にはほとんど姿を現さない、冒険者ギルドのグランドマスターであり現役のS級冒険者であるツェツェーリエも授与される。
一目見ようとする人達で、引き続き王城前の広場は大賑わいだ。
「それでは続いて、本作戦の特別功労者に対する褒賞授与を行う!」
再び登場した文官の声に、またしても民衆が盛り上がる。
「まずは功一等。ツェツェーリエ・レイヨンポリン侯爵。
受章理由は、遊水地の開拓に対する著しい貢献及び、致命的な河川氾濫原因の単独解決」
「はいよ」
「「「「えっ!?」」」」
最初に読み上げられたのは、ツェツェーリエだったのだが、参列しているもののほとんどから疑問の声が上がった。
太一達も当然それに含まれている。
「なんじゃ、タイチ。ワシが褒賞を受けるのがそんなにおかしいかの?」
「いやいやいや、そこじゃなくて、今侯爵って・・・」
ツェツェーリエの問いに、皆を代弁して太一が聞き返す。他の受章者も皆コクコク頷いている。
「んん~?そうじゃよ。もう何十年前か忘れたがの、これまでの討伐やら問題解決をまとめた結果、侯爵位を賜っとるぞ」
「「「「えええ~~~っっ!!?」」」」
当たり前のように答えるツェツェーリエに、驚きの声を上げる受章者一同。
王を始め、上位者は苦笑しつつも驚いてはいないところを見ると知っているようだが、文官の中にも驚いている者がいるところを見ると、全員が知っている訳でもないようだ。
「ん?言っておらんかったか?と言うか、皆知らなんだのか?」
心底不思議そうに小首を傾げるツェツェーリエ。
「聞いてませんよ、そんなこと・・・」
「そうか。まぁ大した話ではないからの」
侯爵であることが大した話でないならば、世の中のほとんどは大したことではないはずだ。
「おほん。ではツェツェーリエ・レイヨンポリン侯爵、壇上へ」
「うむ」
読み上げの文官が軽く咳払いをして、あらためてツェツェーリエを壇上へと誘う。
壇上で待ち構える国王は苦笑いだ。
「全く・・・そなたは変わっておらんなぁ・・・まあよい。
此度の働き、実に見事だった。
S級冒険者として、また国家の重鎮でもある侯爵として、そして冒険者の長として、まさに手本となる働きだった。礼を言う」
「まぁの。弟子たちが頑張っとるのじゃ。師匠らしいとこも偶には見せぬとな」
ツェツェーリエはロマーノと太一を見やり、ニヤリと笑う。
「その弟子たちも大活躍だったようだ。これからも我が国の為、そして冒険者のためにその力を貸してくれるか?」
「もちろんじゃよ。ワシはこの、冒険者の国レンベックが大好きじゃからの」
「あい分かった。今後とも、よろしく頼むぞ」
「ああ、任された」
ガッチリと握手をする二人を見て、民衆から大歓声が上がる。
ツェツェーリエは、大歓声を背に手を振りながら壇上から降りて列へと戻った。
「続いても功一等。ダレッキオ辺境伯家門客にして剣術指南役。並びに商店ケットシーの鞄店主、タイチ・イトウ。
受章理由は、前例のない大規模災害に対する作戦立案及び大規模魔法工法の確立。
ちなみにタイチ・イトウ殿は、先の定期褒賞においても褒賞を受けた人物であることを付け加える。
タイチ・イトウ殿。壇上へ」
「はっ」
太一のツッコミどころ満載の呼び出しに、一斉に民衆がザワつき始める。
「武門であるダッレキオ家の剣術指南だって??」「ケットシーの鞄って、あの看板馬車じゃないか?」
「ギルド前で絵合わせもやってるな。俺もやったことあるぜ」
「今作戦立案って言ったか?ということはあの人が今回の救援作戦を考えたってことか??」
情報量が多すぎるのだ、無理も無い。
「くっくっく。また会ったなタイチよ。
まぁ何となく、またすぐ会う気はしていたが、ここまで早いとは余も思わんかった」
「恐れ入ります、陛下。私も再びすぐに拝謁できるとは夢にも思っておりませんでした」
「そうか。しかし今回の働きも実に見事だった。
あのような方法で、水害を防ごうなどと、他の者では考えつかぬだろうよ。
しかも、その常識外れの案を実現させる工夫まで合わせて提案し、実行した。
見事としか言いようがあるまい。よくぞ国難を救ってくれた。本当に感謝しておる」
「ありがたきお言葉、感謝の念に堪えません。
ですが此度の一件、確かに私の案があったやも知れませんが、それはただのきっかけに過ぎません。
そもそもこんな荒唐無稽な案を信じ許可を下さった陛下や宰相閣下を始めとした皆さま。
迅速な協力体制を敷いていただいた騎士団の方々。作戦に従事してくれた冒険者の方々。
皆の一致団結した協力があったからこそ成し得た成果だと思っております」
「うむ。其方の申す通り、皆の協力あっての成功なのは間違いなかろう。
しかしな、其方の常識に囚われぬその発想無くして、此度の事態は切り抜けられなかったのもまた事実。
今後とも武威と合わせてその類稀なる智謀を、我が国のために使ってくれぬか?」
「はい。身命を賭しまして」
「うむ。今後ともよろしく頼むぞ」
再びの大きな拍手が、太一を包む。しかし、これで終わりでは無かった。
太一が段を降りようとすると、王が声を掛ける。
「タイチよ、しばし待て」
「はっ」
思わず王の顔を見ると、ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべている。
太一の直感が、これはアカンやつだと警鐘を鳴らすが、王命とあらば如何ともし難い。
「イトウ殿が考案した魔法工法は、非常に画期的なものです。
我が国では、これを大規模な土木工事などにより容易に利用できるように研究するための組織を立ち上げることにしました。
イトウ殿には、その組織の最高顧問に就任して頂きたくかねてより打診し、ご快諾いただいておりました。
本日、この場を持ちまして、正式に魔法工法研究所最高顧問に就任されます。
また、イトウ最高顧問の商会であるケットシーの鞄では、一昨日より看板馬車と言う画期的な広告事業を開始されております」
看板馬車は、ひと足先にすでに街中走っていることもあり、
「ああ、知ってるぞ」「あの絵の書いてある馬車だよな」と言った声が聞こえて来る。認知度はまずまずのようだ。
「看板馬車事業は、我が国の商業を飛躍的に発展させるものと期待しているため、本褒章の副賞として、ケットシーの鞄には小さな商館の斡旋をしております」
なるほど、この場でしっかり最高顧問の件も商館の件も発表することで、要らぬ批判や横槍が入らないよう牽制してくれたのだろう。
ありがたい話だったことに胸を撫で下ろしていると、まだ続きがあった。
「先の褒章と今回の褒章のいずれもが、国家の一大事を先んじて防いだ点は、単なる褒章の域を超えるものと判断いたしました。
そこで、イトウ最高顧問を、本日を以って宮廷爵に叙爵したことを、ここにお伝えいたします!」
太一を含め、この場にいる殆どの者が、文官の言っていることをすぐには理解できず、暫しの沈黙が流れる。
そして・・・
「うおおおーー」「すげぇ!」「叙爵って事は貴族になるってことだろ?」と民衆のボルテージが、今日1番に達する。
国王は、してやったりとニヤけ顔だ。
「えええええーーーーーーっっ!?」
そして当人である太一の絶叫が響き渡るのだった。




