◆134話◆授与式、再び
ベルナールが来店した翌日は、先日のダレッカ救援作戦の成功を祝う式典が開催される日だ。
式典と言っても堅いものでは無く、王とダレッキオ辺境伯からの感謝の言葉と特別功労者の表彰、騎士団のパレード、王家からの振舞酒と言ったところだ。
ただ酒が飲めるとあって近隣の村からも人が集まり、集まる人々向けに様々な露店が出るため、お祭り騒ぎとなるだろう。
そんなお祭り騒ぎの爆心地になるであろう王城のテラスに、太一達フローターズの面々が集まっていた。
ナタリアとジャンも一緒におり、緊張しながらも談笑している。
太一は個人として功一等が叙されるが、太一からの指示を周りに伝えながら作戦遂行に貢献したとして、フローターズの面々も功三等が贈られる。
また、強制依頼を受け先遣隊として大活躍したナタリアと護衛役のジャンは、他の先遣隊メンバーと共に功二等が贈られることになっていた。
皆、今日の為に急いで誂えた衣装を着ており、普段とは違って中々に華やかだ。
「いやー、まさか王城で褒賞を貰う日が来るとは思わなかったよ。
これもタイチのお陰かなぁ」
「同じく。王城のテラスに来られるとは思わなかった」
ジャンもナタリアも、見晴らしの良いテラスから眼下に集まる人々を眺めて感慨深そうだ。
「2人とも、放っといても近いうちに何かしら受賞してたと思うよ?
それに今回はこっちが助けてもらった訳だからね。ホントに助かった」
太一は2人にそう礼を言う。
「いやいやいや、その辺はジャンの言う通りだぜ?リーダー。
一度引退したようなもんだった俺らまで、こんなとこに連れて来てもらってるんだからよ。
やっぱ、リーダーといると色々あって面白れぇなぁ。
な、俺の目に狂いは無かっただろ?レイちゃん」
「そそ、そーですね」
「なんだよ、まーた緊張してんのか」
ジャンの言葉を肯定して面白がるワルター。
レイアはあまりの群衆の多さにようやく自分が褒賞を受けることを実感して、今さらのように緊張しているようだ。
「それを言ったら、あたしなんてもっととんでもないよ。
引っ張り出されて工事を手伝ったまでは良かったけど、今度はそれの技術顧問だよ?
まったく、年寄り使いの荒いリーダーだねぇ」
「・・・そのとばっちりが、某の方まで来ておるのだから、笑えん話だ」
「いやーー、やっぱ2人とも流石にベテランだけあって、魔法の使い方と制御が上手かったからね。
技術顧問にはピッタリの人材だと思うんだよねぇ」
悪びれずに言う太一。
しかし2人の言う通り、今回の件で一番出世したのはタバサとモルガンだろう。
2人とも、元々高ランクの魔法師であり神官だけあって、初めてやる魔法での工事でありながら、その扱いが非常に上手かったのだ。
タバサは複数の魔法を上手く組み合わせることで、単体の強力な魔法を使うより遥かに効率よく開拓を進めていた。
対するモルガンは、補助魔法を巧みに操ることで、魔法師やその他の職業の作業効率を上げることに成功していた。
これには先行していた現高ランクの魔法使いや騎士団の魔法師たちも大いに感化され、現場では二人ともタバサ師匠、モルガン師匠と呼ばれ教えを請われていたのだ。
魔法工事に携わった人間、それも騎士団に対してすでに名が通っていることは非常に大きい。
騎士隊長からの推薦もあって、2人の技術顧問入りはすんなりと決まったのだった。
「2人とも老け込むには早いからね。
それに、俺としても見知った面子と最初から一緒にやれるのは大きいからな。全力でねじ込んだ」
「やれやれ、そんなこったろうと思ったよ。
まぁ、弟子の面倒見るようなもんだから、精々楽しませてもらうよ」
ニヤリと笑いながら言った太一に、タバサが首をすくめるが、その表情は嬉しそうだ。
そんな話をしている間に、式典の準備が整ったようで、文官から式典開始が告げられた。
「それではこれより、ダレッカ救援作戦の成功を祝した式典を開始する!
まずは困難な作戦を成功させた偉業に対して国王陛下よりお言葉を頂戴する!」
拡声の魔法具か何かで増幅された声が、王城前の広場へ詰めかけた人々へと投げかけられる。
「うぉぉぉーーーっ」という人々の歓喜の声が、うねりとなって太一達のいるテラスを揺らす。
「すごい・・・」
あまりの歓声の大きさに、ぼそりとレイアが呟く。
呟いたのはレイアだけだったが、全員が小さく頷いていた。
そしてテラス最前面に設けられた演台に王が立つと、さらなる歓声が一面を包み込んだ。
のっけからボルテージは最高潮だ。相変わらず人気の高い王である。
王が右手を上げると、たちまちシン、と水を打ったように静寂が広がった。
「我が国きっての英雄を生んだ地、ダレッカが窮地に陥ると分かったのは、その僅か10日前だった。
いや、分かったというのは正確では無いな。窮地に陥る可能性が高いと分かったのが10日前だった。
たったの10日だ。知っている者もいようが、ダレッカへは向かうだけで5日は掛かる。
分かったとしても、実際はほとんど打つ手がないような状況であった・・・」
初めて聞く詳細な実情に、住民たちから騒めきが起きる。
「しかし、今余の後ろに居る者達を始めとした、勇気と才能、そして何より国を思う心のある者達のお陰で、不可能を可能にすることが出来た!!
諸君らも噂には聞いているのではないかな?ザムール川と支流の合流地点に、広大な広場が出来たことを。
幅が10メルトル、奥行き4メルトルもある巨大な広場だ。それを僅か、5日で造り上げたのだ!!!」
1つの街が入りそうな巨大な広場を僅か5日で作ったと聞いて、住民たちの騒めきがさらに大きくなる。
「本当かよ」「とんでもないな」という感想と共に、「本当だぜ」「作った俺たちも目を疑ったけど」という現地に行った冒険者であろう声がそこかしこから聞こえた。
「この偉業を達成できたのは、現地に行った者たちの力が有ったのは疑う余地は無い。
しかしな、それ以外にもたくさんの者の協力があって初めて成し遂げられたのだ。
馬車を提供したもの、道中夜道を灯りで照らしてくれたもの、現地に向かう者に食事を提供してくれたもの、応援して力をくれたもの・・・
いわば、国民全員が、英雄を生んだ地の窮地を救おうと団結してくれた結果なのだ!
余はそれを何より誇りに思う!!皆、ありがとう!!!」
王の言葉に、またも「うおぉぉぉぉーー」という歓声が唸りを上げる。
「今日はこの後、特に功のあった者を表彰する。
が、本当は協力してくれた皆、一人一人を表彰したかったのだ。
だがな、そう言ったら流石に宰相に止められてしまったよ。
お止めください、文官が死んでしまいます、とな」
楽しそうに冗談を言う王に、皆が笑い声を上げる。
やり玉に挙げられたユリウスだけが苦笑いだ。
「その代わりと言っては何だが、僅かながら酒を用意した。
騎士団によるパレードも行われる予定だ。
それに、何やら屋台も沢山出ておるな。ここにまで、美味そうな匂いがしてきておるわ。
今日は皆、飲んで食って、大いに祝ってくれ!!以上だ!!!!」
そう王が言葉を締めると、今日一番の歓声が木霊する。
こうして、ダレッカ救援作戦を祝すお祭り騒ぎが始まるのだった。