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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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131/173

◆131話◆開業、異世界広告代理店

月が替わって8の月。

1の鐘が鳴って少し経つと、ケットシーの鞄の商館に自然と従業員たちが集まって来ていた。

開業は2の鐘の後だが、開業初日前とあって皆掃除をしながらもソワソワと落ち着きがない。

貴族令嬢であるフィオレンティーナですら、かなり早めの時間に出勤しているくらいだから無理もないか。

平常運転なのは、今朝もコンビニ部門で店を出していたタバサくらいだ。


一通りの掃除と備品のチェックを終えた太一は、パンパンと手を叩き皆を集めた。

「さて、あと少しで商館の開業だから、あらためておさらいをしておこう。

 この店舗で取り扱う主力商品は看板馬車だ。店の2/3はそれ用のスペースにしてある。

 そして残りが、これまでの万屋、買取、絵合わせだが、まぁたまに商談があるくらいだろうな。

 あの商売はどれも場所が重要だし、少し買取があるくらいだと思う。

 こっちは全面的にタバサに任せるから、よろしく頼む」

「ああ。タイチの言う通りそう忙しくはなさそうだからね、手が空いたら手伝うよ」

やはりタバサは平常運転だ。日ごろから接客商売をしているお陰か気負いもなく頼りになる。

「ワルターさんとモルガンさんには、警備を担当しながら客の誘導をお願いしたい。

 交代で、店頭と店内それぞれに目を光らせてくれると助かる」

「おうよ。怪しい奴を見かけたらリーダーに報告するぜ」

「任された」

この辺りは、護衛や警備の依頼もこなして来てたであろう2人であれば安心して任せられる。


「で、看板馬車の方だが、こっちは正直どれくらいの客が来るのか想像もつかんし、来る客層も分からん。

 なので当面は臨機応変に行くしかない。

 多分、個人商店の主、大店の担当者、貴族の遣いの3パターンだと思うが、何とも言えない。

 貴族関係の場合は、全部俺かフィオレンティーナ様に流してくれ。

 それ以外の客は、俺たちも相手をするがレイアと文乃さんがメインで相手をしてもらえると助かる」

「はい。貴族の対応はお任せを」

「空いてる内は私はサポートに回るから、レイアちゃん頑張ってね」

「ははは、はい!頑張ります!」

フィオレンティーナについてはまず問題は無いだろう。

強いて言うなら、社交界で話題になっている彼女に手を出そうと近づいてくる輩だが、辺境伯の門客である太一の店で無茶をする輩はそうはいないはずだ。

文乃についても全く問題無い。貴族の対応ももちろん大丈夫だろうが、今回は不慣れなレイアのサポートに回ってもらう。

レイアも勘が良いのと天性の人当たりの良さがあるので、少し経験を積めば良い接客が出来るようになるだろう。


一通りのおさらいを終えると、太一が全員をゆっくりと見回す。

「皆、浮足立つのは分かる。

 そもそもワルターさん達は採取チームで、接客やるなんて思ってもみなかっただろうしな・・・

 申し訳無いが、ある程度勝手が分かるまでは協力してくれると助かる。

 ペースが掴めてきたら人を雇えるから、また採取チームとして動けるようになると思う。

 ま、最初から全部上手く行く訳なんて無いんだ。気楽に行こう。

 それに、看板馬車の効果はすでに実証済みだ。たとえ貴族様相手だろうと、安売りする必要は無い。

 なに、何かあっても全部俺が何とかする。だから安心してくれ。

 世界初の商売をやるんだ。どうせなら、楽しんで行こう!!」

「「おう!」」

「「「はい!!!!」」」

どう頑張ったところで客がこちらの思い通りに動いてくれる訳では無いのだ。

気張らず自然体で行くのが、結局一番良い結果に繋がる。タイチが経験則から辿り着いた結論の一つだ。

それは世界が違っても同じはずだ。

太一は、地球から遠く離れたこの地で、新しく出来た仲間と共に未来を切り開いていくことを、あらためて心に誓った。


二の鐘が鳴り少し経ったところで、ケットシーの鞄の商館がついにオープンした。

一般客が相手では無いし、特売のような物もやっていないので、客が殺到するようなことは無い。

看板馬車で軽くオープン日と広告募集の告知を行っただけなので、パラパラと訪れる程度だ。

やはり多いのは、広告を出したい一般商店だった。


「へぇ、一週間でそんなに売り上げが伸びるもんなんだな」

「これまでは、そもそもお店があることを知ってもらう手段がほとんど無かったですからね。

 それがかなり広い範囲の人に看板を見てもらえるので、だいぶ違うと思いますよ~」

「なるほどなぁ。確かに知り合いに口コミで広めてもらうくらいしか無かったからな・・・

 よっしゃ、決めた!ウチの看板を出すぜ!」

カウンターでは、今もレイアが酒場を経営しているらしき店主と商談中だ。

具体的な効果とその理由をきちんと説明する事を徹底させているので、初めてのモノであっても伝わりやすい。

レイアも自分で内容を噛み砕いて理解できているので、説明も堂に入ったものだ。

「ありがとうございます。

 ただ、ご契約される前に、リスクについても説明させてもらいます。

 そちらを聞いて、問題無いとご判断されたら、ご契約いただけますか?」

「んん?リスクの説明なんてするのか??

 いや、こっちとしちゃありがたいけどよ・・・」

「はい。話が違う、となっても誰も得しませんからね。

 それに、看板を出す方、馬車を走らせる方、看板を見た方の全てが得することを目指していますので」

レイアがニコリと笑いながら説明をする。

そう、リスクの話は非常に大切だ。特に広告という手法は、本来非常にリスキーだ。

売上を上げるだけなら何も説明せず客の自己責任としてしまえば良い。

だが、今後長く広告を商売にしていくのであれば、信用ほど大切なものは無いのだ。

なので太一は、リスクについても必ず説明して、納得の上で契約してもらうことにしていた。


「まず、最初に説明した数字はあくまで例でしかありません。

 売っているものも違えば場所も違うので、必ず同じ成果が出る訳ではありません。

 まぁ逆に上振れする可能性もあったりはしますが・・・」

「そりゃそうだわな。飲み屋とパン屋じゃ全然違うからな」

「ありがとうございます。

 そして二つ目ですが、季節や天候によってどうしても効果に差が出る点はご了承ください」

「季節や天候?」

「はい。看板は馬車に掲載します。当然屋外ですよね?」

「あーー、そういうことか。雨が降ったり風が強かったりするとみんな外に出ないからなぁ・・・

 まぁでも、こればっかりは仕方が無いんじゃねぇか?」

「そうなんです。仕方が無いことなんですが、ご理解いただけない方もいらっしゃいますので・・・

 あらかじめ説明させていただいております。

 短期間の掲載ですと影響が大きいので、2週以上での掲載をお勧めしております。

 また、季節によって金額を多少割り引いておりますので、ご自分の運に自信のある方は、あえて狙っていただいても良いかと」

「どれ・・・。ああ、雨季とか冬場は多少安くなってんのか。なるほどなぁ。

 まぁ俺は運に自信はないからな、手堅く一ヶ月ってとこだな」

屋外広告は、天候による影響を非常に受けやすい。

中長期の掲載であればそれほど気にすることは無いのだが、短期となると話は別だ。

幸い王都のある地域は、梅雨のように毎日雨が降り続くようなことは無いが、それでも2,3日続く時はある。

6日の内の3日が雨となると、実質の露出は半分に低下してしまう。

「最後になりますが、どこを走る馬車に看板を出すかは、原則こちらにお任せしていただきたいと思います。

 売っている商品やお店の場所や客層などを加味した上で、適した車両をご提示いたします。

 ご提示した条件がお気に召さない場合は、お断りいただいても構いません」

辻馬車であればあまり気にすることは無いのだが、乗合馬車やトミー商会の馬車のように、走るところが決まっている馬車の場合、注意が必要だ。

冒険者しか乗らないような辺境行きの馬車に、奥様向けのパン屋の広告を載せても効果は薄いだろう。

太一は、路線毎に露出によるランク付けを行い、露出の少ない路線は価格を下げている。

また、運輸ギルドに掛け合って、馬車をローテーションさせて露出を均一化出来ないか交渉中だ。


広告主は、こうした注意点の説明を聞いた上で、看板を出すかどうかを決めるのだ。

「ご説明は以上になりますが、よろしかったでしょうか?」

「ああ、問題無いな。ひとまず一ヶ月出してみようと思ってる」

「かしこまりました。

 掲載期間は一ヶ月、主に冒険者向けの酒場で、肉料理が売りでボア肉のステーキには特に自信あり。

 という条件でお間違いないですか?」

「大丈夫だ」

「ありがとうございます。

 それでは候補をいくつかお持ちしますので、少々お待ちください」

レイアは、広告主からのヒアリング内容を用紙にまとめて、カウンター奥の太一の元へとやってくる。

路線の決定は、マーケティング知識が必要となるため原則太一が行う。太一が不在の場合は文乃が代理だ。

最終的には、この辺りも全部マニュアル化したいところだが、

従業員はまだしも、広告主が果たして自分で考えて出稿計画を作れるか未知数なので何とも言えない。

「リーダー、よろしくお願いします!」

「ありがとう。・・・・・・、うん、用紙の方は完璧だね。

 どう、少しは慣れたかい?」

「そうですね。我侭言わないお客さんであれば大丈夫ですね」

「はははっ、我侭言うお客は誰だって手を焼くから仕方ないさ。

 えーーっと、肉が売りの冒険者向け酒場ね。価格帯は、大通りより少し安めに設定してあるのか。

 うん。だったら、辻馬車1週、レンベック東部の巡回乗合馬車1週、西の森行きの乗合馬車2台に2週、ってとこかな。

 もうちょっとお金を積めるなら、レンベック東部を南部にしたり、街の外行きを増やしたり、ってとこかな」

「ありがとうございますっ!!」

太一は、サラサラと用紙の下の方に路線を書いて渡すと、レイアはそれを持って客の所へと戻っていった。


「と言った感じで、掲載料は辻馬車が600、王都内巡回が500、西の森行きが1台2週で400なので2台で800。

 合わせて一ヶ月1,900ですが、一ヶ月契約していただいたので50値引きしまして1,850ディルとなります。

 そして看板の作成ですが、同一デザインが2枚で450ディル。

 掲載料と合わせて、2,300ディルになりますが、よろしかったでしょうか?」

「ああ、それで問題無い」

「かしこまりました。

 費用に関しては、明日までに半額お支払いください。半額の入金をもって契約とさせていただきます。

 残金については、2週間後までにお願いいたします」

「半額は今日この場で支払っても問題無いか?」

「もちろん問題ございません」

こうして、一般商店からの広告については、大きなトラブルも無く契約されていくのだった。

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