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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆127話◆商会の課題

ブックマーク、評価ありがとうございます!

いつも励みにしております。

運輸ギルドとの専属契約が無事締結できたのを受けて、いよいよ本格的に広告主の募集が始まった。

自身の足やツテを使った営業ももちろん行っているが、メインは看板馬車による看板募集広告の予定だ。

実際に掲載される場所で広告をするので、分かりやすさも申し分ない。

が、一つ大きな問題があった。


「ねぇ文乃さん。問い合わせ先をロマーノ様の別邸にするのは、マズイよねぇ?」

「そうね。相手が貴族か大店だけなら別に良いでしょうけど、一般商店は恐れ多すぎて近づけないわね。

 それに、最初は多分申込みが殺到するでしょうから、別邸の方々にも迷惑が掛かるわね」

「だよねぇ・・・。かと言って黒猫のスプーン亭にする訳にもいかないしなぁ」

「お店がパンクするわね・・・」

そう、事業を立ち上げたは良いのだが、物理的な商会が無いのだ。

これまでの商売は、屋台で事足りたのだが、相手が貴族や商会にも及ぶ上、書類の取り交わしもあるし動く金額も大きい。

屋台でやるには無理があった。

「部屋なり建物なりをすぐ契約する、トミー商会に間借り、商業ギルドに相談、辺りかなぁ・・・」

食堂で太一が晩酌をしながら頭を抱えていると、思わぬ来客があった。


「タイチ・イトー様ですね。夜分に失礼いたします。バルツァー宰相閣下からの書状をお持ちしました」

「遅くにありがとうございます」

なんと、王国宰相であるユリウスからの使者だった。

「いえ。お返事を持ち帰るよう承っておりますので、申し訳ございませんが内容のご確認をお願いいたします」

「分かりました。少々お待ちください」

わざわざこの時間に書状を携えてくるのだ、急ぎの用件であろう。

早速書状に目を通していくが、太一の顔には困惑の表情が浮かぶ。

「ん~~~、ん~~~~??

 ・・・分かりました。明日の二の鐘の後に、ロマーノ様の別邸までお伺いしますと、宰相閣下へお伝えください」

「はっ。確かに承りました。宰相閣下にお伝えいたします。それではこれにて!」

使いが去った後、文乃が確認する。

「どんな話だったの?」

「近々、ダレッカの件でまた表彰されるじゃない?で、今回も副賞が出るらしいんだけどね、その内容について相談したいんだってさ。至急」

「へぇ、それでロマーノ様のお屋敷に?」

「うん。王城だと今からの手続きでは間に合わないし、副賞を受賞者に聞くってのもあまり堂々とはやれないらしいよ」

「まぁ普通褒賞は下賜されるものだものね・・・」

「いくつか候補があって、そこから選ばせてくれるんだってさ。

 まぁありがたい話だから、ひとまず行ってくるけどね」

「そうね。じゃあ明日の午前、私は商業ギルドに行ってみるわ。貸しオフィスみたいなのがあるかもしれないし」

「申し訳ないけど、よろしくね」


翌朝、二の鐘が鳴ってしばらくすると、ダレッキオ家の馬車が迎えに来た。

最初の頃は宿屋の前に貴族の馬車が停まるとは何事だと、付近の住民がザワついていたのだが、すでに慣れたものだ。

中には御者やノルベルトと仲良く世間話をしている住民まで出て来ていた。

「毎回毎回すいませんね」

「いえいえ。当家の方をお迎えに上がるのは当然でございます」

太一が迎えに来てくれたノルベルトに謝意を伝えるが、ノルベルトはいつもの柔らかい笑顔だ。

「じゃあ行ってくるよ。商業ギルドはお願いね」

「ええ、任せて。行ってらっしゃい」

文乃に別れを告げると、馬車はダレッキオ家の別邸へと向かった。


別邸に到着すると、ちょうどユリウスも到着したところだった。

馬車を降りて挨拶を交わす。

「おはようございます、バルツァー様。本日はお声がけいただきありがとうございます」

「ああ、おはようございます。タイチ殿。すみませんね、急に呼び出してしまって」

「いえ、どちらかと言えば私の為にわざわざバルツァー様に来ていただいたようなものですからね」

「ふふ。確かにそうとも言えますか」

挨拶ついでにそんな話をしながら応接室へと向かった。


「さて、今日は用件が二つあってお呼びしました」

「二つですか?」

「ええ。書状には褒賞の件しか書いていませんでしたが、それ以外にもう一つあります」

「分かりました。よろしくお願いします」

ユリウスは小さく頷くと懐から紙を取り出し話し始める。

「まずは褒賞の件からですね。

 タイチ殿、こちらなど如何でしょうか?そろそろ必要ではないかと思うのですが」

そう言いながら、取り出した紙をすっと太一の方へ滑らせる。

「拝見します・・・。

 って、えっ!??これは・・・!?」

紙を見て絶句する太一。それは、建物の外観と見取り図だった。

「えーーと、すみません、こちらはどういうことでしょうか?」

「ふふふ。そのままですよ。

 商会の規模も大きくなり始めたところで、例の看板馬車でしたか?

 あちらもそろそろ本格的に動き出すのではないでしょうか?

 そうなると、商談を行う商館が必要となるはずです。貴族や大店も相手にしなければなりませんからね。

 宿屋や屋台でやる訳にもいかないでしょう。

 それに、断言しますがすぐに人手を増やさないと、回らなくなるでしょうね」

驚いた。すべてお見通しだったようだ。

「確かに、実はつい昨日それに気付いて困っていたところではありますが・・・

 だとしてもこれはあまりに立派すぎませんか??」

「そうでしょうか?多分、1年もしない内に丁度良くなり、3年でもっと広い所へ引越すように思いますが?」

太一が驚くのも無理はない。紙に書かれている建物1棟、という話だとすればなかなかの建物だ。

建築面積で20坪ほどはありそうな、総三階建てである。

1階は大きなホールとその奥に壁から壁いっぱいの幅にカウンターが作りつけられている。その裏はバックヤードだ。

2階は多目的に使えそうな10畳程度の部屋が3つ。3階はプライベートでの利用を想定しているのか、キッチンのついた2LDKになっている。

創立一ヶ月程度の商会には分不相応なのは、疑いようもない。


「流石に物件を差し上げることは出来ませんので、こちらを当初1年は無料で、その後4年は市価の半額でお貸しします。

 いかがでしょうか?」

「1年無料に、4年半額・・・。正直ものすごく有難いですが・・・

 ちなみに正規のお家賃はいかほどでしょうか?」

「おおよそ20,000ディルほどですね。貴族街にも近い旧住宅街にあるので、少々値は張ります」

月200万円くらいの感覚か。延べ床面積が50坪近い一等地とあらばそんなものだろう。

「なるほど・・・」

しばし考え込む太一。

そもそも物件の空きが少ないレンベックだ。これ以上に良い物件に巡り合える可能性は低いだろう。

5年後の家賃についても、馬車10台分の広告料で賄える計算だ。それらを勘案し、太一は結論を出す。

「・・・ありがとうございます。こちらでお願いします」

「そう言っていただけると思っていましたよ。本日鍵もお持ちしておりますので、早速お使いください」

「・・・何から何まですみません」

さすが一国の宰相だ。何もかもお見通しである。


「さて、ではもう一つのお話ですね。

 先日王城でお約束した、例の小物騒動が起きていた範囲の調査がひと段落しましてね。

 言伝でも良かったのですが、ついでなのでお話ししようと思いまして」

「っ!!」

例の小物騒動・・・。普段いない場所や普段より多数の小型の魔物が、同時期に王国各地で大発生したのだ。

何らかの自然の力が働いているなら、世界的に起きているはずなので、それを調査してもらっていたのだ。

「結論から言いますと、残念ながら王国とその周辺のみで起きていた可能性が非常に高い、との事です。

 ある程度までは裏取りも終わっていますので、まず間違いないと見て良いかと」

「・・・・・・そうですか。これは、いよいよキナ臭くなってきましたね」

「ええ。我々もそう考えています。

 仮にこれが人為的に引き起こされたことだとした場合、狙いは何だと思いますか?」

太一は、しばらく考えて答える。

「実験、ではないかと考えています」

「実験、ですか・・・?」

「はい。まず考えられるのは、ある程度魔物の行動をコントロールできないかどうか、の実験ですね。

 魔物の嫌がる何かや、本来そこにいないような魔物を用意して、魔物が逃げる先をある程度コントロールできるとしたら・・・」

「なるほど。その先にある街を魔物に襲わせることが出来ますね・・・」

「はい。大体の方向性があっていれば、食料や人のいる街に向かうでしょうし。

 これが一つ目の可能性です。

 もう一つは、小物騒動自体は狙ったものでは無く、ある過程で発生しただけだという可能性です」

「過程で発生した・・・?」

「ええ。魔物が逃げることになった原因を作り出したことに変わりは無いのですが、その原因を作ることが目的だった場合ですね」

「魔物が逃げる理由・・・魔物が嫌がる何か、より強い魔物!!?

 まさかっ!?魔物を人為的に強くしようとしていたっ!??」

自身で辿り着いた仮説に驚愕するユリウス。太一はそれを見てコクリと頷く。

「強くしようとしたか、新しい魔物を作ろうとしたのか、逆に魔物を寄せ付けない強力な魔法具や薬品の類か・・・

 何かは分かりませんが、魔物の生息地の奥でこそこそやってるんです。ロクなもんじゃないと思いますよ」

「・・・確かに。一つ目については、我々も検討していましたが、二つ目は思いも寄りませんでした。

 いやはや、やはりお話しさせていただいてよかった」

「こんな予想、当たっていない方が良いんですがね・・・」

「はっはっは。常に最悪を想定するのが為政者というものです。

 土産を持って来たつもりが、土産をいただいてしまいましたね」

「少しでもお役に立てれば良いのですが・・・」

「立ちますとも。早速持ち帰って、その線も考慮に入れて調査を進めます」

「また何かあれば、お知らせください。出来る限りお手伝いさせていただきます」

「ええ。そんな時が来ない方が良いですが、来てしまったら遠慮せずに頼らせていただきましょう」

そう約束を交わして、面会は終了となった。

こうして、看板馬車を中心とした代理店計画が動き出すのと同時に、王国を取り巻く状況もまた不穏な動きを見せるのであった。

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