◆125話◆看板馬車
新章開始です!!
マーケティング成分を増やしていく所存
感想をいただいた方々、ありがとうございます!!
遅くなるかもしれませんが、必ずお返事書かせていただきます。
ダレッカからレンベックへは、四日間掛けて戻って来た。
当初六日間の予定であったが、第一陣にはヨナーシェスが帯同していたため軽量化の恩恵があり、予定を前倒しに出来たのだ。
帰還当日は陽が落ちてからの到着だったため、王城への第一報は一緒に帰還した近衛騎士団に作戦の成功と無事の帰還を言伝するだけに留めた。
明けて翌日、太一はあらためて王城へと向かい、宰相へ詳細な報告を行った。
領主であるロマーノは、領地での復興作業の指揮もあるため、報告は王都近衛騎士団所属で作戦にも参加していた、次男のピアジオが代理で行った。
他にもツェツェーリエ、ヨナーシェスも報告会には参加しており、宰相にのみ、加護の活用含めた詳細が報告された。
太一は、ツェツェーリエらと共に、今回の作戦における功一等として叙されることが決定した。
表向きには太一の加護については伏せられているため、前例のない災害に対する作戦立案及び大規模魔法工法の確立、が名目だ。
つい先日、後期の褒賞授与が行われたばかりなので、普通は半年先の来年上期の褒賞授与に回るのだが、今回は国王名でのお触れが出るような事案だ。
一週間後に、作戦成功を祝う祝典と共に、功労者に対する褒賞授与式を行うことが急遽決定した。
救国の英雄の危機を、騎士と冒険者、貴族までもが協力してこれに打ち勝った、と言うこれ以上無いサクセスストーリーだ。盛り上がるのは間違いないだろう。
また、報告会の後で太一は宰相から、魔法工法の本格的な普及について今後も継続協議したい旨の打診を受けた。
元冒険者、元高ランクの魔法使いを何名か技術顧問に呼ぶことを条件にこれを承諾。
と同時に、王国魔法工法研究機関最高顧問の肩書を得ることになってしまった。
正式な就任は、一週間後の褒賞授与式で褒賞の1つとして与えられてからだが、技術顧問の人選を皮切りに、すでに実務は始まっている。
そんな慌ただしい報告会の翌日。太一と文乃は、トミー商会を訪ねていた。
急遽立ち上げた看板馬車について、初動の確認と今後について協議するためだ。
「ようこそタイチ様、アヤノ様。いや、最高顧問とお呼びしたほうがよろしかったですかね?」
「こんにちは、シモンさん。お耳が早いですね・・・ですがこれまで通り呼んでいただければ」
笑顔で出迎えてくれたシモンと握手を交わす太一は苦笑いだ。
それにしてもシモンの耳の早さは驚異的としか言いようがない。今回の件なぞ、特に限られた人間しか知らない内容のはずなのだが・・・。
王都で大きな商いをするというのは、そういうことなのかもしれない。
「まずは、作戦の成功と無事の帰還おめでとうございます。
我々は馬車と物資を提供するくらいしか出来なかったので、気を揉んでおりましたが・・・
一人の死者も出さず無事危機を乗り切ったとのことで、心底安堵していますよ」
「ありがとうございます。
お借りした馬車も物資も、非常に助かりました。
おかげさまで無駄な体力を使うことも必要以上にストレスを溜めることも無く、作業に当たることが出来ました」
「そう言っていただけるとありがたいですね。
さて、それでは早速、看板馬車の初動における反響についてお話ししましょうか」
「はい。我々の方で獲得した広告主にも聞き取りをしていますので、擦り合わせしましょう」
結果から言うと、とても好調な出足だった。
広告としての機能はもちろんだが、国を挙げての作戦に便乗できたのが大きい。
広告主のお店への貢献はもちろんだが、看板馬車そのものに対する問い合わせが殺到したのだ。
「すると、どのお店も来客数は5割増以上、売り上げについても3割増し以上になっていると。
とんでもない効果ですね、これは・・・
最初にお話を聞いた時に、効果があるだろうことは予想できたのでお話に乗った訳ですが・・・
すみません、正直ここまでとは思っておりませんでした」
広告主への定量的効果をまとめて話していると、シモンが深く頭を下げてくる。
「いやいや、頭を上げてくださいよ。
私もここまで効果があるとは思いませんでしたし・・・。
確かに、目立つお披露目でしたし、長時間走ってはいましたが、宣伝の主戦場である王都内はわずかな時間だけでしたからね。
この反響の大きさは想定外でしたよ。広告主にも、半分怒られましたから」
遠征に合わせてお披露目したのは、そのタイミングで馬車が必要だったというそもそもの話に加えて、運用者と広告主に対するアピールが目的だった。
貴族、商売人、消費者を問わず耳目が一点に集まるような場は中々無い。
アメリカのスーパーボウルのTV放送にタダでCMを打てるようなもの(※)で、この世界に無い新しいものを一気に訴求するには好都合だったのだ。
しかし実際は、太一が思っていた以上の集客に繋がっていた。
追加調査をしてみないと本当のところは分からないが、娯楽が少ないこの世界においては、
珍しいモノや面白そうなものの話題は、娯楽や流行の1つとして一気に広まるのではないか、と太一と文乃は仮説を立てていた。
初動の数値を確認し終えると、次はその実績値を元に広告料をいくらに設定するかを相談する。
「今後どこまで効果が継続するか分かりませんが、売上2割増しがひと月、1割増しがひと月くらい続くとして試算しましょうか。
今回協力してもらった個人商店だと、大体月の売り上げは5000ディル~7000ディル、粗利が2500~3500という所で・・・。
そうすると、750~1000程度平均で粗利が増えることになります」
太一がざっくりと効果金額を試算する。
広告はROIつまり費用対効果が重要なので、大枠の効果金額から広告費を設定すると、不満が生まれ難く売れ行きも良い。
「なるほど・・・その考え方は斬新ですね。でも確かにそうだ。安すぎても高すぎてもいけないのですね。
それにしてもタイチ様、計算がものすごく速いですね・・・」
この世界は、広告が発達していないので当然そういった考え方も存在しない。
シモンが太一の考え方と計算の速さにしきりに感心する。
「キリの良い所で、1週間で500ディルとしましょうか。
1台の馬車に3つまで看板が載せられるので、枠が埋まれば週1,500ディル。
1月だと7,500、1年だと90,000。これなら、新しく馬車を買っても回収できるでしょうね。
常に枠が埋まる訳でも無いでしょうし、割り引き販売する場合を考えても、赤字にはならないかと」
「広告を出す方も儲けが出て、我々も儲かる訳ですか・・・うん、素晴らしい価格設定だと思いますよ」
win-winのビジネスモデルに、またしてもシモンが感心する。
「まぁ、一先ずはお試しでこの値段で行ってみますか。
あ、そうだ大事なことを忘れてました。
売り上げの分配ですが、我々が2でそちらが8で構いませんか?」
「え?こちらが8ですか!?」
「すいません、ちょっと低かったですかね・・・うーーーん、じゃあ1.5と8.5でも・・・」
「いやいやいや、ちょっと待ってください。逆ですよ逆。
我々が8って貰いすぎじゃないですか??普通に5:5からの調整だと思ってましたよ!!」
太一からの提案を慌ててシモンが否定する。
「あれ?そうですか??
こちらは馬車を用意する訳でも無いですし、ただ広告枠の販売をするだけなので・・・」
「そもそもこの斬新な商売の発想に対する対価が抜けてますよ!
あと、枠の販路を一本化出来れば、競合が入ってきても販路の開拓が難しくなりますからね。
どちらかと言えば馬車を出す側が傘下に入った方が得する気がします。
それともう一つ・・・」
「もう一つ?」
「仮に競合が出たり、看板の売り上げが落ちて来ても、次の打ち手があるのではないですか?」
シモンは太一をじっと見つめながらそう問う。
「・・・どうしてそうお思いに?」
「勘、みたいなものでしょうかね・・・?
これはあくまでスタートでしか無くて、まだ先を見ているような、そんな気がしただけです。
でも、私の勘は良く当たるので、そこに賭けることが多いんですよ」
笑いながらシモンが答える。
「なので、それへの期待も込めて3と7でいかがですか?」
持ち上げつつも釘はしっかり刺しに来るシモン。食えない男である。
「分かりました。まずはそれでいきましょう」
「よろしくお願いします。
それで、次はどうされるんで?ウチの馬車だけでは足りないと思うのですが?」
「まずは、乗合馬車と辻馬車を引き込もうと思ってます。
世の中で馬車を一番沢山走らせてるのは、間違いなくこの二つなので。
それに、馬車を走らせることそのものが仕事の所へ話を持って行った方が、話が早いんですよね」
「ふふふ。やはり私の勘は正しかった。
確かに持ってる馬車に看板を付けて、これまで通り走らせるだけで勝手にお金が入ってくるんですから、笑いが止まらないでしょうね。
間違いなく食いついてきますよ」
「その通りです。あと、乗合馬車は走るルートが決まっているので、多少安めの価格で提供する予定です」
「そんな所まで考慮されてるんですね・・・
我々の輸送用の馬車とはあまり被ることも無いですし、問題ありませんよ」
「ありがとうございます。
あ、看板の制作依頼については、引き続きお願いしても良いですか?」
「ええ、構いませんよ」
「助かります。さすがに今はそこまでは手が回らなくて・・・
いずれ人を増やしてこちらでも回せるようにしますので、しばらくはお願いします」
「お任せください」
その後も細かい部分を詰めて、看板馬車に関する取り決めが完了する。
「では、この取り決めで8の月から開始するということで」
「はい。後5日ほどですか。とても楽しみですね。
看板馬車に限らず、また何かあればお声掛けください。
いや、真っ先に声を掛けていただけることを願っていますよ。タイチ様からの話は、多分全部面白い気がするので」
「あははは、頼りにさせてもらいます」
「では、今後ともよろしくお願いします」
2人はガッチリと握手を交わす。
こうしてついに、異世界初の広告代理店が産声を上げた。
やっぱりこの手の話を書いている時が一番楽しいw
※2023年スーパーボウルTV中継の30秒CMのお値段は、なんと1本9億円だそうです!
視聴率が80%に迫ると言うお化け番組&ある種のお祭りではありますが、とんでもないですね。。。




