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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆123話◆ツェツェーリエの加護

やはりギルマスも強キャラじゃないとね!

太一達がいる場所から消え去ったツェツェーリエは、先ほど物見が放った光球の真下に姿を現した。

光球が空中に浮かんでいるので、当然空中に現れることになる。

それでもツェツェーリエは慌てることなく、突然頭上に人が現れて目を丸くしている物見の横へと再び移動した。

「は??」

「なるほどここからならゴミが溜まってる所も遊水地も良く見える。流石ロマーノの部下、優秀じゃの。ご苦労じゃった。

 ここからはワシに任せるがよい」

「か、かしこまりました!」

突然空中に現れたかと思ったら今度は突然隣に現れる。

理解の範疇を超えるツェツェーリエの動きに目を丸くしつつも、物見はどうにか返事を返す。

「さてさて、ちょいと大掃除と行こうかの」

そう言って、ツェツェーリエは再び姿を消した。


ツェツェーリエの加護はヘルメス。旅や移動を守護する神だ。

その恩恵で得られたスキルは、見ての通り“瞬間移動”である。

目視できる範囲へ、自身と自身が身に付けている物を瞬間移動させることが出来る強力なスキルだ。

また、予めマーキングした場所であれば、目視出来なくても移動が可能だ。

グランドマスターとして忙しい彼女は、様々な場所をマーキングすることで世界中を文字通り飛び回っている。

また、戦闘時にも瞬時に攻撃を躱し瞬時に死角に入り込むことが可能なため、ただでさえ強力な魔法師である彼女を、次元の違う強さに引き上げていた。


「あそこじゃな。

 あまり派手にやって逆に決壊するとマズいからの。どうするか・・・」

物見がいた所から、ごみが堆積している付近まで瞬間移動すると、周りの状況を確認して少し考える。

「上方向に爆発魔法を放って、巻き上げられたのを風魔法で吹き飛ばすとするか」

プランを決めたツェツェーリエは、これまでにない程集中した表情で、川を凝視する。

「あまり魔力量を注ぎ込んではいかんからな・・・3割と半分くらいかの」

そう呟き、前に突き出した両手に徐々に魔力を込めていく。

「弾け飛べいっ!エクスプロージョン!」

魔法語で短く詠唱すると、一拍置いて爆音と共に水面が大爆発を起こす。

「吹き荒れよ!サイクロン!」

間髪入れず今度は大規模な風魔法を詠唱する。

竜巻のような風を起こす魔法だが、ツェツェーリエは巧みにその方向を調整し、大量の水と共に巻き上げられた堆積物を川の向こう側へと吹き飛ばした。

「よし。これでゴミは一掃できたはずだが・・・

 ここからではちょっと遊水地が見えんな。さっきの所に戻るか」


再び物見のいる場所へ戻ったツェツェーリエは、遊水地へと目をやりながら待機していた物見に質問する。

「どうじゃ。水の溜まるペースに変化はあるか?」

「まだはっきりとは分かりませんが、目に見えて増えていた先ほどまでと比べると、確実に遅くはなっています」

「重畳じゃの。おっと、そうじゃ。おーい、ロマーノ!ここでどれくらい様子を見とれば良いかタイチに確認してくれんか」

物見の聴覚はロマーノに共有されたままのはずなので、こうして話し掛ければロマーノに伝わるはずだ。

「はっ、そのようにお伝えします!」

程なく返事が返ってきたようで、物見は真剣に頷きながら聞き漏らすまいと集中する。

「ダレッキオ様からは、1刻程度遊水地の水量を見張り、1割以上増えていなければ一安心、とのことです」

「うむ、承知した。ではそれまでのんびり確認しようかの。

 あー、しかし随分と濡れたの。どれ、まとめて乾かすからもう少しこっちに寄れ」」

「はっ。いや?しかしっ!?」

いきなりツェツェーリエが腕を掴んで引き寄せてきたため狼狽える物見。

「しかしでは無いわい。うん、それで良い。ほれっ!」

パチン、とツェツェーリエが指を鳴らすと、物見とツェツェーリエの髪と衣服が瞬時に乾く。

「よし、後は・・・

 風よ守りとなれ!ウィンドウォール」

柔らかな風の渦が2人を包み込み、雨を弾く。

「うむ、これで濡れることも無いじゃろ。ゆるりと待つとするか」

あまりにも手際のよい雨宿りに、物見はしばし絶句したまま動かなくなってしまった。


ツェツェーリエが堆積物を吹き飛ばしておよそ1時間。

遊水地は多少水量は増えたものの、8割程度から大きく変化はない。

「ふむ。これで一先ずは安心と言ったところじゃな。

 では、ワシはひとまず戻るゆえ、今しばらくここで見張りを頼むぞい。

 ロマーノよ、そっちでまた光球を上げてくれ!」

状況確認を終えたツェツェーリエは、物見越しにロマーノへとお願いをする。

程なくして南側から光球が打ち上がる。

「じゃあの。

 あー、この風の魔法はワシが戻ると消えてしまうんじゃ。すまんの」

「いえ、とんでもございません!!」

そして来た時と同じように、何事も無かったかのようにツェツェーリエの姿が掻き消えた。


「ふぅ、戻ったぞい」

「うお!?ホントに戻って来た!!?」

目の前にツェツェーリエが現れ、狼狽える太一。

「なんじゃ、戻ってきたら悪いのか?」

「いやいやいや、そういうことじゃ無くて・・・

 しかし薄々そうじゃないかなとは思っていましたが、まさか本当に転移のスキルだったとは・・・」

「ふふ、やはり勘付いておったか。そうじゃ、ワシ一人しか無理じゃが、知覚できる範囲へ瞬間移動できるのがワシのスキルじゃな」

ニヤリと笑いながらツェツェーリエが種明かしをする。

ギルド内に神出鬼没で現れるツェツェーリエを何度も見かけていたため、もしやと思ってはいたが当たりであったようだ。


「現役のS級なのも納得ですよ。あの魔法の威力に加えて瞬間移動まで出来るって、反則みたいなもんじゃないですか」

お手上げとばかりに、軽く万歳しながら太一が言う。

「何を言っておるんじゃ!?そんなワシの天敵みたいなスキルを持っておいてからに・・・」

「いやぁ、気付けたからって対処できる訳じゃないですからねぇ」

確かに一度視認出来れば、死角に居ても分かる太一のスキルとは一見相性が悪い。

しかし、太一の言う通り分かったところで対処できるとは限らないし、太一のスキル範囲外へ転移して魔法を打たれたら終わりだ。

「まぁ、ツェツェーリエさんを敵に回すことは無いので、味方としては笑えるくらい頼もしいから良いんですけどね」

「なんじゃ?褒めても何も出んぞ??

 それよりもこれからどうするんじゃ?当面の危機は去ったということで良いのか?」

「そうですね。まぁ想定できる範囲で、ですけど・・・」

「それこそ言い出したらキリがないぞ」

「まぁそうなんですけどね。

 何かイレギュラーがあった時に近場にいた方が対応は早く出来るので、念のため陽が落ちるまでこちらで待機しても良いですか?

 その頃には、雨も上がっているでしょうし、その時間で何も無ければ危機は去ったと見て良いと思います」

「分かった。ロマーノ、お前も残れるか?

 この状況下では、感覚リンクがあると無いとで大違いじゃからな」

「はい、ツェーリ様。儂も残るつもりだったので問題ありません。

 オルランドは戻って状況を城に伝えてくれ」

「承知しました!」

「さて、後少しだ。乗り切って皆で美味い酒を飲むか」

ロマーノの言葉に皆で笑い合い、報告に戻るオルランドを見送る。


そして、遊水地の貯水量は9割に迫りつつもそこからは増えることも無く、夕方となった。

雨は完全に上がり、西の空が嵐の後独特のピンク色をした夕焼けに染め上げられる。

「ふむ。これでひと段落かな。皆のもの、ご苦労だったな。

 これより撤収する!

 まだ足元が悪いし、この後一気に暗くなる。気を付けて戻るぞ」

「「「「はっ!」」」」

一行は、ロマーノの号令で来た道を凱旋する。

暮れ行く森に、文乃の後ろで再び騒ぐ太一の声を響かせながら。

台風後は空気中の湿度が高い状態なので、赤色以外の色が減衰しやすく、ちょっと怪しげなマゼンタっぽい夕焼けになります。

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