◆122話◆ロマーノの加護
太一と文乃がロマーノの執務室へ入ると、ロマーノと息子のオルランド、ピアジオ、王都騎士団を率いて来ているレイバック、
冒険者ギルドのツェツェーリエとヨナーシェスが揃っていた。
「遅くなり申し訳ありません」
「いや、皆今集まった所だ。青玉が上がったのは見たな?」
太一が遅参を詫びるが、問題無いとばかりに早速議題を切り出すロマーノ。
「はい。確認しています。黄玉が上がってすぐ青玉が上がったので、何かトラブルがあったかと・・・
ウチのスカウトも気になることを言っていましたし・・・」
「気になること?」
「黄玉が上がる少し前なんですが、急に遊水地の水嵩が増え始めている、と。
残念ながら私の目でははっきり見えていませんが、彼が嘘をつく意味が無いので、事実なのだと思います」
「なるほどな・・・」
太一の話を聞き、ロマーノは腕を組み瞑目する。
「父上、お力を使うべきかと。タイチ殿の話が事実であるならば、時間がありません」
オルランドの言葉にロマーノは目を瞑ったまま一度眉間の皺を深くすると、ゆっくり目を開いた。
「そうだな。手を拱いておって手遅れになるなどあってはならぬな。
オルランド、ピアジオ、すぐ出るぞ!」
「「はっ!!」」
ロマーノの言葉にオルランドとピアジオが短く返事をし、足早に執務室を出ていった。
何をするつもりなのか分からずポカンとしている太一と文乃に気付き、ロマーノが口を開く。
「儂が加護持ちであることは話したな?
ここに呼んだ者は、太一と文乃を除き、どんなスキルなのかも含めて知っておる者達だ。
オルランドの言ったように、そのスキルを使うかどうかを相談しようと思ってな」
「ロマーノ様のスキル・・・」
「ああ。まぁすでに使うことにしたから事後報告だがな」
ふっと笑い後を続ける。
「儂のスキルはな、感覚リンクと言う。
距離や人数に制限はあるが、指定した人間の視覚・聴覚を共有できる」
「視覚、聴覚を共有!?それは遠くにいる人間の見たものをロマーノ様も見られる、ということですか!?」
「左様。加えて共有した者にこちらの意思を伝えることも可能だ」
「なっ・・・!?」
絶句する太一と文乃だったが無理もない。とんでもないスキルだ。
通信技術が発達していないこの世界において、遠距離をリアルタイムで正確に情報伝達できるのは反則だ。まさにチートだ。
「距離制限もあり人数も少ないから万能では無いがな・・・
おかげで、素早く戦術を考え伝えられるから戦向きではある。
それで、だ」
驚く2人を落ち着かせるようにゆっくり語るロマーノ。
「物見の1名と感覚リンクしているのだが、距離が遠くて届かん。
最低でも20メルトル程、北へ行く必要がある。
おそらく物見の方も、状況を伝えるべくこちらに向かっているはずだ。
なので、儂もオルランドと共にすぐ発つつもりだ。
聞いた情報を元にその場で対応を決める必要があるのでな、タイチとアヤノにも付いてきて貰いたい。
問題無いか?」
「はい。もちろん大丈夫です」
「良し。2人とも馬は乗れるか?」
「問題ありません」
「・・・常歩くらいなら」
言い切る文乃に対して歯切れの悪い太一。
元々地球で乗馬経験のあった文乃は、空いた時間を見つけては馬に乗る練習をしていた。
高くなっている身体能力も相まって、かなりの腕前になっていたのだ。
軽く溜め息をついて文乃が進言する。
「兄は私が乗せていきます。
ヨナーシェスさんがいるということは、今回は我々にスキルをかけるということですよね?」
「ええ。そのほうが早いですからね」
「くっくっく、タイチよ、この一件が片付いたら馬に乗る練習をしておくのだな」
「・・・返す言葉もございません」
楽しそうに言うロマーノに太一は苦笑するしかない。
「ツェーリ様もお付き合いいただき申し訳無い」
「何、気にするな。かわいい弟子の窮地じゃ。助けるのが当然というものよ。
それに、場合によってはワシの力も必要になるかもしれんしのぅ」
「ツェツェーリエさんのスキル・・・」
「ふふ。気になるか?
まぁ必要になったら嫌でも見られる。出し惜しみはせんからな」
思わず呟いた太一に、パチリとウィンクしながらツェツェーリエが答えた。
「よし、では行くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
ロマーノの号令に、一同は気合の入った表情で部屋を後にした。
ダレッカを出た太一達は、辛うじて馬が二頭並んで走れる程度の森の中の小道を北上していた。
工事後に馬車で移動してきた街道ではなく、ダレッカの騎士団しか知らない裏道だ。
小降りになってきたとは言え、まだ雨が降りしきる中、太一は必死に文乃の背中にしがみ付いていた。
「ももも、もう、ちょっと、穏やか、に、でで出来ません、か、ねぇ」
「無理言わないで。それより舌噛むわよっ!!」
ただでさえ悪路な上、ヨナーシェスのスキルで体重が軽くなっており、馬の速度も速い。
自身で手綱を握っていない太一には、馬と一体になる事も難しく揺れるに任せるしかない。
しかしながら、大分上達したとは言え雨の中の悪路など走った事のない文乃にそんな余裕などなく、太一の願いが聞き入れられることは無かった。
一時間ほど駆けたころ、先頭をいくロマーノが速度を落とすようハンドサインを出した。
「音が繋がるようになってきた。もう少し常歩で進んで、休憩出来そうなスペースがあったら馬を休めて待機する」
ロマーノのスキルは、聴覚の方が視覚よりも共有できる距離が長いらしい。
裏道に所々設けられている、小さな広場のようになった場所まで常歩で進み、視覚が繋がるまで休憩となった。
水を飲み、馬にもツェツェーリエが当たり前のように魔法で生み出した水を与えながら10分ほど休憩していると、ロマーノが不意に立ち上がる。
「来たか・・っ!」
どうやら視覚のリンクも有効距離に入ったようだ。見守る一同にも緊張が走る。
「まだ少し途切れるが・・・よし、声も繋がった。
ロマーノだ!疲れているところスマンが、状況の報告を!!」
こちらからの声の伝達も出来るようになったらしく、ロマーノの指示が飛ぶ。
しばし沈黙が流れる。
「なにっ!?本流側が??その場所を目視することは出来るか?
・・・構わん。最優先事項だ。ああ、大至急頼むっ!」
状況を聞いたのか、ロマーノの口調が厳しいものに変わった。
「どうやら支流との合流点から少し下ったところで、川がかなり堰き止められているらしい。
そのせいで、支流側から思ったように水が流れず、どんどん増水しとるそうだ。
現場を目視できるよう、視線上の木を切り木に登ってもらっておる」
「やはり上流から流れてくるゴミが溜まり始めましたか・・・」
当初より、懸念はしていた状況だった。
風が強い以上、どうしても折れたり吹き飛ばされた木々が川へと流れ込む。
合流地点付近は、それが一気に流れ込んでくるため滞留しやすいのだ。
「むぅ・・・これは酷いな」
15分ほど待っていると、リンク先の騎士の準備が終わったのかロマーノが声を漏らす。
「合流点から2メルトルほど下流で、7割方堰き止められておる。
最初見た時は6割くらいだったようだがら、現在も増えていっておるな・・・」
「遊水地側はどうですか?」
「8割弱、と言ったところのようだ。ここ2刻で一気に増えておる」
「・・・持ちませんね、このままでは。
そのゴミが溜まってる所まで、ここからどれくらいですか?」
「10メルトル、と言ったところだな。ただ、抜け道すら繋がっておらんから、馬では無理だ」
「く・・・。それだとかなり時間が掛かりますね」
歯噛みする太一。足場の悪い森の中を10メルトル行くのでは、どう急いでも3時間はかかる距離だ。
「ふむ。なぁタイチよ、その溜まっとるゴミを何とかすれば持つのか?」
渋い顔の太一に、ツェツェーリエが声を掛ける。
「保証は無いですが、少なくとも取り除かないと、あと数時間も持ちません・・・」
「分かった。
ロマーノよ、その現地に近い物見は光魔法が使えるか?」
「はい。使えます」
「よし、今すぐ目一杯の明るさで真上に光弾を上げるよう伝えるんじゃ」
ギルマスの要望に目を見開くロマーノ。
「まさかっ!?」
「ああ。目印が欲しいのでな」
ニヤリと笑ってツェツェーリエが答える。
「了解しました!
おい、今すぐ最大光量で真上に光弾を打てっ!理由は後で伝えるっ!!」
ロマーノが伝えた数秒後、北西方向に光が打ち上がった。
「あそこか・・・。
よし、じゃあちょっと行ってくるかの。皆はしばし待っておれ」
「ツェツェーリエさん、一体何を?」
「なに、ワシの加護でな。ちょっとした手品みたいなものよ。まぁ、見ておれ」
パチリとウィンクをすると、ツェツェーリエは徐々に光が弱くなっていく光球を鋭く睨む。
身体が淡く光ったような気がした次の瞬間、跡形もなくその姿が消え去っていた。
ロマーノの加護もだいぶチートですね
個人戦ではなく組織戦において真価を発揮するタイプ