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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆121話◆青玉

陽が落ちる頃に強さを増した風雨は、治まる気配も見せず夜半を迎えようとしていた。

分厚い石造りの城の中に居ても、叩きつける雨音がはっきり聞こえる。

太一達のいる塔の最上階は周りに遮蔽物も無いため、吹き荒れる風が轟音となって押し寄せ、より不安を煽る。


「しっかしすげぇ風と雨だな!!一瞬これくらい降ることはあるけど、この勢いでずっと降るなんてのは初めてだ!!」

「雨と風だけなのに、なんか怖いくらいですよね!!」

小さく空いた窓から外を見ながらワルターとレイアが顔をしかめる。

嵐の音が酷いため、2人とも怒鳴るような口調だ。

今夜は夜を徹して警戒に当たるため、夕食後から二人一組で交代制で見張りをすることになっている。

その一組目がワルター・レイア組で、間もなく交代のタイミングだ。


「やれやれ、酷い音だね。ロクに寝れやしない」

「うむ。川の中に居るようだ・・・」

次の見張りであるタバサとモルガンが、やや疲れた顔で寝室から出て来た。

音がうるさい上、気が張っている事もあり、中々寝付けなかったのだろう。

「特に変わりはないかい?」

「ああ。定期報告も白玉1だ。

 まぁ変わらずこの嵐、ってのは逆に変わってほしいところだがよ・・・」

「違いないね。あれからずっとこの降り方なのかい?」

「ああ。波すらねぇな。まるで滝ん中だぜ」

「やれやれだね。1週間前、タイチに話を聞いた時には半信半疑だったけど、これを見せられるとね・・・

 急いで動いて良かったよ、まったく」

「ホントですよね。こんな降り方するなんて、絶対思わないですもん」

「後は、俺たちの頑張りが役に立ってくれるよう祈るしかねぇな。

 ふぁぁぁ・・・さぁって、んじゃあ見張りよろしく。何かあったら起こしてくれや」

「ああ、任せな」

「タバサさん、モルガンさんお休みなさい!」


「ん?ついに白玉が2発になったね・・・」

ワルター達から交代して3刻ほど。地球であれば丑三つ時の定期連絡が、ついに白玉1つから2つへと変わった。

「タイチの話だと、ここから緑1発までの時間が大事だと言っていたな」

「そうだね。一気に水が増えるのかそうじゃ無いのかで、状況が違うとか言ってたね」

「白2からは報告の間隔も短くなる。より注意しよう」

水位が急激に上昇し始めると、一気に水が溢れ出すことが多い。

逆に下流の水位が一時的に減少した後に土石流が襲って来ることもある。

様々な要因が絡むので、これまでと違う動きがあった時は注意が必要なのだ。

基本待つしかないという緊張感の中、その後しばらく白玉2つの報告が続いた。


「じゃあ、白玉2になってから4回連続で白玉2が続いてる感じか」

「ああ。間隔が短くなってからはずっと白2だね」

交代のため起きてきた太一が、タバサと引き継ぎを行っている。

おおよそ半刻に1回くらいのペースで今は報告が上がっているので、白2になってから2時間程度が経過したことになる。

厚い雲に覆われているが、そろそろ空も薄明るくなってきている。

「一気に来るような感じは今のところ無いか・・・。

 ありがとう。万一の場合は土魔法で壁を作って貰ったりするかもしれないから、よろしく頼む」

「やれやれ、年寄り使いが荒いねぇ、ウチのリーダーは。

 まぁ何かあったら死ぬ気でやるから、遠慮せずいつでも声を掛けな」

ひらひらと手を振りながら、タバサが部屋を出て行った。


「っ!緑玉が上がったか」

タバサと交代してからも2回は白玉2の報告だったが、3回目についに緑玉1が上がった。すでに周りはだいぶ明るくなっている。

依然として風雨は強く、半日以上続いているものの、やや弱まって来たかと思った矢先だった。

「予定だと嵐のピークは過ぎてるが、川の増水はここからがピークだな・・・持ってくれるといいが」

定期的に加護による天気確認をしながら太一が独り言ちる。

現在から近い時間ほど、予定の粒度が細かくなる。あと半日もすれば完全に嵐は過ぎるようだ。

しかし、一緒に見ることがある水害のビジョンは、最近は見ていない。

そもそも毎回ビジョンが浮かぶ訳でも無いし、浮かんだとしても毎回違うシーンだ。

最初に見えたビジョンがダレッカだったのが、逆に奇跡に近いのかもしれない。


緑玉が上がっているのは、居城の他の部屋からも当然見えている。

オルランドを始めとして、アルベルトやフィオレンティーナまで、わざわざこちらに足を運んでは話をして帰っていった。

見守るしかない状況のまま時間は過ぎていく中、報告は緑2が続いている。

陽も完全に上り、徐々に雨も弱まってきているため、うっすらと貯水池の様子が見えるようになってきた。

「おー、リーダーの予想通り、水が溜まってるな」

「凄いですね・・・まるで湖みたい」

寝ていたメンバーも起きて来て、食い入るように貯水池の方を見つめている。

「このままなら、何とか持ちそうなペースかしら?」

「谷合いでどの程度降ったか次第だけど、増水量から逆算すると何とかって感じだな」

太一と文乃も遊水地を見ながら予測する。


しばらく見ていると、目の良いワルターが最初にそれに気付いた。

「あん?なんか急に水の量が増えてねぇか??」

「そうかい?あたしの目にはちょっと分からないね・・・」

「確かに、増えているような増えていないような??」

ワルター以外には、まだその違いが分からない。

ああだこうだ話をしていると、黄色玉が1発上がった。

「っ!!」

全員が息を飲む。

「ワルターの言う通りだったみたいだな・・・急に水嵩が増えてる。

 なんだ?何が起きてる??」

緊張感が急速に高まる中、唐突に青玉が上がった。

「青玉!?やっぱり何か起きてるのか・・・?」

そんな中、ノックの音が飛び込んでくる。訪ねて来たのはノルベルトだった。

「タイチ様、アヤノ様。主がお呼びです。急ぎ来ていただきたいとのこと」

「分かりました!直ぐに向かいます!!皆すまん、ちょっと行ってくる!」

「おう!何かあったら呼んでくれ!俺らもいつでも出られるよう準備しとく」

「頼んだ!」

そう言うと、太一と文乃は足早に塔を後にした。

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