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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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◆120話◆ダレッカ

ブックマーク、評価ありがとうございます!

作戦部隊は、遊水地から半日ほどかけてダレッカの街へ辿り着いた。

氾濫する可能性が高い現地に残る訳には行かず、さりとてレンベックへ戻っても途中で大嵐に見舞われる。

嵐が去った後の遊水池の確認作業もあるため、嵐が過ぎ去るまでダレッカに駐屯することにしていたのだ。


ダレッカの街は、遊水地の現場ともまた違う喧噪に包まれていた。

「念のため、持ち運べる大切な物だけ運んでください!」

「荷物は1人が身に付けて運べる量までです!」

「こらっ!!しっかり並ばんか!!子供がちゃんと並んでるんだぞっ!!!」

街のそこかしこから、指示を出す騎士の声が聞こえてくる。

今ダレッカの街は、来るべき嵐に備えて、高台へ避難する真っ最中だった。


近隣住民をひとまとめにしたグループを作り、大通りの脇にグループ単位で集まってから、騎士の指示に従い高台へと向かっていた。

高台は、領主の居城を始めとしたパブリックな施設が集まっている。

そこにある、騎士団の演習場と教会、そして居城の一部が住民の主な避難先となる。

体力のある者は演習場に設けられた野営スペースに、子供や老人は確実に風雨が凌げる教会へ、病気やケガをしている者は最も安全な城内に分かれての避難だ。

作戦部隊もただ避難しただけではない。

王都の騎士団はダレッカ騎士団と共に街の警らにあたり、冒険者組は交代で河川や周辺状況の監視、避難所のサポートに当たっていた。


そんな中、太一達フローターズはダレッキオ辺境伯の居城内へ案内されていた。

そもそも太一と文乃はダレッキオ家の一門と同等なので、知り合いを連れて帰宅したような状況だ。

フローターズの面々は軽く汚れを落としてから、ラウンジのような場所へと通される。

応接室程畏まっておらず、ダイニングほどプライベートではない。ノルベルトによれば親しい知人を招くための部屋だそうだ。

部屋には、太一を含めたフローターズの一団とロマーノ、長男のオルランド、ダレッキオ家騎士団副団長のアルベルト、そしてツェツェーリエがいた。

太一と文乃にとっては最早慣れた面々だが、他のフローターズのメンバーにとってはお偉い様のオンパレードだ。緊張で完全に表情が固まっている。

「まずはあらためて礼を言う。想像以上のものが出来ていて正直驚いた。あれだけのものがあれば、そうそう洪水も起きまい」

「ありがとうございます。ですが、礼を言われるにはまだ早すぎます。ひとまずやれることはやり切りましたが、試し無しのぶっつけ本番ですからね・・・

 上手くいくかどうかは、嵐が過ぎ去ってみないと何とも・・・」

ロマーノからの労いにも、太一の表情は冴えない。

「効果の有無は結果論に過ぎん。そもそも確実に防げるのであれば、それはもはや災害でも何でもない。

 皆が、ダレッカの為にあそこまでのものを造ってくれたこと、その温情こそがありがたいのだ」

「その通りじゃ。ある程度予見出来ただけでも僥倖。この先どうなるかは神のみぞ知る、じゃ。

 それより、あの規模の治水工事を僅か4日足らずで終わらせたことを誇るべきじゃな」

「あの速さは、私も想定外でしたよ、流石に・・・

 魔法を使えばある程度効率が上がる確信はありましたが、想像の倍以上でしたね」

ツェツェーリエの言葉に太一が苦笑して答える。


「それで、この後タイチ達はどうするのだ?」

「ここまで来たら後は待つしかないですね・・・

 谷の上に何箇所か物見の方を残していますので、そこからの定点報告を受けながら嵐が過ぎるのを待ちます」

「分かった。であればタイチ達は東側の塔を使え。

 元々離れとして独立して使えるように作られているからな。水場もあるし部屋数もある。

 何より、最上階からは遊水地側が見渡せる。連絡の光魔法も見やすかろう」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、我々で使わせていただきます」

「ああ。嵐が来るのは今日の夜からだ。まずは体を休めよ。

 夕飯はそっちに持って行かせよう」

「助かります。それでは一旦失礼いたします」

メンバーたちの緊張が限界を迎えそうだったので、この辺りで撤退することにし、太一達は東の塔へと向かった。


塔の最上階からは、確かに遊水地が良く見えた。

馬車で半日程度の距離はあるものの、規模が大きいため十分目視できる。

最上階は、ワンフロア丸々ゲストルームという作りだった。

大きな主寝室が1つに普通サイズの寝室が4つ。リビングもかなり広く、簡易なキッチンまで付いている。

「はーー、リーダーが貴族の一員だって事を、あらためて実感したぜ・・・」

「ほんとですねー。私、こんな近くで貴族の人と会ったの初めてですよ?」

「まぁおかげでこんな良い所に泊まれるんだ。

 他の連中には悪いけど、役得だと思っておこうじゃないか」

緊張感から解放されたメンバーたちは、今は皆リビングに集まり思い思いの格好で寛いでいた。


「してタイチよ。お前の見立てでは、いつくらいからが危ないと見ておるのじゃ?」

なぜか太一達と同行を決め込んでいるツェツェーリエが質問する。

「そうですね・・・この辺りが本格的に嵐になるのが今夜から。明日の朝までは特に動きは無いと思います。

 明日の午後から水嵩が一気に増え出すんじゃないかと」

「ふむ。事が起こるとしたらその辺りからか」

「おそらく。

 明日の夕方には嵐が通り抜けるはずなので、明日一杯持てば、まず大丈夫だと見てます」

「分かった。冒険者たちにもその旨伝えておこう。

 まぁ伝えたところで、今から出来ることはほとんど何も無いがな・・・

 ちょっと出てくる。夕方には戻る」

そう言い残してツェツェーリエが部屋を後にした。

「リーダー、普通にギルマスと話してましたねー」

「おう。ある意味王様よりおっかねぇのがギルマスだからな。ホント、ウチのリーダーは頼りになるわ」

「・・・・・・」

ソファに完全に寝転がったレイアとワルターの軽口は、ツェツェーリエが戻ってくるまで続いた。


午後から徐々に風が強くなってきたかと思うと、夕方頃からついに雨が降り出し、ツェツェーリエが戻ってきた頃には土砂降りになっていた。

「いよいよ本格的に降ってきおったか」

外を睨みながらツェツェーリエが呟く。

「ええ。今のところ物見からの定期連絡も白玉1でした」

「うむ。まぁ現段階で何か起きてもらっては困るがの」

物見からの定期連絡は、光弾の魔法で行われている。

何色か色の違う光弾を使い分けられると聞いたので、色と数でパターンを作ることにした。

ちなみに白玉1というのは、ノーマルの白い光弾1発で、万事異常無し、という意味だ。

これが白い光弾が2発上がると支流が間もなく溢れる状況だ。そして緑が1発で遊水地への流入を確認、2発だと半分以下の貯水率と続く。

さらに黄色1発で半分以上、2発で9割の危険な領域を示し、溢れると赤の光弾となる。

また想定外の事態が起こった場合は青色だ。


そして日が完全に落ちた頃からさらに雨脚と風が強まり、ついには会話が聞こえないほどの暴風雨となった。

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