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◆12話◆待ち人帰らず

(遅い、わね。さすがに何らかのイレギュラーがあったと思って間違いないでしょうね。

まぁ伊藤さんの事だから、驚かすためにわざと帰って来ないと言う線も捨てきれないけど、この状況でそれをやるほど空気が読めないとは思えないし・・・)

魔法陣の部屋で1時間ほど待った後、無駄とは知りながら後を追おうと魔法陣に入ってみたものの、やはり薄っすらと光るだけで転送はされなかった文乃は、このままここに居ても仕方が無いと考え、ひとまず生活スペースに戻ってきていた。


(あの魔法陣以外で外に出られない以上、これ以上迂闊に動く訳にもいかないわね。

 命に係わるようなトラブルで無い事を祈りつつ、待つしかないか・・・)

選択肢が他にある訳でも無いため待つことを決める文乃だが、何もせず待つのもあまりにも時間が勿体ないため、太一が帰って来ない理由のヒントが無いか探すためにも、あらためて文献を漁る事にした。

いつ戻ってきても良いようにと、椅子と寝袋そして何冊かの書物を魔法陣部屋に持ち込むと、まずは研究書に目を通し始める。


(詳しいことはやっぱり分からないけど、召喚には膨大な魔力が必要、か・・・

 まぁそうそう簡単に召喚されたらたまらないから、さもありなんね。

 転送も何も無い所へ呼び出すと言う見方をすれば、召喚と似たようなものだから魔力を大量に消費してもおかしくない。。。

 でも、そもそも魔力と言うのがどういう物なのか良く分かっていないから、たくさんの魔力が必要なことのハードルも分からないのよね。

 うーーん、この本はホント召喚についてしか考察がされてないからこれ以上は無理、か。

 こっちの読めないほうが読めたら、色々分かるんだろうけど。。。ダメね、無いものねだりしちゃ)

軽く頭を振ると、これまでほとんど手を付けていなかった物語に目を通し始める。


しかしダメ元で読み始めた物語は、意外にもヒントの宝庫だった。

(・・・盲点だったわ。物語だからこの世界の事や生活について書かれていて当然じゃない。

 ちょっと考えたら分かるのに、お互い何だかんだでテンパって視野が狭くなっていたのね・・・)

過去の英雄の伝記とも言える各種の物語は、時代こそ違うもののこの世界について描いたものだ。

物語故の脚色はあるだろうが、主人公を取り巻く環境や文化、社会活動などが大きく現実から外れることは無いだろう。

また仲間と共に魔王に挑むと言う物語のストーリー上、魔法に関する記述も度々出てくる。

それを意識して物語を読んでみれば、これまで分からなかった魔法に関する色々な知識を得ることが出来た。


そして何冊か読み進めるうちに、何度か同じようなシチュエーションが出てくるのに気が付く。

(魔力切れ、か・・・)

魔力自体はほとんどの人が持っているとされており、ルールに従いそれをエネルギーや触媒として消費することで、魔法を使う事が出来るそうだ。

持っている魔力が減ると体力と精神力も減っていき、魔力が切れると気を失ってしまう。それを魔力切れと呼ぶようだった。

(転送にも大量の魔力を使うと仮定すると、それで魔力を使い果たして向こうについたは良いけど気を失っている?

 魔力自体は時間と共に自然と回復し、睡眠をとることで大幅に回復するみたいだから、仮に気絶していた場合でも、魔力が回復して目が覚めれば戻ってくるはず。。。)

希望的観測だけどね、と自嘲しつつそう結論付ける。

(そして魔石か・・・)

魔力切れと同じように、度々物語に出てくるのが“魔石”と呼ばれるアイテムだった。


それはその名の通り魔力を秘めた青い宝石で、アクセサリ等に加工して身に着けて魔法を使うことで、

自身の魔力の替わりに魔石の魔力を使うことが出来る便利なものだった。

(絵本だからはっきり分からないけど、このペンダントの石は近い気がするわね)

絵本や物語に出てくる魔石は、どれも菱形で青く光っていると表現されており、遺品のペンダントに埋まっているものは、まさに魔石そのものという見た目だった。

(転送するたびに気を失ってたらあまりに効率が悪いし、召喚にはもっと魔力が必要な訳だから、魔石は持っていて当たり前と考えるべきね)

そうやっていくつかの仮説を立てつつ物語を読み進めたものの、一人で読書をしていると当然睡魔が襲ってくる。

持ち前の精神力で4時間以上読み進めた文乃であったが、ついにその眠気も限界を迎え舟をこぎ始めたかと思うと、手からドサッと本が落ちる。

(!!!っと、いけない、寝てたわ・・・)

慌てて再び読み進めようとしたものの、本から得られる情報はほぼ得たのだし仮眠をとったほうが良いのでは?と思い至る。

(そうね。伊藤さんが戻ってきた後に眠くて行動できない方が困るし、思い切って寝てしまいましょう)

そうして寝袋に入り横になった途端、数秒で意識を手放すのだった。


「んん・・・」

閉じた瞼の下からでも分かる眩しさに、眠っていた文乃が声を上げる。

数秒後“ドサッ”と重たいものが落ちる音がしたことで、文乃は完全に目を覚ました。

慌てて音がした方に目を向けると、光を放つ魔法陣の中に太一が倒れていた。

光は数秒すると収まり、文乃が急いで駆け寄り声をかける。

「!!伊藤さんっ!?」

「う・・・あ、やのさん。た・・・だい、ま・・・」

うつ伏せのままかろうじて声を発した太一だったが、顔からは完全に血の気が引いておりどう見ても尋常ではない。

「大丈夫っ!?無理して喋らなくていいからっ!」

自力では動く事が出来ない太一を魔法陣から引きずり出し、壁にもたれかけさせると、水の入ったカップを口に近づける。

「ほらっ、まずは水飲んで!」

口の端からこぼしながらも、ゆっくりと太一が水を飲んでいることを確認すると、ようやく文乃がほっとした顔を見せた。

「その様子だとしばらく話すのは無理そうだし、まずはゆっくり眠った方がいいわ。眠れば多分、楽になるはずだから」

自身の状況について何か知っていそうな文乃を見て驚く太一だったが、すでに限界が来ておりすぐに意識を手放した。

(どうやら予想通り魔力切れになってたようね・・・)

すぐに泥のように眠り始めた太一に生活部屋から持ってきた毛布を被せると、文乃も再び寝袋に入り静かに目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう時一人で逃げやがったみたいにならないのはいいですね 信頼感と論理性・・・
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