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◆119話◆大規模魔法工法

「ストームカッター!」

午前中の森の中にナタリアの声が響くと、直径2mほどの緑色に輝く大きな魔法陣が現れる。

直後、目に見えない風属性の刃が、強風と共に螺旋状にどんどん広がっていく。

風の刃で切り刻まれ、竜巻状の暴風に巻き上げられた木々が、さらに他の木々を巻き込んでいく。

轟音と共に、人が起こした現象とは思えないような光景が繰り広げられる。

30秒ほどで魔法の効果が切れると、直径100mほどの範囲にあった木々はすべて切られるか圧し折られ、上空から光が差し込んでいた。

「これで5割くらいの力。これ以上魔力を込めてもあまり威力が変わらない。

 だから、これくらいの力で何回か使った方が効率がいい」

ナタリアが説明してくれる。魔力は残っている量が多いほど、回復速度が速い。

残っている魔力の何割、といった回復の仕方をするそうだ。


太一達が到着した翌日。明るくなってから第二陣も加えた本格的な工事が始まっていた。

現在は大きく3グループに分かれて作業にあたっている。

騎士団を中心とする第1グループは、野営地およびダレッカから野営地までの警護だ。

安心して休憩を取れる場所や、人や物資を運ぶルートの安全性確保は非常に重要だ。

第2グループは、昨夜太一が提案した、開拓地の魔物討伐チームだ。

高威力の魔法で、切り開いた場所にいた魔物は一緒に処分されたか逃げ出したかしているため、ほぼ壊滅している。

外から入って来た魔物の内、目立つ個体を間引きつつ、地面を掘り下げた上で土や残骸を外へ外へと運んでいくのが主な任務だ。

そして太一が今同行しているのが第3グループ。開拓地の拡大を行う部隊だ。

太一達が到着した昨夜時点で3x2キロほどだった敷地は、あれから半日ほど経過した今、4x2キロ程度まで広がっている。

恐ろしいほどの速さだ。王都のほぼ全ての高ランク魔法師の集中運用と、ワイアットのハイクオリティポーションによるシナジーは凄まじい。

ここに来て魔法師たちが、作業に慣れ始め効率が上がっているのも、それに拍車をかけているだろう。

日没頃まで作業を続けた結果、敷地は5x2キロほどまで拡大した。


「そろそろ掘る作業に集中しましょう。

 第2グループのおかげで、1/4くらいのエリアを3m位掘り下げることが出来たので、残り3/4を全員で同じくらい掘り下げるのが目標です。

 ただ、今入った情報によると、明後日の夜にはこの辺りも嵐の影響を受けそうです。

 遅くとも明日の夕方には、撤退する必要があるので、それまでにやれるだけやる感じになりますね」

ツェツェーリエを始め、騎士団の隊長や高位冒険者のリーダーなどを集めて夕食を摂りながら太一が説明をする。

そこには、つい先ほどダレッカから駆け付けたロマーノの姿もあった。

「皆、ダレッカの為、力を貸してくれたこと深く感謝する。本当にありがとう」

そう言って深々と頭を下げる。

「ダレッキオ辺境伯閣下、顔をお上げください。そもそも皆、喜んでおるのです。

 閣下に恩返しをすることが、ようやく出来ると。

 それに冒険者たちは割の良い仕事として報酬も期待できます。感謝こそすれど、不満を持つ者などおりませんよ」

騎士団長のレイバックが代表して返答する。他の面々もその通りだと頷いている。

「そうじゃぞ、ロマーノ。

 魔法師なんぞ、ランクが上がってから初めて魔法を全力で使った者ばかりで、大いに感謝されておる。

 それに、魔法を使った工事の有用性が証明されたのも大きい。

 魔法が人の命を奪うのではなく救うのじゃ。魔法師としてこんな嬉しい事は無いわい」

ツェツェーリエからもそんな言葉が飛ぶ。

「忝い。作業は明日の夕方までと聞いている。

 ワシもそのタイミングで一緒にダレッカまで引き上げるが、それまでの時間は作業に加わろうと思う。よろしく頼むぞ」

「ロマーノ様が一緒に作業に加わると知ったら、皆大喜びしますよ、きっと。

 残された時間はあと少し。皆さん、やれることはすべてやりましょう!」

ロマーノの言葉を受けて、太一が場を締めると、おう、もちろん、という力強い返事が皆から返って来た。


そこからタイムリミットまでは、ひたすら地面を掘り下げ、その土砂を調整地の堤防とする作業が行われた。

川に沿うように北東から南西に総延長5km、幅2kmに渡り切り開かれた森が、次々と掘られていく。

ここでは、土や風の魔法、本来は敵を吹き飛ばしたりするスキルなどが大活躍していた。

土魔法であれば、そのまま地面にある土を移動できるので、その作業効率は大型ブルドーザーのそれだ。

C級でも一人で幅50m程はゆうに掘り起こしている。

ツェツェーリエなど、鼻歌交じりで200mほどの幅を一人で掘り起こして皆の度肝を抜いていた。

風魔法使いは、爆発魔法を使う魔法師や同じようなスキルを持った前衛職と組み、爆発で巻き上げた土砂を風魔法で運ぶという運用を編み出していた。

爆発系の前衛スキルは、割とポピュラーなスキルなので、こちらも中々効率が良い。

土砂が運ばれた外周部では、それ以外の冒険者たちがそれを堤防として固めて整形していた。

作業自体はマンパワーだが、E級でも冒険者の筋力や体力は一般人より高い。

それが何百人も集まった上、ワイアットからつい今朝追加提供された身体能力向上させるブースター系ポーションを飲んでいるため、見る見るうちに堤防が出来ていった。


こうして休む間も惜しみ翌日の夕方まで作業を続けた結果、

元々の地表からおよそ3メートル、氾濫が想定される支流の自然堤防上面からは5メートルほどの深さがある、巨大な遊水地が完成した。

総面積1,000ヘクタール、東京ドーム200個分以上の広さと、5,000万立方メートルの貯水容量を持つダレッカ遊水地は、

この世界で初めて大規模魔法工法によって作られた建造物として歴史に名を遺すのだが、今の太一達にそれを知る由は無い。

しばし自分たちの作り上げたものを、万感の思いを込めて上から眺めていたが、嵐は着実に迫ってきている。

見張りとして谷の上に作られた物見に残る者たちを残して、足早にレンベックの街へと一時撤退を開始した。

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