◆117話◆出立とヨナーシェスの加護
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強制依頼組が出立した翌日、今日は推奨依頼組が出立する番だ。
対象がD級以上推奨となっているものの、半引退組含めたベテラン勢がダレッキオ辺境伯のピンチに駆けつけたことで、かなりの人数に膨れ上がっていた。
第一線から退いていても、ある程度動ける者たちだけあって、現役時代にはC級以上だった者が多いのが特徴だ。
そのため、自前の馬車を持ち込んでの参加者が多く、輸送手段を心配していた宰相らは安堵の溜め息を漏らしていた。
数が多く一度に出立すると門も街道も渋滞してしまうので、3班に分けて出発する事になっている。
太一達フローターズは、ファビオとアンナ、タバサが声を掛けたベテラン組の魔法使いらと共に、1班として出立準備を進めている所だった。
そんな出立準備をする1班の冒険者でごった返す大広場でも、ひときわ注目を集めザワついている一角があった。
「う~~ん、これは中々に目立ちますね」
「ですね。でも、宣伝なんでこれくらいでちょうど良いんじゃないですかね?」
中心にあるのは、10台の馬車だった。
それを眺めながら、シモンと太一が会話をしていた。
そう、一昨日ケットシーの鞄とトミー商会共同実施が決まった、ラッピング馬車だ。
分かりやすさを重視して、正式名称は“看板馬車”になった。
それが10台、整然と並んでいる。もちろん全車両、広告が施されており、中々に派手だ。
「よくこの短い日数で看板を描けましたね」
「ええ。職人だけではなく、若い芸術家に声を掛けたんですよ。
ベテランと違って、彼らは活躍の場を求めていますので、こうした新しい取り組みにも積極的です」
「なるほど、それは上手いやり方ですね。やはりシモンさんに頼んで正解でしたよ」
そんな二人から少し離れたところで、馬車を見て喜んでいる一団がいた。
「うんうん、素晴らしいわ!んふふふ、さすがタイチね」
「ああ、こりゃすげぇな。しかもこれが走るってんだろ?思ってた以上に目立つな」
「全くだよ。馬車に看板を載せないか、って言われたときは何言ってんだいって思ったけどねぇ・・・」
ベティーナ、ラルフ、エミリアの仲良し三人組だ。太一達が真っ先に話を持って行った先でもある。
街に来て以来何かと世話になっているので、初回は無料で掲載している。
「アタシの店は奥まったとこにあるからねぇ。こうやって簡単な地図を書いてもらえると助かるわぁ」
「だなぁ。これで間違いなく客足も増えるだろ。
俺んとこも、酒樽の絵を描いてもらってるから、何の店かすぐ分かるしありがてぇ」
「わたしのとこもだよ。“秘伝のタレで焼き上げる名物串焼き!”って背中が痒くなるねぇ」
初挑戦ということもあり、今回は色々なチャレンジも同時に行っている。
広告そのものの工夫もその一つだ。
地図を入れたり、イメージイラストを入れたり、キャッチコピーを入れたり。
現代日本ではどれも当たり前のものだが、エリシウムではあまり見かけないので、効果検証を兼ねている。
そして、それを最も色濃く反映させている看板はと言うと・・・
「わーーい!これ、私の顔だよね!?すごいっ!!
おねぇちゃんありがとう!!」
「ふふ、いつも頑張ってお手伝いしてるからね。そのご褒美よ」
一台の馬車の前で大喜びしているリーゼと、それを嬉しそうに見ている文乃。
その横で看板を凝視したまま固まっているのは父親のドミニクだ。
その看板には、こう描いてあった。
“看板娘がお出迎え!絶品料理が自慢の宿! 黒猫のスプーン亭”
そしてその横には、満面の笑顔で手を振るリーゼと思しき人物のイラストが描かれている。
「・・・・・・。絶品料理とはありがてぇが、リーゼが看板娘ってぇのはなぁ」
渋い顔でそう呟くドミニク。
「あっはっは。いいじゃないか、可愛く描いてもらえたんだから。文句言ったら天罰くらうよ?
いやぁ、これでリーゼもモテちまうねぇ。旦那選びが楽になってありがたいね」
「なっ・・・!!リーゼは誰にもやらんぞっ!!」
心底楽しそうに言うテレーゼにドミニクが食って掛かる。今日も平常運転だ。
ともかく、看板馬車のファーストインプレッションは広告主にも良好なようで、太一はホッと胸を撫で下ろした。
そうやっている間に、1班の出立時間となる。
全員が馬車での移動となるため、馬車単位で入り口でチェックを受けて出ていく形だ。
大門では、警備隊がキビキビとチェックを進めていた。
隊長のシュミットが太一達を見つけて声を掛けて来た。
「よう、タイチ。いよいよ出発か?」
「シュミット隊長、お疲れ様です。ええ、行ってきますよ」
「そうか。ちらっと小耳に挟んだんだが、今回の作戦実施にはタイチも協力してるんだろ?
ダレッキオ様は、俺らみたいな兵士にとっちゃ英雄だ。
俺らも一緒に行きたいが、街を空ける訳にもいかない。俺たちの分まで、よろしく頼むぜ」
隊長クラスには、ある程度事の次第が共有されているのだろうか?前半部分は小さな声で、シュミットが太一に己の思いを託す。
「ええ、私にとっても恩人ですからね。やれるだけやってきますよ!」
握手を交わして馬車を進めていくと、大門の手前に珍しい人物が忙し気に動いていた。
「あれ?ヨナーシェスさんじゃないですか。今日一緒に行きますよね?何でこんな所に??」
「ああ、タイチさん。ええ、私も最後尾の馬車でついて行きますが、ちょっとした確認作業をしてましてね」
「確認作業?」
ヨナーシェスはそう言うと、太一の乗る馬車をポンポンと軽く叩く。
「うん、これで良し」
「??」
良く分からない、というのが顔に出ていたのか、ヨナーシェスが太一に耳打ちをする。
「私の加護で、ちょっとしたおまじないをしているんですよ。
私のスキルは、触れた物の重さを1/10から10倍に変えることが出来るというものです。
今回は、馬車の重さを半分に、飼葉の重さを1/10にしています。
そうすれば、馬の疲労も少なく、通常より3割以上早く到着できますからね。
効果は半日くらいしか持たないので、同行して休憩の度に掛け直す予定です。
第一陣は、台数も少ないので途中で頻繁に馬を替えられますが、こちらは台数が多いですからね。
馬を替えるのも限度があります。そこで私の出番という訳ですよ。
ホントは乗ってる人も含めて軽くしたいところですが、私の加護がバレてしまいますからね。
まぁやれる範囲でというところですよ。
あ、私の加護については、くれぐれもご内密にお願いしますよ?」
そう言ってパチリとウィンクをすると、足早に次の馬車へと向かって行った。
重さを変えるスキル。今の話を聞く限り一度かければ解除しない限り半日はそのまま維持されるようだ。
しかも今日の馬車全てにそれを施す気だということは、数量の制限もほとんど無いのだろう。
最初がどうだったのかは分からないが、現時点では非常に強力なスキルだ。
今回のような行軍や流通には、とんでもない効力を発揮する。
航続距離と速度が、ほぼノーリスクで飛躍的に向上するのだから、とんでもない話だ。
また、戦闘においても非常に強力なスキルだ。
例えば、味方の重さを軽くすれば、その分速く動けるようになる。
あまり軽くし過ぎるとギャップで逆効果だが、1~2割であればメリットの方が大きいだろう。
逆に敵の重さを10倍にしてやれば、ほとんどの生き物は動くこともままならなくなるだろう。
触れるという行動がリスキーだが、逆に言えば触れさえすれば問答無用で無力化できるのだ。
他にも、自身の武器を振っている時は軽くし、当てた瞬間に重くすれば、速さと威力を両立させることが出来る。
もちろん練習は必要だろうが、慣れればヨナーシェスだけのとんでもない攻撃スタイルになる。
「・・・・・・」
さすが冒険者ギルドのサブマスターなだけあるな、と思いながら、笑顔で次々と馬車を軽くしているであろうヨナーシェスを見やる。
ただの加護マニアでは無いと思っていたが、それどころの話ではない超強力な戦力だった。
そんなヨナーシェスの地味ながらチートなサポートの甲斐あって、道中何度か魔物との遭遇戦はあったものの、予定通り二日後の深夜、第二陣も現地に辿り着いた。
そして、その現地の状況に、全員の目が点になるのだった。
やはりギルドの上層部は強キャラじゃないと!!




