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◆114話◆トミー商会

ダレッカの危機が一夜にしてレンベックの街を駆け巡った翌日、人々の反応はそれぞれだった。

冒険者は、強制依頼組はもちろん、そうではない者も偉大な先輩冒険者を助けるべく、続々とギルドに集まっていた。

知り合いの冒険者と馬車の都合を調整したり、長期遠征に備えて食料や備品を揃えたりと調整に大わらわだ。


冒険者では無い住民たちも、救国の英雄の助けに少しでもなれるよう、自分たちに出来ることを模索していた。

知り合いの冒険者に安く物資を提供したり、保存食を無料で配る姿があちこちで見られた。


また、貴族の動きも劇的だった。

国王からのお触れには、寄付や資材の供与に関しては何も書かれていなかったため、王令あるまでは静観するつもりだっただろう。

しかしその直後、宰相でもあるバルツァー侯爵家、騎士団団長であるライカールト伯爵家が、ダレッキオ辺境伯家と共に全面協力を宣言。

金銭的な寄付はもちろん、王都で自家が所有する馬車の7割の提供と、備蓄している食料およびポーション類の供与を発表した。

それに呼応する形で、辺境伯も所属する西方派閥の貴族達が一斉に協力を宣言。

寄付金に加え、道中に領地を持つ貴族からは、移動の際の替えの馬を無償提供することと、休憩場所の一切も無償提供すると発表された。


それを見て国王も動く。

協力の謝礼として現地に石碑を立て名前を刻み、その家の名は美談として王国全土へ公表する、と非公式かつ内々のみに通達が出されたのだ。

通達を受けた貴族達の行動は早かった。

我も我もと、寄付と王都別邸で所持する馬車や資材の供与を申し出る。

結果、自領が凶作などで苦境に落ち入ってそれどころではない所を除き、ほとんどの貴族家が今朝までに協力を表明するに至った。

良くも悪くも流石に貴族、機を見るに敏だ。


対して動きが鈍いのが大規模な商人たちだった。

王家御用達である一部の商会を除き、今の所ほとんどノーリアクションだ。

懇意にしている貴族経由で、状況は聞いているはずだが動きが無い。

恐らくライバル商会の動向を見ながら、水面下では攻防が繰り広げられているのであろう。

余剰資金があるのに、新たな利益を呼ぶ話以外に無駄金を使おうとしない辺りが、大商人たる所以かもしれない。


そんな中、早くも騎士団の先遣隊が結成され出立すると言う。

王城前に集結した彼らを一目見ようと、広場は人でごった返していた。

先頭に立って取り仕切っているのは、もちろん騎士団長のレイバックだ。

太一も、準備の手伝いとして狩り出されていた。ロマーノも顔を出している。


「すでに国王様の通達で聞き及んでいると思うが、近日中に大嵐が来ることが判明した。

 専門家の分析によると、ザムール川が溢れ、ダレッカに甚大な被害をもたらす可能性が極めて高い。

 ダレッカは国境を守る要衝というだけでなく、我が国を幾度と救ってくれたダレッキオ辺境伯閣下のお膝元だ。

 今度は、我々がお助けして恩返しする番だ!違うか!?」

レイバックの出発前の訓示に「そうだ!!」「今度は我々の番だ!!」と、居並ぶ騎士や集まっている市民から声が上がり、士気が上がっていく。

「これから出立する諸君らは、その先鞭だ!

 その働きは、ダレッカの、ひいてはこの国を救うための重要な任務となろう。

 諸君らの大いなる働きを確信している!!

 先遣隊、出立せよ!!!」

「「「「「「おうっ!!!!!」」」」」

居並ぶ騎士が敬礼と共に鬨を上げると、観客のボルテージも上がり「うぉぉぉ」という歓声が広場を包んだ。


そこから一団は、それぞれ馬と馬車に乗り込み、西門へ向けて大通りを進んでいく。

道すがらも沿道には見送る人々が集っていた。

口々に「頑張ってくれ!」「いってらっしゃい!」「頼んだぞ!」と声を掛ける。

それは、先遣隊が全て西門から出ていくまで続いた。


先遣隊が出立した翌日、太一は文乃と共にダレッキオ家の馬車に揺られていた。

当然のように、ノルベルトも同行している。

行先は、トミー商会のレンベック支店だ。

支店とは言え、王国支部の基幹店なのでかなりの規模だとノルベルトが教えてくれた。


「ありがとうございます。

 ところでノルベルトさん、いつも私に同行していただいていますが、本業の方は大丈夫なんですか?

 いや、もちろん同行していただけるのは、非常に助かっているんですが・・・」

これまでも今も、当然のように同行してくれるノルベルトに、かねてよりの疑問をぶつけてみた。

本業は家令なのだ。いくら身内の恩人だからと言って、従者のように扱って良い訳では無いのだ。


「ご配慮ありがとうございます。ですが、ご心配には及びません。

 タイチ様の秘書としての業務が最優先であると、主人からも仰せつかっております。

 むしろ今は、こちらが本業でございますよ」

ニコリと微笑みながら、さらっと爆弾発言が飛び出した。

何ということか。知らない内に超有能な秘書が出来ていたのだ。

「・・・・・・。それは、何とも・・・いやはや、有難いお話で恐縮です」

「・・・」

引きつった笑みを浮かべる太一を見て、文乃が「まったく」と小さく溜め息を零した。


驚愕の事実に放心しているうちに、馬車は目的地へと辿り着いた。

窓からチラリと見えたが、噂に違わぬ大きな店舗だ。

専用の馬車停めへと案内され、馬車を降りると、3名の男女が出迎えてくれた。

先日も話をしたノアとミカエル、それともう一人は見たことのない黒髪の壮年男性だった。

「いらっしゃいませ、イトウ様」

「こちらこそ、わざわざお出迎えありがとうございます。ロイスナー様。

 紹介します、こちらが先日お伝えした妹の文乃です」

「ロイスナー様、お初にお目に掛かります。

 タイチの妹、アヤノ・シノノメです。この度は私の我儘をお聞き入れ頂きありがとうございます」

太一の紹介に、文乃がお礼と共に深々とお辞儀をする。

「初めましてシノノメ様。

 当商会の初代について学ばれているとのこと、非常に嬉しく思います。

 こちらこそ、よろしくお願いいたしますね」

ノアもそれに対して笑顔で答えた。


「私からも、1名ご紹介させていただきます。

 トミー商会レンベック支部長のシモンです」

「イトウ様、シノノメ様、お初にお目に掛かります。

 トミー商会レンベック支部長のシモン・トミーと申します。

 ようこそ、当商会へ」

今、トミーと言ったか?少し驚きながら太一と文乃も挨拶を返す。

「初めましてトミー様。タイチ・イトウです。本日は、急な来訪を歓迎頂きありがとうございます」

「初めましてトミー様。アヤノ・シノノメです。よろしくお願いいたします」

「時に、トミー様。不躾な質問で恐縮ですが、トミー様は初代ユーリ・トミー様とご血縁の方でしょうか?」

流石にスルーすることは出来ずに、思わず尋ねる太一。

「はい。お恥ずかしながら、直系の子孫に当たります。次男坊なので、当主ではありませんが。

 本日は私の祖先について伺いたいとのことでしたので、無理を言って参加させてもらいました」

少々はにかみながら、シモンが答えた。

思わぬところで、召喚者と思われる人物の子孫との対面を果たすことになってしまった。

トミー商会との接触は、当初掲げた短期目標ではあったが、いきなり子孫と、それも直系の子孫とは・・・

「それでは応接室までご案内します。どうぞこちらへ」

内心2人が驚いていることを知ってか知らずか、シモンが建物内へと案内してくれた。

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