◆113話◆広告屋
太一は、褒賞授与と宰相らとの面会を終えると、その足でギルドに向かった。
冒険者ギルドと、S級冒険者としてのツェツェーリエ本人に協力を取り付けるためだ。
幸いツェツェーリエもヨナーシェスもギルドに居り、スムーズに協力を取り付けることが出来た。
2人には、今後の事も考えて天啓では無く天気を予測できるスキルが生えたとも伝えたところ、
ヨナーシェスのテンションが爆上がりになり、ツェツェーリエに窘められる様式美が見られた。
なお、今回はヨナーシェスも現場に出ると言う。
曰く「私の加護は、こういった状況でお役に立てそうですからね。楽しみにしていてください」だそうだ。
冒険者ギルドの協力を取り付け、宿に戻る頃には夕方になっていた。
「お疲れ様。この時間になったってことは、ロマーノ様はやっぱり上に話を上げたのね?」
心配してくれていたのか、文乃がそう言って出迎えてくれた。
「うん。事が事だしね。まぁおかげで騎士団の全面協力を得られそうだよ。
例の件は、ロマーノ様とギルマスとサブマスには伝えた。宰相と騎士団長にはカバーストーリーだけどね。
多分今日明日には、国王様名義で発表されるはず。
冒険者ギルドには特別推奨依頼と強制依頼が出されるみたい」
決まったことを文乃に掻い摘んで説明していく。
「落としどころとしては妥当なとこね。
騎士団と冒険者だけじゃなく、商人や貴族まで巻き込めそうなのはありがたいわね」
「うん。お金持ってる人には、気分良く使って貰わないとね。
あぁ、そっち絡みも含めて、ちょっと新しいお仕事があるんだわ。
上手く行くか分からないけど、ちょっと明日から忙しくなるかも」
「あら、抜け目ないわね。火事場泥棒はダメよ?」
クスクスと笑いながら文乃が揶揄う。
「そんな悪いことしないよ・・・
今回、場所が遠いし、行き来も頻繁になるよね?現地に滞在できる場所も要るし。
そうなると、大量の輸送手段が要る。この世界だと馬車一択だわな。
国が持ってるのだけでは足りないけど、不足分をまともに手配すると、莫大な費用が掛かる。
徴発するって手も無くは無いけど、戦争でも無いからまぁやれんわな。
貴族の方は、さっき言ったみたいに名誉欲と自己顕示欲を刺激してやれば、同調行動が起きるだろうから、まぁ何とかなる。
だから俺の方では、商会相手に一つ仕掛けてみようと思ってる」
「どうするつもりなの?」
「ラッピングバス、いやラッピング馬車か。それを試してみようと思ってる。
広告媒体って概念がこっちにはまだ無いから、作っていこうとは思ってたんだけどね。
今回の件で、しばらく馬車が国中を引っ切り無しに走る事になるだろうから、試すには丁度良いと思ってね」
「なるほどね。
家で馬車を仕入れる訳にも行かないから、仲介する感じ?」
「うん、そうなるかな。
偶然、今回の褒賞授与式に例のトミー商店の支店長が来てたから、明後日に面会の約束を取り付けたんだよ。
元々は全然別件の話だったけど、丁度良いから巻き込んでやろうと思ってさ」
「トミー商会って、あの?召喚者が作ったって話の?」
「そうそう。
馬車は沢山持ってそうだから、一緒に組むか出資しないかって話をするつもり。
ウチはまだ、馬車を自前で抱えることもないから、広告代理店っぽくやってみようかと」
「うん。トライアルとしては丁度良さそうね。
時間も無いし、広告主を集めるのをどうするかとか課題も多そうだけど、やるだけやってみる感じかしら」
「そうなるかな。色々手伝ってもらうことになるのに、勝手に決めてごめんね」
「別に問題無いわ。
伊藤さんは治水工事の方もあるだろうから、代理店の方は私がメインで動くわね」
「助かるよ。明後日も連れてくって話はOK貰ってるから。
明日は知り合いの店にヒアリング掛けるつもり」
「了解よ。ヒアリングも私が中心でやるから、伊藤さんはギルドとロマーノ様との調整した方が良いんじゃない?
知り合いの冒険者にも声掛けた方が良いだろうし」
「うん。ファビオ達と元ハウリングウルフの人たちを中心に、声掛けしてもらおうと思ってる」
「そうね。元C級と現役C級だものね、申し分ない「おいっ!タイチは帰ってるか??」って噂をすれば影ね・・・」
丁度話がひと段落したタイミングで、ファビオが飛び込んできた。
「この推奨依頼と強制依頼、どういうこった??
確かタイチは、ダレッキオ辺境伯の庇護を受けてたろ?」
太一を見つけるなり、掴み掛からんばかりに質問をぶつけるファビオ。
「まぁ落ち着きなさいって。そもそもどんな推奨依頼と強制依頼が出たんだ?
って言うか仕事速いなぁ、バルツァー様も・・・」
「なんでそんな落ち着いてんだよ、逆に・・・
D級以上の魔法使い全員が対象の強制依頼なんて聞いたこと無いぞ?
内容を書き写して来たから見てみろ」
そうまくし立てるファビオが見せてくれた紙には、次のような内容が書かれていた。
強制依頼
・対象:C級以上の魔法使いおよび護衛1名まで
・依頼内容:ダレッカの街北東にあるザムール川支流における王国騎士団との共同作戦参加
・報酬:10,000ディル(働きにより増額あり)|500ランクポイント
・依頼者:レンベック王国騎士団、ロマーノ・ダレッキオ辺境伯
・期日:7/12移動開始~7/17まで作業。7/26レンベック帰着予定
・移動のための足、現地の野営地は騎士団が準備
特別推奨依頼
・対象:D級以上を推奨
・依頼内容:ダレッカの街北東で行われる王国騎士団との共同作戦の護衛、および現地での雑務
・報酬:1,000ディル(働きにより増額あり)|100ランクポイント
・依頼者:レンベック王国騎士団、ロマーノ・ダレッキオ辺境伯
・期日:7/13移動開始~7/17まで作業。7/26レンベック帰着予定
・移動のための足は騎士団が準備。馬車の持ち込み歓迎(持ち込みの場合報酬増)
「こりゃまた思い切ったなぁ。
レンベックのC級以上って200人くらいだっけ?
その内魔法使いは1割くらいだから、護衛と合わせて50弱。それだけで500,000ディル。
D級は400人くらいで半分は推奨依頼受けるだろうし、それで200,000。
なんやかんやで最低1,000,000規模だろうなぁ」
「いやいや、何冷静に金の計算してんだよ!?
まぁ、それも関係してるっちゃあしてるけど!?
なんでこんな依頼が急に出たんだ?共同作戦って何やるんだよ!?」
「あれ?王様からの通達は見てない?てか、そっちが先か同時に発表されてるはずだけど」
「あん??あったかもしれねぇけど、んなもん見てる「やっぱりここだった!!ちょっとファビオっ!何1人で飛び出してんのよっ!!」って、あぁ??」
尚も興奮冷めやらないファビオの言葉を遮るように、今度はアンナの声が響く。
声の方に目をやると、ジャンとナタリアも一緒に来ているようだ。
「おう、アンナか。お前からも言ってやってくれよ、何でこんな依頼が出たのかってよ」
「バッカじゃないの、あんた?そんなの一緒に貼ってあった、王様からの紙に書いてあったでしょ?
ロクに見もしないで飛び出して・・・ごめんね、タイチ~。基本ファビオは馬鹿なの・・・」
「んだよ、基本が馬鹿って!?」
「まぁまぁ二人とも。他のお客さんも居るんだし、静かに。まずは座ろうか」
ヒートアップする二人を、ジャンが諭す。流石はリーダーだ。
その言葉にようやく我に返ったのか、バツが悪そうにファビオが椅子に座る。
「それで、タイチ。この王様からの通達は本当のことなのかい?
間もなく大嵐が来て、ダレッカの街が洪水に飲み込まれる可能性が高い、って」
ファビオよりは冷静ではあるものの、やはり皆気になるのか、そう言うジャンの後ろでアンナもナタリアもウンウン頷いている。
「辺境伯と宰相の話を聞く限り、本当らしい。
と言うか、流石にこの規模の依頼を、あやふやな情報で出さないでしょ?」
「まぁそれはそうなんだけどね・・・
理由も依頼の内容も、どっちもちょっと信じられない内容だったからね・・・」
タイチの説明に、ジャンは納得しながらも苦笑する。
「でも丁度良かった。ジャン達には、あらためてお願いしようと思ってたとこだったし」
太一はカバーストーリーを元に、事のあらましをジャン達に説明していった。
「なるほど。それで魔法使いなのか。って言うか、それ考えたのタイチでしょ?」
「良く分かったな」
「だってタイチだもの」
ジャンの代わりにナタリアが答える。
「そっかぁ、俺だからかぁ、はっはっはー」
「でもそういうことなら頑張る。久々に全力で魔法を使える。それも依頼で。これは好機と言わざるを得ない」
ナタリアは、フンスと鼻を鳴らし期待に胸を膨らませている。
威力の大きい魔法は、周りへの影響も大きいので、中々全力で魔法を使う機会は無いらしい。
「説明ありがとう。知り合いのD級パーティーにも声を掛けておくよ。
ダレッキオ辺境伯は、国を守って貰っている恩があるし、冒険者の先輩だからね。
協力は惜しまないよ」
「すまんな。かなりの強行軍になると思うけど、よろしく頼むわ」
「ああ。まぁ今回の主役はナタリアだからね。僕らは魔物狩りをしながらボチボチ頑張るさ」
互いに言葉を交わしながら太一とジャン達が握手をしていると、さらに尋ね人がやって来る。
「よう、タイっちゃん!この依頼を受けたいなら、別にE級でも手伝って大丈夫なのか?」
そう言いながら入って来たのはワルター、モルガン、タバサ、そしてレイアだった。
「やれやれ。今日は千客万来だ。
推奨って書いてあるだけなんで、依頼自体は受けられるんじゃないですかね?」
「そうか!おい、良かったなタバサ。これで手伝えるし思いっきり魔法ぶっ放せるぞ」
「そうかい。ロマーノ閣下には戦争の時に世話になったからね。
これで少しでも恩が返せるならありがたいね。
ところでタイチ、これはどんな作戦なんだい?知ってるなら教えて貰えないかい?
内容によっちゃあ、昔馴染みにも協力をお願いしようと思ってね」
「それはありがたい!まずですね・・・」
再び太一による説明が始まる。
いつの間にか、太一達のテーブルの回りには、他の冒険者もやって来ていた。
きっと今夜は、黒猫のスプーン亭以外のお店でも、話題は国王からの通達と珍しい依頼で持ちきりだろう。
こうしてレンベックの街は、一夜にして騎士団との共同作戦に向けて盛り上がりを見せ始めるのだった。




