◆112話◆やり方の問題
「なんと!魔法でそのような事を・・・
いや、確かにそれはかなりの効果が見込めそうですね。
騎士団からも魔法が使える人員を派遣しましょう」
レイバックは、驚きながらも感心しきりだ。
「ありがとうございます。
ここだけの話、私の商会でも魔法を使った土木部門の立上げを考えているんですよ」
「・・・・・・。全く、このような状況でさらにその先のことまで考えておるとは」
そんな太一のビジョンを聞いたロマーノは、完全に呆れ顔だ。
「後は、力自慢の冒険者の方々にも、派手に暴れて貰えればと。
攻撃系のスキルなんかも使いたい放題ですから、ストレス解消にもなるんじゃないですかね??」
魔法もさることながら、この世界の住人、特に冒険者はフィジカルが強い。
C級にもなれば、完全に人間を辞めているレベルで、生身でありながら重機並みの働きが期待できる。
「そうですね。この辺りも含めて、特別推奨依頼と強制依頼の両方を出しましょう」
流石に宰相だ。即決できるのは話が早くてありがたい限りだ。
「後は、魔力回復や体力回復、ブースト系のポーション類、爆裂系の使い捨て魔法具なんかの供与を求めましょう。
もちろん徴発ではなく、買取りで」
「それなんですが、一つ考えがあります」
「考えですか?」
「はい。全てを依頼や買取で賄おうと思うと、かなりの費用が必要になりますよね?
まぁ個人相手であれば、そっちの方が手っ取り早いので良いのですが・・・
大手の商会や貴族家に対しては、上手いこと無償で手伝ってもらえないかな、と考えています」
「無償で、ですか?・・・確かにそれが出来ればありがたい話ですが、王命で強制する訳では無いですよね?」
「はい。それだとリスクが大きいですからね・・・
お金の代わりに、栄誉を与えることが出来ないかなぁと。
例えば、今回作った遊水地は今後も残り続けますよね?
そこに後から、協力者の名前を彫り込んだ大きな記念碑を建てるのです。
その上で、事が終息した後に美談としての物語を作り、そこに登場させることを約束します。
また、協力を表明した時点で、すぐにその家名を国王の名で全国に発表するんです。
名誉とプライドを何より大切にする貴族の方々であれば、最初に数家仕込みで名乗りを上げさせれば、我も我もと食いつくのではないかと・・・」
「「「・・・・・・・・」」」
太一の提案に絶句する3人。いずれも貴族であるため、その意味が嫌と言うほど分かるのだろう。
「まったく、お前はえげつないことを考えるな・・・
名乗りを挙げなかった貴族は後で何を言われるか分かったモノでは無いぞ?」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めておらんわ!まったく・・・」
呆れかえったロマーノと太一が軽口を叩き合う。
「ふっふっふっふ・・・なんという腹黒さでしょう。
しかしながら効果は高いでしょうね。良いでしょう、貴族に対してはその手で行ってみましょう。
そして、ダレッキオ家とライカールト家、それとバルツァー家で、最初に名乗りを上げる栄誉を頂戴しましょうかね」
ユリウスはすでに乗っかる気満々の黒い笑顔を浮かべていた。
「あと、今回は大量の人と物資をダレッカ近郊まで急ぎ輸送する必要があります。
そうなると馬車や馬が大量に必要になりますよね?
商人からの手配は、私の商会に依頼してもらえないでしょうか?
市価よりもある程度抑えた金額で用意できないか、ちょっと商売として考えていることがありまして・・・」
「・・・まだあるんですか??」
次々と手を考える太一に、レイバックはお手上げといった感じで両手を上げる。
「ダメ元、ということで2日いただけませんか?
それまでに上手く行かなかったら通常通りの手配をお願いします」
「分かりました。今回はタイチ殿の助けによる部分が非常に大きいですからね。
その程度の見返りはあっても良いでしょう」
「ご温情、感謝いたします。
あとはロマーノ閣下。特別推奨依頼や強制依頼が出される際には、必ず閣下も連名でお願いします」
「ふむ。元々ダレッカの話だからな、そうするつもりだが?」
「ありがとうございます。
ロマーノ閣下は、救国の英雄です。冒険者として閣下と共に戦場に立った者も大勢いましょう。
閣下の窮地と聞けば、自ら協力を申し出る冒険者は多いかと・・・」
「全く・・・どこまでも抜け目が無いなタイチは。まぁ元々そうする予定であったからな、問題無い」
「よろしくお願いします」
「さて、では話がまとまったので、早速動き出すとしましょうか。
ロマーノ、すみませんが一緒に来てください。陛下に話を通しますので」
「分かった」
「私はご一緒しなくても大丈夫でしょうか?」
元々太一の加護絡みの話なのだ。当人が行かなくて大丈夫なものなのだろうか?
「ええ。ここまで話が詰まっていれば問題ありませんよ。
タイチ殿は、明日以降に備えて準備もあるのではないですか?
ああそうだ、一つだけお願いがあります。
ツェーリ様の協力を取り付けておいていただけないでしょうか?
早めに押さえておかないと、フラッと大物退治に出掛けてしまうかもしれませんので・・・」
「あはは、確かにそうですね。現役S級が居ると居ないとでは大違いでしょうし。
帰りにギルドに顔を出します」
「お願いします。
レイバックは、早速騎士団の人選と編成に取り掛かって下さい。
異例の作戦行動ではありますが、基本は遠征ですからね」
「分かりました。輜重部隊と合わせて編成に取り掛かります」
「あ、ライカールト様、騎士団の方に一つお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「現場付近は山と谷になっていますが、その山の頂上付近に、何箇所か見張りを立てていただけないでしょうか?
川の付近は危険なので、嵐になってからは極力人は引き上げた方が良いのですが、山の上なら風雨はあっても大水はありません。
川の状況を、定期的に報告していただきたいのです」
「なるほど。確かに物見は立てるべきですね。戦においても状況確認は必須ですし」
「はい。その上で一つ教えていただきたいのですが、王国の騎士団では、離れた場所に声や文字を届けるような魔法具はお持ちですか?」
「・・・・・・」
太一の問いにレイバックがチラリとユリウスに視線を送ると、ユリウスは小さく頷く。
「あるにはあります。ただ、数が少なく非常に高価なので、王城と主要都市の騎士団本部にしかなく、持ち出しは出来ません」
あるとは思っていたが、やはり存在していた。
しかし、かなりレアな魔法具のようなので、今回の作戦に持ち出すことは不可能だろう。
「分かりました。では、物見に光魔法か火魔法を使える方を同行させていただけないですか?
光球の魔法や爆炎の魔法を、決め事に沿って使っていただくことで、合図に使えないかと・・・」
「光魔法を合図に、ですか?」
「はい。例えば、異常無しは一発だけ。支流が危険な場合は2発、本流が危険なら3発、という感じです。
晴れていれば、煙を使うのが一番楽なんですが、今回は嵐なので、天候の影響を受け難い魔法が良いと思いまして」
「!!そんな方法が・・・良い考えですね。分かりました、光魔法が得意な者を同行させます。
しかしこれは、今後の連絡手段としても運用すべきでは?ユリウス様」
「ええ。思わぬところで良案とは出てくるものですね。
事態が収束したら、本格的な運用方法を考えましょう。
その時には、発案者のタイチ殿もお呼びしますので、ご協力お願いしますね」
ニコリ、とユリウスが太一に良い笑顔を向ける。絶対に逃がさないという意思が見てとれた。
「・・・分かりました。ライカールト様もよろしくお願いします」
ユリウスは太一の返事に満足気に頷いたあと、一同を見回して確認を取る。
「皆様、他に言い忘れたことなどはありませんか?
・・・・・・無いようですね。さて、それではひとつ、10日後に成功を祝えるように頑張りましょう」
そうして即日、国王からの緊急宣言として、一連の内容が王国内に発表されることになる。
王国始まって以来の大規模官民合同作戦が、俄かに動き出したのだった。




