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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ
9章:今できる事編

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◆111話◆傾向と対策

皆で意見を出し合いながら地図を見る事約一時間。

洪水が発生しそうな場所が、最低でも3箇所ある事が分かった。


「こうして見てみると、危険な所がいくつもあるのですね・・・」

「ええ。今回は南西部に絞って確認していますが、これは王国全体について調査した方が良いかもしれません」

「余程の大雨でも降らない限り、表面化することは無いので、普段から意識するのは難しいですね」

「まぁそうなのだが、表面化したらそれはもう手遅れだからな。これは中々に骨が折れるわ」

思った以上に洪水の発生する恐れがある場所が多いことに、ユリウスもレイバックもロマーノも渋面する外ない。


「まぁ嘆いてばかりいても時間の無駄か・・・

 タイチよ。この3箇所の中で、一番怪しいのは何処だと思う?」

気持ちを切り替えるようにロマーノが太一に問いかける。

「そうですね・・・

 まず、ダレッカに一番近いここ、ザムール川に西から流れてくる川が合流するポイントですが、多分ここは大丈夫かと」

「ほぅ。一番近いから可能性も高そうだが・・・?」

「だいぶ河口に近い場所で、合流している川の水量も普段からそこそこあるので、この辺りは川底が深そうなんです。

 それにこの合流している川は、さらに北西から流れてきています。

 嵐は南西から北東へ向かって行くと思われるので、こちらの川はそれほど増水しないはずなんです。

 それと・・・・・・」

「それと?」

微妙に言い淀む太一を、ユリウスが促す。

「仮に大水が出たとしても、ダレッカ側にはほとんど被害が無いと思います。

 この辺りは西側の方が土地が低そうなので、隣国側へ流れていくかと。。。

 敵国とは言え水害にはなるので、あまり気分の良いものでは無いですが」

「そういうことか・・・」

答えを聞いたユリウスの顔が渋いものになる。

「残りの2つ。北から流れてくるザムール川の本流に東からの支流が合流する場所。

 その合流点より少し上流、支流が山間をしばらく流れる区間。

 この2つが複合的に水害を起こす可能性が高いと思っています」

「複合的に、か・・・」


太一が指差したポイントは、ダレッカより数キロ北側の地点だ。

北側からほぼ真っすぐザムール川の本流が流れて来て、その辺りで西へカーブしながらダレッカの西側へと至る。

その少し上流で、北東側から山間を抜けるように支流が合流していた。

「まず支流側ですが、山間を抜けるので水量が増す可能性が高いです。

 で、山間を抜けたと思ったあたりで本流と合流しています。

 ライカールト様、この支流は谷合いを流れていますし、普段はあまり水量が無いのでは?」

「ああ、そのとおりだ。川幅もさほど広くない」

「やはり・・・普段あまり水量が無いので、急に水量が増えて合流すると、おそらく合流しきれず支流側が溢れます」

「なるほど。本流側とて増水しておるだろうからな、そこにさらに普段以上の水量は流し込めぬが道理か・・・」

「はい。さらに今回は、もう一つ不幸な上積みが重なる可能性があります」

「まだあるのか・・・」

太一の説明にうんざりした表情のロマーノ。

「今回の引き金は、“大雨”では無く“大嵐”ですよね?

 雨だけでは無く風も強い。そうなると、木の枝が折れたり木が倒れたりします。

 で、そうした倒木の何割かは川へ流れ込みます。それを念頭に地図を見てください」

太一が促すと3人が地図を覗き込む。

「まず支流側です。

 山間部を流れてくるので、斜面を滑ってくる草や石や木がそのまま一緒に流れてきます。

 本流側も、合流点の手前しばらくの間だけ山裾を通る形になっています。

 こうして流れて来た大量のごみが、合流点の辺りでおそらく詰まって川を堰き止めるのではないかと・・・」

「「「・・・・・・」」」

太一の言葉を聞いた3人は腕組みをしたまま黙ってしまった。


「はぁ・・・全くよくもまぁこう厄介事が重なるもんだな」

1分ほど止まった空気が続く中、最初に口を開いたのはロマーノだった。

大きな溜め息と共にボヤキを零す。

「聞けば聞くほど、不幸としか言いようがありませんね」

ユリウスも諦め顔で感想を漏らす。

「ええ。もしタイチ殿が教えてくれなかったらと考えると恐ろしいですね・・・」

レイバックは地図を見たまま表情を硬くする。

「とは言え、何処まで行っても予測でしかありませんし、問題はそれでどうするか、です・・・」

ひとまずポイントを絞った4人は、次なる議題へと取り掛かる。


「単純な話だと、川の土手を高くして水を食い止めるやり方だろうが・・・

 今回は時間が足りぬし、そもそも普通の高さでは防げるとは思えんな」

ロマーノの言う通り、まず思い浮かぶのは堤防の強化だろう。

きちんと工事を行えば、安定した効果も見込める。

しかし、堤防工事にはやはり時間が必要になる。応急処置的な作業量では、満足な効果は得られないだろう。

「そうですね。他にも浚渫と言って川底を深く掘ったり、川幅を広げたりするのも効果があります。

 しかし、事前の調査をしっかりする必要がありますし、作業にも時間が掛かります」

「そうでしょうね」

「なので、今回は多少乱暴ですが、遊水地を突貫で作ろうと思ってます」


「ゆうすいち、ですか?それはどういう物でしょうか?」

「簡単に言うと、ものすごく巨大な溜池です。

 水害の恐れがある場所の土手の一部を、予めやや低くしておきます。

 そしてその外側に、人の住んでいない広い場所を確保し、周りを高くした壁や土手で囲います。

 低くした土手からわざと水を溢れさせ、人のいない所に一時的に逃がし、水嵩が減ってきたら川に戻すんです」

「ふむ。多少の被害は目を瞑り、大惨事になるのを避けるのか」

「はい。川のすぐ近くまで人が住んでいると出来ませんが、幸い合流地点の付近は村も畑も無いようなので・・・

 それに、ひとまずはただ水を溜めることが出来ればよいだけなので、かなり雑に掘っても大丈夫です。

 本来は、川に水を戻すための出口なんかも作るんですが、今回その辺りは全部事後に回します」

それでも地球基準で考えると、1週間やそこらではまともな遊水地は造れない。

しかし、エリシウムであれば・・・

「そして工事には、まず魔法使いを大量に投入します。

 火魔法や風魔法で地表を均してから、土魔法や爆発系の魔法で一気に掘れるのではないでしょうか?」

そう。まずは魔法があるのが大きい。

使える人は多くは無いが、使える場合のマンパワーは重機を凌ぐ。

人が居ればよいので、輸送や運用も楽だ。

しかしこの世界では、何故か土木工事に魔法が使われることはほとんど無い。

冒険者が魔物を狩るのを至上命題としている故の弊害だろうか?採集依頼の件と言い、かなり勿体ないなと太一は常々思っていたのだった。

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