◆108話◆実現性と可能性の話
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「そうですね・・・そもそも1番分からないのは、どうやってあんなのが入り込んだのか、です。
ギルマスとも事件のあった日に話していたんですが、門から入ってくることはあり得ないので、可能性としては3つ。
1つ目は、何かに隠すなり偽装するなりして持ち込んだ可能性です。
現状、そこまで厳しい積荷の検査は無いので、可能性として1番高いのはこれでしょうね。ただ・・・」
「ただ何かな?」
太一の話を黙って聞いていたユリウスが、合いの手を入れる。
「その場合、オークを静かにさせなくてはいけないですし、そもそも生捕りにしたオークを保管した上で輸送しなくちゃいけないんです。
リスクの割にリターンが少ない気がして・・・」
「そうだな。しかも持ち込んだ後も、しばらくは隠したりせねばならんしな」
ロマーノも太一の考えに同意をする。
「はい。なので実現性は高いものの、今回の手段としては無いと思ってます。
次に二つ目です。警備の人間が知らない抜け道のようなものから忍び込ませる方法です。
地下に時間をかけて隠し通路を掘るなりして新しく作るのもありですし、
知っているのがごく少数な抜け道なんかがあり、それを知っている人間が内通しているパターンもありますね。
ただまぁこれも、一つ目と同じで持ち込んだ後が大変なんで、可能性は低いかな、と・・・」
「ふむ。まぁ方法が違うだけで、課題は似たようなものだな」
レイバックの感想に、残りの二人も同意するかのように頷いた。
「で最後3つ目です。
実現性は低い、と言うか出来るかどうかすら分かりませんが、もし出来るとしたらこの方法の可能性が最も高いと思います」
「ほう・・・どんな方法かね?」
ユリウスの目がすっと細くなる。
「簡単です。街の中に出現させればいいんです」
「街の中に??」
「ええ。例えば、魔法か何かで呼び寄せるとか、魔法具か何かに封印しておくとか。
ああ、動物なり人なりを薬か何かでオークに変身させても良いですね・・・
どれも出来るかすら分からない荒唐無稽な方法ですが、状況からすると1番無理が無いんですよね。
あの日、あの時まで、不審者の目撃情報すら無いのがどうしても不思議だったんです。
でも、あの日あの時まで、不審者がそもそも居なかったら、目撃されようもないなぁ、と・・・」
「なるほど・・・そう言われると腹落ちしますね。
我々は方法ありきで考えていたが、我々が知らない方法など、いくらでもあるかもしれないですね。
ありがとうございます、イトウ殿。私達は常識に囚われ過ぎていたのかもしれません。
騎士団長、そういったあり得なさそうな手段も含めた上で、再度調査をお願い出来ますかな?」
太一にお礼を述べると、ユリウスはレイバックに水を向ける。
「はい。
そういう目線で見れば、見落としているヒントがあるかもしれませんしね・・・」
「それともう一点、ちょっと気になることがあります。これは全然関係無い話かもしれないのですが・・・」
そしてさらに太一が続ける。
「ほう、何かね?少しでも繋がる可能性があるなら、聞かせて欲しい」
「はい。先月まで、やたらと小物の討伐依頼があり、特別推奨依頼になりましたよね?あれって、理由は判明していますか?」
「いや、程なく収束したので、一過性のものとして処理したが?」
太一の突然の確認に、少々戸惑いながらも顛末を話すレイバック。
「・・・・・・そうですか。
実は、先日西の森でクリムゾンベアの亜種と思われる、通常の2倍近い大きさの個体に遭遇したんです。
そいつ自体からは逃げられたので大事には至って無いんですが、そいつが現れる前の出来事がちょっと印象的だったんですよ」
「ふむ、どんな出来事かね?」
「森に住んでいる魔物が、他の魔物と一緒になって群れを作って大移動して来たんです」
「ほぅ・・・」
ロマーノが興味深そうに溜め息を漏らす。
「本来魔物は、縄張り意識が強いですし、他の魔物を敵対視することが多いので、混合で群れるのは普通はあり得ないんです。
が、圧倒的強者がやって来ると、そこから逃げ出すんです。
今回の小物の大量発生も、それが原因じゃ無いかと思ってます。しかも、同時多発的に各所で起きている・・・
偶然にしては出来すぎだと思いませんか?」
「・・・誰かが人為的にやったこと、だと?」
ユリウスの表情に険しさが増す。口こそ開かないが、レイバックもロマーノも似たような表情を浮かべている。
「ええ、その可能性が高いと考えています。そこで、一つ調査をお願いしたいのです。
あの小物騒動って他の国でも起きていたんでしょうか?
起きていたなら、一過性の自然現象の可能性もありますが、我が国だけだったとしたら果たして・・・・・・?」
「っ!!!? 至急調べさせます!」
「・・・そうして下さい」
驚愕の表情を浮かべたレイバックが調査の約束をし、ユリウスが首肯する。
「街中にオークが出現した件も含めて、一連の普段とは異なる事件は全て魔物絡みです。
まぁたまたまとも言えなくないでしょうけど、10割と言う数字は見逃せません。
しかも組織的犯行の線が強まったとなると・・・」
「ああ、タイチ殿の言う通りだ。一連の事件に関連性がある可能性も十分考慮し、調査の幅を広げる。
ふふふ、やはりお話しさせていただいて正解でしたね。
ロマーノにも礼を言わないといけませんね。得難い人脈をありがとうございます」
「ふっ。俺とて同じことよ。運が良かっただけだ。不幸中の幸いと言う奴よ。
件のオークに感謝せねばならんと、本気で思ったほどだ」
カカカと笑いながらロマーノが答える。
それを見て苦笑する太一。
「ロマーノ様、そういう事を仰いますと、またフィオレンティーナ様に怒られますよ?」
「おお、そうであったな。アレは怒らせると怖いからな・・・」
ロマーノは大袈裟に肩をすくめ、怖がる振りを見せた。
「では、件のオークの件については、以上ということでよろしかったでしょうか?」
話が一区切りついたと見て、太一がユリウスに問い掛ける。
「ええ。忙しい所をすまなかったね。だが、色々と参考になりましたよ」
「お役に立てたのであれば良かったです」
互いに軽く礼を言い合った後、太一がロマーノに視線を送る。
「ロマーノ様、ダレッカの件は如何いたしましょう?」
「うむ。その件だがな、少なくともこの二人には、やはり儂は話した方が良いと思っておる。タイチはどうだ?」
「ええ、私も同感です。そもそも我々だけの手に負える話ではありません・・・」
ロマーノの問いに、頭を振りながら太一が答える。
「うむ・・・」
「はて、今度はどのようなお話でしょう?」
「ああ。荒唐無稽と思うかもしれんが、これから7日ほどの後、ここいら一帯を大嵐が襲う。
その影響で、ダレッカに大水が出る可能性が非常に高いのだ・・・」
ユリウスの問いに、ロマーノが低い声でゆっくりと答えた。