◆107話◆王国宰相と近衛騎士団長と辺境伯と平民
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文官に先導され、王城内の廊下を進む。
正確な位置関係は全く把握できないが、城内でもかなり奥まったエリアに来ているのは間違いないだろう。
護衛なのか監視なのか分からない騎士が複数名付き添っているのと、立ち番をしている騎士の横を何度か通り抜けている。
ここに放置されたら、間違いなく迷子になるだろうなと考えていると、ようやく文官が足を止めた。
大きくは無いが、かなり頑丈な作りの扉をコンコンコンとノックする。
「イトウ様をお連れしました」
「お通しください」
「はっ。失礼いたします」
扉の中は、執務室のようだった。
正面に窓があり、それを背にするように重厚な作りの机と椅子が置いてある。
その手前は、これまた重厚なテーブルとソファが置いてある応接スペースだった。
ソファには見慣れた男が1人と、見慣れぬ男が2人座っていた。
太一が入室したのを見て、見慣れぬ男1が口を開く。
「ご苦労様でした。あなたはお下がりなさい」
「はっ、失礼いたします」
案内先導してくれた文官にそう言うと、文官は退室していく。
丁寧な言葉遣いだが、有無を言わせぬ圧がある。
50歳くらいだろうか。長い金髪を丁寧に後ろに流して一束にしている。
表情は穏やかだが、目つきは鋭く一分の隙も見逃してくれなさそうだ。
風貌からして、この男が宰相なのだろう。
「イトウ殿、お呼び立てして申し訳ありませんね。
どうしてもお話をお伺いしたくて、ダレッキオ卿にご無理を言いました。
私は、この国の宰相を務めておりますユリウス・バルツァーと申します」
「初めまして。タイチ・イトウです。
私にお話しできることであれば、いくらでも」
「そう言っていただけると助かります。
もう一人、一緒にお話を聞かせていただくのが、こちらのライカールト殿です」
「タイチ殿、お初にお目に掛かる。
近衛騎士団長を仰せつかっているレイバック・ライカールトだ。
ピアジオから相当腕が立つと聞いている。
辺境伯閣下がお声掛けしなかったら、騎士団に入らないかと声を掛けたのだがな。残念だ」
ニヤリと白い歯を見せながら見慣れぬ男2ことレイバックが口を開いた。
40歳くらいに見えるその体躯は、ロマーノにも引けを取らない鍛え上げられたものだった。
ユリウスとは別種の圧力を放っている。
「タイチ・イトウです。
過分な評価をいただき恐縮です、ライカールト様」
「よし、自己紹介は済んだな。
では時間も無いことだ、早速本題に入ろう」
挨拶もそこそこに、ロマーノがそう切り出す。
「10年ぶりに3者推薦を受けた方が出たので、色々お話ししたかったのですが、致し方ありませんね・・・
本日お時間いただいたのは、先日の街中に現れたと言う敵性生物のことです」
残念そうにしながらもユリウスが議題を提起すると、それを受けてレイバックが続ける。
「まずは敵性生物の排除、感謝する。
王都内に魔物の侵入を許すなど、我々の失態も良い所だが、貴殿の活躍のお蔭で幸いケガ人が出ただけで済んだ。僥倖と言えよう」
ゆっくりと頭を下げてレイバックが謝意を示す。
「お顔を上げてください。王都所属の冒険者として当然のことをしたまでです。
それに、謁見の時にも申し上げましたが、ダレッキオ家の騎士と共に打ち倒したに過ぎません」
「謝罪を受け入れてくれて助かる。
さて、貴殿が倒してくれた化け物だが、その後の調査をした時にはすでに死体が無くなっていたことは聞いているな?」
「ええ。ツェツェーリエさんからの伝言を受け取っています」
「うむ。では、その死体が人為的に片付けられた可能性が高いことは聞いているか?」
「っ!!?人為的に、ですか?それは初耳です・・・」
「そうか。貴殿が冒険者ギルドに伝えてくれた時点で、王城にもすぐに一報が届いた。
冒険者ギルドが急行させた調査部隊と合同で、近衛騎士の鑑識部隊も調査に当たったのだがな・・・
現場に着いた頃には、すでに死体は無かった。
そこで戦闘があったことを知らなければ、血の跡すら見逃すほど見事にな。
いくら雨が降っていたとはいえ、ああまで綺麗に血痕が消えることは無い。
それに、内臓や着ていた衣服の欠片すら転がっていないのは、どう考えても不自然すぎる。
何者かが持ち去ったと考えるのが妥当なのだが・・・」
「持ち去る、ですか・・・?
かなりの巨体でしたので、雨とは言え誰の目にも付かずに街の外へ持ち出すのは難しいのでは?」
「うむ。やはりそう思うか。
俺も同意見だ。なので、何か別の方法で処分したのだと睨み、さらに詳しく調査した。
その結果、どうやら特殊な薬品で、死体を蒸発させた可能性が高いことが判明した」
「蒸発、ですか?」
強い酸のようなものだろうか?
ほとんど証拠も残さず死体を短時間で消すような薬品があったら、たまったものでは無いなと思いながら、
飲むだけ、振りかけるだけで怪我が治る薬がある事を思い出す。
「考えたくはありませんが、そういう薬もあり得なくはないですね・・・」
「ああ。現場には微かに魔力の残滓と、滅多に使われない錬金術素材が残留していた。
錬金術で作られた薬品類は、必ず魔力を含んでいるから、大量に使った場合はそれがしばらく残留するんだ。
まぁ、ほとんど知られていない秘匿事項だからな。相手もそこまで完璧には手が回らなかったんだろう」
「秘匿事項、ですか・・・」
「安心しろ、タイチ。これを発見したのはワイアットだ。
ちなみに現場の調査をしたのもヤツだ」
ロマーノがフォローを入れてくれるが、その内容はやや衝撃的だ。
「ええっ!ワイアットさんが?」
「ああ。奴は王家御用達の錬金術師だからな。こうした調査作業の際に駆り出されることがたまにある」
「そうだったんですね・・・」
「これらを総合して考えると、これは周到に計画された、かなり大掛かりな組織的事件という可能性が高い。
とても一個人で出来るようなものでは無いのでね・・・
そこで、だ。計画的な組織犯罪であったと仮定して、何か気になること、気が付いたことが無いか、聞かせてもらえないだろうか?」
期待を込めた目で、ユリウスが太一に問いかけた。




