◆106話◆ノアとのアポイントメント
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褒賞の授与式が終わると、別室で文官から目録を貰いつつ、副賞の配送手続きを行った。
副賞としてそこそこの金額が支給されるが、持ち帰るのは危険なので、後日自宅まで騎士団が届けてくれるそうだ。
お願いすれば、所属しているギルドに取り置いてもらうことも出来ると言う。
地球であれば振り込んでお終いなのだが、現金主義のこの世界ではセキュリティに色々気を使わなければならない。
太一が副賞の配送手続きを終わらせると、ノルベルトがすっと近づいてきた。
「タイチ様、トミー商会ノア・ロイスナー様とお話しされますか?
この後、少しのお時間立ち話なら問題無いとお返事いただいております」
ほとんど太一に同行していたというのに、いつの間に手を回したのだろうか・・・?
優秀過ぎる家令に驚きつつ、話したい意向を告げる。
「はい。後日改めてお店に行きたい旨お話しするだけなので、問題無いです。
お願い出来ますか?」
「かしこまりました。それでは壁際で少々お待ちくださいませ」
そう言ってノア・ロイスナーの方へ歩いていく。
二言三言、言葉を交わすと、ノアとその従者と共にこちらへと戻って来た。
「お待たせしましたタイチ様。
ノア・ロイスナー様と従者のミカエル様にお越しいただきました」
「ロイスナー様、ミカエル様、突然お時間いただき申し訳ない。
ダレッキオ辺境伯家剣術指南役のタイチ・イトウです。
いや、今日のお話であれば、ケットシーの鞄店長、と名乗った方が自然ですね」
太一が、にこやかな顔で挨拶をする。
「イトウ様、お声がけいただきありがとうございます。
トミー商会ウッカーハイム支店長、ノア・ロイスナーです。
こちらは私の従者兼護衛をしているミカエルです」
「ミカエルと申します」
太一の挨拶に、ノアも笑顔で答え、脇に控えるミカエルは見事な所作で礼をした。
「高名なダレッキオ辺境伯家で指南役をされているだけでなく、商会まで経営されてる手腕、感服いたします。
この度は、どのようなご用向きでございましょうか?」
「商会と言っても店舗も持たない小さな露店ですから・・・
トミー商会殿と比べたら大人と子供、いや比べるのも失礼なレベルですよ。
今回お声掛けさせていただいたのは、魔法具に非常に興味があるためです」
「興味、ですか?」
「ええ。将来的には商会でも扱いたいという夢はもちろんありますが、それ以上に個人的な純粋な興味です。
それも、生活に根差した魔法具に対してです。
とかく軍事転用されがちな魔法具ですが、トミー商会殿はほとんど軍用のものは作られていないと聞き及んでいます。
かねてより、そんなトミー商会の方とお話ししたいと思っていました。
そんな折、自らも魔法具の開発をされるロイスナー様が、同じ場にいらっしゃるではないですか!
千載一遇の好機と思い、失礼ながらお声掛けさせていただいた次第です」
「なるほど・・・。そういうことでしたか」
「ああ、それと商会を起こし、数々の魔法具を世に送り出したユーリ・トミー様の逸話やお言葉が残っていたら、是非拝聴したいものです」
「初代の、ですか・・・?」
「はい。一代で財を成した手腕はもちろんですが、これまでに無い斬新な魔法具を開発することが何故出来たのか?
少しでもヒントがあれば、是非お伺いしたいと思っていたのです。
商談や依頼というお話では無く恐縮なのですが、後日お時間を頂戴することは出来ませんでしょうか?
もちろんお戻りになられてからご確認いただけば結構ですし、お時間いただけるならウッカーハイムへお伺いします」
「そうですね・・・少々お待ちを。
ミカエル、この先10日ほどの予定はどうなっているかな?せっかくのお声掛けだ、早めに時間を確保したいのだが・・・
ああ、場所はわざわざご足労願うのは申し訳ない。王都の支店で部屋を借りよう」
「確認いたします」
ノアから尋ねられたミカエルが、懐から取り出した手帳をめくっていく。
「そうですね、明後日の午前か6日後の午後遅い時間であれば、お時間が取れるかと思います」
ものの数分で候補日が出てきた。
スマホもパソコンも無いのにこの速さでブッキング調整できるのは、優秀と言う外ない。
「ありがとう。
お聞きの通り、明後日の午前か6日後の夜遅くであれば今すぐお約束できます。
それ以外の日時ですと、あらためて調整するお時間をいただきたいです」
「おお、ありがとうございます!
早くお話をしたいので、明後日の午前でよろしいでしょうか?」
「はい、承りました。二の鐘頃でよろしかったですか?」
「もちろん問題ありません。王都の支店までお伺いいたします。
あぁ、そうだ。一緒に商会をやっている妹がいるのですが、同席させても構いませんか?
妹はユーリ・トミー様に心酔しておりましてね・・・
商売をやりたいと言い出したのも、ユーリ・トミー様の話を本で読んだからなのです」
「ええ、構いませんよ。
そこまで初代の事を気に入っていただいているのであれば、楽しくお話が出来ると思います」
「お心遣い感謝いたします」
「いえいえ。
武の名門の剣術顧問でありながら、王都で最近話題になり始めた商会長でもあるイトウ様と、知己を得られたのは僥倖でした。
これを機に、今後とも末永いお付き合いをさせていただきたいと存じます」
「そう言っていただけるとありがたいですが、若輩故背中が痒いですね・・・
こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「それではまた後日。ゆっくりお話しできることを楽しみにしております」
「はい。本日はご無理を聞いていただきありがとうございました」
「失礼いたします」
ノアはそう言って優雅に礼をすると、ミカエルを伴って部屋を後にした。
「ノルベルトさんありがとうございます。おかげでアポイントを取ることが出来ました」
「いえ、私はただお繋ぎしただけなので」
相変わらずの謙遜に苦笑を浮かべていると、手続きをしていた文官とは別の文官が部屋を訪ねて来た。
「タイチ・イトウ殿はいらっしゃいますか?」
「はい、私がイトウですが」
宛先は自分だった。
「宰相閣下と騎士団長様が少々お話を伺いたいと・・・
ダレッキオ辺境伯閣下もご了承なされており、イトウ殿を直接お部屋へ案内するよう仰せつかっております。
このまま、ご同行いただけないでしょうか?」
まぁ、式の後に呼び出しがあるはずだと辺境伯が言っていたので、やはり来たかという感じだ。
「ダレッキオ閣下がご了承されているのであれば、是非お伺いさせていただきたく思います。
お手数ですが、ご案内よろしくお願いします」
「ありがとうございます。それではこちらになります」
こうして太一は、王城での第2ラウンド会場へと向かって行った。




