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◆104話◆王城へ

毎日更新中!

翌日、二の鐘が鳴ると共に馬車が太一を迎えに来ていた。

「おはようございます、ノルベルトさん。本日はよろしくお願いします」

「おはようございます、タイチ様。本日の晴れ舞台、誠におめでとうございます」

今日もいつも通り姿勢の良いノルベルトと挨拶をかわし、馬車へと乗り込む。

「じゃあ文乃さん、ファビオ、行ってくる」

「ええ、いってらっしゃい。楽しんできてね」

「おぅ。しかしタイチが褒賞とはなぁ、分かんねぇもんだ」

見送りに出て来ていた文乃とファビオにも挨拶をすると、馬車がゆっくり走りだした。


登城自体は午後からなのだが、着替えを含め色々と準備があるため、朝早くからダレッキオ辺境伯別邸へと向かっていた。

女性程では無いにせよ、王城へ行くのであればそれなりに時間が必要になる。

しばらく走ると、すでに見慣れてきてしまった門が見えてくる。

「まさかこんな頻度で来ることになるとはなぁ・・・ファビオの言う通り、分からんもんだ」

苦笑しながら独り言ちる。

「お帰りなさいませ!タイチ様!」

「おはようございます。朝早くからご苦労様です」

門番は今日も元気だ。


屋敷へ着くと、身ぐるみ剝がされた。

身体を拭き、薄めた香油で磨き上げられる。

最初は抵抗していたが、諦めて身を任せることにした。

その後、自室としてあてがわれている部屋に併設するドレスルームへ案内される。

メンズエステか、と思う勢いでフェイスマッサージをされ、香油を使って丁寧に髪を整えられた。

そこまで終わってから、ようやく着替えまで辿り着く。

貴族にはなりたくないなぁ、とあらためて思う太一であった。


軽く食事を腹に入れてから、誂えてもらった礼服に着替える。

タキシードとも軍服ともつかぬ、独特な様式の礼服だ。

調整をしてくれた仕立屋の話によると、軍属寄りの者が着るポピュラーな様式だそうだ。

ダレッキオ家の色である濃緑色の上着の肩と胸には、ダレッキオ家の家紋が金糸で刺繍されている。

似合っているかどうかは置いておいて、流石にサイズはピッタリで、黙っていればそれなりに見えるだろう。

馬子にも衣装だな、と姿見に映る自身に評価を下す。


「うん、中々良いじゃない。似合ってるわよ」

「タイチ様、お似合いです!!」

着替え終わって休憩していると、キルスティとフィオレンティーナが褒めてくれる。

「あはは、ありがとうございます。

 衣装が良いんですよ、衣装が。私は着せられてるだけです」

苦笑しながら太一が返す。

「何言ってるのよ。どこに出しても恥ずかしくない、立派なダレッキオ家一門の男子よ。

 胸を張って行ってらっしゃいな!」

「はい。ダレッキオ家の名に泥を塗る訳には行かないですからね。頑張ってきますよ!」

「ふふ、その意気ね。

 今日は褒賞の後が本番かもしれないけど・・・よろしく頼むわね。

 私は私で、色々と根回しするわ」

真剣な表情でキルスティからお願いされる。

その言葉を聞いたフィオレンティーナの顔にも緊張が走る。

ロマーノからは、家族には事実を伝えると聞いていたので、おおよその事情を理解をしているのだろう。

「もちろんです。やれるだけやってきますよ」

そう言い残して、太一は用意された馬車で王城へと向かった。


辺境伯邸は、貴族街の中でも一等地に建っているので王城へはそれほど時間は掛からず到着した。

辺境伯家の馬車で来ているので、貴族用の入り口から入城する。

「所属と用件を!」

流石に王城だ。貴族用の入り口にも、屈強そうな騎士が複数警備に当たっている。

「ダレッキオ辺境伯家の門客、タイチ・イトウです。

 こちらが召喚状、こちらが身分証になります」

ロマーノから預かった召喚状と、ダレッキオ家の紋が浮かぶギルドカードを提示する。

「確認する。しばし待たれよ」

魔法で割符のようになっているのだろうか、召喚状を何やら別の紙と繋げて確認している。

「確認が完了した。

 あらためてようこそ、タイチ・イトウ殿。

 そして、この度の褒賞、誠におめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

しかめっ面で誰何していた騎士から、一転して爽やかな笑顔と綺麗な敬礼を受けて戸惑う太一。

「つかぬことをお伺いしますが、辺境伯令嬢を、まも・・いや、未知の敵から守られた、というのは本当でしょうか?」

小声だが、なぜかキラキラした目でそう聞かれた。


一瞬魔物と言いかけて訂正したところを見ると、ある程度の情報が騎士団には共有されているようだ。

「守った、と言うか、護衛の方のお手伝いをさせてはいただきましたが・・・」

「やはりあなたでしたか!街の治安を守っていただき感謝します。

 近衛騎士であるピアジオ殿からも、腕が立つのに謙虚なお方だと聞いております。

 それを認められて、武門で有名なダレッキオ家の剣術指南になられたと」

「ピアジオ様とはお知り合いで?」

「はい。騎士学校では同期でした。申し遅れました、シルヴェスタ・コールリッジと申します」

「なるほど。それで・・・」

まさかのピアジオルートでのリークだった。

「お呼び止めして失礼いたしました。どうぞ、お通り下さい」

「では、失礼いたします」

この調子だと、色々と話に尾鰭も付いている可能性が高いなぁ、と少々不安になりながら王城へと入っていった。


その後、馬車止めで馬車を降り、騎士や文官に案内されて、褒賞を受ける者の控室へと通される。

「こちらでお待ちください」

個室では無く、かなり広さのある応接室のようだ。

部屋の中には8名の人がいた。城外から同行できるのは1名までと決まっているので、4組だと思われる。

ガチガチに緊張している者、談笑している者と様々だ。

太一は、スキルでさり気なく探りを入れてみる。

ほとんどの者が無関心を表す緑~黄緑色だが、一組だけ興味を示す水色の者がいた。

水色は、これまでの経験から好意的・好奇心による興味であることが多く、敵対心は無い。

太一がチラリと目線をやったのに気づいたのか、軽く会釈をされ、太一も会釈を返す。

1人は女性で品の良いドレスに身を包んでいる。

もう一人は若いが執事か家令だろうか。

おそらく護衛を兼ねているのだろうか、肩口に紋章が刺繍された礼服に身を包んではいるが、立ち方に隙が無い。


「どうされましたか?」

さり気なくノルベルトが近づき耳打ちをする。流石できる家令だ。

「あちらの奥にいる二人組。どういった方か分かりますか?」

「あの肩口の紋章は、トミー商会のものですね。

 商会長は何度かお見掛けしたことがありますが、その方ではありませんね。

 どこかの支部長、もしくは部門のトップとその執事ではないでしょうか」

「ありがとうございます」

流石ノルベルトだ。情報量が半端ではない。

しかしトミー商会・・・どこかで聞いた名前だなと考えたところで急に思い出す。

召還された施設にあった本で見た、日本人かもしれない召喚者が立ち上げたと思われる商会だ。

「確か、世界有数の商会でしたよね?」

「左様でございます。魔法具を扱う商会では世界一の商会でございます」

念のためノルベルトに確認するが、例のトミー商会で間違いないようだ。

「ノルベルトさん、褒賞が終わった後、彼女たちとお話しする時間を作れませんか?」

太一のお願いに一瞬驚いた顔をしたノルベルトだが、すぐに答える。

「お任せください」

「ありがとうございます」

元々、商会を訪ねて話を聞いてみようと思っていたのだ。

ここであったのも何かの縁。話が出来るなら一石二鳥だろう。

そんなことを考えていると、控室のドアが開き、見知った人物が入って来た。


「ようタイチ。待たせたな」

「いえ、先ほど到着したばかりです」

入って来たのはロマーノだ。護衛のためだろうか、近衛騎士のピアジオが同行していた。

授与式には太一と共に参加するが、午前中にも大会議があるため控室で合流することにしていたのだ。

突然の上位貴族の来訪に、何事かと周囲が少し色めき立つ。

「ふむ、良く似合っておるではないか」

「痛っ、ありがとうございますっ、痛いですって!」

殊更仲の良さをアピールするかのように、笑顔で太一の背中をバシバシと叩くロマーノ。

「くく、タイチさん本日はおめでとうございます。

 確かに良く似合ってらっしゃいますよ」

それを見て、ピアジオも笑顔で挨拶をくれた。

「ありがとうございます、ピアジオさん。

 あ、そうだ。私のこと、騎士団内で話しましたか??

 先ほど入り口で、シルヴェスタさんという方からお礼を言われちゃいましたよ」

「ああ、今日の門番はシルヴェスタだったんですね。

 彼のように、仲の良い人間には少し話していますね。

 概要は全体に伝わっていますが、詳細はまだなので・・・

 騎士団でも信頼できる者にだけ、少し踏み込んだ話をそれとなくしていますよ」

「あー、そういうことだったんですね。ありがとうございます」

「ふふっ、これから嫌でも注目を浴びる機会が増えるからな。

 息子らにも、味方を増やすよう頼んであるのだ」

「・・・ご配慮、感謝いたします」

さすがは上位貴族だ。気の良いおっさんに見えて、押さえる所は確実に押さえてくる。

内心感心していると、再び控室の扉が開かれる。


「本日褒賞を受けられる皆様。お待たせしました。これより会場へ案内いたします!」

授与式の呼び出しに、室内にいる一同があらためて表情を引き締めた。

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[気になる点] >水色は、これまでの経験から好意的・好奇心による興味であることが多く、敵対心は無い。 赤に近いと善で青に近いと悪という設定からすると水色が好意的というのはやはり違和感がありますね。 こ…
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