明智の妻
明智の妻
憎い。
あの男が憎い。
心の底から、憎い。
1
「なあ光秀殿」
「ん?」
振り向くと、見知った顔が廊下にいた。
細川藤孝、元足利将軍家に仕えた男。
その当時からの知り合いだが、今ではもっと結びつきが深い。
娘の珠子を息子忠興の嫁にやってから、何度も一緒に家族ぐるみで宴席を設けたりしている。今では親戚よりも近しい。
およそ感情を伺わせぬ男が、珍しく眉間に皺を寄せていた。
「どうした、藤孝殿」
「妙な噂を耳にした。おぬしは知らぬか」
「噂?」
「ああ。・・・・・・ここでは言いづらい。ちょっと、外へ行こう」
なんだろう。光秀は違和感を感じた。
こんな言い淀み方をする男ではない。武士として塚原卜伝の免状を受け、槍も弓の腕も武芸百般。若かりし頃は都の大通りを狂走する牛車の牛を素手でくびき殺したこともある猛者である。茶道に歌道、万葉に古今語り、できぬものはないと言われるほどの文化人、という面も併せ持つ。
幕府にも朝廷にも、畿内の主だった武将たちにも顔が利き、口喧しい本願寺の坊主どもも一目置くような男だ。言いたいことは大殿、あの短気な信長公にすら口をはばからない。
先日も、家康公を招いての宴席、元武田家領甲州征伐祝賀会の時でさえ、まだ全ては終わっておりませぬ、と殿や家康公らにも冷水を浴びせかけた。率直で質実剛健、それが藤孝こと幽斎の持ち味だ。
御所を出て数分、本能寺へ着くと、住職に断って茶を所望した。ふたつの湯気の立つ緑の液体が運ばれてくる。
「うむ。ここの茶は良い。茶器も優れている」
「そうだな」
茶器を眺める光秀と違い、幽斎の顔色はまだ優れない。
唇を舐め、どう切り出すか、と思案している顔だ。
「どうした、お主らしくもない。儂とお主の仲だ、率直に言えば良かろう」
「ああ。・・・・・・では言おう。津田信澄殿の妻、だが」
「京子のことか。京がどうした?」
「信長公のご落胤だ、という説が流れている」
「な」
絶句した。
そんなはずがない。
「・・・・・・噂、とやらの、出処は」
「分からぬ。分かったら即座に処分しておる。言いふらす者たちもな。・・・・・・だが」
「人の口に戸は立てられぬ」
「そうだ。・・・・・・おぬし、津田殿からは何も聞いてはおらぬか」
「さあ」
津田信澄は、末娘の京を正妻として娶った男である。
信長公の弟君であった信勝殿の息子、大殿にとっては甥っ子にあたる。
織田の血を引く、有能で勇猛な人物だ。
光秀にとっても、恩義がある人物である。
津田信澄は幼少の頃から柴田勝家殿に養育され、長じては姉川の戦いの後に滅ぼされた浅井家に於いて、勇将の名を欲しいままにした磯野員昌の養子となった。
信長公の命により、磯野員昌は自身の領地を安堵される代わりに、津田信澄を養子とするように命ぜられた。
その後、磯野員昌は殿の勘気を蒙り、蟄居となっている。津田殿はその領地を引き継ぎ、光秀が丹波攻めで「丹波の赤鬼」赤井直正攻めの際に窮地となったところを応援に来てくれた。以来縁ができ、京子を迎えて下さることとなったのだ。
本願寺攻めの際も参加し、本陣で何度か酒を酌み交わした。
「京の都で広まっているのか?」
「それなりにな。どのような意図があるのか分からぬ。・・・・・・だが、信長公の落胤、とあっては津田殿の地位も上がろうというもの。織田家の血を引き、殿の甥とはいえ、織田の名を名乗ることは許されておらぬ。しかし、信長公の娘を娶ったとあらば」
「・・・・・・四国の件も、それか」
津田信澄の地位は、今でも充分に高い。
織田家での序列なら、信長公ご本人は当然のこととして、現在の当主である長子信忠様、次男の信雄様、信長公の弟君である信包様、三男の信孝様についで、第5位と目されている。大殿の弟君である有楽斎殿よりも上だ。
万が一、一族総出の宴席などで織田家になにかあれば、津田信澄は織田家を継ぐ立場にあった。それは京子の婚儀の時も、信長公直々にそのような話があったから明白である。
四国の件、というのは、今回、四国の領地は長宗我部家に「切り取り次第」となっていたはずが、突然信長公が翻意され、讃岐を信孝様に、阿波を三好康長に与える、と言い出した件のことだ。
長宗我部家にすれば、お墨付きに御朱印状まで貰っていたものを、突然梯子ごと外されたのだから不満もでるもの。主に三好康長の調略、という名の大殿への胡麻擂りによるものである。
当初昵懇であった織田家と長宗我部家は急速に関係が悪化し、業を煮やした大殿も、長宗我部を討つ、とまで言い出した。
それに伴い、信孝を総大将として「四国征伐軍」が編成され、堺へと集結しつつある。
三好康長は既に阿波へと渡り、長宗我部攻めを準備しているはずだ。
その中にあって、津田信澄もまた、四国征伐の任に当たっていた。
光秀も噂なら聞いたことはある。信長公はいずれ、津田信澄に土佐を、あるいは伊予を含め二カ国を与えるおつもりなのだ、と。
「お主もその件では苦い思いをしたであろう。長宗我部家との調停を取り持っていたのだからな」
「・・・・・・仕方のないこと。三好家の持つ海運の力は、殿であっても無視はできぬ。三好の船がなければ、四国へ軍勢を差し向けることはできぬのだからな」
全国を俯瞰する。
四国、長宗我部や三好家の本領がある広大な島には、本州から陸続きで渡る手段はない。毛利や三好でもなければ、自前で軍勢を輸送できるような海運態勢はなかった。
あれほど信長公に背いてきた三好家とはいえ、今でも瀬戸内における海運の動員力は圧倒的である。それは今後、羽柴の毛利攻めに対する補給・兵站という視点では、さらに重要さを増しつつあった。
「伊勢の船が、使えるとよいのだがな」
「無理だ。伊勢湾を制したとは言え、九鬼は所詮土豪の端くれ。伊勢中の船乗りを束ねることはまだまだできぬ。それに、鳴門の渦は伊勢の船乗りには無理であろう。あれに習熟し、大軍を無理なく輸送するには幾年もかかる。やはり三好の力は必要、そう諦めた」
言いつつも、やはり心残りではある。
長宗我部家に嫁いだ斎藤利三の親戚筋の女、あれは土岐氏の血を継ぐものである。
長宗我部が四国を制すれば、すなわち土岐の血が大大名家へ流れるということになる。それは光秀にとっても、同じ土岐氏の血を引く利三にとっても非常に喜ばしいことであった。
それに。
信長公は冷淡で短気な人物だ。いつ光秀たちが勘気を蒙り、放逐されるかは分かったものではない。その時のことを考えても、やはり長宗我部家は存続してもらいたい。だから今でも交渉は継続している。
「お主の娘を津田信澄に、と言い出したのも、殿であったな」
「いかにも。津田殿は、安土城の縄張りや造成に始まり、本願寺征伐に法華宗門徒との交渉、伊賀攻め、甲州征伐と、その働きは大であった。その恩賞に欲しいものはあるか、と聞かれて、京子を、と望んだのだからな」
末娘の京子は、妻の煕子に似て美しかった。姉である珠よりも美しい、と呼ぶ声もあった。
確かに美しい娘だった。長じて嫁に送る際は、煕子も涙を流していた。
婚儀を終えて3年、既に男児二子を生み、夫婦仲も良く元気にしていると聞いている。先日の甲州征伐祝賀会でも、信澄殿から直にそのように聞いた。
京子も喜んでいた。信澄殿は24歳、16歳の京子にとってさほど年上でもなく、昔から坂本に出入りしている顔見知りだ。嫁にと望まれて、顔を塾柿のように真赤にして喜んでいたのを思い出す。
「しかし、今頃なぜ?既に婚儀は3年も前、妙な噂が立つ道理もあるまいに」
「それがな、殿がそう仰せられた、というのだ」
「・・・・・・まさか」
まさか。
あの件が。
16年も昔のことを、今さらに思い出した。
同じことを考えていたのだろう、幽斎もますます苦虫を噛み潰している。
「・・・・・・あのような戯言を、憶えているものがいようとは」
「ああ。煕子殿もきっぱりと否定し、大殿もお主に謝った。芳子殿も殿の側室として入られ、それで済んだはずだ。・・・・・・噂はただの噂、それでいい。つまらぬことを申したな」
「いや、ありがたい。お主から聞いておらねば、いずれ他の口から噂を聞いたことになるだろう。お主だからこそ、心を平にして聞くことができた。礼を言う」
幽斎の手を取り、頭を下げた。
「・・・・・・煕子殿の、容態は」
「まだ良くない。床に臥せっておる。下らぬ噂を耳にすることもないだろう」
「そうか。それは不幸中の幸いだ。・・・・・・くれぐれも気にするでないぞ、光秀」
「ああ」
2
噂。
10年以上も昔に、とある噂があった。
殿が煕子に手を付けた、というものだ。
ある日のこと、突然信長公が、家臣たちの妻を定期的に出仕させよ、と命じた。
表向きは帰蝶様のお話相手に、ということだったが、その目的は明らかだった。
「・・・・・・わたくしは、お止めしたのですけれども」
寵童である蘭丸が、そう告げてきた。
信長公が、家臣たちの妻に懸想し始めた、というのだ。
事の発端は、戯れな「雨夜の品定め」であったと、蘭丸は言った。
時は足利将軍家のお家騒動の真っ最中、当時の光秀はまだ信長公の家臣となった直後であった。越前に来られた足利義昭公、その懐刀であった細川幽斎から頼まれ、かつての故郷美濃を支配する信長公へ手紙を届け、ありがたくも義昭公を京都へとお迎えすることができた。
その功績と、帰蝶様とのご縁から、ありがたくも直臣としてお迎えいただくこととなった。
当時、初めて京の都へ来られた信長公は、物珍しさにあちこちを散策して周り、ご無礼にも公家宅や御所へと入り込み、そこで近習たちを集めて酒を酌み交わす、などという狼藉を働いていた。
源氏物語に出てくるような御簾の垂れ幕を眺め、文字通り「品定め」をしたのだという。
そこで、「最も美しい女は誰か」という談義になった。
帰蝶様に妹君の胡蝶殿、信忠様のご母堂である生駒殿、お市様に犬姫様、藤吉郎殿の妻ねね、浅井長政が姉、京極殿。
あるいは京の都、北野天満宮で舞台を開く評判の美女、出雲の阿国。
いくつかの名が挙がる中、誰かが言いだしたらしい。
「明智光秀殿の妻こそ、真の美女にござる。あのように美しい女性に、未だであったことはござらぬ」
それが直接の切掛であったかどうかは分からない。
翌月、煕子は請われて信長公の京の居宅へと参上した。
そこで信長公は、戯れに廊下を進む煕子を背後から抱きしめようとしたのだ、という。
だが、煕子はよくできた妻だ。
咄嗟に扇子を懐から取り出すと、無礼者!とその眉間を打ち据えたのだ。
煕子は信長公の顔など知らぬから、下手人がまさか夫の主君であるなどと思わず、そのまま帰蝶様と歓談して帰ったらしい。
あとで知って慌てたのだ、ということだ。
この話は、光秀でも承知している。
だからこそ、翌月煕子の妹、芳子を稲葉山に出仕させ、事実上の側室とさせたのだ。煕子に興味が向かぬように。
芳子はとても美しい義妹であった。
煕子に瓜二つ、疱瘡に罹ったことを憂いた煕子の実家、妻木氏が、光秀の妻として芳子を送って来た時も、最初の頃は気づかなかったほどだ。
共に暮らして5日目、子供の頃に過ごした記憶が食い違うことで、芳子が秘密を吐露し、それで煕子ではないことに気づいた。
妻木氏を問い詰めると白状し、奥の間から本物の煕子が出てきた。
婚約の後、頬に痘瘡ができたことを悔い、芳子を妻としての代わりとして差し出したのだという。
「この光秀、そなたの顔と婚儀をしたわけではござらぬ。我が生涯の妻は煕子、そなただけだ」
知らぬこととは言え、床を同じくしてしまったことを侘びたが、芳子は姉の幸福を喜び、妻木氏も許してくれた。
以来美濃から離れ、芳子は嫁には出せぬ、と実家にいたが、信長公へ奉公することとなった。
「本当は、芳が良かったのではないかしら?」
本当に時々だが、煕子はそう言って笑うことがあった。無論のこと、戯れである。
煕子は外見も美しいが、内面はより美しい妻であった。三男四女を育て上げ、禄もほとんどない時代に衣服の手直しやむしろ売りをして家計を助け、美しい髪を売って助けてくれた。
自分の妻なれど、このように身も心も美しい女性に、未だ光秀は出会ったことがない。
「いずれ、伸びてくるものですから」
そう笑ったが、女性にとって髪を切り売りすることがどれほど屈辱で後ろ指を差されることか、よく知っている。今でも頭が上がらない。
そんな妻が、まさか。
(あの件は、嘘だったのか)
京の屋敷へと向かいつつ、そう自答した。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
刀を受け取りに来た小姓たちを払うと、妻が休む奥の間へと向かった。
「殿、ご無礼を」
「遠慮はいらぬ。休んでおれ」
床の間へ入ると、煕子は身体を起こして額を畳に付けた。
良い、と手で制する。少しでも休めておかないとならぬ、と医者からも言われている。
(やつれたな)
妻の顔を見ると、改めてそう感じた。
煕子が病に伏せているのは、光秀のせいでもある。
去年の冬から大病を患い、煕子にずいぶんと苦労をかけていたのだ。日夜を問わず世話をしてくれて、そのせいで、今度は逆に煕子が臥せてしまっていた。
「今度は備中へ向かわれるとのこと。ご武運を、お祈り申し上げます」
「うむ。羽柴殿は苦戦している様子でな。相手は毛利家だ、無理もない」
言いつつも、その白いうなじに目を向ける。
歳はもう40も半ばを過ぎ、若かりし頃の輝きは薄れている。だが、それでも床の間で服を直す煕子は美しかった。
その様子を見ると、何も言い出せなくなる。
「殿?」
「いや。・・・・・・芳のこと、無念であろう」
「はい」
信長公へ奉公に出た妹の芳子は、つい昨年、突然亡くなったと聞いた。
病の話もなく、信長公にも愛され、家中のことも任されていた。まさに青天の霹靂であり、煕子も光秀も驚いたし、彼女の最期を話す信長公も苦々しい顔つきであった。さぞ落胆したのだろう。
20年前、新婚の日を思い出す。
煕子と疑ってもいなかった光秀は、何も迷うことなく新居で芳子に床の間を準備させ、風呂で背中を流させた後、唇を吸った。
婚約以来、身体は重ねずとも、何度か唇は重ねていた。だがどこか硬いその仕草を、初夜を案じているのだろう、程度にしか思わなかった。
真っ白な装束で床の間に入ってきた彼女を、矢も盾もたまらず組み敷いた。
女の体は初めてではなかったが、妻となることが決まってから、その夜を夢想して興奮は抑えきれなかった。
なるべく優しくしていたつもりではあったが、激しく身を貫く痛みに彼女は硬く歯を食いしばり、その仕草がいじらしくてわざと痛めつけんとばかりに、何度もその身を刺し貫いた。翌朝、彼女の頬には幾筋もの涙の跡があった。
それに。
今、正直に吐露すれば、身体の相性は芳子のほうが良かった。
たったの5日間の新婚生活ではあったが、昼に夜に身体を重ねていたことで、芳子は早くも女の悦びに目覚めつつあった。
(本当は、3日目に気づいていた)
5日目、そうと知った日の夜も、やはり光秀は「身代わりの妻」の身体を抱いた。
それと知ってなお、「妻」の身体に未練があった。いやむしろ、最後の夜が一番燃え盛った、と言って嘘はない。
そんな女であるから、義妹だから、といって何も思わぬではなかった。
煕子が時折戯れなことを言うたび、芳子はいまどうしているだろう、と若き日の夜を思い出し、股の間が疼くこともあった。
(芳はどんな顔で、公に抱かれているのか)
ふと夜の陣で篝火を見つめながら、想像する夜もあった。
そんな芳子はもうこの世にいない。
いるのは、煕子だけだ。
「信長様には多大な恩義がある。どこにでも落ちている、河原の礫のようなこの身をお取り立ていただき、家臣の一人として加えて下さった。兵を与え城をお与え下さり、今ではこの近畿を束ねる立場までお取り上げいただいた。まこと、明智の一族は末代に至るまで、信長公のご恩義を忘れてはならぬ」
「はい」
煕子は青白い顔ながら微笑んだ。
越前にいる頃の苦労を思い出しているのだろうか。
だが。
聞かなければならない。
「煕子」
「はい」
「殿と、何かあったか」
妻の顔面が、蒼白になった。
この話は、あの事件の夜以来、蒸し返したことはない。
その顔色を見ただけで、光秀には分かった。
(そうか・・・・・・)
3
16年前
「そなたが煕子殿か」
「はい?」
煕子が振り返ると、そこには一人の侍がいた。
織田信長公だ、とひと目見ただけで分かった。派手な真っ赤な袴に金縁の刀の鍔、精悍で強い眼差し。夫である光秀が使えるべき人物だ、そう直感した。
廊下にひざまずく。
「恐れながら、織田上総介、信長様とお見受け致します」
「いかにも」
「明智光秀が妻、煕子にございます。お目汚しを」
頬についた疱瘡の痕。
夫は何度も床でその傷に触れ、綺麗だ、と言っては下さるが、優しい夫だからだ。他人より見て醜い傷であることはどうしようもない。
「帰蝶のところへ参ってくれたのか」
「はい。お召しに預かり、ありがたく存じます」
「良い。そなたは光秀同様、美濃の出身であろう?帰蝶と仲良くしてやってもらいたい」
「ありがたきお言葉」
夫である明智家と、帰蝶様の出身斎藤家は親戚筋である。
妻木氏はさほど高い身分でもなく、帰蝶様のことは存じなかったが、同じ頃に美濃にいたことは確かだ。
「祭り囃子など、幼い頃の話もしとう存じます」
「ぜひそうしてやってくれ。・・・・・・話がある。来い」
言い放つと、ずかずかと廊下を歩んでいく。
伴のものは誰もいないようだ。
煕子は置いていかれぬよう、足早に信長の後に続いた。
いくつか障子を抜け、8畳ほどの間へと入る。
入ると信長は脇差を外し、座布団を指差した。
「座るが良い」
「畏れ多い事で」
「良い。誰もおらぬ」
信長は皿を手に、酒注ぎを指し示した。
どうやら「酌をせよ」ということらしい。
煕子は、ややたじろいだ。
ここに来たのは、帰蝶様にお会いするためだ。お召し抱えいただいた主君とはいえ、男性とふたりきりで酒の酌をするために来たのではない。
(これも、ご主人様の為)
夫の苦労は、ずっと見てきた。
明智城の跡継ぎと目されながら、主君である斎藤道三についたことで、斎藤義龍公から追われ、裸一貫で美濃から越前まで、寒空の中を逃げながら生き延びた。
越前に着いてからも、武士としての職はなかった。寺子屋に医者の真似事をしながら食いつなぎ、雨漏りがする中で子どもたちを育て上げ、ようやく掴み取った好機なのだ。自分がそれをふいにしてどうなることか。
夫のために尽くす、それが妻の役割だ。
「失礼、致します」
煕子は塗り物の銚子を手にした。
信長公が差し出した朱塗りの盃に、ゆっくりと注ぐ。
煕子が目にしたこともないほど透明で、嗅いだこともないほど華やかな液体が、ゆっくりと注がれた。
自分をじっと見つめている、そう意識しながら。
信長は煕子から目を離さぬまま、ゆっくりと盃を口にした。
「美味い」
「良い香りが致します」
「京の酒は絶品じゃ。やはり、尾張の酒や美濃のどぶろくとは違うのう」
「越前のお酒も、美味しいものと伺いました」
煕子も飲めぬわけではない。
夫が誘ってきた夜には、共に口にすることもあった。さほど美味しいとは思えぬものの、味もわからぬほどではない。
と、信長が盃を差し出してきた。
「どうじゃ」
「それは」
「屠蘇だ。身体に良いであろう?」
そういえば、もうすぐ正月だ、そう煕子は思った。
明智の家ではほとんど行事もないが、世間では正月を祝う時期だ。
この季節に屠蘇を口にすることで、一年中健康に暮らせる。常識であった。
「この酒、京の伏見の水を使った酒だ。米もしっかりと磨かれている。これを口にせずにいる道理はない。公家や宮様しか口にすることができぬ、伊勢神宮奉納の酒じゃ」
「お伊勢様の・・・・・・」
そう聞くと、心がざわめく。
伊勢、平安の都の頃から、伊勢神宮には天照大神が鎮座していらっしゃる。生涯に一度は参拝してみたい、そんな気持ちは煕子の中にもあった。
その神宮に奉納されていた神酒、それを口にすれば。
「伊勢には参ったことがあるか」
「いえ」
「儂はある。静謐な場所じゃ。まさに神の棲家、神域と呼ぶに相応しき、水も空気も磨かれた場所じゃ。そこに奉納されていた酒じゃ、美味くないはずがない」
「いかにも」
「これを口にすれば、まるで伊勢を身近に感じているようじゃ。・・・・・・どうじゃ?」
「・・・・・・では」
煕子が差し出された盃を手にすると、信長が銚子を持ち上げた。
もったいなく、などと発する余裕もなく、そこに透明な液体が並々と湛えられた。
「遠慮はいらぬ」
「では」
口をつける。
夫に、心のなかで少し謝った。
思いがけぬ、果実のような味わい。
今までに口にしたのは、果たして本当に酒であったのか、そう疑うほどの美酒。
つい、と喉を通り、五臓六腑へと染み渡っていく。
「どうじゃ、美味いか」
「大変に美味しゅうございました。これが神酒、なのですね」
「そうじゃ」
煕子が差し出した盃を奪い返し、また差し出す。
銚子を手に、また注いだ。
「あの」
「なんじゃ」
「お飲みにならぬ、と伺ったのですが」
「そうじゃ。正月と、合戦の後くらいじゃな。・・・・・・飲むと人が壊れる」
「そう、でございますね」
古今、酒で身を潰したものの話は事欠かなかった。だから夫である光秀も、飲む時はごく少量だけにしている。
煕子も多少は嗜みつつ、さほど飲んだこともなかったし、大酒飲み、と言われる方々の気持ちもよく分からなかった。
だが、これほどの美酒となれば、多少気持ちが理解できる。これは飲みすぎてしまう。
信長はまた盃を干した。
「うむ。美味い。・・・・・・美女に注いでもらう酒は、また格別にな」
「お戯れを」
8畳の間には、ゆらゆらと蝋燭が揺らめくだけであった。
物音もせず、外の陽も入ってこない。
揺れる蝋燭の明かりの中、信長はただじっと、煕子を見つめていた。
鋭すぎるその視線が、落ち着かない。
「お殿様であれば、どのような美女であろうと、意のままでありましょう」
「うむ。帰蝶も美しく、他の者たちも美しい。先日、出雲の阿国という者を見た。あれも大変に美しい。京の都では、あれは天女であろう、との噂じゃ」
「まあ。ひと目見てみたいものですわ」
出雲の阿国、という女性の噂なら、煕子も聞いたことがあった。
大変に芸が秀でており、皆こぞってその舞台を見に行く、という。
「うむ。見に行くが良い。・・・・・・そなたのほうが美しい」
「え」
唐突に言われて、煕子は固まった。
信長に差し出され、また煕子は盃を受け取る。
「そなたのほうが美しい。間近で見ると余計に分かる。そなた、天女の生まれ変わりか?」
「美濃の田舎者でございます」
受け取ると、透明な酒が注がれ。
やはり口にしてしまった。
伊勢から来た酒、そう思うと、飲むだけで神様に触れているような、そんな気持ちになってしまう。
「家臣が申しておった。絶世の美女、とはどんなものであろうか、とな。儂の妹、お市も大変に美しい。だが、そなたの前には霞むようじゃ」
「そのような」
「なるほど、絶世の美女とは、まことそなたのような存在であろう。・・・・・・光秀殿が羨ましい」
じっとり。
視線が、顔に突き刺さっていた。
喉にも、胸元にも。
ゆっくりと、視線が身体をなぞっていく。
どくん。
胸が踊った。
違う、これは。
これは、酒のせいだ。
きっと。酒のせいだ。
男に見つめられているからではない。
「美しいであろう?」
「・・・・・・え?」
「その盃じゃ。真っ赤に漆を塗り、次に金で絵を描く。こちらを」
信長が視線を離すと、煕子はほっと息をついた。
あの視線をずっと据えられていると、どうなるか怖い。
「これじゃ」
まるでわらべが竹細工を見せびらかすように、信長が無邪気な笑みを見せた。
3段に並んだ盃、銚子。そして塗盆。
そのどれもが美しく、金色の絵が描かれていた。
「松、竹、鶴、どれも大変に美しい。京の都とは、やはりこのような腕を持つ職人が住んでいるものじゃ。このように美しいもの、尾張や美濃では目にせぬ」
「はい」
「もののふは戦が好きじゃが、このように美しいものも好きじゃ。戦はこうも美しい物を作り出せる職人たちをあっという間に殺してしまう。それではならん。酒もそうじゃ、このような神の酒を、もののふが作り出せるわけではない。・・・・・・このようなものを、日本中に広めたい。そのためには、戦があってはならぬ」
「はい」
信長は蝋燭の光に映し出された銚子の絵柄を眺めた。
その横顔を見て、煕子は思った。
この人は、美しいものが好きなのだ。
絵も、酒器も、茶器も、美酒も、美女も、美男子も、城も街も。あるいは都も。
美しく、整備され、整頓され、創造され。
神の作り出した造形、そんな風景さえも。愛することができるのだ。
「神の作り出しし、素晴らしき美しさじゃ」
唐突に心を読まれたような気がして、煕子はびくっ、と肩を震わせた。
信長は、また自分を見つめていた。
「そんな」
「誠に美しい。・・・・・・儂と、一時を過ごしてもらいたい」
信長はまた、じっと見つめていた。
じっと汗が出る。
それは決して、冷や汗ではなかった。
この人と、床を共にすれば。
ただ一介の浪人に近い主人も。
しかし、そんな不義をあの人は喜ばない、そう思った。
きっとあの人は、自分が出世するよりも、妻の安寧を願うだろう。そういう人だ。
素朴な笑顔を思い出す。
「・・・・・・誠にご無礼とは、存じますが」
「良い。家臣たるものの妻は、儂の家族も同然。家族に無体を働こうとは思わぬ」
「では」
「もう一杯だけ、つきあってはくれぬか」
盃が差し出された。
底の方に、少しだけ液体が溜まっていた。
信長の目を見つめる。
正面から、真っ直ぐに。
やろうと思えば、ここで手篭めにすることも、この人にはできたはず。
傍に置いた脇差を突きつければ、従わせることも容易い。
そのように無理を強いられれば、むしろ煕子は抗っただろう。殺されても。
この人は、そうしなかった。
「・・・・・・では、最後に」
「頼む」
盃を、手にした。
信長が、銚子を持って注ぐ。
ゆっくりと。
注がれた液体を、口元に運んだ。
喉を通るのは、磨かれた清酒。
恐らく一生に一度も、口にすることなどできぬ類の。
宮家や公家、それも高位のものにしか、許されぬ酒。
ゆっくりと。
味わい深く、煕子は口にした。
(ふあ・・・・・・)
見たこともない、伊勢の森の香りが、鼻腔を通り抜けていった。
静謐とした森の木々、そこを抜ける清らかな風、さらさらと流れる、五十鈴川の清流。
それらが一体となって、煕子の身体を通っていく。
爽やかな風が通った後。
身体が熱く感じた。
動悸が激しくなっている。さっきよりも。
じっと、信長が見つめていた。
煕子の手から盃を受け取り、ほとんど残ってもいない酒を口にする。
はっとした。
煕子が口をつけていた場所、その部分を、唇に当てている。
つい、自分の唇に指を当てた。
「ここじゃ」
信長が、自分の唇を指差した。
人差し指を、唇に当てる。
その指は、ゆっくりと宙を動き。
煕子の唇に、優しく触れた。
(あ・・・・・・)
ニヤリ、と信長は笑う。
決して嫌らしい、下卑た笑いではない。
だが、分かってやっている、という、凄みを帯びた男の笑み。
間接的に唇を交わしている、そう煕子に感じさせるような、笑み。
また、信長の指が動いた。
煕子の唇が触れていた指先を、ぺろりと舐めた。
「これでもう、知らぬ間ではない」
「殿様」
また、信長が指を差し出した。
ゆっくりと、煕子の唇に近づいていく。
舐めた指先を。
(に、げないと)
煕子は思った。
だが、頭がのぼせたように思考が働かない。
体中が、火病のように火照っていた。
やがて、指先が触れた。
煕子の唇へと。
(触れてしまった)
夫に対して、既に裏切ってしまったような気持ちがずし、と心に伸し掛かる。
だが、身体はやはり、火が付いたように熱い。
(う)
指が、唇の中へ入ってきた。
舌先へ押し付けられる。
つい、その部分を舐めてしまった。
ごくん、と唾液が喉を通る。
「そなたは動けぬ」
信長が言った。
「そなたはもう動けぬ。・・・・・・煕子殿」
4
全て信長が悪い、そう煕子も思い込むことはできなかった。
抵抗はしたが、衣服が全て破れるほどに抗ったわけではなかった。硬く脚を開かぬよう閉じていたが、最後まで力を抜かなかったわけではなかった。
胸を吸われ、嫌、とは言ったものの、強く払いのけたわけではなかった。口から出たのは、決して拒否の音だけではなかった。
首筋に強く押し当てられた舌先は、耳たぶをそっと噛むその痛みは、耳の奥へと流れる甘い吐息は、不快さとは別の感情を煕子に抱かせた。
煕子は生まれてこの方、夫以外の男を知らなかった。
朴訥とした夫は、ただ床の中で身体を重ね、自分が終わると寝入るだけだった。夫が寝静まった後、こっそりと自分を慰めていることなど、想像もしなかったに違いない。
そして。
夫の主君となる男は。
数々の女たちを相手にしてきた覇王は。
煕子の想像以上に、男女の理に通じていた。
「あ、そ、そのような、ところを」
「良い。・・・・・・力を抜き、全て儂に任せよ」
股の間から、声がしている。
そんな場所を男が舐めるなど、煕子には思いもつかぬことであった。
ちろちろ。ちろちろ。
股間で動く舌先が、覚えがないほどの快楽を伝えてきた。
酒の酔いもあったが、それを上回って。
煕子の今までの人生を、全て放り投げてしまうほどに。
貞淑な妻としての存在を、かなぐり捨てるほどに。
鳴門の渦、快楽の大渦の中へと放り込まれてしまった。
かり。
乳首の先端が、甘く噛まれる。
さきほどまで舌先がなぞっていた女の部分を、今度は指先がなぞっていた。
煕子は必死で、人差し指を口に入れて噛み付いた。そうでもしないと、快感の声を我慢することができなかった。
ふ、と信長が笑う。
「我慢など要らぬ。・・・・・・もっと気持ち良くしてやる」
(もっと・・・・・・?)
ずぶ。
秘所に、指が入っていく。
(そ、そんな場所に、指を)
中が、かき回された。
指を口に入れるだけでは抑えきれず、煕子の顎が跳ね上がった。
なんだこれは。
これが、本当の房事だ、というのか。
何度も指先で中をかき回され、あるいは芽の部分をくりくりと愛撫され。
今までに感じたことのない感覚に、煕子の脳内は沸騰した。
(あ・・・・・・あ!あ!)
がくん。
意識が遠くなった。
自分がいまなにをしているか、どこにいるか、それすらも分からぬほどに。
「煕子殿・・・・・・この世に舞い降りし天女よ。我が想い、遂げさせてもらう」
耳元で声がした。
ゆっくりと、頭が抱きしめられる。
ぎゅっと、抱きかかえられた。
下腹部に、何かが押し当てられている。
何か?
分かっていた。それがナニかを。
もう、逃げられない。
(だめ)
(何が?)
(もう、考えられない)
入ってきたモノの感触に、また煕子は悲鳴を上げそうになった。
(き、気持ちいい)
それは、夫のものを遥かに超える、巨大な一物だった。
ぐい、と腰が動くたびに、腰ごと持ち上げられそうになる。
引き抜かれ、差し込まれる。
そのたびに、身体のものすごく奥深い場所まで、猛々しく硬い物体が当たっていた。それがもの凄い快感だった。
「・・・・・てて」
「ん?」
「も、もっと、そこに・・・・・・奥に、当てて、下さい」
(そんなこと、言ってない)
だが、やはりさっきの声は自分のものだろう。そのくらいの自覚はあった。
「良かろう。・・・・・・このように、なるがよい」
信長の力強い腕が、煕子を四つん這いにした。
「尻を高くあげよ」
「は、はい」
(こ、こんな、ふしだらな)
だが、煕子は自分が犬のように、牛のように、男へ尻を差し出しているということを自覚するしかなかった。
そして、そこへ巨大なオノコが付きこまれた。
「ひ!ひああああああああっ!」
「うむ、煕子殿はやはり、後背位が良いな。・・・・・・さて、楽しませてもらうぞ」
ずぶ。ずぶ。ずぶ。
体奥にもっと強い刺激が来て、煕子はもはや抗うこともできなかった。
「ここか?ここが良いのか?」
「だ、だめです、そ、そこ、は」
「うむ。では、これは、どうじゃ?」
パン!
8畳間に、淫らな鼓の音が響いた。
煕子という楽器が奏でる音。
一撃で、煕子は声もなく絶頂した。
パン!パン!パン!
パン!パン!パン!パン!パン!パン!
もはや、声すら出なかった。
ただ一心に、背後からやってくる快楽を受け止めるだけだった。
(も、もうっ!)
(だめっ!)
がくん。
煕子は床に突っ伏した。
もう、動けそうになかった。
ぐい、と身体が持ち上げられる。
信長があぐらをかき、その上に座らさせて。
だが身体は結合したままだ。
背後から抱きしめられ、両方の乳房が愛撫される。乳首が強くつままれた。
「煕子殿」
ぼんやりと背後を振り向くと、唇が奪われた。
だが、もう抵抗はできなかった。それどころか、煕子の唇はむしろ欲するように、信長の長い舌に絡みついた。
強く乳房がつままれると、ぶしゅ、と乳汁がほとばしり出た。
「素晴らしき身体じゃ・・・・・・最高のオナゴじゃ」
座ったままでも律動を続ける信長に、もはや煕子の下半身は抗うこともできなかった。
自分でも、腰を動かしてしまっていた。
もはや、抵抗はできなかった。
信長に言われるがままに、煕子は様々に身体をくねらせた。信長の上に跨り、馬に乗るように腰を振った。再び信長の下に組み敷かれ、激しく口づけ合いながら、両腕と脚を絡ませ、腰の動きに喘いだ。
「子種を授ける。・・・・・・受け止めるが良い」
「そ、それは」
それはいけない。
それだけは。
「お、おおとのさま」
「全て受け止めてみせよ。・・・・・・ゆくぞ煕子」
「い、いけません、それだけは、どうか」
ぎゅっ。
言葉とは裏腹に、煕子の長く麗しき脚は、信長の腰に絡みついたままだった。
むしろ、離さないとばかりに。
「出すぞ、煕子、出すぞ。・・・・・・出すぞっ!」
「だめ、だめっ!」
一層、律動が激しくなり。
体の奥底に、熱い液体が放たれた。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
「見た目麗しきだけではない。雌としても絶品じゃ。・・・・・・まさに天女、生涯に一度出会うかどうかの、素晴らしき存在じゃ」
耳たぶを甘く噛まれ、そう囁かれ。
煕子はまだ、両腕を首元から離すことができないでいた。
夫とのまぐわいは、なんだったのだろう。
そう思えるほどに、煕子は放心した。
あとは、言われるがままだった。
言われるまま、子種を放出しきった巨大なモノを口に咥えた。
何度も何度も、舌を絡め、口を上下させた。
子種の残りを吸い取り、飲み下し。
再び硬くなるまで、舌を使った。
もう一度硬さを取り戻すと、また信長は煕子の身体を自由にした。
大きく脚を広げさせられ、高く持ち上げられ。
自分から懇願し、四つん這いになり、尻を突き出した。
二度目も三度目も、激しく唇を絡めあいながら、子種を受け取った。
5
数日後。
光秀は、妻の喪主を務めた。
あの日以来、煕子は痩せ細り、水さえも口にしなくなった。
結局、煕子は最後まで何も言わなかった。
信長公との間に過ちがあったのか、それさえも。
(俺が、殺してしまった)
最愛の妻。最愛の人。
人生をずっと共にしてきた、愛しい人を。
「殿!出立の時間でございます」
「・・・・・・利三か」
悲嘆に暮れる余裕はなかった。
光秀は信長軍15000の兵を率いる立場にあり、羽柴秀吉は中国方面で毛利軍本隊と対峙しつつ、備中高松城で援軍を今か今かと待っているに違いなかった。
「殿!」
伝令が馬から降り、膝をついた。
「大殿がお呼びでございます。・・・・・・先日の馬揃え、大儀であった。さすがは光秀じゃ、出立前に酒を酌み交わしたい、と」
「・・・・・・そうか。大殿は?」
「先日、安土城を出立なされました。しばらくの間、本能寺に滞在されるとのことにござりますれば」
本能寺。
あそこか。
「・・・・・・本能寺、か」
「もう一つ。・・・・・・奥方様のこと、誠に痛み入る。深く弔意を申し上げる、とのこと」
「・・・・・・あい分かった。必ず夕刻までに本能寺へ参る、とお伝えせよ」
「はっ!」
馬が去っていく。
「殿」
「軍勢はこのまま、丹波亀山城にて待機せよ。・・・・・・利三、馬を引け」
「はっ!」
光秀が本能寺へ到着すると、すぐに奥へと通された。
そこには信長と蘭丸、他に数人の小姓たちがいるだけだった。
庭が見える縁側で、信長は茶の湯を楽しんでいた。
夜空に大きな月があがっていた。
「・・・・・・光秀か」
「大殿、お呼びで」
「うむ。・・・・・・他の者たちは下がれ」
「はっ。されど」
「こと光秀に限って、儂を裏切ったりなどせぬ。・・・・・・酒を持て」
「はっ」
光秀は寸鉄も身に帯びてはいなかった。
だが、心に潜む刃だけは、どうしようもない。
明るい月明かりに照らされ、信長は上機嫌だった。
「呼び立ててすまぬな。今宵にも出立するつもりでいたのだろう?」
「はっ。馬の支度が終わり次第出立すると、羽柴殿にも伝えておりましたので」
「サルめ、苦戦もしておらぬだろうに、手柄を分け与えるつもりじゃ。・・・・・・まあ、今回はありがたく頂いておこう。あの毛利を破った信長、という実績は重要じゃ。今後西国を束ねるに当たっても、信長侮りがたし、とは思わせる必要がある」
「御意」
「おぬしはサルの元へ行け。すぐ儂も追いつく。そのままおぬしとサルめに山陽道を任せ、儂は軍勢を率い、山陰より毛利の背後を突く。・・・・・・まあお主なら、儂が着くまでに毛利軍を滅してしまうやもしれんがな」
「毛利は手強う存じますれば」
「そう、その実直さがおぬしの持ち味じゃ。やはりおぬしこそ、儂が最も信頼できるもののふじゃ。・・・・・・次会う時はな光秀、毛利の本陣、吉田郡山城で会おうぞ。サルめの与太話を聞きながら、テッポウとやらを肴に中国の銘酒でも酌み交わそう」
酒が運ばれてきた。
信長公は大して飲まない。これは光秀に、という配慮だ。
だが、珍しく信長は光秀に盃を差し出すと、自分も手にした。
「今宵はな、光秀。芳と、煕子殿の冥福を祈る日じゃ。・・・・・・そなたに芳子を教えてもらったこと、深く感謝している。あれは有能なおなごであった。女としても、あるいは部下としても、誠に有能であった。・・・・・・突然のことで、儂は心から落胆しておる」
「は」
「煕子殿のことも、じゃ。・・・・・・そなた、聞いておろう、儂が昔、煕子どのに戯れを働いたことを」
ズキン。
胸が痛んだ。
冷や汗が出るほどに。
「やはり聞いておったか、煕子殿から」
「・・・・・・はい」
「どの程度、聞いておる?」
「・・・・・・全て、でございます」
「そうか」
ぐび。
一気に盃の中身を干す。
信長も、手酌で盃を空けた。
「・・・・・・儂はもう49になる。人生50年、あの世に送りつけた亡者どもに逢うまで、もうすぐじゃ。其方は」
「54、になりますな」
「互いに老いたのう。あの頃、お互いに若かった。・・・・・・覚えておるか、光秀よ。おぬしが越前から義昭殿の上洛を求めて、帰蝶の元へ来た日のことを」
「生涯、忘れることなどないでしょうな」
浪人生活の長い光秀は、37になるところであった。
身体も徐々に老いを感じ始め、刀も満足に振るえなくなり。
このまま老いて死ぬのか、無事に戻ることはできぬのか。そう考え始めた頃だった。
僅かな望みを抱いて、光秀は稲葉山を登った。
「儂も、なんでも手に入れたい、そう考えていた。故あっておぬしに出会い、足利義昭殿を京へ入れ、信玄も謙信をも出し抜いてやった。そう有頂天になっていた。女子も、な。・・・・・・すまぬ、光秀」
「畏れ多い事でございます」
「儂は、この16年の間、おぬしに謝ろうと思い続けてきた」
ぐび。
また信長は盃を空けた。
下戸の大殿にしては、ペースが早い。
「謝る、とは」
「あの当時の儂は、そなたをさほど大きな存在とは思うておらなかった。そなたは細川藤孝から遣わされた、足軽の長、その程度にしか思っておらなんだ」
「その通りにございますれば」
実際には、そうではなかった。
光秀は、足軽の長どころか足軽ですらなく、ただの寺子屋と町医者をしている一介の市井の浪人であった。いつか武士に戻れる、そう月に願うだけの。
義昭公の使者として相応しくない、と細川藤孝が、身分だけでも、と整えてくれたのだ。
「煕子殿のことも。・・・・・・おぬしと帰蝶のことは知りつつも、今さら仕官を望む中年の足軽大将、その妻程度にしか思っておらなんだ。まさか、その足軽大将が類稀なる戦術眼と戦略眼の持ち主であり、万の軍勢を率いる大将の器である、とは見抜けなんだ」
「感謝に絶えませぬ」
光秀は銚子を差し出した。
信長は上機嫌で、盃で受け取った。
「そなたの出世、誰もが羨むであろうな」
「いかにも」
「それはそなたの才覚である。それは疑いない。儂は才覚のないものを重く用いるつもりはない。分かっておろうな」
「ははっ」
それは身に染みて分かっていた。
重臣と持ち上げられていた佐久間盛二や林道灌がどのような末路を迎えたか、織田家で知らぬ者はない。
「親や先祖の功名のみで重臣の座に居座ろうとする者共など、居るだけ目障り・・・・・・以前にも申したな、藤吉郎と」
「ははっ」
木下藤吉郎。
才覚と大殿受けだけでのしあがった、出世頭を代表する農民。
佐々成政や柴田殿は成り上がり者と目の敵にしているが、光秀は彼の者を高く評価していた。あれはただの農民風情、と侮るには懐が深すぎる。見た目はともかく、そんなサル回しに墨俣城は作れぬし、金ヶ崎の撤退戦は指揮出来まい。
「光秀殿、是非ともに生きて互いの嫁の元へ帰りましょうぞ。・・・・・・拙者、まだうら若きおなごを抱きたいでござる」
あはは、と笑った顔は確かにサルそのものだったが、あの状況に於いてそれだけの強がりが出せるのは一種の才能だな、そう光秀は思った。
お市の方の「袋の中の小豆」をいち早く見抜いた才覚も。
藤吉郎がいなければ、今の自分はない。無事に帰還してからおね殿と煕子と4人でどんちゃん騒ぎをしたことも、今では良い思い出だ。
その藤吉郎が、今では毛利の相手、中国方面司令官となり。
その増援に自分が赴くというのも、また面白い。
あちらで藤吉郎と会ったら、さぞ楽しく宴会ができるだろう。
「だがな、光秀よ」
主君の声が、光秀を現実に引き戻した。
「煕子殿は、おぬしの将来を憂いておった。・・・・・・その意味が、分かるな」
「・・・・・・はい」
では。
煕子は夫の出世のために、その身を差し出した、というのか。
その功績は、当時の煕子にある、というのか。
確かに、光秀の出世速度は尋常ではなかった。
藤吉郎があまりに凄いために皆の注目を集め、成り上がり者と謗られやっかまれているが、光秀はそれに次ぐものであった。
元武士であったとはいえ、藤孝殿に身分を偽ってもらわねば、本来信長公に目通りすることすら叶わぬ身であった。それが10年とそこらで藤孝よりも上になったのは、ひとえに大殿が高く取り立てて下さったためだ。
貞淑な妻はどのように、主君に身体を差し出したのだろうか。あるいは信長公が誘ったのか。
ぎゅっ、と拳を握り締めた。信長には見えないように。
「恨んでおっただろうな、煕子殿は。儂のことを」
「決して、そのような」
「いや。恨んでおったに違いない。・・・・・・酒を飲ませ、臥所に誘ったのは儂の方じゃ。煕子殿の名誉にかけて申すが、彼女は反対し、抗っておった」
「まさか」
「いやいや、無理に手篭めにしたのではない。最後はそう、口淫などもしてくれたしのう」
「はあ」
こういん。
なんだろう。
光秀には、口淫という名前に心当たりがなかった。
信長が差し出した銚子を、盃で受け取った。
安堵する反面、どうして最後まで抗い続けてくれなかったのか、と思ってしまう。
「じゃがな」
信長はぐい、と盃を干した。
「儂にも言いたいことはある。・・・・・・芳子の、あれの生娘を奪ったのは、キンカアタマ、そなたというではないか」
・・・・・・
芳子が言ったのだろうか。
彼女なら、墓場まで秘密を持っていくかと思っていたが。
「それは」
「事実なのであろうな?儂も煕子殿の手前、そなたに確かめることは、今までできなかったが」
芳子の見せた、初夜の女の顔。
あれは決して、疱瘡の出来た姉の身代わりなどではない。妻になろう、と覚悟した顔だった。今でもそう思っている。
「いかなる経緯でそうなったのだ?儂に話してはくれぬか」
ずい、と信長が身を乗り出した。
さすが、側室の中でも一層寵愛が深かった、と言われるだけある。芳子は愛されていたのだろう。
「まあ、ありふれた話でございます。・・・・・・嫁ぐ筈であった姉の煕子か疱瘡に罹り、頬に痘痕が出来てしまった。既に婚約を済ませていた実家は思い悩み、婚約時点と違う、と難癖を付けられるのを苦にして、良く似た妹君を夫へと差し出した。・・・・・・ですが、それがしはそれを良しとせず、あえて姉の煕子を妻とした、ただそれだけのこと」
「なるほど。・・・・・・見分けがつかなかったのであろうな?」
「いかにも」
「嘘、だな」
はっ、と光秀は顔を上げた。
信長は、酔った顔を月に照らしながら、光秀を見つめて薄く笑っていた。
目は笑っていなかった。
「いえ」
「儂に嘘は通じぬ。そなた、芳と分かっていて抱いたのであろう」
「決してそのような」
「では、幾晩めに分かったのか?言うてみい」
手酌で信長はぐい、と飲み干した。
「・・・・・・5日目、でござりますれば」
「うむ。そう芳からも聞いておる。・・・・・・秘密を言うたその夜も、床に入った、とな」
ズキン。
また胸が痛んだ。
手で押さえつける。
「・・・・・・それは」
「良い。おぬしを責めているのではない。ただ、おぬしも男なのだな、そう思っただけじゃ。儂でも、誰でもそうするじゃろう。妹はまた、別の味わいじゃ。・・・・・・だが、儂にはおぬしが憎い。あの芳の初夜を奪った男が、な」
「・・・・・・」
「芳は、あまり多くを語らなんだ。だが、何度も言うておった。・・・・・・あのたった5日の新婚生活は、人生でもっとも幸せであった、とな」
ズキン。
息をするのも苦しい。
「芳はおぬしのことを好いておった。姉の婚約者としてだけではなく、男として、じゃ。・・・・・・身代わりを申し出たのは、芳のほうだったそうじゃ」
「まさか」
「本人の口から、そう聞いた。それに、おぬしは床の間でずいぶんと激しかったそうではないか。たまの戯れであったが、時々申しておった。・・・・・・おぬしとの夜が忘れられぬ、とな」
「・・・・・・」
「儂も、オノコとして恨み言を言いたくなる。あれほど愛した芳が、おぬしに心を奪われたまま、あの世へと旅立っていったことに、な」
「・・・・・・それは」
そうなのか。
彼女は。
確かに、5日目の夜伽は少し、勝手が違った。
明日は妻木の実家へ赴く、そう決めた日の夜のことだ。
ずっと床に入ると痛がっていたばかりの芳子が、何やら淫らな女のように感じられた。
ただじっと耐えていただけの口から、甘い声が漏れ出していた。喉を高く上げ、何度も頭を左右に振り。
まるで赤子がすがりつくように、光秀自身に抱きついてきた。
煕子に、そのような仕草はなかった。
それが当然だとも思えたが、やはり最後の夜の芳の仕草を思い出さぬわけではなかった。
今生の別れ。
そう思って、あの夜を過ごしていたのか。
気づくと、銚子が差し出されていた。自分の盃を呷り、また差し出す。
「口惜しいから云うておくと、儂も芳には存分に奉仕したぞ。口淫も存分に教え込み、何度も頂きを迎えさせてやった。そうそう、芳も背後より差し入れられるのが好きであったのう。煕子殿と、一緒じゃな」
はは、と信長が笑った。
月に照らされた、その横顔。満面の笑み。
(背後、だと・・・・・・)
どういう意味だ。
光秀は、煕子のことを下に敷いたことしかなかった。
背後、というのは、乱妨取りで雑兵がおなごを襲う、あの体位のことか。
まさか、そんな態勢で。
犬のように、煕子のことを。
(・・・・・・そういえば)
心当たりがあった。
あれは確か、京の都へ移り住んだ頃だ。
ある日の夜、突然煕子が「このように、して下さいませんか」と言ってきたことがあった。
普段はされるがまま、何も言わない煕子が、何やら尻をこちらへ向ける仕草をしてきたのだ。
(そのようなはしたないこと、するでない)
(・・・・・・はい)
二度とそのようなことは言わなかったが。
まさか。
あれは。
信長公に、そのようにされて。
ごく、と苦い唾を飲み下した。
「そう、でございますな。煕子も、あのように、よつに手をついて」
「そうじゃ。しっかりと尻を突き出して、のう。あれがよほど良かったと見えて、最後は自ら突き出しておった。・・・・・・やはり、あれもそなたに仕込まれておったのか。どこまでも、羨ましき奴じゃ」
「我も男女の理には、覚えがございますからな」
(自ら、だと)
(あの、煕子が)
ずっと寄り添い続けた。おしどりのように。
あの笑顔の似合う妻が、自ら尻を男に突き出して。
この男の物を、喜んでいた。
(こういん、とは、まさか)
口淫。
光秀も、書物では読んだことがあった。
男の股間を、口で愛撫する行為のことだ。
衆道ではよく用いられると聞いたが、光秀に衆道の心得はなかった。
あの煕子が、それに義妹の芳が、この男を。
この男の股間を。
口にしていた、というのか。
その口で。その唇で。
自分に口づけをし。
息子や娘たちにも。珠にも。京子にも。
他の男の陰茎に触れた唇で、触れていたというのか。
(ぐっ)
嘔気がした。
冷汗が滲み出て、強烈にめまいが襲ってきた。
ズキン。
また胸が痛くなる。
心臓が踊っていた。
許さぬ。
許さぬぞ。
「・・・・・・京子、のことで、ございますが」
「ああ。噂を聞いたか。・・・・・・あれは、確かに我の子じゃ」
ズキン。
一層強く、痛みが胸を貫いた。
「まあ、最後はおなごにしか分からぬこと。・・・・・・これを」
信長は、懐から文を差し出した。
月明かりに広げた光秀は、愕然とした。
(間違いない)
煕子の手による文字だ。
(やや子ができました)
(なんと名付けましょうか)
「京に来てできた子なのじゃから、京、と名付けるように、そう申し伝えた」
(京に来てできたお子なのですから、京、でいかがでしょうか?)
妻の声が、耳元で蘇る。
そういう、ことだったのか。
確かに、あの頃の光秀は多忙であった。あちこちへと赴き、禄に煕子と床を共にする時間もなかった。それでも生まれたのだなあ、と思ってはいたが。
ズキン。ズキン。
だめだ。もうこれ以上は。
「・・・・・・どうした、光秀よ。酒に当たったか。おぬしらしくもない」
「はっ。・・・・・・どうやら良い酒に、つい進み過ぎた様子で」
「そうか。・・・・・・このような話、真面目なおぬしと交わすことになろうとは思わなんだぞ。人生とは、面白いものだ」
「御意」
「下がって良い。・・・・・・次に会うときは、吉田郡山で会おう」
なんとか、自力で廊下を歩く。
まだめまいが止まらない。
「・・・・・・光秀様?」
信長の近習が、見かねて声を掛けてきた。
「駕籠を用意いたしましょうか?」
「いや、酒に酔っただけだ。馬で戻る。・・・・・・大殿は、明日もここ本能寺におられるのか」
「はい。明日は今井宗薫らを集めて茶会が催されます。信忠公もおいでになられます。明後日には安土へ戻られるかと」
「そうか。・・・・・・明日、だな」
明日。
明日を逃しては、もう機会は巡ってこない。恐らく永久に。
光秀は、まだ胸が痛むのを感じた。
これは心臓の病、恐らくもう、自分も長くない。
次の機会は、きっと訪れぬ。
信長の首を獲る機会は、ずっと。
6
「このような夕刻に、出立されるのでありますか」
「ああ」
仏前に手を合わせる光秀を見て、利三が不審な顔をしていた。
無理もない。もはや申の刻(午後4時)である。大軍が出発するには、尋常ではない時刻だ。
「・・・・・・大殿より仰せつかっておる。中国出陣の陣容を、直々に検分したい、とのお達しである」
「はっ」
酉の刻(午後6時)。
15000の兵が、丹波亀山城を出た。
山崎を周り、峠で休止。
兵たちに夕食を摂らせる。
篝火の焚かれた本陣で、光秀は佇んでいた。
「・・・・・・殿」
「皆、揃ったな」
腹心たちの顔を眺めた。
斎藤利三、明智秀満、光忠。
苦しい時代より、心を共にして仕えてきてくれた忠臣たちだ。
皆、心から忠誠を誓い、光秀も全幅の信頼を置いている。
「このような夜半に、大殿が検分なさるので?」
利三でさえ、怪訝な表情をしている。
だが、光秀の表情を見て、顔が締まった。
「殿」
「・・・・・・敵は」
皆が、光秀を見つめていた。
誰も、一言も発せずに。
「敵は、本能寺にあり」
一応あとがき
時代考証も何もありません
幽斎って誰だよ、それ本能寺の変で出家後だろとか、こんなもんで反乱起こさんだろとか、狭心症は当時の栄養状態的にないだろとか、突っ込みどころは数知れず
でもつい書いてしまった
こういう夢を見たので
言い回しは途中まで「時代劇」っぽくしないでおこうと思ったけど、やっぱり雰囲気出ないので変えた
ところどころおかしいかもしれない