第九話
何時しか寝てしまったらしく、窓から差し込む朝日のあまぶしさに目を覚ました。
「未央?」
部屋に姿がなく部屋の外に出るといい匂いが下から漂ってくる。
「未央? いるのか?」
物音がするリビングに声をかけながら入って行く。
「あ、先輩。おはようございます。朝ごはんできたので食べましょう」
テーブルの上にはオムレツとトーストのほかにコーンスープまであった。
「未央が作ったのか?」
「はい、そうですよ。さあ、座ってください」
「ああ、いただきます……」
「どうですか?」
「美味しいよ。凄いな」
「やっりました。これで少しは女としてみてくれますよね?」
「どういう意味だ?」
「いや~。昨日ホントに何もないままでしたので、魅力ないのかな~って」
ガタッ
その一言に立ち上がって、向かいに座る未央の横に行く。
「先輩? 行儀悪いですよ……」
肩に手を置いて顔を近づける。
「ずっと、今だって我慢してるだけだよ」
耳元でそうささやく。
「先輩~~!」
顔を真っ赤にしてバタバタと暴れるので、抱きしめておとなしくさせる。
やっぱり、未央といると自分らくない行動をしてしまうな。
「これ食べたら帰るから、泊めてくれてありがとう」
「ふぁぃ。何時でも来てください」
食事を終えて、どこか上の空の未央にお礼を伝えて帰路に就く。
「へい、そこのボーイ」
自宅のある駅に着いたところで、露天商に声をかけられた。
「僕ですか?」
「そうそう、商品見ていくyo」
怪しかったので、これ以上かかわらないように立ち去ろうとして――
「好きな子へのプレゼントにど~よ、おまけする~よ?」
その一言に足を止めてしまう。
「はあ、買ってしまった」
ポケットに入った、ふくらみを感じながらつぶやく。
メッセをして、明日にでも渡すか……
そう思い立ち止まり、メールを打つ。
今日、勢いに任せて言いかけた言葉を打ちかけって、スマホをポケットにしまう。
これを渡すのはまだ、早いよな。
「あれ、旦那。こんな朝早くにどうしたんだ」
「後ろから声をかけられて、振り向く。
「荻? 君だよね」
「そう、荻、荻信也」
自転車にまたがって、ニコニコとそう自己紹介をしてくれる。
「うん、憶えとく。僕は友達の家からの帰りだよ」
「流石だな、朝帰りなんて」
自転車を道の端に止めて、肩を組んできた。
「そんなんじゃないよ」
「まあ、根掘り葉掘り聞かないけどさ。彼女、俺も欲しいぃ」
その言葉に笑ってしまう。
「荻君って、変わってるね」
「どうしてだ? 彼女なんて、誰でも欲しいだろ?」
「そういうもんなのかな?」
「自分は彼女いるからって。そうだ、この後時間ある?」
「ごめん。母さん、心配してるかもだから帰るよ。台風で帰れなかったから」
こんなことを言えばバカにされるかなと思いながらも、本心を伝える。
「それは、引き留めて悪かったな。これ、うまいからやるよ。じゃ、休み明けに」
荻君は僕に棒付きのキャンディーを渡して、自転車にまたがった。
「ありがとう。また」
別れを告げて、その背中を見送る。
まさかこんなふうに、同級生とも会話する日が来るなんてな……
・・・・・・・・・・
「ただいま」
「あ、良かった。大丈夫だった?」
玄関のドアを開けると、母さんがはしってきた。
「大丈夫だよ。友達の家に居たし」
「息子が、成長してる……」
何故か口元に手を当てて、ニヤニヤとしてくる。
「じゃ、部屋で本を読むから」
その顔がムカついたから、僕は足早に部屋に向かう。
「今日は、赤飯だな~」
聞こえてくる母さんの声に、ため息が出るのだった。