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第一話

僕の夏休みは、彼女によって崩壊していく――

 僕はいつも一人でいた。寂しいとかそういうことも思わない、何故なら本があったからだ。


 本は色々な人物の人生の元へと連れていってくれた。


 だけど、母はそんな僕を心配そうに見てくる。


 だから何時しか、放課後に図書室に残って、司書の仕事をしながら本を読むことが日課になっていた。


 理由は友達がいると思わせるためと、静かに本を読むためだ。


 そんな僕が学園の二年になった春、その日常に変化が訪れた。春から夏に変わった今でもそれは続いている。


 放課後、ほとんど生徒のいない図書室のカウンター席で本を読んでいると、廊下からドタバタと足音が近づいてきた。


 本を読むのをやめ、僕は廊下から響いてきた音にあきれながらため息を漏らす。


「はぁ~。来たか」


 部屋に響く足音が図書室の前で止まり、僕は呟いた。


「こんちは、先輩」


 そう言って入ってきたのはこの学園の一年で、名前は忍野未央おしのみお

 ボブショートの髪型で、身長は高校生男児平均身長の僕より十センチほど小さな女の子だ。


 何故か春から僕に付きまとっている。


「静かにしろ。ここは図書室だぞ」


「すみません。それより先輩、先輩。準備はできてますか?」


「なんの?」


 僕はジト目で、反省の色の見えないニコニコとした表情の後輩にそう返す。


「何って、明日から夏休みですよ。遊びますよね?」


「そんな予定はない」


「しどい! 私は、楽しみだったのに」


「しどいってなんだよ。そんなこと聞いた覚えはないが?」


 いくら記憶を探っても、思い出せない。


「え? あ~、言ってませんね。じゃあ今、約束したということで」


 頭はすっからかんなのか? 事でじゃないだろう。


「なぁ、俺は遊ばないぞ」


「どうしてです? どうせ本を読んでるだけでですよね?」


 不思議そうな表情と声で、失礼なことを平然と言ってくる。


「そうだな」


「あ~そ~ぶ~の」


 駄々っ子のように返却カウンターに上半身を乗せて、じたばたと暴れだした。


「分ったから、静かにしろ」


 他のの生徒の目が痛くて、そう返す。


「やったー! 絶対ですよ、絶対」


 そう言って、ハニカム未央に何も言えなくなるのだった。


 ・・・・・・・・・・


「終わりましたね」


「ああ、そうだな」


 作業自体は一時間ほどで終わり、先生に引き継ぎを頼んで学園を出ていく。


 学園から徒歩で五分程の場所で、未央は立ち留まり「ここです」と言って店先の暖簾を潜って、店に入って行く。


 僕もその後に続いて入る。


「らしゃい。そこに座ってくれ」


 入ると、威勢のいい店員に入口すぐの掘りごたつの席に座るように言われた。


「焼肉屋って、ほかの仲いいやつを誘えよ?」


 靴を脱いで、畳に上がりながらそう言う。


「え~。女子だと入りずらいんですよ。あ、大皿二枚とライス二つ」


 未央は座るなり、勝手に注文を決めてしまった。


「おい、そんなに食べるのか?」


「えっ男子ってキロはたべるんじゃないんですか?」


 何処のレスラー基準だ。


「はい、おまちどう」


 運ばれてきた皿にはお肉が山なりにのっていて、一キロくらいはのっていそうだと思った。


「いただきます~。さあ、焼きますよ」


「そうだな……いただきます」


 未央は嬉しそうに手を合わせて、僕は食べきれるか不安になりながら手を合わせる。


「先輩ってこの夏休みの間、ずっと本を読んで過ごすつもりでしたか? あ、肉どうぞ」


 焼けたお肉をトングで渡してくれた。


「ああ、ありがとう。そうだな、司書の仕事以外に予定はないからな」


 そもそもその仕事も自分から頼んでやらせてもらっている状態なんだけど……先生は嫌な顔一つせずに帰らせてくれたな。


「それはもったいないですよ」


 お肉を一枚食べて、そう言ってきた。


「別にいいだろ?」


「良くないです! 週末、来週末にまた遊びましょう」


「嫌だよ、めんどくさいし」


 お肉を食べながらそう言い返す。


 味噌風味のタレと肉の油が、箸をすすませた。


「あ、焼けましたよ。どうぞ。いや、先輩に拒否権はないですよ」


「ああ、ありがとう。どうして?」


「だって、こんなに可愛い後輩に誘われたんですからね」


 そう言ってウィンクを見せてくる。


「いや、あぐ!!!!!!」


 焼けた肉を口に詰められて、黙らされた。


「……絶対に遊びますから」


 小さな声で未央はそう言って、黙々と食事を始めてしまう。


 僕も口の中の肉を何とか飲み込んで、食事に集中する。


 ・・・・・・・・・・


 昼食すまして駅前の広場で未央の乗る電車の時間まで過ごす。


「いや~、よく食べきりましたね」


「頼みすぎだ」


 未央の言う通りよく完食で来たなと思う。


「あはは、電車来るのでこれで……」


 俺の悪態を、笑って流されてしまった。


 そして、背を向けて駅に歩いて行く。


「週末、何時だ?」


 その背中にそう声をかける。


「え?」


 不思議そうな声を出して、振り向いた未央に――


「来週末、遊ぶんだろ?」


 そう聞く。


「~~先輩! もう、素直じゃないんですから。朝八時に、この広場に来てください」


「分った。約束だ」


 少し顔を赤くした未央はそう言って、ホームに入って行った。

続々投稿こうご期待です(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] サクサク読みやすくテンポのいい文章ですね! とっても積極的な未央ちゃんにかなり押され気味な先輩とのやり取りが楽しく、第一話から素敵ラブコメの予感でワクワクしています!(*'ω'*) [一言…
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