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ヘビ、カエル、ナメクジ

 6月10日(金)

 三限後小休止/教室内 


 底辺生活が再開された誕生日の翌日、俺はいつも通り過ごしていた。

 教室内も一見通常運転風だが、日を跨いだ噂の拡散はブーストがかかっているらしく、やはり水面下では時折俺への侮蔑が垣間見える。

 それは学校そのものも然りで、今日も放課後に教師から呼び出されている始末だ。


 悪意は育っている。粛々と。脈々と。

 その証拠にちょっとした些事が起こる。

 スマホアプリを通じて3D化した建築図面を確認していると――、


「おっと」


 突然ゴヅンと頭に痛みが走った。

 よろめいた体でわざとらしく肘をぶつけてきたのはクラス内でも騒音レベルが高めの男子。

 遠巻きに居並ぶオトモダチともども、ニヤついている顔は明らかに俺で遊ぼうとしている。


「へへ、わり――うお⁉」


 即座にソイツのネクタイを掴んで思い切り地面に引き倒し、理解が追いついていない男子の顔面に向けて高く振りかぶった足を高速かつ全力で踏み下ろす。


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 クラス内の喧騒を一瞬で吹き飛ばす破裂音は窓ガラスを一瞬震わせ、場に静寂を呼び込む。

 爆心地である我が足の真横に位置する、天井を仰ぎながら血の気を捨てている男子は呼吸を止めた。


「気をつけろ」


 長い髪が男子の青い顔面にかかるまで接近し、まっすぐ目を見ながら伝えた意志は……届いたようだ。震えながら無言で何度も頷いている。


「ぐェ⁉」


 掴みなおしたネクタイを引っ張って男子を無理やり起こし、オトモダチ方向へと背中を押す。

 男子がふらふらとした足取りでオトモダチと合流を果たした頃には俺も着座し、確認作業に戻っていた。


「お、おい曲犬(まがりいぬ)、平気か?」


 ……あいつそんな苗字だったのか。珍しい。日本に何人いるんだろう。


「げほッ、死ぬかと思った……つかまだ右耳聞こえねーし」

「あの野郎ッ」

「おいやめとこうぜ、やっぱやべーんだってアイツ。手の早さが普通じゃねーよ」

「去年の噂はマジだったのか……関わんねー方がいいな」


   ◇


 昼休み/業者用搬入口


「椎名くん」


 凍りついた空気が解凍されないまま昼を迎えた。

 階段に腰かけながらPC作業にふける俺に声をかけたのは……学級委員長、日向薫。


「あの、えと」


 言いたいことがまとまってないまま此処へ来たらしい日向はなんとか言葉を振り絞る。


「椎名くんは、悪い人、なの?」


 実に直球な問い。コースもいい。


「自称するものじゃないと思う」

「だ、だよね、あはは、変なこと聞いちゃった」


 途切れる会話。流れる沈黙。この粘液の如き雰囲気を破壊できるものがあるとすれば――、


「薫‼」


 熱く激しい炎をおいて他になし、か。


「コイツに近づくなってあれほど言ったのに!」

「由美……」


 日向に駆け寄る月代の剣幕は濃く、相当の心配が表れている。


「さっきのアレでわかったでしょ! コイツは人に暴力を振るうことなんて屁とも思ってない屑野郎なんだって!」

「待って由美、お願いだから落ち着いて」


 言い争いは他所でやってほしい。


「……椎名くん、いくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「作業しながらでいいなら」


 ありがとう、と述べる日向。大きな舌打ちとため息を吐く月代。

 両名は一定の距離を保ったまま俺の背面に立ち並ぶ。


「さっき、なんで曲犬(まがりいぬ)くんにあんなことしたの?」

「故意に頭を小突かれたから」

「たまたまよろけてぶつかっただけでしょ。んな被害妄想であんな真似――」

「ううん、わたしもアレはわざとだと思う」


 思わぬ方向からの援護射撃。月代も面食らっているのか、言葉が尻すぼみになった。


曲犬(まがりいぬ)くんたち、椎名くんの方見ながらニヤニヤひそひそしてたから、なんかヤな感じだなって思ってたの。……由美も見てたと思ったけど」

「っ、知んないよ、そんなの」


 見てたな。


「てか、だからなにって話でしょ。人の顔面踏み潰していい理由にゃなんねーし」


 はて、俺は誰かの顔面を踏み潰しただろうか。月代は検察官に向いてるかもしれない。


「椎名くん、あそこまでやる必要ってあった?」

「再犯防止の観点からあると思うからそうした」


 過度ないじりやいじめへの対応において最も重要なのは初動だ。

 初めに受け入れてしまったものは二回目以降も受け入れるようになる。自分自身であれこれ言い訳して基準を下げてしまう。

 "始まり"を受け入れるから始まってしまう。だから"始まり"を見極めなきゃいけない。そして"始まり"を決して受け入れちゃいけない。阻止するためならたとえ暴力だろうが策謀だろうが権力だろうがなんでも使うべきだ。


「アレは曲犬(まがりいぬ)くんたちを脅かすのが目的で、牽制だったってこと?」


 どうでもいいけどあんまりその名を連呼しないでくれ。笑いそうになる。


「ヤバい奴だと思わせればそれで充分抑止になる。だから傷の一つも負わせないよう加減した」


 とはいえ、対応が半端だったら相手がつけあがって火に油を注ぐことにだってなりかねない。だからこの加減はけっこう難しい。

 しかし俺への干渉を抑制できるであろう確信はあった。――去年の件という前フリがあるのだから。


「コイツ、マジでイカれてる……!」


 友人周りを飛ぶ悪い虫を追い払うためだけに事実無根の噂を流して人を陥れる人格者からのお墨付きとは、光栄至極。


「……でも学校は、クラスメイトは、周りは、そんな椎名くんを加害者として扱うよ? そこには罰や、失望や、不自由があるし、敵だって生まれちゃう」


 俺の身を案じているのか学級委員長。だがしかし、だとしても――、


「毎日怯えながら行きたくもない学校に通う羽目になるより、エスカレートした挙句生き地獄の果てに自分を殺すことを受け入れてしまうようになるより、百億倍マシだと俺は思う」


 迎合または妥協した挙句に迫害され、結果周囲に殺される。

 反抗または抵抗した挙句に孤立し、結果孤独に生き残る。

 前者を選ぶ者もいれば、後者を選ぶ者だっている。それだけの話だ。


「でも退学になっちゃったりしたら……」


 うん、それは困る。退学だけは避けたい。しばらく派手な行動は控えよう。

 ここで日向は事の発端である『椎名みづき婦女暴行疑惑』を掘り下げてくる。


「そもそも、今流れてるあの噂は本当なの?」

「いや全然」

「え⁉ じゃあアレは嘘なの⁉ 真っ赤な⁉」

「真っ赤っ赤な」

「今日びそんなにも赤いだなんて、迂闊っ」


 たまに変なスイッチ入るなこの子。


「…………」


 おや、なぜか黒幕は沈黙している。

 先ほどから口挟みまくりだったのに、これは不自然。


「じゃあどうして今あんな噂が流れてるの⁉」


 俺は作業を止めて振り返り、日向と月代の表情を視界に収める。   

 日向は目も口も真ん丸な困惑顔。片や月代は……無表情。焦りや怒りもない、ただただ冷淡な真顔。


 ――ろうそくの灯が揺れる。


「さぁ、皆目見当もつかない」


 日向の困惑顔は拍車をかけ、もはやわけわからん顔と言って差し支えないものになった。

 逆に月代はなにかの当てが外れたようなしかめツラをご披露している。


「そんな、ならそんなことしてないって誤解を解かなきゃ!」

「起きてもいない事実の反証なんてできっこない」


 フェイクニュースが世の中で幅を利かせている一因は、あまりにも事実無根すぎて否定のしようがない情報が混ざっているからに他ならない。


「でも、だからって……!」

「そもそも、ちょっと悪い噂が流れてる程度のことは深刻に考えるようなことじゃない」

「へ? どして?」


 良くも悪くも情報化社会に適応している現代の高校生は、ソースが曖昧な情報に長く深く踊らされるほど馬鹿じゃない。例外はいるが少数派だし、所詮は影響力皆無の有象無象、ムーブメントは起こせない。

 大多数が口や態度では信じてる風でも、あくまでノリを合わせているだけで、誰も心から鵜呑みになんてしていないし、飽きたら火のないところに煙を立たせた別のフェイクに気を映して暇をつぶすだけだ。


 先人曰く、人の噂も七十五日、光陰矢の如し、つまり忘れれば気がついた頃には終わってるということだ。

 しかもこちとらキャラ立ちしてない陰キャモブ。故に対処法は――、"徹底無視(シカト)"の一択。


「俺はなにも損しないし、誰かが得することもない。全部無意味なんだ」


 我が言霊は首謀者に誤解なく伝わったらしく、しかめっ面がひどいことになった。


「だったらなおさらわかんないんだけど、噂を流したどこかの誰かさんはどうして椎名くんを?」

「さぁ、知りたいとも思わない」

「ッッ」


 再び月代が顔をしかめたその瞬間、昼休み終了間際の予鈴が鳴る。


「……教室、帰るよ」


 半ば強引に月代は日向を引っ張り、去っていた。

 あの様子だとまだこれからもなんやかんやと絡みはありそうだな。

 嘆息しつつデータの保存作業を指で行ない、脳内で現状を整理していく――。


 先ほどのしかめられていた表情から察するに、おそらく月代は俺から『根も葉もない噂をばら撒いたのはお前の親友である月代由美だ』という言葉を引き出したかったのだろう。

 解毒薬があって初めて毒は使用できる道理。きっと月代には日向に対し、自身の無罪を証明できる絶対の自信と手段を有している。でなければ善人である親友からの信頼を失いかねない脅迫行為など行なわない。行えない。

 もしあそこで俺が月代に陥れられたと主張していたならば、きっと俺の犯罪歴(日向主観)には新たな項目が刻まれていただろう――、"親友に罪を擦りつけようとした"、と。

 そうなればもう月代の勝ち。今後日向は俺に関わろうなど決してしない。月代の願望は完璧に近い形で成就する。――以上が月代の狙いだ。


 率直に感情だけで言えば、俺は月代の脚本に全然乗れる。底辺ライフは続くがそこに抵抗は全くない。

 しかし婦女暴行は罪が重すぎる。認めたら最後、たとえ被害者がいなくとも昨年の件との合わせ技一本で強引に退学させられてしまうかもしれない。それは流石に御免だ。


 頼むから無事卒業させてくれ。

 そう天へと祈りつつ、PCを閉じる。




ー---

ー-




 6月12日(日)

 午前/駅前


 土曜を挟んだ日曜の午前。

 ロング丈の白Tにルーディーな七分袖黒シャツを羽織り、タイトなジーンズに俺という日常のボディをねじ込んで表に出る。 


 仰ぎ見る空は青い。空気は段々と温かさを増している。もうすぐ夏が来る。

 別に待ち遠しいとは思わない。季節は夏より冬が好きだ。


「あや! ぐーぜん!」


 靴屋にスニーカーを預けて退店した時、駅前でばったり日向と出くわした。

 アイボリーで緩めのニットに花柄のスカートを着こなす生足魅惑のマーメイドは、ヒールの高いパンプスのお陰か教室内よりも若干背が高い。


「ストーカー、まじキモイ」


 黒色のハイウエストスキニーとパープルな半袖サマーニットにサスペンダーという手段(ファッション)を用い、女子高生離れした豊満なボディラインを主張する月代もいた。いなくていいのに。


「もー、由美ちょびんてば。ごめんね椎名くん」

「お構いなく」


 アディオスとばかりにその場を後にしようとするが……むんずとシャツを掴まれた。


「こうなったらもうお茶しなきゃだよねー」


 ガチな陽キャはためらうことを知らないらしい。


「はぁ⁉ ぜってーやだし! せっかくの休日になんでこんな奴と!」

「はいこれ」

「え……ゔッ」


 日向は大きめの付箋紙のようなものを一枚千切り、月代へと渡した。


「ふふん♪ これ小学生の時に由美から誕プレでもらった『なんでも言うこと聞きます券』だよーん。あと五枚残ってる」

「昔のあたしのバカッ、てかあんたも物持ち良すぎッ」


 強かだな日向は。


   ◇


 午後/喫茶店テラス席


「てか椎名くん、普段からそんな風にしてればいいのに」


 カフェに移動した三人の間で開始された世間話(厳密には日向→椎名)のテーマは『椎名みづきの様相』についてだった。


「このキャンバス可愛いね。服もしっかり似合ってるし髪も整えられ、ってもしかしてオイルトリートメントでセットしてる? いい艶と匂~い。一見ボサボサ風だけどやっぱりわたしと同じでスパイラルパーマかけてたんだぁ。お! 所々刈り上げ入れてるしバリカンとハサミの使い分けもしてるじゃん! こだわってるね~! てか初めて顔はっきり見れた!」


 日向は席に着かず、息荒めに色んな角度から俺(主に頭部)を観察してはしゃいでいる。その様、じゃれついてくる子犬の如し。


「いや~してやられたねぇ。椎名くんてば隠れおしゃれさんだったんだぁ」

「は、高校デビューがイキんなっての」


 相変わらず月代は明後日の方向を見ながら木で鼻をくくっている。その様、横柄な大猫の如し。


「なんで学校にはセットしてこないの?」

「どうしても学校でファッションを楽しむ気になれない」

「ちっ、スカしてんじゃねーよ」

「由美! 態度悪いよ!」

「ふん、っあ」


 日向に咎められた月代は更に不貞腐れながら体を明明後日の方向へ向けた。

 その拍子に月代の肘は自身が注文したキャラメルラテを小突いてしまう。


「危な――!」


 今まさに倒れようとしているカップを指で支え、戻す。間に合った。

 あまり手をつけていなかったことからほんの少しこぼれるが、大事には至っていない。


「ナイス反射神経椎名くん! これからナイス反射神経椎名くんって呼んでいい?」

「ああ」

「受け入れるっ、そして流すっっ。……由美ちょびん?」

「な、なに」

「一言あるでしょ」

「……どーもでした」


 顔。顔。


「椎名くんの指も拭いたげてよ。汚れちゃったし」

「はァ⁉ あたしが⁉」

「じゃあわたしが拭いたげる。椎名くん、手貸して」

「わかったからもう」


 月代は渋々嫌々ながら俺の指を拭いた。

 汚物を触るような表情と手つきにむしろ穢されているんじゃないかとすら思えてくる。


「椎名くんやる~」

「ちっ、ちっ、ちっっ」


 気に食わない男の好感度を自らが上げてしまうとは、本末転倒を絵に描いたような展開だな月代よ。


 しかし、この二人のパワーバランスはどうなっているんだか解釈に困る。

 一見、日向がワガママ(ボケ)担当で月代が振り回される(ツッコミ)担当なのかと思いきや、夏を捩ったお笑いコンビみたく場面場面では逆転する。


「でさ、椎名くんは今日なにをしようとしてたの? 靴の修理だけ?」

「旅行用の資料やパンフレットを探しに書店へ行こうと思ってた」

「旅行って、どっか行くの?」

「夏休みに。その行き先をリサーチしようかと」

「いつもいじってるパソコンで探せばよくない?」

「旅行に限って言えば、ブラウザに表示される情報より紙や本に載ってる情報の方が気持ちが盛り上がるんだ。だから旅行中はアナログに徹してる。スマホやPCも持って行かない」

「う~んさすが情報潔癖症、てかもう情報傾奇者(インフォフリーク)だね」


 その表現、不採用。なんかマイルドになって説得力が減る。


「段々椎名くんって人がわかってきたかも。楽しー♪」


 異なる価値観を笑顔で受け入れられる日向の懐は小柄なのに深い。その名の通り、向日葵(ひまわり)のような子だ。


「めんっっっっどくさ。死ねよ」


 俺発信の全てを嫌悪する月代の器は長身なのに狭い。その名の通り、月世界(サボテン)のような女だ。


「ちなみにちなみに、現在の候補地は?」


   ◇


 夕方/駅前ロータリー


 カフェから移動した先の書店で資料を物色し終えると、もう陽は傾いていた。


「はぁ、あっという間だったね~」

「…………」


 日向の家庭は旅行好き一家らしく、俺と交わす旅行談義に時を忘れられたようだ。

 それを面白くなさげに睨んでいた月代は疲れ目なのか、化粧が崩れない程度に目頭を揉んでいる。疲れるならやらなければいいのに。


 さておき、ようやく場は解散の流れとなった。

 バスロータリーにて三人の男女は別れを告げ合う。


「いいなぁ、由美ちょびんだけ椎名くんとおデート」

「しねーし。まっすぐ帰るから」


 バスに乗るのは日向のみ。月代と俺は徒歩で帰宅する。


「じゃまた明日ね椎名くん。由美のことよろしく♪」

「薫、マジで怒るよ」


 ごめんごめん、と謝りながら日向を乗せたバスは去っていった。

 月代はため息を吐き、去っていくバスを見送っている。じゃあ俺もこれで――、


「サダオ」


 踵を返したところで呼び止められた。仮名で。


「アンタ、薫のこと狙ってんの?」

「いや全然」


 見てればわかるだろうに。


「……薫はアンタに興味を持ったっぽい」


 事象の片翼を担っているのはどっかの月代某だと思うけど。


「なんであたしが噂流したって、薫に言わなかったわけ」

「意味ないから」

「ないことないでしょ!」


 怒りを伴って月代は一歩、踏み込んでくる。

 しかし俺と彼女の距離は些か以上に空いている。物理的にも。精神的にも。


「冤罪を晴らしたいとか、首謀者のあたしを懲らしめたいとか思わないわけ⁉ あたしにムカついてないわけ⁉」


 いけしゃあしゃあと……だが当人からすれば気味悪いだろうな。


「そもそも論として、俺は俺の都合で生きているわけだから、月代や日向の都合で俺はどうこうならない」


 仮に俺が事の真相を日向にチクり、結果日向が信じようと信じまいと、俺を取り巻く環境は何も変わらない。


「ッ……じゃあ、あたしはあたしの都合で生きてるわけだから、アンタにもどうこうできない、される筋合いはない、ってわけだ」

「ああ。だからお互い好きにやればいいと思う」

「もう黙れしクソ陰キャ」


 うんざりだとでも言いたげに月代は振り返る。己の帰路へ。進む方向へ。


「絶対アンタを薫には関わらせない。近づけさせない。もう手加減、しねーから」


 カツッとパンプスの踵を鳴らし、月代は歩みだす。――聞き流せない捨て台詞を残して。


「あたしはアンタが去年やらかしたことの、関係者だから」


 ――ろうそくの灯が揺れる。


「薫は、あたしが守る」




ー-----

ー---

ー-




 一週間後のクラス内。

 俺は数多の目に囲まれていた。




「あ、あのね」




 目目 目目 目 目 目 目 

 目 目目 目 目 目 目目

 目目 目目 目 目 目 目




「しんぼーたまらんで、ぼかーもうで、わけわかんなくて」




 目目目 目 目目 目目 目?

 目目 目 目 目目目  目?  

 目 目目 目目 目 目目 ?




「好き」




 目目目目目目目目目目目目目!

 目目目目目目目目目目目目目!

 目目目目目目目目目目目目目!




「椎名くんのこと、やばいくらい好きになっちゃった」




 目目目目目目目目目目目目目!?

 目目目目目目目目目目目目目!?

 目目目目目目目目目目目目目!?




「わたし椎名くんの、"彼女"になりたい」




 ♡   目   目目目 目 目 目目目   ♡

  ♡  目   目 目 目 目 目目   ♡

   ♡ 目目目 目目目  目  目目目 ♡




 実にクレイジー。




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