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月を買ったトラボルタ

 8月20日(土)

 1700時/クラブ『Lap The Fire』楽屋内


「お、来たなてめー」


 ゲスト特権によってイベント開催前の楽屋に入った俺を真っ先に迎えたのはヨーコさんだった。

 すでにメイクはばっちりで、衣装もセクシーかつワイルドなチューブトップに迷彩パンツにフラットキャップと、実にダンサーらしいファッションに身を包んでいる。

 ちなみに我が装いは袖をまくったボーダーのロンTにジーンズにローカットスニーカー、セットした髪にブルーレンズのラウンドフレームサングラスとどシンプルだ。


「本日はお招きありがとうございます。これどうぞ」

「花束ww宝塚かよww」


 楽屋内はどっと湧いた。意図していないが花束の掴みは抜群だったらしい。

 ちなみに狭い室内にはざっくり15~20人の女性がごった返しており、あらゆるコスメや香水の匂いに満ちている。ぶっちゃけ臭い。


「椎名くん来たー♡」

「やーん椎名く~ん」


 ヨーコさん同様、戦闘態勢が整いまくったミホさんとアゲハさんも俺にハグをかましてきた。

 各人妙にテンションが高い。これもイベント故の高揚感なのだろうか。


「なんかまた無茶したらしいじゃん。相変わらずだなぁ」

「いい機会だから電番教えとけよ。もうぶちんじゃねーぞ」

「ねー、誰か写真撮ってー」


 とりあえずイジられながらも四人で写真を撮影。SNS等には上げないでほしい旨を伝えたらまた楽屋内は湧いた。

 ここで見知らぬ女性たちからも、やれ月代の彼氏またはセフレだとか、アゲハさんたちのオモチャだとか、ヨーコさんに童貞を喰われた弱男だとか様々なイジりを受けた。

 どうやら俺の存在はダンススタジオ内で僅かながらに周知されているようで、男子禁制の中でも多少は受け入れられている。年若い高校生であることも一因だろう。


「てか由美、せっかく椎名くん来たのになんでシカトしてんの?」

「いや、しょっちゅう顔合わせてるし、別に」


 楽屋の奥にはもちろん演者である月代もスタンバっていた。

 言わずもがなメイクは濃いめにバッチリ。ブルージーンズにへそ出しカットソーにバッシュにニット帽と、いつでもステージに出られる格好だ。


「なにアンタ、まだ緊張してんの?」

「そりゃそうですよ、あぁ~~マジ胃が痛い」


 そう、月代にとって今日はデビュー戦。ダンサーとして人前に出る最初の舞台であるが故、長身を縮こまらせている。


「こんな機会めったにないんだし、目一杯楽しまないと」

「そーだぜ由美。なんつったって今日はレディースオンリー、男はいねーんだから」

「椎名くんみたいにゲストで来てる人もいるけどフロアには降りれないし、二階のちっちゃなラウンジにまとめられるから大丈夫だよ。マジックミラーだから目線も気になら……あ、椎名くん的にはそっちの方が興奮するんだっけ♡」

「いえ、今の俺はメンズエステ系に集中しています」

「今すぐ死ねし……あ」


 俺と月代のスマホが同時に鳴った。スチームネットの通知音だ。


「薫着いたってよ」

「迎えに行ってくる。それではみなさん、失礼いたします」

「ちょっと待った」


 クラブの正面に遅れてやってきた日向を迎えに行こうとした時、なぜかヨーコさんに呼び止められた。


「キンチョーしまくりの由美にリラックスできる言葉かけてやんな」

「い、いらないですって!」


 無理難題にもほどがあるが、招待された身としてホストの意向は無視できない。


「月代」

「な、なに、いいから行けっての」


 つかつかと歩み寄り、恥ずかし気な月代に顔を寄せた俺を楽屋内の全員が注視した。中にはなぜかスマホを掲げている者もいる。


「そもそも緊張っていうのは、交感神経と副交感神経のバランスが崩れた状態のことだ。しかもそれを隠そうとする防衛意識が緊張状態をエスカレートさせてしまう。もちろん皴一つない月代の脳でこの理屈が理解できないことはわかっている。それがわからないほど俺は馬鹿じゃないから絶対に月代と一緒にはしないでほしい。しかし、しかしだ。理解できないことを現象として起こしてしまっている今の月代は意味がわからない。はっきり言ってイカれてる。正気じゃない。羊水といっしょに頭も腐ってる。そういう意味ではすでに月代の精神は終わっているわけだから、正常な振りはもうやめたほうがいい。できてないから。できてないから。だが心配はいらない。人並みの神経が通ってなくても呼吸と排泄ができるなら一応生物としての体裁は整って――」

「ああああああああああああッ‼」


 おもくそ顎下に拳を突き入れられた俺は仰向けに倒れてしまった。

 鼻息荒く俺を蹴り続ける月代と天井を見つめる俺を爆笑が包む。


 つくづく人の厚意を無にする女だ。親切にすればするほどこちらが損をする。

 早々に楽屋を出た俺はセッティングを終えたダンスフロアを抜け、クラブの外に出た。


 この痛みは最高の彼女に癒してもらおう。


   ◇


 1730時/クラブLTF前


「遅れてごめ~ん」


 バイト明けに一度帰宅し、着替えてから合流する予定だった日向がやってきた。


「なんとか開始前に間に合った~。由美とは会えた?」

「ああ。楽屋にいる」

「きっとかなり緊張してると思うんだよね。しっかりほぐしてやらないと」


 そんな彼女の装いは一言で言って元気系。ドロップショルダーTシャツにショートパンツ、足元はサンダルやミュール系ではなくバッシュだ。ついでにショルダーバッグも背負っている。


「えへへ、踊る気満々でしょ。わたしも初クラブ楽しみにしてたんだぁ。由美からステップ教わって予習もバッチリ♪」


 ふと周りを見渡せば、開始の18時前とはいえけっこう人は集まっていた。その全てが女性だ。

 スタンディングで約200人キャパのハコならばこれから混雑してくるだろうし、入口付近に男がいては弊害もありそうだ。


「俺はもう挨拶を済ませたから先にラウンジに上がっておく。スマホとお金以外の貴重品はそのバッグごと預かっとくから、なにかあったら電話してくれ」

「ありがと。じゃ行ってくるね」


   ◇


 1745時/2Fラウンジ


 ラウンジは座りも込みで50人キャパほどの小スペースだった。

 バーカウンターも設けられており、フロアは180度開けたガラス壁からしっかり見下ろせる。

 フロアの作りはライブハウスみたくせりあがったステージが奥に設けられており、ステージ上の隅にはDJブースもある。

 これならば二階からでも演者のパフォーマンスや表情は見て取れるし、オーディエンスの動きも俯瞰で把握できる。実際イベントが始まれば照明は落ちるだろうから、日向を見失わないようにしなければ。


 バーカウンターでコーラを注文して座っていると、段々とこのラウンジにも人が入ってきた。

 その全てが男性で、いかにもな恰好をしている者もいればフォーマルな者もいる。俺同様、演者の関係者なのだろう。男性ゲストの数は一人一名と定められているらしいのでグループ参加はないようだ。


 kaoru_hinata:由美あんまし緊張してなかった

 kaoru_hinata:(画像)

 kaoru_hinata:大人になりやがって♪

 kaoru_hinata:オネーサマたちの色香にナニカが目覚めそう♡

 kaoru_hinata:(画像)


 日向から送られてきたのは月代とのツーショットとアゲハさんたちとの集合写真だった。

 さすがは日向、持ち前のコミュ力ですっかり場に溶け込んでいるようだ。


 そうこうしているとBGMのボリュームが上がり、ライトの照度が落ち、MCがイベント開始を告げ始めた。

 いよいよかと席を立ち、コーラを片手にフロアを覗いてみる。


 オープニングアクトとしてステージ上に現れた10名のダンサーはあらゆる種類のダンスをご披露していく。

 ヒップホップ、レゲエ、ストリートジャズ、ヴォーグと、SEが鳴り響くたびに曲が変わり、フロアの熱は段々と高まっていく。

 私たちを縛るものなどここにはない。とにかく踊れ。騒げ。楽しもう。――そんなパトスを感じる空間だ。


 本イベントのhow toを理解したところで、それぞれのジャンルに特化した時間が流れていく。

 定番のヒップホップダンスを踊る演者の中に月代はいないが、フロアには小柄な体をリズミカルに跳ねさせている日向がいた。


   ◇


 30分ほど経った後、日向はフロア脇のバーカウンターへ移動して喉を潤し始めた。遠巻きからでもご満悦の様子が見て取れる。


 kaoru_hinata:すごい熱気

 kaoru_hinata:溶けそう

 kaoru_hinata:でも楽しい~♪


 mizuki_shiina:こちらからも見えてる

 mizuki_shiina:脱水と貧血に気をつけて


 kaoru_hinata:あいよっ

 kaoru_hinata:そろそろ由美ちょびん出るよ

 kaoru_hinata:やつぁLAスタイルでキメるつもりだぜ


 そんなやり取りをしているとMCが高らかに新たなダンサーを呼び込み始めた。

 颯爽と現れたのはアゲハさん、ミホさん、ヨーコさん、そして月代だった。聞いていた通り、彼女らは同じユニットとして出陣している。


 俺でも知っているような有名曲がアレンジされたトラックで一糸乱れぬダンスを踊る四人の動きは相当の練習量が窺えるものだった。

 素人目に月代の動きに不備はなく、実に滑らかで時に荒々しく、メリハリに満ちた機敏な動きを見せている。

 ただしいて言うなら表情が固い。アゲハさんたちは歓声に応えて笑顔を見せているが、月代にその余裕はないようで、未だ笑顔が見えない。クールではあるので浮いてはないが。


 俺と同じ感想を得たのか、日向がステージ最前列に陣取った。

 月代の真ん前で満開の笑顔を見せて精一杯踊る親友の姿に、初めて月代に笑顔が咲く。


 ゲストに気を使われてなるものかと奮起したのか、月代の動きは更に鋭敏になった。

 持ち前のスパニッシュな色気を大きな動きで発散しながら微笑む月代は、めちゃくちゃ楽しそうだ。


   ◇


 1940時/エントランス


 月代の出番が終わった後、エントランスで日向と合流。日向の興奮は冷めやらぬようで、ずっと本イベントへの称賛をまくしたてている。

 しかしその弁舌はすぐに鳴りを潜めることになる。なぜなら日向には門限が迫っているからだ。


「クラブ行くって言ったらお父さんが超反対してさー。20時に迎えに来るってことでなんとか許可もらったんだよ」


 女性限定とはいえ未成年の愛娘が盛り場に行くとなると、父としては気が気でないらしい。


「……椎名くん、わがまま言ってもいい?」


 神妙な面持ちで日向はとある依頼を俺へと投げかける。


「わたしはもう帰らなきゃだけど、由美のこと最後まで見ててあげてくれないかなぁ」

「わかった」

「即答⁉ い、いいの?」

「親友に寂しい思いをさせたくないと思う、日向のためなら」


 そう言い終わるや、日向はすっと顔を寄せてきた。


「由美はね、とっても傷つきやすい子なの」 


 ――ろうそくの灯が揺れる。


「誰かが守ってあげなきゃいけない。だから椎名くん、力を貸して」


 ちゅ、と頬にいただいたキスを受け、俺は日向を見送った。

 フロアから響いてくる重低音と振動に、どこか居心地の悪さを感じながら。


   ◇ 


 2100時/楽屋内


「じゃあ椎名くん、由美のことお願いね」


 イベント終了前に帰ることになっていた未成年の月代は、俺とともにクラブを後にすることとなった。

 俺は改めて素晴らしいパフォーマンスだった旨をアゲハさんたちへ伝え、先輩たちから俺との関係をイジられながら私服に着替えた月代は帰り支度を済ませた。


「わざわざサダオに送らせなくてもいいのに……薫め」

「面白い子だったね、椎名くんの彼女。由美とのやり取りもはたから見てると親友っていうより姉妹みたいだったし」

「確かにあの子は男女問わずモテるわ。人誑しってやつだね。今度スタジオにも連れてきなよ」


 アゲハさんとミホさんは初絡みの日向に好印象を覚えたようだ。さもありなん。


「なぁしーな」


 ここでどこか神妙な表情のヨーコさんは俺の隣に立った。俺にしか聴こえないくらいの声で囁きかけてくる。


「お前の彼女ってさ、男と付き合うの初めてなんだよな?」

「そう聞いています」

「いやさ、ちょっとからかおうと思ってあーしにしーなちょうだいって言ってみたんだよ」


 おい。


「そん時あの子――」


『椎名くんの彼女はわたしなんですっ! もぉ、ヨーコさんには気をつけるよう釘刺しておかなきゃ』


「って返したんだよ」


 一見当たり障りない返しではあるが、ヨーコさん的に腑に落ちないらしい。


「上手く言えねーけど、思ってたのと違う反応っつーか、なーんか引っかかるんだよなー。おめーどう思う?」

「特に違和感は覚えません。実に日向らしい返しだと思います」

「そうなん? まー彼氏のお前が言うならそーなのか」


 実直で素直で真面目、それでいて明るく朗らかで優しい日向ならばそう返すだろう。なにも不思議なことではない。


「まいーや、とりあえず別れたら知らせな。しっかりばっちり慰めてやんよ♡」


 俺のちん〇をにぎにぎしながらヨーコさんはそう仰ってくれた。

 その厚意はありがたいが、何故誰もかれもが俺と日向の破局を望むのだろう。


   ◇


 2120時/コンビニ前


「もう近いからここでいいよ」


 月代の地元にあるとあるコンビニの前で単車を止め、後ろに乗せていた月代を降ろす。


「あたし買い物してくけど」

「俺もしていく」


 二人でコンビニに入り、店内を物色。

 月代はちょっとお高いカフェラテとダッツを、俺はガリガリ君を購入して店外に出る。


「お疲れあたし」


 事故防止用のポールに身を預けた月代は、今日頑張ったご褒美なのかご満悦の様子でアイスとドリンクに舌鼓を打ち始めた。その様を見つつ、俺もガリガリ君の封を切る。


「……ねぇ」

「ああ」

「どう、だった? あたし」

「かっこよかった」

「そんだけ?」

「ダンスに詳しくないからどう言えばいいかわからない。ただ」

「ただ?」

「日向がらみ以外で楽しそうにしている月代を初めて見た。別人みたいだった」

「ふん、ほっとけし。まぁ実際超楽しかったけど。……うん、やっぱそうだ」


 照れくさそうにぷいとそっぽを向く月代は、俺と視線を交わさぬまま一つの決意を告白する。


「あたし高校卒業したら、アメリカ行こうと思う。ダンス留学」


 ほう。


「前にうちのスタジオに所属してた先輩で超上手い人がいて、その人が今ロスにいんの。SNSとか見てるとすっごい楽しそうでやりがいありそうで、いつかあたしも、って」

「立派な目標だ」

「ほんとにそう思う?」

「今日ダンサーデビューしたばかりなのにそこまで言えるメンタルはすごいと思う」

「馬鹿にしてんのアンタッ」

「自分で自分の道を決められる人間を、俺は心から立派だと思う。男だとか女だとか関係なく、いち人間として」

「そ、そんな大げさなもんじゃないし。プロのダンサーになるとかならともかく、捉えようによっちゃ遊びに行くって言ってるだけなんだし」

「遊びイコール不真面目なんじゃない。真剣でないことこそが不真面目だ。月代が真剣なのなら、なにも恥じることはない」


 おそらく、この世の中には己の人生を真剣に遊んだことのある者はあまりいない。

 それができたとしても、望み叶わず挫折し、苦渋を飲んだ者の方が圧倒的に多い。

 言うなれば、今俺が頬張っているガリガリ君、その当たりを引けるかどうか。

 これはもはや博打だ。何の保証も攻略法もない。しかし俺は……ガリガリ君が好きだ。


「なんとなくあんたはそう言う気がした」


 完食したアイス類をごみ箱に捨てた月代の声はほんの少し、高揚しているように聞こえる。


「そーいえば、三人で海行くって話どーなってんだし」

「これにしようと思う」


 スマホに情報を映し出し、月代に見せる。


「ここって海水浴場じゃなくない? 砂浜ですらないし」

「ここからシーカヤックに乗って沖に出て、途中上陸する無人島でシュノーケリングができるらしい。まったく他人がいないわけじゃないだろうけどスタッフはいるし、少なくともナンパ紛いが集まるような環境じゃない」

「そもそもシーカヤックってなに?」

「海のカヌー」

「なんか難しそう。あんたやったことあんの?」

「旅行先で何度か。コツを掴めばすいすい進むし、二人乗りもあるから日向と乗ればいい」

「ぷっ、あんたって陰キャ臭いくせしてこの手のアクティビティ好きだよね」

「普段やれないことをやれるのが旅行の醍醐味。むしろ暗い奴ほど旅をした方が良いと思う」

「なんの格言だしwwあんたってホント――ッ⁉」


 瞬間、月代の表情から笑顔と血の気が消失する。


「こっち!」


 血相を変えた月代はぐいと俺を引っぱり、店裏へと連行。俺の腕を掴む月代の手は……これでもかと震えている。


「はァ、はァ、はァ」


 俺の背に回った月代の息はかなり荒い。震えも段々と全身へと至っている。

 俺は過去、何度かこんな月代を見たことがある。これはまさにそう、男性への恐怖に苛まれた状態だ。


「最悪ッ、マジ最悪ッッ、死ねッ、死ねッ」


 ナニカに毒づく今の月代は只事じゃない。この反応は異常だ。

 きっとこれは恐怖だけではなく、明確な嫌悪、いや憎悪が発露されている。


「……ごめん」


 10分ほど経っただろうか。ようやっと月代は俺の背から離れた。


「……サダオ」

「ああ」

「お願いだから、薫と別れないで」


 ――ろうそくの灯が揺れる。


「送ってくれて、イベント来てくれてありがと。おやすみ」


 あまりにも脈絡のない行動と発言に関する説明もないまま、月代は裏通りから家路に着いた。

 ダンサーデビューの余韻を、叶えたい目標への決意を、親友と送る夏休みの計画をナニカに砕かれた月代は、肩を落としながら夜の闇へと消えていく。


 その背中を俺は、気配を消して追いかけた。


   ◇


 2150時/月代邸


 5分もしないうちに月代は自宅と思しき二階建ての庭付き住宅へと入っていった。

 かなり裕福なご家庭のようで、ガレージのスペースは三台分あり、庭も含めた総敷地面積は100坪近い。


 月代の帰宅を確認した俺は踵を返し、単車を停めている先ほどのコンビニへと向かう。

 本来であればコンビニで解散してもいいのだが、俺は彼女から、日向から月代を任されている。故にきちんと帰宅するまで確認する義務がある。


 こうして今日も俺は彼氏としての役目(・・・・・・・・)を果たした。何の憂いもなく枕を高くして眠ることができる。


 一つ気がかりがあるとすれば、先ほど月代になにがあったのかということ。

 俺が月代の事情を慮る必要性など皆無であるが、血相を変えた瞬間に月代の視線が向いていたその対象には大いに関心がある。


 コンビニの敷地に入ってきた、上下グレーのスウェットにマスク姿のふくよかな男性。

 顔は見えなかったが、なんとなく既視感を覚える。初めて見た者ではない気がする。

 彼を視界に捉えた瞬間、月代は豹変した。行動が早かったからきっと男性には俺たちの存在は気取られていないだろう。


 記憶を掘り起こす作業を脳内で行ないながら、コンビニに着いた俺はメットを被り、単車のキーを回した。

 月代に引っ張られて地面に落としたガリガリ君は溶けており、アスファルトのシミになっている。残された棒には一言――、『1本当たり』と書いてある。


 棒を拾い、ごみ箱へ捨てる。

 夏休みも残り僅かかと、来る新たな季節に思いを馳せつつ、帰路を行く。


とりあえずここまで。反響あれば続き書く。

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