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TWO PUNKS 縛られて

 8月10日(火)

 0100時/某ダム


「椎名さんて夜の闇が濃くなるレベルで陰気臭いですね」


 ダム周辺を並んで歩く俺たちの間で交わされる会話は非常に滑らかだった。


「夏休みに一人旅とか絶対友達いないですよね。むしろいたことがないですよね」


 人見知りしない者同士、歯に衣を着せない者同士、軽快なトークが交わされている。


「IT機器無しの謎ルール、バリ痛すぎます。当然イジメも受けてますよね?」

「少し前に始まりそうになったけど事前に食い止めることができた」

「余計なことを。次にイジメられるご予定は?」

「俺が決めることじゃないし、どうだろう」

「どこまで追い詰められれば泣くんですかねー。イジメられてる椎名さん、是非()てみたいです」


 どうやら白ジャージのこの子、赤星ちひろは思ったことをそのまま言葉にするタイプの人間だったらしい。今となっては当初の礼儀正しさは皆無だ。

 人によっては彼女を毒舌と解釈するかもしれないがそれは本質的に間違っている。ただ単純にこの子は人間社会に適応する気がない。己は部外者であり傍観者であると定義している。


「うん、大体椎名さんのことはわかりました。概ねイメージ通りの陰キャ野郎で安心です。ただどうしてホテルでは自殺しそうな人に()えたんでしょうか。今はそうでもないのに」


 考えようによっては結構な侮辱だが、掘り下げても損しかしないだろうからやめておこう。


「着きました。まずはここで撮影しますのでライトの準備をお願いします」


 赤星は小型軽量デジタルビデオカメラを構え、俺は赤星から預かったLEDライトを指定の方向へ向けて構える。


「OKです。続いて――」


 それから俺たちはダム周りを歩きながらあらゆる景色や夜景を撮影していった。

 聞けば赤星は豆太郎氏から雇われている映像クリエイターらしく、動画編集用の素材を求めて此処に来たらしい。


「今日行われるはずだったのは、豆が心霊スポットに凸するっていう前後編に渡る定番企画だったんですが、機材を積んだ作業車とスタッフがホテルに向かう山道でハデに事故りまして、今日のロケが物理的に不可能になってしまったんです。明日は県内の有名チューバーとのコラボ生配信も控えているので急なリスケもできず、晴れて無駄足となりました。椎名さんのバイクを借りようとしてまでロケを行ないたかったのはそれなりの損失が出てしまうからなんですよ」


 地元である赤星はともかく、豆太郎氏たちは関東圏から遠征してきているらしく、数本分の企画(ネタ)を作らねば元は取れない。だから豆太郎氏は焦っていた。


「バイクの一件ももしかしたら窃盗までは考えておらず、トランペットを眺める黒人ボーイの如き行動だったのかもしれませんね。ま、豆は穀物、人権はないのでどうでもいいですが」


 単純な損得の問題もあるだろうが、きっと数十~数百万のフォロワーや視聴者たちへほぼ毎日優良コンテンツを発信し続けねばならないという重圧はえげつないものなのだろう。

 たまにモラルを逸脱した行為へ走ってしまう者が出る原因の一つには、諸々のプレッシャーから生まれた強迫観念に突き動かされてのことなのかもしれない。

 ただその点を鑑みたとしても、先の行動は腑に落ちない。


「その状況なら俺のバイクでなくても、タクシーで送迎を手配するなりすればいいと思う」

「それはNGですね。小柄で華奢なミーはどこからどう見ても未成年、深夜の撮影は通報されるリスクがあります。豆が未成年者略取の容疑をかけられてもなんなので、なるべく第三者の目に触れず事を為したかったんです」


 言われてみれば確かに。見るからに子供の赤星が深夜に男とダムに向かう姿は事案にしか見えない。タクシーの運転手がとりあえず通報だけはしておこうと考える可能性は大いにある。


「もちろん豆だけで行けば問題ないんですが、彼はあくまでプロデューサーでありMC、撮影や編集に関してはずぶの素人。そこで事故って来られない撮影隊の代わりに、撮影隊の補助と動画編集を賄っていて豆と前乗りしていたミーもロケに行かざるを得なくなったというバリ鬱陶しい状況になったわけです」


 ここで赤星は、ちなみにと言いつつ自身の頭をポンと叩き、ニヤリと笑みを作る。


「豆は椎名さんがお願いを聞くと信じて疑ってませんでしたから、昼間に街でバイク用のメットを購入していました。これ、どういう意味かわかります?」


 昼に街へ下りたのなら自分で車なりバイクなりを借りればいい。まさか……。


「そうです、豆は運転免許の類を一切持っていません。ヤンチャしてた若い頃に運転はよくしてたらしいですけど。日本を代表するバカでしょ?」

「ワールドワイドなバカだな」


 無免許で俺からバイクを……言葉もないよ、豆。


「そんなこんながありまして、不貞腐れて自室に引っ込んだ豆に代わってミーだけが映像素材を撮りに此処へ来ました。あの様子じゃトラブルを理由にギャラ減とか言われかねないので、最低限の仕事はやっておかないと。あ、もちろん肝試しも兼ねてますよ」


 次いでホテルのロビーで俺を説得できた理由を赤星はスマホを掲げつつ解説していく。


「さっき色んな言葉が映し出されたでしょう? これは似非メンタリストがよく使う手なんですが、人間が認識できるギリギリのスピードで切り替わっていく言葉たちの中で椎名さんの眼球運動が強い関心の反応を示したのは……この画面だったんです」


 向けられたスマホには、白ベースの背景に大小入り乱れた色んな色の文字と、サイズも角度も違うあらゆる単語が映し出されていた。

 停止している画面内には『デート』『お祝い』『落下』『バレーボール』『母親』『肝試し』『太る』『アネモネ』『たんぽぽ野郎』『自転車』『パワーゲイザー』の文字が立体的に浮かんでいる。


「あんなにも頑ななお断り姿勢がまさか肝試しでひっくり返ると思いませんでした」


 確かに俺は予てより肝試しがやりたかった。すごいなこの動画、俺も欲しい。


「普通きゃわいいミーを前にしていたらデートだと思うんですけどね」

「いや、俺は赤星を見てもそんな気には全然ならない。可愛いだなんて欠片も思えない」

「っっ、も、もう、突然真顔でそんなこと言われても嬉しくなんてないんですからねっ」


 めっっっっちゃくちゃ嬉しそうだ。軽くスキップまでしている。


「ゴキゲン稼ぎに余念のない椎名さんにはミーの作った動画を観せて差し上げます」


 渡されたスマホにははしゃぐ豆が映し出されている。悪い意味で滑稽だ。

 豆太郎の豆チャンネル、現在登録者数は182万人。それなりに栄えているようだが、実名が明るみになったらもっとバズるかもしれない……そんな世界であってくれ。


「最近で一番再生回数を稼いだ企画です。どうですか?」

「豆がうるさい」

「ですよね。ミーはこの動画まとめるのに一時間かけたので何回か吐きそうになりました」

「しかし動画の作り込み方は見事、別格だ」

「……はい?」

「動画編集は俺もバイトで少しかじってるけど、こんなアニメーションエフェクトを自作できる技術なんてないし、ここまでキャッチーにまとめられる抜群のセンスも持ってない。これで作業時間が一時間なら充分プロの領域に達してる。チャンネル登録者の中には動画のクオリティを評価してる者も多くいると思う」

「…………」


 真顔の赤星からバシンバシンッと結構な力で尻を叩かれた。結構な力で。

 臀部の痛みは、素人が知った口を利くな、と俺に訴えかけてきているように感じる。自重しよう。


「ここが最後です」


 赤星が指さす鬱蒼と茂る森林の脇道、その奥には『立入禁止』の看板が掲げられた柵が設けられている。


「さぁ椎名さん、肝を試しに行きましょう」


 楽しそうにほほ笑んだ赤星はずんずんと柵を超え、進んでいく。魔の雰囲気を放つ常闇の森の奥へ。




 俺たちは後悔することになる


 何故ためらわなかったのか


 何故引き返さなかったのか


 何故相手を止めなかったのか


 そして何故


 約束を交わしてしまったのか




ーーーーーー

ーーーー

ーー




 8月11日(木)

 1409時/自宅リビング


「ちひろちゃんが豆チャンの……こんなに若くて可愛い子がやってたんだぁ」

「あのいかにも来年消えてますって感じのうざい系だっけ。てかこいつらのやり取りが電波過ぎてついていけないんだけど……」


 日向は関心を、月代は困惑を示した。

 割と知られてるな豆。ちょっと見直した。


「で、そのなんとかダムってとこに深夜に二人で行って、なにがあったわけ」 

「青姦ってわかります? 椎名さんは暗がりでミーを押し倒して乱暴し、夏の風物詩セミよろしくミーをわんわん鳴かせて――」

「赤星、少し黙っててくれ。そしてその後――」




ーー

ーーーー

ーーーーーー




 8月10日(水)

 0240時/某ダム森林


「見てください、あの小屋」


 闇の森の奥には古びた物置小屋らしきものがぽつんと建っていた。


「中に入ってみましょう」


 LEDライトを片手に小屋内へ……しかしこれといって特筆すべきものはない。


「錆び錆びの工具に埃だらけの資材、のみですね」


 求めてる時ほど現れない、そんなものなのだろう。


「バリ蚊に刺されました。もう帰りましょう」


 探検時間5分の我が肝試しは突如として終わりを告げた。


「いやー、肝が試されましたねー」


 なんの山場もオチもない謎行動を終えた俺たちは森を出て単車の停めてある駐車場を目指して歩く。しかしこの子、悪びれない。


「そもそも椎名さんてオカルト信じてるんですか?」

「信じる信じないじゃなくて、出会うかすれ違うかだと思う」

「その"どういうことですか"待ち、バリキモイです。だから流します」


 そんな待ちしとらんわ……あ。


「げ」


 ふと駐車場を見れば、俺の単車の周囲に複数人の男女がたむろしていた。むしろ跨ってすらいる。

 数台のバイクとヤンキーファッションから察するに、おそらくは地元の暴走族だろう。


「ミーってばきゃわいいからぜったい絡まれますよ。あーうざ」


 赤星の嘆息を流しつつ悠然と歩を進める。

 ゾッキーたちはこちらの存在に気づき、談笑を止めて俺たちを待ち構えている。


「こんばんは」


 周囲はぷぷっと失笑に湧いた。夜の挨拶をしただけなのだが。


「下山しますのでバイクから離れてください」

「は、いやくさ」


 俺の提案はヘラヘラ顔で却下された。でしょうね。


「ガキんくせしてよかバイク乗っとうやんかお前」

「ナンバー通りです。私物ではありません」


 この発言に対し、ゾッキーたちは疑問符を表情に浮かべた。

 暴走族はレンタルバイクを使わないだろうから"ろ"ナンバーなど知らないか。


「なんでんよかけんキーば貸せ。ちっと乗らせれ」

「お断りします。バイクから下りてください」


 地面に腰を下ろしていた数人も立ち上がり、険悪な空気を周囲に発散し始めた。

 こうなることはわかっているんだが、他に言いようがない。どうしたものか。


「くらされる前にさっさキーば出せコラァ」

「その服を着てるだけのチンパンジーに手を出すな! ハァァァァァァァァァ‼」


 俺の危機に反応し、闇戦天使(ダークヴァルキリー)の名を冠する赤星ちひろの真の力が覚醒する――。


「せっ‼」

「ギャッ⁉」


 俺の胸倉を掴んだ男の喉めがけて光速のハイキックが叩き込まれた。

 幾重にも重なった骨折音が物語るように、彼の絶命は必至だ。辛うじて生き延びたとしても一生流動食しか摂食できないだろう。


「しゅ‼」


「ぐばッ⁉」「えぎッ⁉」「おぼッ!」


 続けざまに赤星は他の男どもの眼球を抉り抜き、もぐもぐと食しながら首を跳ねていった。

 どうせ首を跳ねるなら眼を抉る必要などないと思うが、血飛沫に舞う赤星の美しさの前には無意味な邪推だ。


「寄んなこのケダモノ!」

「やめてェ! やめてェ!」

「お母さーん‼」


 片や俺は赤星の雄姿に見惚れながらもきちんと女どもをレイp、もとい無力化していた。

 しかし死にたいまでに憂鬱だ。早くこんな豚にではなく、天使ちひろ様にこの情欲を何度も深く突き入れて――、




ーーーーーー

ーーーー

ーー




 8月11日(木)

 1844時/自宅リビング


「くぁわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」

「赤星、マジで黙れ。日向、今のは嘘だから帰って来てくれ」


 途中から進行を乗っ取った赤星の虚言を真に受けた日向は泡を噴かんばかりに青ざめている。素直なのも程々に。


「ふざけてると引っ叩くよアンタらッ」


 いや月代、()はおかしい。俺はふざけていない。――しかしこれはチャンスでもある。


「また赤星がふざけそうだから、大筋だけをざっと話すことにする」

「ちッ、しゃーない。で、ヤンキーに絡まれてその後は?」


 以降、俺が語った内容は以下の通りだった。


 一触即発の空気の中、ちょうど巡回のパトカーがその場を通りかかった。

 これ幸いと俺と赤星は警官に事の仔細を話し、ヤンキーたちはその場で補導された。

 しかし予想外だったのが、その場で逮捕者が出たことだ。どうやらゾッキーのバイクの中には盗難車があったらしく、数名が警察の応援部隊に連行されていった。

 この件に腹を立て、俺たちを逆恨みした暴走族は警官たちが去った後に仲間を呼び集め、俺と赤星を追いかけ回した。

 ホテルのチェックアウトと荷物の郵送手配こそできたが、執拗に追いかけてくる暴走集団から逃げ回るうちに飛行機の時間を超過してしまった。

 相手は地元。仲間もどんどん増えていく。駅や空港を抑えられては手も足も出ず、野宿する羽目にすらなってしまった。


 ここで俺と赤星は、なんとかせねばと知恵を絞り、妙案を生み出した。

 赤星の雇用主であるチューバー、豆太郎氏を利用、もとい力を借りることにしたのだ。


 豆は本日その日、地元チューバーとのコラボ生配信を行なうスケジュールになっていた。

 当然生放送を行なうという事前告知は為されていたが、混雑がスムーズな撮影を阻害する可能性を考慮してロケの場所は伏せられていた。

 これに目を付けた赤星はロケスケジュールを放送数時間前にSNS経由でリークしたのだ。


「あ、これだよ由美」

「どれ……『正午より豆チャンネル生配信。ロケ地は福岡の玄関口である福岡空港前青空駐車場。福岡のみんな待ってろよ! 押忍押忍!』」


 日向と月代が覗いているSNSは豆チャンネルの公式アカウントだ。

 SNSの管理もスタッフ任せだったらしいので赤星でも容易に書き込みができる。


「これに何の意味があるの?」

「実際に観てもらったほうがいいかもですね」


 そう提案した赤星の言うまま、テレビから動画配信サイトに接続し、豆チャンネルを映して昼の生配信を再生する。


『ちょっとごめん、今生配信中だからさ。えーとそれでは、あの、聴こえないから! おいやめろって! 勝手に映るなって! ぐわッ、今引っ張ったの誰だオイ! いい加減にしろこらァ‼』


 混雑を絵に描いたような有様がテレビに映し出された。中央には声を荒げる豆もいる。

 集まったのは視聴者という名の野次馬。そして同業者(配信者)という名のハイエナたちだ。

 動画配信で一発当てたいと思ってる奴はとにかく刺激的なネタに飢えている。関心を惹くためなら労力を惜しまず、他人の耕したと地だろうとズカズカ侵入する。


「うぇひwww豆が怒りで煮えてるwwwうぇひww煮豆ww」


 窒息しそうな勢いで笑い転げる赤星は放っておこう。


「俺たちは空港への逃走ルートを安全に確保するために野次馬を、正確にはカメラを構えた動画配信者たちを呼び集めることにしたんだ」


 人気チューバーの生配信に凸して関心を集めようと画策する底辺動画配信者なんてごまんといる。

 彼らは例外なくカメラを持っているし、もめ事や荒事は追いかけてでも撮影する出歯亀根性も備えている。自律歩行型防犯カメラの役割は充分果たしてくれる。


「わ、『豆に凸してみた』系の関連動画もたっくさん出てくるね」

「キモ」


 日向と月代は引いているが、これが昨今の常識にまでなりつつある概念の一端だ。

 現に動画内でマジギレしていた豆も、今頃は再生回数を見てほくそ笑んでいることだろう。


 しかし間違えてはいけない。個人が番組を放送して小銭を集めるこの手法は新たなサブカルでもなければ最新の価値観が織り成す次世代文化などでは決してない。ただの流行り、一過性のムーブメントだ。

 トップ配信者達はそのことをちゃんと理解している。廃れた後の準備だってきちんと行なっている。そのことに気付かず夢しか見えていない愚か者の末路は、きっと悲惨なものになるだろう。


「あ、今椎名くんとちひろちゃん通った」

「フカシじゃない、か(サダオめ、また無茶して)」


 睨むな月代、俺は悪くない。

 ともあれさておき、こうして俺は無事帰還を果たしたのでした。めでたしめでたし。


「そっか、無事でよかったね椎名くん。連絡取りようがないから超心配したよ」

「ごめんなさい」

「もう、しょうーがないから許してあげ……ルワ ケナ イヨ ネ」


 あ、この眼。この声。覚えがある。


「ソレデナ ンデチ ヒ ロチャ ンヲツ レテ カ エッ テク ル ノ」


 ですよね。


「旅は道連れ世は情けです。しかも夏休みですし、この際休みの間は椎名さんちにお世話になろうかなって」

「アリ エナ イ」


 ですよね。


「シ イナク ンハ ソ レヲミ トメタ ノ」

「厳密に言えばほとぼりが冷めるまでだ。赤星の地元はあっちだから、またぞろ暴走族の標的になっても面倒だから、新学期前までは預かろうかと」

「ダカ ラ ッテオ ナジヤ ネノシ タ デワタ シ トイ ウ カ ノジ ョモイル ノニ」

「あんたらが仲違いしようが別れようがどーでもいいけどさサダオ……いくらなんでも女ナメすぎだしッ」

「わぁ怖~い♡ 椎名さぁ~ん今夜はちひろと一緒に寝てくださぁ~~い♡」


 絶望に浸る日向、青筋を立てて怒る月代、キモく俺に抱き着く赤星、彼女達の誤解はきちんと解いておこう。


「大丈夫、最初から赤星を俺の家に置くつもりはない」


「エ?」「は?」「うそん」


 というか置きたくない。こんなのに住み憑かれるなんて地獄でしかない。


「ついて来てくれ」


   ◇


 1920時/某アパート


 俺が三人を引っ張ってきたのはどこにでもあるぼろい安アパートだった。

 建物の名は『平和荘』。二階建て六室。間取りは八畳1K、ユニットバス。家賃は2.5万円。大家兼オーナーはもちろん――、


「これサダオの持ち物なん⁉」

「逝去した親の遺した物件だ。ちょうど一室空いてるから、赤星はそこで寝泊まりしてくれ」


 赤星は、え~、とご不満顔だが、これは当然の配慮だ。


「ほっ、よかったぁ。まぁ夏休みの間だけならいっか」

「ちぇっ、心が広大ですね薫殿は。さすが椎名さんみたいなガイキチと付き合える聖人だけあります」

「ちひろちゃん、殿ってなに……?」


 言いたいだけだろ絶対。気持ちはわかるが。


「なんだしその態度。匿われてるってのにいいご身分だねアンタ」


 いいぞ月代、ビンタのひとつもかましてやれ。相手が女なら遠慮なく叩き込めるだろ。


「エログロ素股ビッチの由美ちょびんにはわからないかもですけどぉ~、ミーはどこまでもきゃわいいのでみんな優しくしてくれるんですぅ~。それが当たり前なんですぅ~」


 赤星め、わざと煽っている。どこまでも全人類と仲良くする気がない。


「サダオこいつぶっ殺していいよね⁉ いいよねェ⁉」

「おおお落ち着いて由美ちょびんっ! ちひろちゃんもそんなこと言わないのっ!」

「おっぱぴー」


 混ぜるなキケン、そんな単語が脳内に浮かんできた。

 言われずともそうしますよ、カミサマ。


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