エクストリーム事故死
もう何年も前の話だが、話もあまりした事の無い人物から遺書3通を預かった。
1通は御遺族に宛てた遺書で、当然開封していないので内容は解らない。
2通目は私宛てで、
『自分はこれから自殺するが、自殺は遺族の精神的ダメージが大きいので事故を偽装する事。
ただ、もし間違った誰かが事故の責任を問われる様な事になったらこれを公表し、自殺だった事を説明してほしい事。
また、その時は1通目の遺書を遺族に渡してほしい』というものだった。
彼は予定通りすぐに、少々(と言うかかなり)奇妙な死に方をしたが、予想通り事故として処理された。
3通目はすぐに処分したが、
『彼が自殺する理由と目的と手段』が書かれていた。
理由は、
『幼少期から現在まで続く、1人の人物からの執拗なイジメである事』
目的は、
『その人物が自分を殺したと世間に信じさせる事』
手段として、
『複数の状況証拠を遺して不自然な形で死ぬ事』が記されていた。
そして、
『(その人物が非常に力の有る一族の一人である為)状況がどうであろうと、自分の死はただの事故として処理されるだろう事。
だが、それでも消せない風評は、その人物の序列を大きく下げさせるだろう事』と予測し、処理の際に濡れ衣を着せられる人間を出さない為の『安全装置』を私に託したのだ。
彼の計画は今のところ完璧だ。
予定された噂は確信を持って広まり、消えなかった。
そして、その力は私の想像を遥かに超えていた。
家族には耐え難かったのだろう、半年もしないうちに離婚され、先ず後楯を失った。
それからはあっと言う間だ。
元々そこらじゅうから恨みを買っていたのだ。
袋叩きの様に失敗を積み重ね、立場を失っていった。
一年程で本社に居場所すら無くし、今では流刑地とあだ名される営業所で飼殺しだ。
私は、ああ、私は感謝している。
同じ人物の被害者として、この遺書を託された事を。
あと20年もしたら、この遺書を公表してやるのも面白いかもしれない。
その時あいつはどんな顔をするだろう?